第35話 誰かの為に
舞は魔人の城の一室でふさぎ込んでいた。
私は部屋から出る気にもなれず、食事も進まなかった。
ブラックが心配して様子を見に来てくれるのだが、楽しく話す気にもなれなかったのだ。
ずっとあの青紫色の草原が頭に浮かんでは中々消えなかったのだ。
ジルコンはそんな私を元気付ける為に、色々な話をしてくれたのだ。
魔人の事やハナさんがいた時のことなど、私が知らない話をたくさん聞かせてくれたのだ。
魔人の基本は強さにあるという。
力が強い者が優位であり、弱者はそれに従うのが常であった。
しかし、それが全てでは無いと教えてくれたのは、人間のハナさんであったと言うのだ。
人間であるため、魔人より弱いのは当たり前なのだが、自分を犠牲にしてまで、大切なものを守ると言う気持ちの強さは魔人にはなかった事なのだと。
それは弱い者を守るだけで無く、自分よりも強い者をも守ろうと思う気持ちだったと。
詳しくはわからないが、ハナさんと魔人の友人達は数々の冒険もしたようなのだ。
今は封印されているが、ブラックと異世界へ転移する方法を見つけてからは、いくつかの世界にみんなで行ったこともあるらしい。
その冒険でハナさんと魔人達の絆も深まったようなのだ。
それは今の私も同じだと言ってくれたのだ。
だから、みんな私の力になりたいと思っていると。
特にブラックは私が元気がないと、同じように沈んでいるので困ると笑いながら話した。
クロルを助けられなかった事は残念ではあるが、今まで私が誰かのためと思って行ってきた事は、きっと無駄ではなく報われる時が必ず来ると言ってくれたのだ。
明日、黒翼人の国にブラックと伺うのだが、私は行くのがとても怖かったのだ。
しかしジルコンは心配する必要は無いと言ってくれたのだ。
私はジルコンと話してだいぶ気持ちが落ち着いたので、ブラックを呼んでもらうことにした。
今度は私がブラックを元気にさせないと、と思えるようになったのだ。
○
○
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ブラックと私は黒翼人の国に再度出向いた。
異世界へのトンネルを抜けると、ブラックの力で瞬時に城の前に移動したのだ。
城に着くとブロム達兄弟と王様が迎えてくれたのだ。
私はその場に合った服装を全く持っていなかったが、ジルコンが色々見繕ってくれて、普段着たことが無いシックな黒色のドレスで伺ったのだ。
今日はクロルとお別れをする為に来たので、ちゃんとした服装で伺いたかった。
ブラックは端正な顔立ちと細身の長身の姿で、何を着ても素敵だった。
一緒にいる自分は不釣り合いでは無いかと心配になったが、ブラックは腕につかまるように促したのだ。
「魔人の王、舞さん、来てくれてありがとうございます。
こちらに・・・」
ブロムに促された部屋に行くとそこには綺麗な花に囲まれたクロルが静かに目を閉じていたのだ。
その傍らにはリオさんが静かに座っていたのだ。
私はそれを見て心がズキンと痛んだが、ブラックが肩に手を置いて私の顔を覗き込んだのだ。
私は頷いて、リオさんに声をかけたのだ。
「リオさん、体調は大丈夫?」
「舞さん、来てくれたのですね。
ありがとうございます。
話は全部聞きました。
・・・私は大丈夫ですよ。」
「私、思うんです。
私とクロルお兄様とのこれまでの絆は偽物では無かったと。
私の事を本気で消すつもりなら、とっくにそうしていた気がします。
それが出来なかったのは、心の中で葛藤があったのだと思うんです。
ずっと辛かったのじゃないかと。
だから、クロルお兄様を恨む事もないし、優しいお兄様の思い出しかありませんから。」
私はリオさんの言葉に救われたのだ。
犯人を探す事で、兄妹の亀裂を深めてしまった気がしたのだが、そうではない事に安堵したのだ。
私の心の痛みも少しだけ消えたのだ。
私達はクロルとお別れをした後、ブロムや王様に挨拶をし黒翼人の世界を去ったのだ。
魔人の国に戻った後、私とブラックは精霊の森に寄ることにしたのだ。
もうそろそろ、自分の世界に戻らないといけないので、今度こそさよならを言いに行こうと思ったのだ。
私とブラックは森に入り、あの大木のある広場に行くとすぐに木のトンネルが作られたのだ。
トンネルを抜けると、私達を精霊が待っていたのだ。
驚く事に、精霊の姿が以前よりも大きくなり成長していたのだ。
それは少年の姿から青年の姿に変わっていたのだ。
「舞、ブラック、来てくれたのですね。」
「姿が変わったのね。」
私がそう言うと、精霊は照れ臭そうに話した。
「森の成長と共に少しだけ私も成長したみたいです。
二人も素敵ですよ。」
私の普段と違う服装を見て気を使ってくれたのだろう。
お世辞だとわかっていても、悪い気はしなかった。
「あなたには本当にたくさん助けてもらったわ。
ありがとう。
今度こそ、もう帰らないと。」
「そうですか、寂しくなりますね。
またいつでも会いに来てくださいね。
また、お守りです。」
そう言って種を3粒私の手に置いたのだ。
自分の世界では使う事は無いだろうが、無くさず大事にしておかなければと思った。
この種がどれだけ私を助けてくれただろうか。
「私からは何も渡すものが無くてごめんなさい。」
私は助けてもらってばかりで、申し訳ない気持ちになった。
すると精霊は言ってくれたのだ。
「私の方こそ、舞に助けてもらったから今があるのですよ。
だから、舞が必要な時はいつでも飛んでいきます。」
私はジルコンに言われた言葉が頭に浮かんだのだ。
私が出来る事はほんの少ししかないし自信もないけど、これからも誰かに為に頑張ろうと思ったのだ。
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