第31話 青紫色の花

 私が精霊を呼ぶと手に乗せた種が光り、小さな精霊が現れたのだ。

 いつものように辺りをキョロキョロ見て話し出したのだ。


「舞、まだ帰ってきてないのですね。

 ブラックも一緒ならいいですが。」


「ええ、一緒よ。

 あの・・・あと一つだけお願いしたい事があるの。」


「今度は何ですか?」


 そう言って、苦笑いをしたのだ。

 精霊に自分の思う事を話すと、快く了解してくれたのだ。

 

 私は先程ブロムに、後でリオさんのお見舞いに行く事を告げた。

 アルゴンの件が落ち着いた事もあり、一度魔人の国に帰る事にするので、その前に会いに行ってくると話したのだ。

 三兄弟とは後でリオさんの部屋で落ち合うことにしたのだ。

 リオさんの部屋をノックして入ると、ベッドには横になってはいたものの元気そうな顔があったのだ。


「舞さん、もう行ってしまうのですね。

 色々ありがとうございました。」


「元気そうで良かった。

 また落ち着いたら、遊びにきますね。

 それで、私からプレゼントがあるので受け取ってください。」


 私は前もって精霊にお願いした通り、リオさんの部屋を綺麗な花で飾る事にしたのだ。

 すでに私のポケットに入っていた精霊は私の手のひらに乗るとあっという間に緑色の蔓や草木を出現させ、色とりどりの花が部屋中に咲き乱れたのだ。

 先程までは普通の部屋であったのが、ベッドがある私達のいる所以外は、まるで森の中にいるように草木や花で満たされたのだ。


「すごい、とても綺麗。

 まるで森の中にいるみたい。」


 リオさんはとても喜んではしゃいだのだ。

 ここしばらくはベッドの上でしか過ごせず、外に出る事が出来なかったのだ。

 よく見ると、精霊の大木のある広場と同じ雰囲気であった。

 私も初めて見た時はとても素敵だと思ったのだ。

 

 その時ドアをノックしてブロム達三人が入ってきたのだ。


「これはすごい。

 まるで森の中にいるようですね。」


 ブロムは笑いながら辺りを見回したのだ。


「リオ、良かったね。

 ずっと部屋から出れなかったからね。

 舞さん、本当にありがとう。

 リオも外に出かけた気分になれたね。」


「いえ、私は森の精霊にお願いしただけですから。

 すごいのは精霊ですよ。」


 私の手のひらに乗っていた精霊は得意げな顔をしたのだ。 


「では、皆さんが来たところで最後の仕上げをしましょう。」


 私は精霊にお願いすると、精霊は部屋いっぱいに青紫色の綺麗な花で溢れさせたのだ。


 それを見た1人の人物が叫んだのだ。


「この花は危険な植物ですよ!

 外に出ないと。」


 この部屋の扉は精霊の出した木や蔓で塞がれ、外に出る事が出来ないようになっていた。

 私は声を上げた人物を見て、確信したのだ。

 理由はわからないが、この人が毒を使いリオさんを弱らせた人物に違いないと思ったのだ。

 

「どうしてそう思うのですか?

 綺麗な花じゃないですか?」


 私はその人物の顔をまっすぐ見て話したのだ。


「ああ、以前その花を触った時にかぶれた事があって・・・」


 その人物は居心地悪そうに答えたのだ。


「かぶれたくらいなら、そんな驚かなくても。

 触らなければいいわけですから。

 ・・・でも、本当は知ってるんじゃないですか?

 この花の花粉を吸い込むだけでも害があるという事を。

 だからこそ、こんなに大量にあったら危険だと思ったんじゃないですか?」

 

 周りにいる誰もが、私がこの話をすると焦って私に注目したのだ。


「ああ、安心してください。

 この花は精霊の中で無毒化したものですから、危険はないですよ。

 きっとリオさんに害を与えた者がいれば、焦るだろうなとは思いましたが。」


 その人物は黙って言葉を発しなかった。


「この花、以前も私の部屋に置いてあった事があると思います。

 舞さん、どう言うことかしら?」


 リオさんは不安そうに話したのだ。


「これは私の住んでいる世界にある花なの。

 魔人の国にも似たような花があって、同じように花粉や花、葉、根にいたるまで、猛毒なのよ。

 ある加工をすれば、素晴らしい薬になるものでもあるの。

 治癒能力の高い黒翼人であれば、たまたま摂取しただけなら問題ないと思うの。

 でも、持続的に摂取させられたらどうかしら?

 魔人と違って毒耐性があるわけじゃないわよね?

 だからリオさんに初めて会った時、薬を使って異物として分離できたのだと思うの。

 それに、あなたは他の兄弟と違って、魔人の国にも何回も訪れているでしょう。

 魔人の国に薬草があると言ったことや、若くして王家の女性が亡くなっている話ももしかしたら、あなたが話し出したことじゃないかしら?」


 私は一気に自分の考えを話したのだ。


「魔人の森に侵食していた黒い影が最後に黒翼人の姿になったのを覚えているわ。

 黒翼人の方達も黒い影の存在は知っていたわよね?

 あれは、魔獣達の記憶にあった姿。

 魔獣達は森から草原に移動していて、その草原には沢山のこれと同じような青紫色の花が咲いていたはず。

 そこに頻繁に訪れていたからこそ、魔獣達の記憶に残っていたのだと思うの。」


 私は真っ直ぐにその者を見て話した。


「その黒い影が作った姿はクロル、あなただったわ。

 私の話が違ってたら、違うと言ってほしい。」


 クロルは下を向いたまま何も答えなかった。

 二人の兄達は驚いて彼を見たのだ。

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