第20話 先ずは初歩魔術から

 戻ったら皆が曾祖母ひいおばあ様と話をしていた。僕と兄上、ミランダ様にミレーお姉様を見て皆がピタリと話を止める。


「まあ、ミランダ様。こんな所にお連れして申し訳ありません」


 祖母おばあ様がそう謝るけどミランダ様は逆に畏まる。


「キャラメーナ様、様付け呼びはお止め下さい。私は平民ですので……」


「いいえ、貴女様は陛下の寵姫でございますから、ソコは譲れませんわ」


 不毛な会話を止めたのは母上だった。


「お義母かあ様、ミラが困ってしまいますわ。出来ましたら砕けた口調で私からもお願い致します」


「リーン、貴女まで。ふう、分かりました。ここでは一番年上と言う事で言葉を崩させて貰います。それで良いかしら?」


 祖母おばあ様がそう言うとミランダ様と母上が嬉しそうにハイと返事をした。

 その間に兄上はミレーお姉様に僕の婚約者を紹介してくれたようだ。ミレーお姉様がやって来て僕に、


「婚約オメデトウ、コルク。一度に三人もなんて、コルクは凄いね!」


 と満面の笑みで祝福してくれた。それに有難うと返事をしてから、ミランダ様とお姉様に来ていただいた理由を話す。すると、


「私は魔力も少ないですし、そんな凄い魔術はとても覚えられそうにないわ」


 とミランダ様が言い、ミレーお姉様も、


「魔術は苦手なのコルクは知ってるでしょう?」


 と余り乗り気ではないようだ。

 

 けれど僕はそんな二人に更に説明した。家族になるし、また王妃様や第二、第三夫人からもどんな嫌がらせが来るか分からないし、ミレーお姉様も来年から学園に行けば第三王女や第四王女、第二王子からイジメられるかもしれない。

 兄上や僕、それに祖母おばあ様や母上が一緒なら守ってあげられるけど、いつもそうだとは限らないから、最低限の自衛手段と思って学んで欲しいと頭を下げた。


 そんな僕を見て二人は納得してくれたようだ。そして漸く僕は初歩魔術を皆に説明し始めた。


 先ずは水道じゃぐちからだ。コレは全て【魔術大全の書】に書かれている知識だと誤魔化して、違う世界では水が自動に出る魔術道具があると皆に説明した。その名前が【すいどう】で、水を出すためのスイッチが【じゃぐち】だと説明する。

 正確にはスイッチじゃないけど、皆に分かりやすくする為にスイッチだと言う事にしたんだ。


 僕が先に見本を見せて、実際の魔術道具だとスイッチを回すと勢い良くしたり、逆に勢いを失くしたり出来ると実践して見せた。


 目の前で実践した事もそうだけど、絵を描いて説明したのも良かったのか、皆がイメージを明確に持って直ぐに魔術を成功させた。そして、


「コルク、凄いわ。この魔術は魔力消費がウォーターパレットよりも少ないの!?」


 とマアヤが言ったのを皮切りに皆が制御もしやすいし、安定して水を出せると喜んでくれた。中でもミレーお姉様が、


「凄い、凄い! 私でも簡単に出来た!」


 と兄上とはしゃいでいたので教えて良かったと思う。

 そして、次は温風どらいやの魔術を教えた。これは女性陣に大好評だった。この世界ではお風呂から出たら髪を乾かす手段が無くて、女性皆がタオルで頭を包んだり、ゴシゴシと水気を取ったりと苦労していたようなので、今度からはお互いにかけあって乾かそうという話をしていた。


 次は乾燥じょうはつの魔術。これは初歩魔術の中でも一番魔力消費が少ない。そして、コレを覚えた母上がコレで洗濯物や洗い物が早く乾くし、雨の日も快適だわと喜んでいた。


 そうそう、母上は元平民なので家族の分は自分で洗濯したりする。それで一時は祖母おばあ様やメイドさん達と揉めたらしいけど粘り強く説得して勝ち取ったって自慢していた。


 次は着火らいたーの魔術だ。これも全員が問題なく出来た。火付けが楽になると兄上は喜んでいた。因みにみんな詠唱はしないで頭で念じて魔術を使える様になってもらった。詠唱したら違う魔術を使っているとバレるからね。


 そして、初歩の中でも消費魔力が大きい清潔えいせいを教えた。これを覚える事が出来たのは、


 祖母おばあ

 ミランダ様

 マアヤ

 マラヤ


 の四人だけだった。兄上とミレーお姉様はどうしてもダメで、母上は魔力が足りなかったし、マキヤは制御に失敗していた。四人の残念な顔が僕には辛かったけど、出来ない事を嘆いても仕方がないので、次はいよいよ初級魔術に入るよと伝えて気分を変えて貰ったんだ。


 

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