第23話 取り敢えずの処置

「へ、陛下に申し上げます。こ、これは私共の意思ではございません! あの逃げた男が勝手にこのような暴挙に出たのです! 私共は一切関係ございません!」


 陛下の前で平伏して一息にそれだけを言って黙るモリノミ公爵。ヨーガ様が兄上とハラードを連れて陛下の元にやって来た。そして、


「陛下、あの逃げた男が放った魔法は何故か私達には影響がありませんでした。その事も含めて慎重に調べる必要があるかと存じます」


 ヨーガ様の言葉に頷きながらも陛下はモリノミ公爵を見て言った。


「確かにそなたの言う通りではあるが、この痴れ者をそのまま返す訳には行かぬ!」


「しっ、痴れ者……」


 モリノミ公爵が絶句しているけど、そう言われてもしょうがない事をしたのに気がついてないんだね。

 勝手に隣の大陸から魔法師を招いて、しかも陛下が居る場所に堂々と連れてくる。隣の大陸のどの国から招いたのか知らないけれど、その国が侵略の意志があったなら格好の刺客を送り込む機会だよね。

 そこまで考えてなかったんだろうけどね。などとお気楽に思考していたら父上がコソッと僕に話しかけてきた。


「コルク、ヤツの魔法を防御したのはお前か?」


「はい、父上。魔法師が一度に色々な場所を狙っていたので間に合うかと思いましたが、何とか防御できました」


「そうか。それも【魔術大全の書】の魔術なのか?」


「そうです。魔力消滅魔術です」


「俺が見た感じだとヤツの魔法は俺達が使う上級魔術よりも強力に見えたが……」


「父上、どんなに強力でもそのみなもとを無効にしたら魔術でも魔法でも消えます」


「はあー、我が子ながらお前は末恐ろしいよ。間違った道に進むなよ」


「はい。僕は大切な人を護る為にしか魔術を使いませんから。もし僕が間違った道に進みそうなら、父上がいさめてください」


「当たり前だ!」


 おお、さすが父上だ。力強く返答してくれた。そんな事を父上と話していると、どうやら当面の事が決まったようだ。


一つ、魔法師を追いかける

一つ、モリノミ公爵家は取り敢えず謹慎

一つ、先代公爵と現公爵は捕縛の上、尋問

一つ、尋問結果によっては降爵又は取り潰し

一つ、ハラードは罪無しとして家に返す


 の五つが取り敢えずの決定らしい。まあ、ハラードは親に言われた通りにしてただけだろうしね。

 そして陛下が解散を告げて、王妃様や夫人達が先に戻った後に、ミランダ様とミレーお姉様の元にやって来た。


「ミランダ、ミレー、怪我は無いか? 大丈夫か? どこか痛い所は無いか?」


「お父様、私はドコも怪我してないよ〜。お髭がチクチクするから離して〜」


 ミレーお姉様が陛下にそう言う。そこで少し哀しそうな顔をしながら陛下がお姉様を離して、僕達に向かって話しかけてきた。


「ヴァン、済まなかったな。まさか刺客だったとは思わずに安易に入れてしまった」


「ロトルア、気にするな。ウチのは誰も怪我してないんだし。それよりもどうだ? ウチのボトルは?」


 ち、父上。いくら何でも陛下を名前呼びは不味いんじゃあ…… 僕がドキドキしていたら祖父おじい様が教えてくれた。


「コルクよ。陛下とヴァンは十代後半から二十歳まで一緒に冒険者をしていてな。公式の場所以外では名前で呼び合っておるのだ」


 僕はそれを聞いてホッとした。そして、陛下が兄上を素直に賞賛しているのを聞いていた。


「いや、まだ九才なのに素晴らしい動きだった。身体強化を使用していたにしても大人顔負けだったな」


 陛下の言葉にミレーお姉様が返答した。


「お父様、ボトルは強化魔術は使ってないよ」


「なっ! 本当か!」


「はい。使うまでも無かったので……」


 兄上が直答した。


「うん、ヴァンよ。ボトルは近衛騎士団に入隊決定だ」


「ロトルア、それはダメだ。ボトルには好きな事をさせる。俺達がそうだったようにな」


 父上の返事にうーむと唸る陛下。そして、分かったと言ってからミランダ様に顔を向けて、


「ミランダ、ゴメンよ〜。でもアレは不可抗力だよね……」


 と、先程まであった威厳をかなぐり捨てて誤り始めた。そこで祖母おばあ様が僕達に声をかけて一足先においとまする事になった。

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