第33話 黒い影の再来
私達は湖の岩場に着くと、すでにスピネルとアクアがいるところに向かったのだ。
ブラックにより瞬時に移動したところは、森の近くの草原であの青紫色の花がたくさん咲いていたのだ。
クロルはその真ん中に佇んでいた。
スピネルとアクアは少し離れた所で様子を伺っていたのだ。
ブロムはクロルの姿が見えると叫んだのだ。
「クロル、先ずは城に帰って話をしよう。」
「兄上、来ないでくれ。
ここの花は全て毒なのだから。
・・・舞さん、よく分かりましたね。
舞さんの言う通りですよ。」
そう言うと、自分の周りにある青紫色の花をどんどん摘んで集め始めたのだ。
クロルは両手に抱えた花を見て、少し微笑んで話したのだ。
「綺麗な花ですよね。
全てが毒だなんて、思いもしないですよね。
私も初めはそうでした。」
そう言うと、こちらを見る顔つきが変わったのだ。
そして、持っていた青紫色の花びらを一枚ずつ取っては口に入れ始めたのだ。
「母を死に追いやったあの女が亡くなった後は、私の心は穏やかでしたよ。
リオへも優しくなれたし、ちゃんと良い兄でいられましたから。
・・・だが、リオが成長するにつれ、あの女に似てくる事が許せなくなったのですよ。
どうしても、自分の目の前で死んだ母の姿が頭から消えなくなってしまった。
その現場を見ていない兄上達にはわからないだろうが。
だから、その女を思い出させるリオには悪いが消えてもらおうと思ったのですよ。
しかし、兄上が舞さんを我らの国に呼んだことは予想外でしたよ。
それにアルゴンの事件でこちらの事はうやむやになるかと思ったのですがね。
・・・残念ですよ、舞さん。」
「クロル、やめて。
いくら黒翼人でもその花は身体に害があるのはわかっているでしょう?
特に直接摂取したら酷く身体を弱らせてしまうわ。
リオさんの良い兄でいたのなら、これからもきっとできるはず。
だからもう、戻りましょう。」
クロルはますます狂気的な表情になり、花びらをとっては口に入れる事はやめなかった。
「もう、・・・遅いんですよ。」
その時である。
以前見た黒い影がクロルの周りに現れたのだ。
それはあの森を侵食していたものにちがいなかったのだ。
森の一件以来姿が見えなかったのだが、どう言う訳かこのタイミングで現れたのだ。
「まずい!」
ブラックがそう言った時にはすでにクロルはその黒い影に囲まれて身動きがとれない状況であった。
毒の花を摂取し続けたクロルの身体は弱っており、黒い影に対抗できる状況になかったのだ。
そして黒い影はクロルに吸収されるようにあっという間に消えたのだ。
残されたクロルの動きが止まり、倒れるかと思ったがそうでは無かった。
クロルは無言で顔をこちらに向けたのだ。
その状態は、以前魔獣がそうであったように、黒い影に侵食され操られている状態であったのだ。
魔獣の時と違い、厄介な事にクロルは魔法の剣を手に携えているのだ。
侵食されているのであれば、それを分離しなくてはならない。
しかしクロルを攻撃することはできないし、剣を持ちかまえているので、簡単に近づくことも出来なかったのだ。
そして黒い影の意志により、クロルはこちらに攻撃を仕掛けて来たのだ。
クロルの持っている剣を一振りすると氷の刃がこちらに向かって来たのだ。
ブラックが左手を上げると、こちらに来た氷の刃を消滅させ、黒い煙と化したのだ。
そしてその刃が通った草木は全て凍ってしまっていたのだ。
攻撃から防御する事は出来るが、今のクロルを攻撃する事が出来ないのが問題であった。
私が今回持っている薬の中に、リオさんの時に使った異物を分離出来る薬はあったが、翼を持つクロルの動きに合わせてぶつける事は難しかったのだ。
魔獣との戦いの時に助けてくれた弓の名手がいればと思ったが、クロルに剣で弾かれたら意味が無いのだ。
つまりは接近しないと効果的では無かったのだ。
スピネルにドームを作ってもらい、クロルを隔離しようと思ったが、その氷の刃の出る魔法の剣とは相性が悪くドームはすぐに破壊されてしまったのだ。
もちろんアクアやスピネルの炎を使えば対抗する事は出来るのだが、クロルが無傷ではいられないのがわかるので、使う事はできなかったのだ。
「困りましたね。
クロル殿を助けながらと言うのが難しくなりましたね。」
ブラックも悩んでいるようだった。
やはり黒い影を追い出すしか無かったのだ。
「私が行きます。
舞さんの薬をぶつければ良いのですね。
あの剣に対抗できる炎の剣を持っていますから、なんとかできると思います。」
そう言って、ブロムは腰元の剣を抜いたのだ。
「ブロム、大丈夫ですか?」
私がそう言うと、微笑んでこう言ったのだ。
「私はクロルの兄ですよ。
助けられるに決まっているじゃ無いですか。」
私は心配しながらも、丸い容器に入った薬をブロムに渡したのだ。
ブロムは懐に薬を入れると、クロルに向かって飛び立ったのだ。
向かい合った2人は剣を交える事になったのだ。
氷の刃を出す剣も、炎の刃を出す剣も普通の剣として打ち合うことは出来るようだ。
ただ、交えるたびに鉄が打たれ音と水分が蒸発するような音が混ざり合った、嫌な音が鳴り響いたのだ。
もちろん隙があれば、刃が流れるように相手に向かっていくのだ。
私は正視することが中々出来なかった。
2人とも傷つかないことだけを願ったのだ。
「大丈夫ですよ。
きっと、助けることが出来ますよ。
もし二人の力が互角だったとしても、影が操っている訳で彼の意志はそこには無いのですから。
ブロム殿の方がはるかに強いと思いますよ。」
ブラックはそう言って、近くにいるようにと私に伝えた。
私の心配をよそに、ブロムはクロルを追い詰め、クロルの剣を飛ばしたのだ。
そして私が渡した薬をクロルにぶつけるとあっという間に薬は吸収され、クロルの動きが止まったのだ。
そしてクロルを抱えながらブロムは地上に降り立ったのだ。
しかし、ほっとしたのも束の間であった。
薬の効果でクロルから黒い影が出て来た途端、影の集合体は瞬時に飛ばされた剣に向かいクロルの姿となって、ブロムに剣を突き刺そうとしていたのだ。
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