黒い機体と白い間者

 帝国はオレのような貧困街で生まれた小柄な白謨族たちを集め、立派な軍人として教育した。弱肉強食の帝国に生まれた時点で殺されるか、最下層の貧困街の二択しかなかったオレたちにとって、九死に一生だった。

 逆にいえば、わざわざオレたちなんぞにお金をかけるほど、この計画は期待されていたのだろう。


 なのに…。なのに、彼女に出会ってしまったオレは―…。

 …いや、でも。彼女と出会わなければ、オレは名前すらなかった。オレのレイという名前は彼女にもらった…。


 …ごめん、少し感傷的になってしまった。話を戻そう。

 間者スパイそして軍人になるための教育を終えたオレたちは中立地域のスラム街へ戻された。…あのドブのような世界へと帰らされたのだ。

 …いや、戦局が悪化して捨てられたのではない。共和国に"スラムの白謨族"と思わせるためだ。…もちろん。


 帝国の幹部たちの話では、共和国側の軍人が白謨族の血をもつ貧民の子を探しているはずで、そこから共和国に入り込むという計画だった。


 しかし、何ヵ月経っても、共和国の影はない。それどころか、オレたちは日に日に衰弱していった。

 おそらく、中央でまともな生活を送るうちに、オレたちの身体は貧困街の劣悪な環境へ対応できなくなっていたのだろう。生ゴミと大差ない食事、水は雨水、入浴をいつしたかも思い出せないような衛生環境…。

 何人もの仲間たちが、戦争とは直接関係のないところで、命を落としていった。


 そんなある日。

 いつものように樹上で寝ていると、激しく地面が揺れた。


(地震か…?!)

 木から転がり落ちて、辺りを見渡していると、少し離れた草むらからものすごい轟音とともに何かが近づいてくる。


「すみませーん…っ!!」


 警戒していた俺の目の前に現れたのは、黒い煙をモコモコ吐き出す排気筒を背中から何本も生やした若い女性。


「…っ!……森の…妖精っ?」

 彼女はそう呟くと、目も口も真ん丸にして固まった。…普通、初めて会った人にこんな言葉かけないだろう。

 でも、これがエイとの出会いだった。


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