第12話 マアヤを助けたい

 僕が泣きながらもマアヤを見つめていたら、マアヤが喋り出した。


「まあ、コルク様。お心に傷を負われたなんて、一体何があったのですか?」


「それはね、マアヤ。マアヤがモリノミ公爵家から来た人だって分かったからなんだ······」


 僕がそう言うとマアヤの顔が真っ青を通り越して真っ白になった。


「コ、コルク様······」


 まさか僕の口からその言葉が出るとは考えてもなかったんだろう。マアヤは僕の名前を言ったきり、黙り込んで僕を見つめていた。


「どうしてだい? マアヤ。何で黙っているんだい? 僕の言葉を否定しないと言う事は事実なんだね」


 僕が畳み掛けてそう言うとマアヤは僕の目の前で正座で座りきっちりと頭を下げた。そして、


「今から私の言う事を信じてくれとは言いません。ただ、話を聞いていただけますか?」


 そう言うので僕はマアヤに顔を上げさせて、庭の奥にある四阿あずまやに連れて行った。

 四阿あずまやにある椅子にマアヤを座らせて、僕は対面の椅子に座る。そして、マアヤに話をするように言った。


「コルク様、私がコルク様の乳母になった経緯をご存知ですか?」


 先ずマアヤがそう聞いてきたので、知らなかった僕は素直に知らないとマアヤに答えた。


「私はコルク様がお産まれになる三ヶ月前に子供を死産で亡くしました。それで、私は乳の出が良すぎた為に、丁度募集されていたカインズ公爵家の乳母の面接に来たのです。公爵様と奥様に気に入られ、私は直ぐに雇っていただく事が出来ました。私の実家はカーライル伯爵家になります」


 そこまで聞いて僕は口を挟んだ。


「カーライル伯爵は父上の派閥だよね? なのに何故?」


「はい、それを今からお伝え致します。私には二人の妹がおりました。上の妹は生まれつき体が弱く、家から出る事も出来ずに日々を過ごしておりました。しかし、ある日モリノミ公爵家の使いの方が治癒魔術の使い手と一緒に来られました。その方の治癒魔術により、一時的にですが妹は動けるようになりました。定期的にその方に来ていただく条件として、乳母としてカインズ公爵家に入っている私から情報を流せと言われまして······· 本当に申し訳ありません」


 そう言うとマアヤは椅子から降りて再び僕に土下座をした。僕はマアヤをていた。

 嘘は言ってない。しかし、一時的にだけ回復させる魔術なんて何かおかしいと思う。僕はマアヤに言った。


「マアヤ、恐らくだけど騙されているんだよ。妹さんは治ってなんかない。むしろ悪化している可能性があるよ」


 僕の言葉に顔を上げて愕然がくぜんとするマアヤ。


「コルク様、それは本当ですか!? では私はただ単にお世話になったカインズ公爵家を裏切ってしまったと······」


 そして泣き崩れるマアヤ。僕は考える。今の僕が外出する事を父上は認めてくれるだろうかと。

 僕は取りあえずマアヤに言った。


「マアヤ、今日はここまでにしよう。幸い僕しかマアヤの裏切りの事は知らない。だから、何らかの結論が出るまではこれまで通りにしていて。明日にはマアヤに伝えるから。いいね、先走って僕の考えを台無しにしちゃダメだよ」


「けど、コルク様······」


「マアヤ、約束だよ。良いね」


 僕が優しく微笑みながらそう言うと、マアヤは頷いた。それから屋敷に戻った僕は曾祖父ひいおじい様と曾祖母ひいおばあ様にマアヤから聞いた話をする。そしたら、曾祖母ひいおばあ様が僕に言った。


『コルクなら治せるの? その妹の病は症状を聞く限り不治の病だと思うけど』


「はい、曾祖母ひいおばあ様。僕なら治せると思っています。ですからお力をお貸し下さい。僕はマアヤをこんな事で処罰したくありません」


『うん、分かった。マルコに話をするわ。キャラと一緒に行くならヴァンも許可するでしょう』


「はい、よろしくお願いします」


 僕は頭を下げて二人に言ってから、マアヤを呼び出して言った。


「マアヤ、明日は君の実家に祖母おばあ様と一緒に行くからね。案内してくれるかな?」 


 僕はマアヤにそう問い掛けて、はいと頷くマアヤを見て、全ては明日だと心に決意を秘めた。


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