第7話 初歩魔術は便利

 結果として、【魔術大全の書】の初歩魔術は生活に役立つ魔術が多い事が分かった。例えば······


温風どらいや

乾燥じょうはつ

清潔えいせい


 等々があった。僕は初歩魔術を読んでみてこの書を書いた人はどんな人だったんだろうと考えてみた。前世の記憶からも想像してみたけど、国語の先生とかだったのかな? 違うかも知れないけど······

 

 そうして火を使わずに部屋の中でも出来る初歩魔術は、全て書に書かれてある通りに発現したのを確認した僕は、睡魔に負けてその日は寝てしまったんだ。


 そして、朝になっていつまでも起きて来ない僕を心配した母上が部屋にやって来た。


「コルくん、朝ですよ~。起きれますか~」


 母上に優しく揺り起こされた僕はここぞとばかりに母上に抱きついて起こしてもらった。うん、子供の特権は有効に使わないとね。

 しかしそれを曾祖母ひいおばあ様に見られていたのには気が付かなかった······

 朝食を食べ終えて部屋に戻った僕を曾祖母ひいおばあ様が待っていて、僕に言った。


『いい? コルク。前世の世界ではどうだったか知らないけど、この世界では実の子供と母親は結婚出来ないからね。早めに諦めなさいよ』


 見透かされていた······ 曾祖母ひいおばあ様、前世でも自分の母親とは結婚出来ませんでしたよ······ しかしそんな事でメゲる僕ではない。気持ちを新たに曾祖母ひいおばあ様に聞いてみた。


曾祖母ひいおばあ様、初歩の火魔術や攻撃魔術を練習出来る場所をご存知ないですか? 家族が使用してない場所でなんですが······」


 僕の質問に曾祖母ひいおばあ様が即答してくれた。


『あら、それならこの書を封印していた地下室を利用出来るわよ。元々昔はあそこが魔術の訓練場所だったの。私がこの書を封印したから今の場所に新たに作っただけだし』


 それを聞いて僕は【魔術大全の書】を手にして地下室に向かう事にした。地下室に向かう途中で兄上に出会った。


「コルク、そんなに分厚い本を持ってどこに行くんだい?」


「兄上、地下室にいる曾祖父ひいおじい様と曾祖母ひいおばあ様にこの本について教えていただこうと思って向かっています」


「そ、そうか······ 気をつけてな、それじゃ僕は用事があるから······」


 そう言って兄上は急ぎ足で去っていった。そんなに怖かったのかな? 僕は最初から怖いとは思わなかったけど······ いつもは格好良い兄上があんなになるなんて······

 まあ良いかと思い地下室に入り、【魔術大全の書】が封印されていた部屋に行くと、中はかなり広くて前世の記憶でいうと体育館よりもまだふた回り位広くなっていた。

 部屋に入った僕を曾祖父ひいおじい様と曾祖母ひいおばあ様が先に来て待ってくれていた。


『さあ、コルク。ここは私が亡くなる前にも魔術結界を張ってあるわ。多少の無茶は出来る筈よ。先ずは部屋で出来なかった火の初歩魔術を試してみなさい』


「はい、曾祖母ひいおばあ様」


 そして僕はページを開いて説明を読んだ。


【ここには火を扱う魔術を書いてある。火は怖いモノだと認識しているか? 初歩とはいえ、やはり火は危ないと分かっているならこの魔術を安全な場所で試してみよ。 その魔術は『着火』という。読みは『らいたー』だ!】


 僕は自分の足元から一メートル離れた場所に向けて魔術を唱えた。


着火らいたー!」


 狙っていた場所に火が上がって魔力を込めたままだと燃えるものが無いのに消えない。魔力を込めるのを止めたら火は消えた。

 この魔術は普通に皆が唱えている生活魔術の『チャッカ』と違い、魔力を込めた状態が維持出来ればいつまでも火をつけていられるようだ。通常の『チャッカ』は三秒程で消えてしまうため、燃えやすいモノを用意しておかないと中々火を起こせない。

 それに比べると便利だなと思う。ネーミングセンスはともかくとして······

 

 僕はそのまま、初歩の攻撃魔術の実験に移る事にした。



 

 

 

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