日常に幻想
あたしが令嬢で、
おはよう、黒の蝶々。
「――っ!」
――誰かの声が聴こえる。まるであたしのことを呼んでいるみたいな…。
「―エイっ!」
…いてっ!
コツンっと、おでこに何か当たった。
「―っ、おい、エイ!起きて!」
耳元で囁く声に、ハッと我に返って顔を上げると、担任の先生が少し怒った顔でこちらを見ていた。
「…この
寝ぼけた頭で慌てて立ち上がりながら、机の上のプリントを見ると、問Aなんてなくて、代わりに見つけた
…『胡蝶の夢』の平方根?…って何だ?何かのギャグ?
胡蝶…コチョウ…誇張…ハッ!つまり、大袈裟ってこと?…そうか!
「…け、『謙虚な
困惑しながら立ち上がり、ない頭を必死に振り絞って答えた。一瞬の沈黙のあと、どっと教室から笑いが起きる。
「…エイ。今は漢文じゃなくて、数学です」
シャーペンの姿のレイくんが力なく点滅しながら、あたしに囁いた。
…え!…あっ!…もう!早く言ってよ。
自分の居眠りを棚に上げて、むくれながら席に着く。
ふと窓の外に目をやると、一匹のアゲハ蝶がひらひらと舞っていた。その近くには花も木もないのに…。
晴れた鮮やかな青の中。独り飛ぶそれがとても淋しく思えて、何故かなかなか目をそらすことができなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます