黒を染めるもまた白
空一面を覆う厚い雲。
鬱々とした汚い灰色の下で、じめじめとまとわりつくような空気。
…あぁ、ため息が出るほどいい天気。土黒の毒がよく効きそうな作戦日和だ。
「おい!タイプA。
作戦会議中だ、ぼんやりするな!」
指揮官の偉そうなわめき声に首をすくめる。
ふと隣のレイを横目に見ると、いつになく真剣な眼差しでメモをとっていた。
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会議の後。
レイが居残りを命じられたので、先にひとりで食堂に向かった。
今日の定食はオムライス。いつもなら、どんぶりや麺類と迷うのだけど、オムライスは別格だ。
「あれ?今日は白謨の子は一緒じゃないのかい?」
特盛オムライスを準備しながら、厨房のおばちゃんが首を傾げた。
「えぇ、彼はまだ打ち合わせ中で」
「そうかい。…そうか、今日だものね」
いつも元気な彼女の瞳にほんの少し陰が射した。黙ってあたしも目を伏せる。
「…はい!おまちどおさま」
お腹に響く甘い香り。山盛りのご飯を覆う艶々な黄色の卵から、白い湯気が立っていた。
「ケチャップはそこのを好きなだけかけていいからね」
お言葉に甘え、どっぷりかけようとして、ふと思いとどまる。レイと食べるとき、いつもお互いに名前を書き合いっこしていたことを思い出して…。
ちょっと迷って、小さなハートの形を描いた。レイの苦笑いを思い浮かべて、ひとり微笑みながら、席に着く。
オムライスは絶品だった。甘い卵に包まれたチキンライスは何だかいろんな味がして、胸までいっぱいになってしまった。
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そして、その日の夜。
NOTEを囲む森には虫の声が響いていた。
まだ雲が空を覆っているのか、星も月も見あたらない。真っ暗だ。夜襲をかけるには絶好の夜。
いつも通り、先行しているあたしが索敵しつつ、突撃をかける。エンジンは熱々、ギアもトップに入ってる。
真っ暗な湿った闇の中、真っ黒な
彼らが奇襲に気づいても、あたしが足を止めることはない。背中は
いつもと同じ、いつもの作戦。
そして、あたしにとっては最後の戦場だ。
この戦いのあと、あたしの記録はすべて新たな
それで、あたしはもうおしまい。
…というのも、もうすぐあたしの脳の土黒への許容量が限界から。
他の部位は機械に取り換えて、ここまで来たけれど、脳はダメだ。もしも、中の記憶や経験を別の媒体に移したとしても、きっとそれはもうあたしじゃない。
でも、誰かの役に立てるのなら、それでもいいかなとも思ってる。
『…エイ』
もうすぐ基地の中枢近く、狭い廊下を駆けているときに、急にレイから無線が来た。
『オレさ、今回の作戦が終わったら、エイと同じ
会議後の居残りはその話だったのか…。
『ずっとエイの補佐をしてきたから、そろそろもっと活躍できるだろうって…』
きっとあたしの後釜ということだろう。今度はあたしの
…何だか少し頬が緩んだ。あぁ、あたしは死んでもレイと一緒にいられるんだと…。
『これからもよろしくね、エイ』
その言葉があたしには予想外で、『あぁ、レイにお別れのことをちゃんと言っていなかった』という後悔と、そっけない彼が自分を慕ってくれているという嬉しさで、胸がいっぱいになってしまった。それで、ほんの一瞬、つい警戒を緩めてしまった。
突然、後ろから激しい衝撃を受けたかと思うと、あたしの首は吹っ飛んでいった。
くるくる回る視界の中。酔いそうになりながら、状況把握に努める。すると、何故かレイとの無線から、知らない男の声がした。
『おかえり、検体E-00ZR』
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