第22話 兄上の圧勝!
そして対戦の日がやって来て、
モリノミ公爵家は三代前まではウチと並ぶ魔術の大家と言われていたけど、
また、今のモリノミ公爵は父上の一つ年上だけど、権力を振りかざすだけの馬鹿(父上談)らしいので、コチラも魔術はからっきしダメだそうだ。
嫡男であるハラードは先祖返りなのか、魔力保有料が幼少の頃から多かったが、やはり親の子で親の権力を振りかざして威張りちらす厄介な子供と評判だった。勿論、魔術の訓練なんかも真面目にしていなかった筈だけど、現公爵が隣の大陸から魔法師を呼び、その使用する魔法をハラードに覚えさせたそうだ。魔術と違い、魔法は相性が良かったのかハラードは直ぐに魔法を覚えていったらしい。
そして、今やカインズ公爵家が人々から言われている【魔術の大家】の称号を自分達のモノにすべく、今回の対戦を陛下に具申したようだ。
対戦は陛下の御前で近衛騎士団の演習場で行われる事になった。陛下の右横には王妃様がおられる。その後ろに第二、第三夫人が座っていた。
ミランダ様はカインズ公爵家に用意された席にミレーお姉様と一緒に座っている。何故なら兄上はミレーお姉様の婚約者に正式になったからだ。
そして、陛下の左横には僕達にも気さくに声をかけて下さる王太子のヨーガ様が座っておられた。
良かった。ヨーガ様がいらっしゃるならそんなに大事にはならないだろうと思う。
そして、モリノミ公爵家から一人の少年が木剣を持って演習場に進み出てくる。それに合わせて兄上も木刀を持って進み出る。
そして、何とヨーガ様が椅子から立ち上がり演習場に入ってきた。ヨーガ様に失礼の無いようにそれぞれ武器を下に置いて跪く二人。
「二人とも用意は良さそうだね。今回の模擬戦は僕が立会人になる。普段の稽古の成果を見せて欲しい。ルールを説明するよ。木とはいえ当たりどころが悪ければ大怪我や死に至る事もある。だから首より上を狙っての攻撃は無しだ。それと、魔術も同じで、当たれば死ぬような威力を持つ魔術は使用禁止だよ。良いね」
ヨーガ様の言葉に二人はハイと返事をして、武器を持ち左右に別れる。その距離が八メートルで互いに向かい合った。そしてハラードが、
「ボトル、逃げずに来た事だけは褒めてやる。けどお前の魔術や体術じゃあ俺には勝てないぞ!」
と兄上を挑発する。しかし兄上は完全にソレを無視してのけた。良し! それで良いんです。兄上。僕は心の中で兄上を賞賛した。無視されてハラードが更に何かを言いそうになったが、それより早くヨーガ様が模擬戦開始の合図を出した。
「それでは、カインズ公爵家嫡男ボトルとモリノミ公爵家嫡男ハラードの模擬戦を開始する。始め!」
その声を聞いたハラードが聞き慣れない詠唱を始めた。
「我が内に燻る火炎よ! 来たりて我が敵を穿て! ファイアアロー!!」
うーん、遅い。それに威力も
「クソッ! 避けるとは卑怯だぞ!」
そう言いながら木剣を振るハラード。兄上はそれを受け流して体勢を崩させると、ハラードの背を木刀で軽く叩いた。
「グエッ!」
ハラードからカエルの鳴き声のような呻き声が上がる。兄上は深追いはせずにその場で油断なく木刀を構えている。
うつ伏せで暫く背中を押さえて呻いていたハラードが漸く起き上がり、
「な、中々やるじゃないか。だがさっきのは小手調べだ。俺の本気を見せてやる!」
そう言って詠唱しようとする。
「我が内に秘めたる怒りのほ、うわ、詠唱中に攻撃なんて卑怯だぞ!」
それにはヨーガ様だけじゃなく、ウチからも王妃様や夫人達からも失笑が漏れた。何故なら、詠唱が必要ならそれを唱えられる時間を考えて相手と距離を取るのが常識だからだ。こんな近くで悠長に詠唱させて貰えると思う方がどうかしている。
これは兄上の圧勝だなと僕が思った時に、視界の端で魔法を打とうとしている男を見つけた。何故魔法かと言うと、モリノミ公爵家がいる場所に一緒にいる魔法師だからだ。
僕は慌てて防御魔術を陛下、ウチ、ヨーガ様、兄上にかけた。打ち出された魔法が複数で、それぞれに向かっていったからだ。
男は自分の魔法が防御された事を知るとその場から消えた。後には顔を真っ青にしたモリノミ公爵家一同と、怒りに震える王族とウチが演習場に残る。
モリノミ公爵が飛び出して陛下に平伏する。さて、どうなる事やら。他人事なので僕は気楽に眺めていた。
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