第33話 初! 対魔獣

 カインズ公爵家は平穏な日々を送っていた。


 ハラードは何故かは分からないが、怒りまくっていてメイドや執事に八つ当たりを繰り返し、本来は二ヶ月後だったバーモン侯爵領への移動が急遽行われて、嘆きながら行ったとかナントカ……

 因みにハラードの母は実家に帰ったらしい。元旦那様と義父が鉱山に送られるのを見る事もなく、捕まってから自身も尋問されたので、愛想を尽かしたそうだ。


 そんなこんなで毎日、ラターシャお姉さまによる勉強と訓練を繰り返していた僕達は、気がつけば父上から、


「うん、お前達二人(ボトル、ミレー)は学園に行っても学ぶ事が無いぞ。勿論、コルクやマラヤもな。もう、学園で学ぶ課程は既に通り越してるし、実技についても大人顔負けだし、教師陣が泣く顔しか俺には見えない……」


 と言われてしまった。そう言われましても父上。ラターシャお姉さまの教え方が非常に面白くてですね。勉強嫌いなミレーお姉様まで楽しそうに勉強してるんですから、しょうがないですよね。


 僕の心の突っ込みが届いたのか、父上が更に言った。


「【疾風はやてのラタ】に鍛えられてるんだから、まだ学園にも行ってないけれど、領民の為に一つ仕事を頼まれてくれないか?」


 そう言ってラターシャお姉さまを見る父上。お姉さまは、


「仕事の内容を聞いてから、この子達に出来るようなら」


 と返事をした。父上は


「なに、簡単な事だよ。領地の外れにある森に山からガイアウルフが群れで降りてきてな、それを山に追い返すか、退治して欲しいだけなんだ」


 とさも簡単そうに言った。お姉さまは、


「ガイアウルフか…… また厄介なヤツが山から降りてきたんだな。だが、私が教えたこの子達なら問題ないだろう。連携訓練を二日程してからになるが、それで良いかな? 公爵」


「ああ、それで良い。一番近い村には領兵を既に配置しているから。よろしく頼む。勿論、領主からの正式な依頼だからちゃんと報酬も出すからな」


 父上とラターシャお姉さまとで話がついたので、僕達は連携訓練をする事になった。

 前衛は兄上、ミレーお姉様、僕の三人で中衛にマアヤが一人。後衛にマキヤとマラヤを配置して連携を確認する。

 実際には僕達全員がどこに配置されても大丈夫なぐらいには鍛えられているけれど、武器による攻撃が得意な者、支援や防御魔術が得意な者、回復や攻撃魔術、弓が得意な者で別れてみた。


 ラターシャお姉さまが創り出したガイアウルフ擬き(土塊)でニ日間の訓練を終えて、僕達は領地の外れにある森【キノコの恵み】にやって来た。


 初戦ういじんでもあるので、ラターシャお姉さまは万が一の為に付いてきてくれたが、手出しはしない。僕達だけで対処する事になる。


 先ずは兄上が覚えた魔術で森を索敵する。


「【気配察知いないいないばあ】」


「ミレー、コルク、前方二百メートル地点に三頭いる。そこから西方向の百メートル先に二頭。東方向三百メートル先に五頭、北側の森の深い場所に十頭かたまっているよ」


「僕は退治よりも山に追い返す方向で対処したいけど、皆もそれで良いかな?」


 僕がそう聞くと、皆が頷いてくれた。それを見て但しと兄上が喋る。


「命の危険がある場合は別だぞ。コルク」


「はい、兄上。そこは勿論です。皆も自分の命を優先してね」


「「「「うん(はい)!」」」」  


 そして僕達は訓練通りに隊列を組んで森に入った。前方にいるガイアウルフに気が付かれない様に風上に常にいるよう注意しながら進むと、兄上が言ったとおりにガイアウルフ三頭が地面を掘り返していた。

 幸い風上にいるし、まだ五十メートルぐらい離れているので気づかれてない。そこで、何をしているのか確認する事にした。


 三頭のガイアウルフは交互に地面を掘り進めて行く。既に二メートルぐらいは掘っているようだ。そして、掘った穴の側面にある木の根を咥えて取り出した。僕達は魔術【遠場近視そうがんきょう】を使っていたので、それが良くみえたけど皆の顔に?が浮かんでいた。因みに僕はアレ(木の根)が何かは分かったけど、ウルフが食べるのかは知らないから、同じく?だった。


 取り敢えず、そのまま三頭は群れの元に戻るようだ。そこで兄上が気がつく。


「他にいた二頭と五頭も群れの元に向かっているみたいだ」


 それを聞いた僕達は取り敢えず慎重に北側にいる群れの元に向かって進み出した。


 

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