第31話 ハラードの災難

 魔法師サーパは回復した魔力を使って国に帰った。ラスティネ皇国内の自宅ではなく、王宮の一室に戻ったサーパはカリーナを連れて違う部屋を訪ねる。


 ノックしてから返事も聞かずに扉を開けたサーパは中に入って部屋の主に声をかけた。


「兄上、ただいま戻りました。危うくカリーナが襲われる事態になってしまい、申し訳ありません。カリーナは無事に助けられました」


「サーパ、カリーナ、無事に戻ってきて良かった。この二週間は政務中にも心配で、皇妃にも怒られてしまったぞ」


「申し訳ありません、私がカリーナから目を離したばかりに……」


「サーライ兄様、サーパ兄様は悪くありません。子供と思ってモリノミ公爵家のハラードの誘いにのった私が悪いのです」


 二人からそう言われてラスティネ皇国皇帝サーライ・ラスティネは笑いながら言った。


「カリーナよ、サーパを責めている訳ではない。二人が無事に戻って嬉しいのだ。で、サーパよ。かの国はどうであった?」


「はい、兄上。魔術自体はある家を除いて大した事はありません。我が国の魔法の方が優れております。モリノミのハラードにカリーナを人質に取られ、仕方なく魔法の一部を教えましたが、詠唱しなければ発動出来ない体たらくでした」


「ふむ。そのある家と言うのが気になるな」


「かの国に二つある公爵家の一つ、カインズ公爵家です。私の魔法は何一つ通用しませんでした。それも七才の子供に……」


「何だと! サーパは我が皇国随一の魔法の使い手なのに、七才の子供に負けたのか? それは本当なのか?」


「はい、兄上。事実です。そしてその七才の子供がカリーナを助けてくれました。更に【沈黙の隠者】ラターシャが一緒におりました」


「うーむ。ラターシ王国にそのような逸材がいようとはな…… 攻め込まずに友好的に相対する方が得策か…… まあ、良い。それはまた後で考えよう。それよりもそのハラードとかいう子供だが、制裁が必要だな」


「兄上、帰りがけの駄賃だちんに少しだけ私がしておきましたので、公的には何もしない方がよろしいかと思います」


「ほう、サーパよ。何をしてきたのだ?」


「はい、実は……」




 ハラードは怒っていた。何故なら魔法師の妹を見張らせていた執事が下半身をむき出しにしたまま、白目をむいて気絶して、魔法師の妹は居なくなっていたからだ。更にあの魔法師は一日二度はハラードに顔を出す事を義務付けていたのに来ない。


「ふん、これは逃げられたか? まあ、良い。またラスティネから優秀な魔法師を呼べば良いからな。それよりも、伯爵だと! 侯爵だと思っていたが、まさか伯爵まで落とされるとはな…… しかもバーモンが後見人だとは。これでは成人するまで派手に動けないではないか」


 思惑と違い、つい気絶していた執事の下半身を始末してしまい、ハラードは少しだけ溜飲を下げた。

 玉も竿も無くなった執事をメイドを呼んで治療ちりょうさせて、治ったらクビにしろと指示を出して、隠し部屋から更に奥にある部屋に入ったハラードは愕然がくぜんとした。


「なっ! 無い、無いぞ! どこに行った! 俺が貯めていた財産が無い! アレが無ければ動けないではないか。クソッ、一体誰が……」


 下を向いて考え込むハラードは床に書かれた言葉に気がついた。ソコには、


『依頼料を頂いていく。依頼は魔法を教えろだったから達成しているからな』


 と書かれていた。ハラードは突き出た腹をブルブルと震わせて叫びを上げた。


「あのクソ魔法師がー!」


 ハラードの叫びは部屋に虚しく響いた。





 サーパの言葉に皇帝は笑う。


「ハハハ、それは良い。良くやった、サーパ。しかし、その子供もとても九才とは思えないな。影に言って見張らせておこう。それに、カインズ公爵家のコルクか? その子も見張らせよう」


「兄上、コルク殿は止めておいた方が良い。【沈黙の隠者】もいるし、コルク殿自身が侮れない力を持っている。何か違う方法を考えた方が良いと思う」


 サーパの言葉に皇帝は考える。そして、


「カリーナよ、行儀見習いに行く事になるが良いか? ラターシ王国の学園に留学して、カインズ公爵家に入ってくれ」


「はい、勿論です。サーライ兄様。いつ行きますか? 今から行けば良いですか?」


「おいおいカリーナよ。やけに嬉しそうだな? まあ、ラターシ王国に申し込みを受け入れて貰ってからだから、暫く待つが良い」


「サーライ兄様、早くお願いしますね」


『ああ、早くお会いしたいです、コルク様……』


 コルクに新たな脅威きょういが近づいていたのだった…… 

 

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