第25話 祖父様の昔話


 ラターシャお姉さまを見て感涙する祖父おじい様と、それを微笑んで良かったわねと言っている祖母おばあ様。

 僕は訳が分からずにラターシャお姉さまを見上げた。すると少し困ったような笑い顔でお姉さまが言う。


「コルくん、私はエルフで長命なものだから、ある程度たったら関わった人の前から消えるようにしていたんだ。マルコは幼い頃にマーヤに頼まれて、魔術や武術を教えた事があってね……」


 そう教えてくれた。父上の時に現れなかったのは、既に隠遁して謎の鍛冶師として生活できていたからだって。今回は僕の為に曾祖父ひいおじい様と曾祖母ひいおばあ様に頼まれてカインズ公爵家に来たけど、僕以外とは会うつもりが無かったそうだ。僕がゴメンナサイと言うとお姉さまは良いのよと優しく頭を撫でてくれた。


 それからが大変だった。祖父おじい様がラターシャお姉さまの足にすがり付いて、


「師匠、ウチの孫も私と同じように鍛えてやって下さい! うんと言うまでこの手は離しません!」


 とかヤり出したからだ。さすがに困った顔をして皆を見回すラターシャお姉さま。しかし、僕としては側にいて鍛えてもらう方が嬉しいから、ウンウンと頷いていた。ソレを見たラターシャお姉さまが、意を決して言った。


「マルコ、分かったから離しなさい。ボトくんとコルくんの家庭教師としてここに来るから」


「いや、それではダメです! 師匠、以前に住まわれてた離れがそのまま残ってますから、ソコに今日から住み込みでお願いします!」


 ラターシャお姉さまの足にすがり付いた祖父おじい様がそう駄々をこねる。


「あー、もうわかったわよ! マルコ、言う通りにするから離してちょうだい!」


 僕はそのやり取りを横目に兄上にラターシャお姉さまからの装備を手渡し、お姉さまからの贈り物だと明かした。感動した兄上は、そのままお姉さまのトコロに行き、お礼を言う。


「は、初めまして。カインズ公爵家嫡男のボトルです。今回はこんな素敵な装備を本当に有難うございます。そして、僕からもお願いします。この頂いた装備に相応ふさわしくなるように、どうか僕を鍛えて下さい!」


 そう言って頭を下げた兄上を見て鼻の部分を押さえるラターシャお姉さま。


「わ、私で良いのかしら?」


 と鼻を押さえたまま父上と母上を見て聞いた。父上は、


「今や伝説と言われる【疾風はやてのラタ】に息子達を鍛えて貰えるなら有り難いです」


 と言い、母上は、


「憧れの存在だった、【三枚刃のラタ】お姐様ねえさまなら安心してお任せ出来るわ」


 と言った。ラターシャお姉さまは一体いくつの二つ名を持ってるんだろうか…… 父上と母上で違う二つ名を言うので、僕は少し気になったけど黙っておいた。


「はいはい、ほら、マルコ。ご両親からの許可も得たから、貴方の言う通りにするからもう足を離しなさい」


「約束ですよ、師匠! これで明日の朝に居なくなってたら、父上と母上に言って連れてきて貰いますからね!」


 まるで子供に戻ったかの様な祖父おじい様にビックリしつつ、僕はラターシャお姉さまによろしくお願いしますと兄上と二人で頭を下げたんだ。


 それから、祖父おじい様のお話が始まった。


 祖父おじい様は今でも魔術も体術も凄いけど、その基礎を作ってくれたのがラターシャお姉さまだったらしい。父上も体術が素晴らしいけど、祖父おじい様がラターシャお姉さまから教えられた通りに父上を鍛えた成果だと言う。

 幼い頃の祖父おじい様は体力が無くて、何をしても直ぐに疲れていたが、ラターシャお姉さまが教え始めると、体力も気力もみるみる向上していったそうだ。

 その子に合った教え方をするのが一番良いんだと言って鍛えられた祖父おじい様は、父上の適性を良く見て、それに合った鍛え方を自分なりに考えて実行したそうだ。但し、時には悩む事もあり、そんな時には曾祖父ひいおじい様や曾祖母ひいおばあ様に相談したりもしたらしい。直ぐに答えを言ってくれる事もあったが、時には時間を置いて答えを返してくれたそうだが、ソレを聞いたラターシャお姉さまが、


「サラシやマーヤに聞かれて、私が二人に助言していたのよ」


 と言ったので、祖父おじい様はまたまた感動した。結局、祖父、父、子と三代にわたってラターシャお姉さまに鍛えて貰う事になるとニコニコした祖父おじい様をその日は見る事が出来たのだった。


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