第12話 最後の種
アクアが扉を破壊してくれて、私は部屋の外に出る事が出来たのだ。
「どうしてここがわかったの?」
「実は、丁度スピネルに魔人の国を案内してもらっている時に、舞が連れ去られるのを見たのだ。
それで心配して二人で追いかけてきたのだぞ。
案の定、閉じ込められていたので、我らが助けに来たのだ。」
アクアは自慢げに話し出したのだ。
「アクア、スピネル、ありがとう。
本当に助かったわ。」
「そうだそう、そうだろう。」
私が褒めると、ますます子供のようにアクアは得意げになったのだ。
スピネルを見ると苦笑いをしていた。
部屋の外に出ると、やはり焦げ臭い匂いと煙が漂っていた。
どうもアクアの仕業のようだが、そこは私を助けるためであり、仕方なかったのだろう。
しかし、先程の大きな音や衝撃により兵士たちが集まって来たのだ。
そして、あっという間に通路両側を塞がれてしまったのだ。
こちらに来るのも時間の問題に。
詳しく今までの経緯を話したかったが、まずはこれ以上騒ぎを大きくせずに何とかここから脱出しなければならなかった。
「こんな者達一吹きすれば、すぐに炎で蹴散らす事が出来るぞ。」
アクアはそう笑いながら話すが、そんな事をしたらみんな大火傷になってしまう。
近くに倒れている巨大な黒翼人を見て思ったのだ。
「ああ、この人ちゃんと生きてるから大丈夫だよ。
僕達魔人と同じで自己回復力が強いみたいだから、心配ないよ。
でも、攻撃してきたのは向こうからなんだよね。
だから仕方なくね。
アクアの力を制限するのが大変だったよ。」
なるほど、スピネルがいて良かった。
アクアの本来の姿は私も見ているけど、巨大なドラゴンなのだ。
この建物自体を破壊するのも、あっという間かも知れない。
どうやってこの場を乗り切ろうかと思案していると、袋の中の最後の種が光ったのだ。
光る種を袋から取り出すと、小さな精霊が種から出てきたのだ。
精霊はまたキョロキョロしながら、話しかけてきたのだ。
「今度はどうしたのですか?」
「今は兵士に囲まれてて・・・。
上手くこの場を逃げる方法あるかしら?」
アクアとスピネルは興味津々で小さな森の精霊を見ていたが、説明は後回しにした。
「うーん、近くに植物があれば力を借りて、森の時と同じように私の中に異空間を作る事はできると思います。
ただ、今の私は種だけなので、その空間は小さく長い時間作る事は出来ないですが。」
辺りを見回すが、拘束部屋が並んでいる階層であるため、植物などという存在は皆無であった。
ただ、この建物の中心にある吹き抜けのところには高い木がそびえていたが、集まってきた兵士達を突破しなければ行く事は出来ないのだ。
「あの木のところに行く事が出来れば良いんだね。
簡単だよ。
・・・ああ、大丈夫。
アクアのように燃やしたりしないから。」
私はスピネルに任せる事にした。
私は精霊を手に乗せたまま、アクアの腕にしがみついたのだ。
そして、スピネルが左手の上に小さな竜巻のような物を作り出すと、吹き抜けの方に集まっている兵士たちに向けて投げたのだ。
手にあった時は小さな竜巻であったが、兵士たちに向かうにつれ、何倍にも大きくなり、翼を持つ兵士たちはその竜巻に巻き込まれ、上下左右色々な場所に飛ばされたのだ。
そして、兵士達が飛ばされた途端、私達は吹き抜けにある木に急いで移動したのだ。
すぐに精霊がその木に入り口を作り、私達は中に取り込まれたのだ。
あっという間に入り口は閉じて、私達が入った後は何事もなかったように、元の高い木がそびえているだけであった。
そこは魔人の国にある森の精霊が作り出した空間と同じ気配であったが、以前よりは狭い場所で精霊も小さいままであった。
「おお、何だかすごいぞ。
一瞬で入り口が出来たと思ったら、ここは異空間であるな。
小さいのにすごいやつであるな。」
そう言いながら、アクアはその空間を眺めていた。
私はこれまでの経緯について説明した。
無理矢理連れてこられたわけではない事。
リオと言う娘の病を見て欲しくて、私を連れてきた事。
その娘が何らかの毒物のような物を摂取させられていた可能性がある事。
そして、連れてきた者ではなく、別の偉そうな人に拘束された事。
アクアは知らないと思うので、森の精霊を紹介して、貰った種も三つ使ってしまったため、もう助けてもらえない事も話した。
「出来れば、この国のリオさんの病の原因を知ってから向こうの世界に戻りたいの。
二人とも協力してくれるかな?」
二人とも面白そうに感じたのだが、頭にブラックの顔が浮かんだのだ。
「舞、でもブラックが心配するだろうから、一度戻った方がいいのじゃ無いかな?」
「え?ブラックも私がこっちに来てること知ってるの?」
「いや、まだ知らないと思うけど。
でも僕達の国に入った事はそのペンダントでわかってるはずだよ。
いずれ、行方がわからなくなったと知ったら、すごい剣幕で探すと思うよ。」
スピネルはそう言うが、そんな風に私を心配するだろうか。
所詮は、ハナさんに似ている私だから優しくするだけなのだ。
違うと言うなら、少しはブラックに心配させたいと思ったのだ。
「まだ知らないのなら、もう少しだけいさせて。
リオさんのことが少しでもわかったら帰るから。
ね、アクア。」
「もう少しいいのではないか?
我らが付いていれば、問題は無いだろう。
それに、その病の話も気になるでないか?」
スピネルは無言でアクアの顔を見ていた。
「・・・いや、興味本位ではないぞ。
その娘が問題なく回復するのを見届けたいと思うだけだぞ。
なあ、舞。」
どう見ても、アクアが興味本位なのはわかったが、この際ブラックがどんな態度をするかも知りたかったので、もう少しここにいる事を、スピネルにお願いしたのだ。
「では、あと少しだよ。
ブラックに怒られるのは嫌だしねー。」
スピネルはそう言いながらも、アクアと同じように興味はあったのだ。
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