第10話 的の強度が足りない

 ラターシャお姉さまが僕の方を見て言った。


「コルク少年、いや、コルクくんと呼ばせて貰おうかな?」


 そう言って僕を見るラターシャお姉さま。僕は母上が呼ぶようにコルくんでも良いですよって言ってみたら、また鼻の部分をおさえて顔を真っ赤にした。 

 何かの病気なんだろうか? 大丈夫かなと思ったので僕は素直に聞いてみた。


「ラターシャお姉さま、何処か具合が悪いのですか? もしよろしければ治癒魔術も使えますが······」


 僕がそう聞いて見るとお腹を抱えて笑う曾祖父ひいおじい様。それを笑いながら嗜めている曾祖母ひいおばあ様。そちらを見たラターシャお姉さまが一言。


「お前たち二人、地の果てに落としてやろうか?」


 と、かなり真剣な目でいうので、僕は慌ててお姉さまを止めたんだ。


「ご免なさい、ラターシャお姉さま。曾祖父ひいおじい様と曾祖母ひいおばあ様を許してあげてください。僕からもきつく言いますので」


 そしたらラターシャお姉さまは優しい顔つきになって、


「コルくんが悪い訳じゃないから謝らなくても良い。それにこの二人とは長い付き合いなんだ。今のもお互いに冗談だと分かっているよ」


 そう言って微笑んでくれた。優しいなぁ。そしてラターシャお姉さまはそのまま僕に話を続けた。


「コルくん、今はその【魔術大全の書】をどこまで読めたんだい?」


「はい。熟読出来ているのは半分くらいです。初歩、初級、中級、高級魔術の半分くらいは使用する事が出来ると思います」


「ほう、高級魔術のまだ上があるんだね。それは凄いが、まだ読めてないなら後にして······ コルくん、中級魔術を的に向かって打ってみてくれないかな?」


「はい、分かりました。それじゃあ、水の魔術を打ってみます」


 僕はそう言うと的の前に立つ。そして、唱えた。


水流閃ジェット!」


 僕の突き出した両手の先から高圧の水が出て的に直撃した。的は割れはしなかったが、ヒビが入ったようだ。それを見て驚くラターシャお姉さま。


「何!? アダムル鋼にアースドラゴンのウロコを混ぜた特別製なのに! ヒビが入るなんて」


『ラタの作った的でもダメだったか······』


 曾祖父ひいおじい様もそう言うが、僕はむしろヒビだけですんだこの的に驚いた。書物に書いていた通りならパッカーンと割れても不思議じゃなかったからだ。

 書物には『この水流閃ジェットを使用すれば火竜をも真っ二つに出来る』と書かれてあったからだ。少なくともこの的は火竜よりは頑丈だと証明された。


 僕はラターシャお姉さまにそう言ったが、お姉さまは中級魔術でこれなら高級魔術やそのさらに上の魔術にはとても耐えられないと考え込んでしまった。そこで僕はお姉さまに聞いてみた。


「これ以上の頑丈な的って出来るんですか?」


「コルくん、出来る事は出来る。が、素材が揃わないんだ。それに、恐らく私が知る最強硬度のモノでもコルくんの魔術には耐えられないと思う」


 ラターシャお姉さまはそう言って僕の顔を見て謝った。


「すまない、偉そうな事を言ってしまった。私の作る的なら壊れる事はないと思ったが、どうやら自惚れていたようだ」


 そう言って頭を下げてきたので、僕は慌ててお姉さまに言った。


「ラターシャお姉さま。中級魔術の練習は出来ますから助かります。本当ですよ」


 僕がそう言うとラターシャお姉さまは


「コルくんは優しいな」


 と言って僕の頭を撫でてくれた。片手は鼻の部分をおさえていたけど。


 僕は中級の復元魔術を使って的に入ったヒビを治した。


復元きんつぎ!」


 的のヒビ部分に金色の線が出来る。これはクライムという鉱物を使ったヒビ補修だ。

 中級の復元魔術は、復元するモノに相応しい素材で復元する魔術で、これが人体であったなら傷ついた箇所を血と肉を使用して復元されるはずだ。

 試してないから確信はないけど。

 

 その復元魔術を見たラターシャお姉さまが感心したように言った。


「これは、クライムだね。これなら確かに強度的にも問題ないね。コルくん、凄い魔術だね」


 そして僕を見て真剣な顔でラターシャお姉さまは語り出したんだ。

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