第13話 インチキ治癒師

 翌朝です。


 曾祖父ひいおじい様と曾祖母ひいおばあ様の説得きょうはくにより、祖父おじい様が祖母おばあ様に話をして下さり、マアヤの実家に行く事になった。  

 マアヤは緊張して固い顔をしているが、僕が手をギュっと握って上げたら安心したように僕に微笑んだ。

 カーライル伯爵家に着いたら上へ下への大騒ぎになった。まあ、伝えてなかったしね。

 

「キャ、キャラメーナ様! ほ、本日はどのようなご用件でしょうか? うちのマアヤが何か粗相を致しましたでしょうか?」


「あら、違うわよ。今日は可愛い孫の頼みで貴方の娘さんの様子を見にきたのよ。何で、何も言ってくれなかったのかしらね?」


「あ、あのそれは寄親よりおやになるカインズ公爵家にご迷惑はかけられないかと思いまして······」


「あらー、それで私達とは対立関係にある、モリノミ公爵家の力を借りたのかしら?」


「い、いえ、決してそのような事は······ あの、娘が少しだけではありますが、良くなったようなので、つい······」


「だって、コルくん。どう思う?」


祖母おばあ様、それもマアヤの妹を診てから判断したいと思います。先ずは会わせてもらえますか? カーライル伯爵」


「は、はい。しかし、今は治癒師がちょうど来ておりまして、その」


「ああ、それならなおのこと丁度良いです。どのような治癒を行っているのか聞いてみたいので」


 僕があっさりそう言うと、カーライル伯爵も諦めたのか娘さんの部屋へと案内してくれるようだ。僕はマアヤの手を握ったまま後に続く。


 とある部屋の前でカーライル伯爵は足を止めて扉をノックした。中から訝しげな声で返事があった。


「どなたでしょうか? 治療中は誰であっても入らないように言っておいた筈ですが」


 恐らくこの返事をしたのが治癒師なんだろう。カーライル伯爵が言いにくそうだったので、僕が代わりに返事をした。


「私は新しくカーライル伯爵に雇われた治癒師です。いつまでも治せない貴方を伯爵は信用出来ないそうですよ」


 僕がそう言うと、扉が急に開いて怒りの形相の男が現れた。


「小僧、今言ったのは貴様か!?」


 それに返事をしようとしたら先に祖母おばあ様が怒って返事をした。


「あら、貴方は王族の方なのかしら? 仮にもカインズ公爵家の次男のコルクに向かって偉そうな口をきけるのだから、そうなのでしょうね。でも、私は残念ながら貴方の顔を知らないわ? 貴方は国王陛下の隠し子か何かなの?」


 祖母おばあ様がそう言うとギョッとした顔をしてカーライル伯爵を見る男。カーライル伯爵が祖母おばあ様と僕を紹介した。


「こ、こちらはカインズ公爵家の先代公爵夫人のキャラメーナ様と現公爵の次男のコルク様だ。先程の無礼な口調を謝罪しなさい」


 そう言われた男は嘲るように伯爵を見て言った。


「ほう、伯爵様はお嬢様の病気の治癒を諦めなさると言う事ですかな?」


 その言葉に僕は怒りを覚えた。何故なら僕は先程から【鑑定けんぶん】を使って男と部屋の中のマアヤの妹を視ていたからだ。

 男は治療と称してマアヤの妹にかなりイヤらしい事をしていたようだ。それを恥ずかしく思いながらも、その後に少しだけ体を動かす事が出来るので我慢していたようだ。僕は詳細に視たので分かったが、男は治療なんかしていない。暗示をかけて、動けると錯覚させているだけなのだ。むしろ、マアヤの妹は病状は悪化している位だ。

 僕は怒りに任せて男に言った。


「おい、貴様! マアヤの妹に治療と称してイヤらしい事をしたな! しかも何の治療にもなってないじゃないか! 今すぐここから出ていって二度とここに顔を出すな! 十秒数える間に出ていけ!」


 僕は今までにこれ程怒りを覚えた事がない。その殺気は全て自称治癒師の男に向けていたが、近くにいたマアヤと祖母おばあ様にも届いたようで、二人ともとても怯えた様子にさせてしまった。


 しかし、それに気づいたのは男が失禁しながら立ち去った後だが。


 僕は男が立ち去った後に祖母おばあ様を見た。すると、僕を恐ろしい魔物を見たかの様に見る祖母おばあ様が······


「コ、コルくんよね。貴方は?」


祖母おばあ様、勿論僕はコルクですよ? どうなされました?」


「だって、あんな魔神が現れたかのような殺気を出していたから、コルくんだと思えなくて」


 そう言われてやっと気づいた僕は、慌てて祖母おばあ様に言った。


「ご、ご免なさい。祖母おばあ様。あの男がどうしても許せなくて」


 そう言って頭を下げた。それでホッとしたのだろう。祖母おばあ様はニッコリ微笑んで、良いのよと言ってくれた。

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