第36話 約束の指輪
私は精霊に別れを告げると魔人の城に戻り、みんなに自分の世界に戻る事を告げた。
アクアは子供のようにまだここに居ればいいと騒いだが、ジルコンに嗜められていた。
「アクア、またすぐに来るから待ってて。
魔人にとっては一瞬よ。」
「必ずだぞ。」
そう言いながらとても寂しそうな顔をしたのだ。
私より何十倍も長く生きているのに、見た目と同じで少年の様なアクアだった。
私はブラックと一緒にトンネルを抜け、カク達のいる世界に戻った。
来る時と同じでそこは冬の気候なのだ。
カクが用意してくれた服に着替えてよかったと思った。
ブラックは私の手を掴むと一瞬でカクの家まで移動してくれたのだ。
そして、私はブラックに明日自分の世界に戻る事にすると伝えた。
「そうですか・・・。
明日、また来ます。
私がここに来るまでに勝手に帰ったりしないで下さいね。
約束ですよ。」
ブラックはいつものように、冷静で紳士的な態度ではあったが、アクアのように残念に思ってくれてないように感じたのだ。
「ええ、・・・待ってますね。」
私は少し不満げに答えて、カクのお屋敷の中に入った。
中に入るとカクの嬉しそうな顔を見ることが出来た。
「舞、帰ってきたんだね。
怪我をしたりしてない?」
カクは喜んで抱きついてきたのだ。
ヨクもカクの声に気づいて声をかけてくれたのだ。
「舞、大変だったのう。
魔人の国から手紙が来ていたからある程度はわかっているが、また夜に聞かせておくれ。」
そう言って、まずは休むように促された。
私は二人の顔が見れてホッとしたのだ。
転移に必要な光の鉱石の粉末も十分あると言うことで、やはり明日に元の世界に戻ることに決めたのだ。
ベッドに横になるといつの間にか眠ってしまい、カクに夕食の時間だと呼ばれて目が覚めた。
私は二人に黒翼人の国であった事を話すと、二人とも私をいたわる言葉をかけてくれたのだ。
そして、相変わらず食事は美味しく、以前と同じように遅くまで三人で飲んだり食べたりして楽しく過ごした。
私の心はとても癒されたのだ。
次の日、私はこの世界に到着した時と同じ薄水色の白衣を着て、赤いスーツケースを持ち1階に降りて行った。
外は雪でまだまだ寒いので、カクからもらったフード付きマントを羽織ったのだ。
魔人の世界も黒翼人の世界も暖かかったので、すっかり使うのを忘れていたが、大事にしようと思った。
そして前回と同じ薬草庫から転移することにしたのだ。
ブラックが来てくれると言うので朝から待っていたが、まだ現れる気配がなかった。
もう来ないのかと諦めお屋敷の扉を開けると、そこにはブラックが立っていたのだ。
「舞、少しだけいいですか?」
相変わらず端正な顔立ちの素敵な人で、もうしばらく会えないかと思うと、とても残念でもあり悲しかったのだ。
今回の件で、私達の距離が少し近づいた気がしたが、それは私の思い違いだったのかもしれない。
「もうすぐ転移しようと思います。
ブラック、色々ありがとう。
心配もたくさんさせてしまってごめんなさい。」
「そうですね。
とても心配する事が多かったですね。
だから、これを持って行ってください。
ちょっと作るのに時間がかかって、来るのが遅くなってしまいましたが、間に合ってよかった。」
そう言って私の手を取り、光る素敵な指輪を右手の薬指にはめてくれたのだ。
よく見ると前回貰ったペンダントに似た石が付いていたのだ。
「精霊の種のように私を呼び出す事は出来ませんが、世界が違っても舞をちゃんと守ることができる指輪です。
ペンダントには限界があるのですが、これなら私が存在している限り、舞を守ることが出来る。
だから、ずっと身につけていてほしい。」
ブラックは私を真っ直ぐに見て、真剣な顔で話したのだ。
私はとても嬉しかったのと、これでしばらくブラックに会えないことが悲しくて、涙が止まらなかったのだ。
「舞、泣かないで。
この指輪は約束の指輪と言って、同じ指輪を持つ者を必ず再会させてくれるのですよ。
だから、またすぐにきっと会えますから。」
そう言うと、ブラックは微笑んで右手を私に見せたのだ。
その手には私にくれた指輪と同じ物が光っていたのだ。
ブラックは涙で濡れている私の頬を手で拭うと、優しく抱きしめてくれたのだ。
私はたくさんあった不安やイライラが一気に消えて、寒い雪の中であったが心も身体も温かくなったのだ。
私はカクやヨクそしてブラックが見守る中、薬草庫の中の魔法陣に立ち、金色に光る粉を自分の頭の上に投げた。
私は笑顔でみんなにさよならを告げることが出来たのだ。
そして、絶対にまた会いに来る事を付け加えたのだ。
光の粉末は舞い散ったかと思うと、魔法陣の中心に引き寄せられ、すぐに周りは見えない状態になった。
そして、その光の霧が消えると見慣れた自分の部屋が現れたのだ。
私は今までの事が夢の出来事ではないかと一瞬不安になったが、私の右手には綺麗な指輪が光っていたのだ。
そっと、1階を覗いてみると、父はまだ帰ってないようで都合が良かった。
本店の方は以前と同じように、私の好きな漢方薬の匂いで溢れていた。
私は胸いっぱい吸い込むと、明日からまた頑張ろうと思えたのだ。
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