第24話 ハラードはその頃

 子供ゆえに家に返されたハラードは家の隠し部屋に入る。この部屋はハラードの自室から行ける。そこで待っていたのは逃げた魔法師であった。


「スミマセン、失敗しました」


 そう言ってハラードに頭を下げる魔法師。ハラードはそれを見て鼻息荒く言う。


「ふん! 何が最強の魔法だっ! ボトルには全然通用しなかったではないか! それに国王やカインズ家の者もヤり損ねるし…… お前を呼んだのは失敗だったか」


「いえ、お待ち下さい、ハラード様。私の国の魔法はこの国の魔術などとは比べ物にならないぐらい強力です。それはハラード様にもご確認頂いた筈です」


 必死にそう言い募る魔法師。ハラードは考えながら返答する。


「確かにそれは確認したが…… ならば何故ボトルには通用しなかったのだ。アイツは俺の魔法を容易く避けたぞ」


「はい。アレは純粋な体術のみでした。恐らくはハラード様の魔法に対するのに、体術の訓練を徹底して行ったのだと思います」


 まるで見当外れな意見だが、ハラードにはそれが正解だと思えた。


「ふん、とにかくアチコチに手を回してバカ二人が処刑されても、俺だけは降爵されても貴族として留まらなければならん。その為に今から忙しくなるが、落ち着いたら貴様の魔法の全てを俺に教えろ。無詠唱も含めてな。さもなければ貴様の妹が果たしてどうなるか…… クックックッ、分かっているな」


「はい、はい、必ずご期待に添えるように致しますので、妹だけはどうか……」


 そう言ってハラードにひれ伏す魔法師。どうやらわずか九才でありながら事を企んだのはハラードだったようだ…… そのままハラードは名前の通り突き出た自身の腹をポンポンと小気味よく叩きながら部屋を出て行った。




 カインズ家に戻った僕達は母上とマアヤ、マキヤ、マラヤに模擬戦の結果を伝える。母上は兄上を抱き締めて、


「良くやったわね。ボトくん。さすが、私の息子だわー」


 と頭を撫で回していた。


 マアヤ、マキヤ、マラヤの三人は僕のところに来て、


「「「コルク(コルくん)、無事で良かった!」」」


 と三人が順番に僕をハグしてくれた。うん、嬉しい。思い返せば前世でこんなに女の子に優しくされた記憶がない。僕はとても幸せを感じていた。


 そこに地下室に行ってた祖父おじい様が戻ってきて、曾祖父ひいおじい様と曾祖母ひいおばあ様が僕を呼んでいると教えてくれた。

 僕は取り敢えず一人で地下室に行ってみた。ソコには、


「ラターシャお姉さま!!」


「やあ、コルくん。久しぶりだね」


 相変わらず鼻の部分を押さえながら挨拶してくれるラターシャお姉さまが待っていた。

 そして、ラターシャお姉さまが脇に避けるとソコには新しい的に装備一式が二つあった。

 ん? 二つ?


「コルくん、新しい的は実家のツテを最大限利用してドワーフの王を脅し…… 説得して譲ってもらった超硬神鉄ちょうこうしんてつを利用してある。コレを破壊出来るのは神しか居ない筈だ。さあ、先ずは試しに上級魔術を打ってみてくれ」


 そう言うとラターシャお姉さまは装備を二つ抱えて僕の側に移動した。僕はそれじゃあと言って、的に向かって水の上級魔術を放った。


水竜破うろことり!」


 僕の両手から【水流閃ジエット】を更に高圧縮した水が飛び出して的に当たった。

 的は傷一つなくソコに立っていた。


「す、凄いです! お姉さま! これなら上級魔術も練習出来ます! 有難うございます!」


 僕は嬉しくて満面の笑みでお姉さまに抱きついてお礼を言った。するとお姉さまはそのまま仰向けに倒れて鼻からドクドクと血を垂らしていた……


 五分後、やっと落ち着いたラターシャお姉さまが立ち上がり、置いていた装備を僕に渡してくれた。

 装備と言っても革の胸当てと僕の背丈に合わせた金属の杖だった。


「コルくん、これは神竜の革を使用した胸当てで、斬撃、打撃無効と、魔術防御も完璧だ。そして、体の成長に合わせて胸当ても大きくなるから。そしてその杖だが、魔力消費を五割軽減出来る。また、上の少し膨らんでいる部分は超硬神鉄ちょうこうしんてつだから打撃も可能だ。そして、こちらは胸当ては同じだが、剣はオリハルーミスリ合金の剣だ。コルくんの兄、ボトルくん用だ。渡して上げてくれ。サラシとマーヤに頼まれたからな」


 もう僕は感動してしまってそのままラターシャお姉さまの手を引っ張って家族がいる場所まで連れて来てしまった。ラターシャお姉さまを見た祖父おじい様の第一声にビックリしたけどね。

 だって、


「しっ! 師匠! 生きておられたんですかっ!」


 だったもの。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る