第34話 クロルとの別れ

 黒い影の集合体がクロルの姿になり、ブロムに剣を向けた時である。


 横になっていたクロルは、ブロムの後ろに剣を向けている自分の姿を見たのだ。

 それは、とても邪悪な自分の心の姿にダブったのだ。


 そして、とっさにブロムを突き飛ばすと、黒い影の集合体が持つ剣を胸で受け止めたのだ。

 すぐにブラックが影の集合体に向けて左手をかざし、黒い煙へと消滅させたのだが、剣がクロルの胸を貫くのが一瞬早かったのだ。

 

「おい、クロル!」


 突き飛ばされたブロムは急いで倒れているクロルの元に行くと、クロルは少しだけ微笑んで言ったのだ。


「兄上、無事でよかった。

 ・・・やっと楽になれます。

 リオにすまないと伝えてください・・・」


 クロルはそう言うと、動かなくなったのだ。


 私は黒い影の集合体がブラックにより消滅されるのを見ると、クロルの元に駆け出したのだ。

 青紫色の毒の花が一面に咲き乱れている草原であったが、そんな事は関係なかった。

 もちろん、ブラックからもらったペンダントがあるので、毒の花から自分は守られていたが、走り出した時はそんな事は考えてもいなかったのだ。


 間に合って・・・

 

 私は心の中はそれだけだった。

 そしてクロルのところに早く着きたいのに、中々進めない自分が情けなかったのだ。


 私はブロムに抱えられているクロルのところに着くと、すぐに完全回復の薬を身体に押し付けて破裂させたのだ。

 金色の光がクロルを包み込んだので、私は間に合ったと思ったのだが、クロルの顔色は土色のままであったのだ。


 私は自分が今持っている傷や化膿で使う薬、痛みや腫れをとる薬など、次々にクロルに押し付け破裂させたのだ。

 それらの薬を使うと綺麗な光でクロルを包み込むのだが、それだけでクロルの顔色は変わらず、目覚める事がなかったのだ。


 私は涙をこぼしながら、他に何か無いかとカバンを探っていると、ブラックが手をつかんだのだ。


「舞、もう無理だよ。」


 いつの間にかブラックが横に来ていたのだ。

 ブラックだけでなく、みんなが私とブロム達を囲んでいたのだ。


「まだ、何か助ける方法がきっとあるはずよ。

 考えればきっと・・・お願いブラック・・・」


 私は泣きながら、ブラックに懇願したのだ。


「舞、もう行ってしまったのだよ・・・

 一度亡くなった者を生き返らせる事はできないのだよ。

 魔人のように核が有れば復活は出来るが、黒翼人はそうでは無い事を舞もわかっているだろう。」


 ブラックは優しく私に諭したのだ。

 そう、完全回復の薬の効果が無い事から頭ではわかっていたのだ。

 だが、私の心が何かしなければと納得できなかったのだ。


「私が・・・クロルを追いつめてしまった。」


「違うよ、舞さん。

 あなたは、リオを助けてくれたのですよ。

 あなたがいなければ、いずれリオは死んでいたのですよ。

 ・・・クロルの心が弱かったのが原因です。


 それに、クロルはリオに謝ってほしいと最後に言ったのですよ。

 舞さんに自分が犯人だと知られた事で、最後にはクロルはリオの良い兄に戻ったのですよ。

 クロルは止められない自分を、どこかで誰かに止めて欲しかったのだと思います。


 本当のクロルはとても優しい弟ですから。

 だから、私の身代わりになったのですよ。

 兄なのに助けられなかった私の方が不甲斐ないのですよ。

 ・・・たぶん、リオを陥れる自分を無くしたくて、ここに来たのだと思います。


 だから、舞さんは二人を助けてくれたのですよ。」


 そう言って、ブロムは私の肩に手を置いたのだ。


 私は溢れる涙を止める事が出来なかった。

 自分の無力さを思い知ったのだ。

 ただの人間が出来ることなど、本当にちっぽけな事しか無いのだ・・・。


 そしてブロムとアルはクロルを抱え、リオの待つ黒翼人の世界に帰って行った。

 ブラックは落ち着いた頃に伺う事にするとブロムに伝え、私達は魔人の城に戻ったのだ。


 私はと言えば、何も考える事は出来なかった。


 そんな私を見て、ジルコンは何も言わずに寄り添ってくれたのだ。

 ブラックはカクの所に手紙を出してくれて、私は数日魔人の城に滞在することにしたのだ。

 ブラックはそんな私を優しく見守ってくれていたのだ。


 ここにいると、少しずつだが心が癒される気がしたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る