第13話 嵐の城

 大きな音と振動を感じた時、私はアクアが頭に浮かんだが、ユークレイスやトルマも同じであったようだ。


「ブラック様、もしや・・・。」


 ユークレイスが話を続けようとしたが、ここではその話をする事を避けるよう、目で合図をしたのだ。

 まだ、魔人の仲間が他にいることを知られないようにしたいのだ。


「上の方からですね。

 クロル、アル、ちょっと見てきてください。

 私は大丈夫ですから。」

 

 ブロムという黒翼人がそう言うと、一緒にいた二人は部屋を出て行った。


「このままお待ちください。

 二人に見てきてもらいます。」


 アクアが問題を起こしてないか心配ではあったが、この騒動に紛れて舞を連れ帰る事が出来るなら、かえっていいのかもしれないと思った。

 そして少しすると、何やら部屋の外でバタバタとうるさい音が響いてきたのだ。

 流石にブロムも気になったようで、扉を開けたのだ。

 その途端、強い風が部屋に吹き込んできて、部屋にある色々な物が散乱してしまったのだ。


「なんだ、この嵐のような風は。」


 ブロムは驚いて扉をすぐに閉めたのだ。

 それもそのはず、ここは城の中なのだ。

 吹き抜けはあるが、このような風が起きる場所では無いのだ。

 だが、私にはこの風はスピネルの魔力によるものだと、すぐにわかった。

 いったい二人は何をやっているのだろう。

 舞は無事なのか、ますます心配になったのだ。

 

 そんな中、二人の黒翼人が戻ってきた。

 二人とも険しい顔をしてブロムに報告したのだ。


「兄上、よくわからないのですが、階上にいた兵士達が竜巻のようなものに飛ばされて落下してきたのです。

 風の渦が吹き抜け全体に広がり、色々な物が飛ばされてひどい状況です。」

 

 クロルは早口で伝えた。

 それを聞いて、ユークレイスとトルマも顔を見合わせていたので、スピネルの仕業だと気付いたのだろう。


「兄上、アルゴンが騒ぎを聞きつけ、兵士達が落ちてきた階層に向かったぞ。

 すぐにこちらにも来るはずだ。

 ・・・この方達がここにいるのはまずいんでは?」


 大柄なアルという者は私達をチラッと見て、そう報告したのだ。


「そうですね。

 ここに魔人の方がいるとますますアルゴンの立場が有利になりますね。

 ・・・魔人の王、少しだけこちらに隠れていただけますか?

 このアルゴンという者が舞さんを拘束した者で、私の天敵とも言える者なのです。」


 ブロムはそう言うと、この部屋から外に繋がる隠し通路の様な場所で待機するように言うのだ。

 舞を閉じ込めた者がどんな者かも知りたかったので、私はブロムの言う通り、気配を隠しその者を観察する事にしたのだ。

 ユークレイスとトルマにもそうする様に伝えたのだ。

 私達が指示された場所に移動すると直ぐに、扉が勢いよく開いたのだ。


「ブロム様、ここですか?

 緊急事態ですぞ。」


「ノックもせず無礼では無いか。

 リオはまだ病気で眠っているのだぞ。」


「これはこれは、失礼しました。

 部屋の外はひどい事になっておりますが、ご存知ですか?」


「話は聞いてます。

 先程、クロル達に見に行ってもらいました。

 兵士達は無事ですか?

 落下した様な話を聞きました。

 我らはリオの元にずっといたため何が起きたのか、さっぱり・・・」


「先程拘束させていただいた娘が行方不明となっております。

 またその階層の警備兵が重症なのですよ。

 ブロム様ならご存知かと。」


「何故私が?

 私の意見をよそに、舞さんを拘束したのはアルゴン、あなたでは無いですか?

 どこに閉じ込めたかも私は知らない上、優秀な兵士達の管理はあなたの仕事では無いのですか?

 城の警備の責任者でもありますよね?」


 ブロムがそう言うと、アルゴンと言う偉そうな老人は言葉に詰まったのだ。

 なるほど、軍自体を取り仕切っているのがこの者の様なのだ。

 私は気配を消してやり取りを見ていたが、このアルゴンと言う黒翼人に違和感を感じたのだ。

 魔力を使って気配がバレると問題だったので、その者をそれ以上探ることはしなかったが、ユークレイスやトルマも同じように感じた様だ。


「とにかく、この城の警備は父からあなたに任されていますよね?

 舞さんの行方も責任持って探してください。

 どうであれ、彼女はリオの恩人なのですから。

 蔑ろにするなら、父にかけ合いますよ。」


 ブロムは強い口調でアルゴンに伝えたのだ。


「・・・わかりました。

 ご期待に添える様にいたします。」


 アルゴンは悔しそうな顔をして、部屋を出て行ったのだ。


「魔人の王、ブラック様でしたね。

 申し訳ありません、舞さんが行方不明に・・・。」


 アルゴンが部屋を出ていったので、ブロムは我々を中に入る様に促した。


「ああ、それについては大丈夫です。

 舞が持っているペンダントの気配をさぐれば・・・。

 あれ、おかしい。」


 私は理解できなかった。

 さっきまで舞やアクアの気配がすぐ近くにあったのに、今は全く感じられないのだ。

 魔人の国を出るときと同じで、急に行方がわからなくなったのだ。

 まずい・・・私は狼狽えたのだ。

 それを感じたのか、ユークレイスが小声で話しかけてきたのだ。


「ブラック様、アクア達が舞殿と一緒なのは確かでしょう。

 元の世界か、別の空間に移動したのではないでしょうか?

 急に気配が追えないとすると、その可能性が高いと思いますが。」


 確かにその可能性が高いのだが、この者達に従わず、早く助けに行けば良かったとまた後悔したのだ。

 まあ、アクアとスピネルが付いているなら、大丈夫だろう。

 いや、大丈夫だろうか?

 かなり不安を感じるのだ。


 そして、あのアルゴンという黒翼人。

 私の予想が当たっているなら、そんな簡単にここから去るわけにはいかないと思ったのだ。

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