第32話 閑話・ラターシャの二つ名

 あらゆるゴタゴタが落ち着いたある日の事だった。今日もラターシャ先生の座学が始まる筈だったけど、今日はラターシャ先生から何か質問があったらと言われたので、僕はココだ! と思い聞いてみた。

 

「はい、先生。先生の二つ名は複数あるのは何故なんですか?」


 僕の質問に少しだけ考え込むラターシャ先生。そして、


「そうだね。ここで私の事を少し話そう」


 そう言って、ラターシャ先生自身の話を僕達にしてくれた。



 そう、賢い皆ならもう分かっていると思うけど、私はエルフだ。年齢はまあ、ここでは内緒にしておこう。女性に年齢を聞くのは失礼な事だと言うのを知っておいて欲しい。それは同性でもだよ。


 先ずは私はエルフではあるが、普通のエルフではない。私はエルダー・エルフという種族になる。何が違うかと言うと寿命が違う。


 普通のエルフの平均寿命が凡そ五百才で、上位種のハイ・エルフが凡そ千才になる。最上位種のエルダー・エルフは凡そ三千才になる事をここで知っておいて欲しい。見た目では違いが分からないから、難しいだろうけど……


 そんな私が初めて二つ名を人々から言われだしたのは、まだ産まれて五十年も経ってない頃だった。

 その頃の私はヤンチャで、痴漢ちかんする男達を指に挟んだ三枚の刃で切り刻んでいたんだ。

 そしてついた二つ名が【三枚刃のラタ】だ。あの頃に刻んだ男達の大半は既に鬼籍きせきとなってしまったが、今尚いまなお生きている男達からは勲章の様にその時の傷を見せびらかしているようだ。勿論、私の違う二つ名を使って孫や曾孫に自慢しているらしい。


 次についた二つ名はボトくんやコルくんの父上、カインズ公爵が言った【疾風はやてのラタ】だ。この二つ名はボトくん、コルくんの曾祖父と曾祖母である、サラシとマーヤと一緒に冒険者として活動している時についたんだ。


 当時は私は剣術の修行に明け暮れて、魔術は身体強化しか使用してなかった為に、エルフなのに魔術が苦手と認識されていたようだ。まあ、サラシとマーヤが公爵家に戻ってからはソロ冒険者として、活動して、違う二つ名がついたのだが…… 


 それが、【鬼火おにび夜叉やしゃ】だった。ソロになった私は流石さすがに剣術だけでは魔物や魔獣に対抗できず、魔術も駆使しながら冒険者を続けていたんだ。そして得意魔術が火の魔術だったからそんな二つ名で人々は呼び始めたんだろうと思う。


 それからは鉱山ドワーフの王子に求婚されたがそれを断った為に【鉄壁てっぺき処女おとめ】なんかもドワーフ達から言われていた様だ。

  

 何? 皆はドワーフを見た事が無いって? そんな事は無いぞ。カインズ公爵領にもドワーフは結構な人数でいるから。皆は絵本のドワーフを想像しているようだけど、アレは違うから。

 鉱山ドワーフは身長百七十センチぐらいあるし、草原ドワーフはエルフと変わらない長身だぞ。良し、今度見かけたら皆に紹介しよう。

 私は今のドワーフ王とは懇意こんいの仲だから大丈夫だ。


 それから、私は冒険者を辞めて鍛冶師として生活を始めた。勿論その前にマーヤに頼まれてマルコを鍛えに来たりしていたが。


 それ以降は鍛冶師として名前を表に出さずに生活していたんだ。その頃には【沈黙ちんもく隠者いんじゃ】なんて呼ばれていたようだよ。


 以上が私自身が知っている二つ名の話だ。知人からは他にも二つ名があると聞いているが、私は知らない。


「と、言うところだね。皆にはかなり端折はしょって言ったけど、分かったかな?」


「「「「「「はい、良く分かりました!」」」」」」 


 僕達がラターシャ先生の謎に一つ近付いた瞬間だった。 

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