第32話 クロルの行方

 私の考えを話すと、クロルは黙ったままだった。

 ブロムは肩を掴んで問い詰めたのだ。


「いったいどう言う事だ。  

 自分の妹に何をしたのだ。

 答えろ、クロル。」


 クロルはブロムの手を振り払うと、真っ直ぐに見て答えたのだ。


「兄上、私は未だにリオの母親を許す事が出来ないのだ。

 我らの母を死に追いやった女なのだ。

 その娘であるリオを妹とは思えない。

 だんだんその女に似てくるリオを黙って見ていることは出来なかった。」


 そう言うと、クロルは腰元にあった剣を手にとり、草木を切りさきバルコニーに出る扉を開けたのだ。

 そして、大きな羽音を立てて外に飛び立っていったのだ。


 ブラックはスピネルとアクアに後をつけるように指示を出し、兄であるアルも一緒にクロルを探しに飛び立ったのだ。

 

「ブロム、いったいどう言う事なの?」


 私がそう言うと、ブロムは今の王家について話してくれたのだ。


「・・・実は私達三兄弟とリオの母親は違うのです。」


 ブロムの話によると、三兄弟の母であった王妃は自分で胸に剣を突き刺し自害したと言うのだ。

 はっきりとした理由はわかっていないのだが、第二王妃のリオさんの母親が関係しているとクロルは思っていたようだ。

 王様は一夫多妻が許されていたのだが、ブロム達の母親はどうしても我慢がならなかったようだ。

 そして、リオさんが生まれた後、自分で命を絶ったというのだ。

 それはクロルの目の前で起こり、その時まだクロルは8歳であった。

 そして、その三年後に今度はリオさんの母親が亡くなったと言うのだ。

 こちらは事故で亡くなったようだが、王子達が若かったこともあり、詳細は知らされていなかったようだ。


 王家の若い女性が亡くなるという話と少し違ってはいるが、王妃達が次々に亡くなっている事が少し気味が悪く感じたのだ。


「・・・初めて聞きました。

 あんなに優しかったのに、クロルお兄様は私や私の母を恨んでいたのですね。」


 リオさんは涙ぐみながら、つぶやいたのだ。


「リオ、お前が気に病むことはない。

 クロルは母親の死を受け入れられず、リオの母のせいにしたかったのだよ。

 私が何とかするから、心配しなくていいのだよ。」


 ブロムはリオさんに落ち着くように話し、ベッドに横になるように促したのだ。


 私はとても後悔したのだ。

 リオさんを陥れた犯人を探したいと思う一心で、今回の仕掛けを考えたのだが、犯人が分かった後のことを何も考えていなかったのだ。

 クロルの可能性が高い事がわかっていたのに、判明した後の兄弟達の気持ちまで考えが及ばなかったのだ。


「ブラック、私はひどいことをしてしまったのかも。」


「舞・・・いつかは伝えなくてはいけないのですから。

 隠しておける事では無いのですよ。」


 私はとても心が痛くなってブラックに寄りかかると、優しく支えてくれたのだ。

 

 そうだ、落ち込んでる場合では無いのだ。

 クロルを見つけなくては。

 彼を本当の意味で癒す事が出来なければ、何の解決にもならないのだ。


            ○


            ○


            ○


 クロルを追いかけたスピネルとアクアは意外なところに向かっている事に気づいたのだ。


「これは、我らの世界に向かうのではないか?」


 かなり離れてはいたが、アクアの目がクロルを捉えたのだ。

 クロルは魔人の国に繋がるトンネルの元に行き、予想通り中に入り消えたのだ。

 その世界は、黒翼人にとっては半日もすると呼吸が苦しくなり、そこで過ごすことが難しい世界なのだ。

 何故その場所に向かうかが疑問であったのだ。

 兄であるアルもクロルを追ってトンネルに入ったのだ。

 スピネルは思念でブラックに連絡を取り、二人は自分達の世界に戻った。

 

 スピネルから連絡が来たブラックは、舞やブロムに伝えたのだ。

 

「クロル殿は私たちの世界に入ったようです。

 私と舞は戻ろうと思います。

 ブロム殿はどうしますか?」


「もちろん行きます。

 何としてもクロルを無事に連れ帰ります。

 ・・・私は兄ですから。」


 ブロムは力強い口調で答えたのだ。


「では、二人とも私につかまってください。」


 ブラックはそう言うと少し微笑んで私の肩を引き寄せ、ブロムもブラックの腕につかまったのだ。

 そして一瞬で魔人の国の入り口であるトンネルに移動したのだ。

 私達も、その暗いトンネルを上に向けて上がっていったのだ。

 もちろん私はブラックに抱えられてであるのだが。

 少しすると、明るい光が見えて、あの綺麗な湖を見る事が出来たのだ。

 

 クロルの元に行かなければ。

 その時の私はきっと大丈夫と、安易に思っていたのだ。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る