第11話 ブラックの苛立ち
ブラック達三人は黒翼人の国の街中を堂々と歩いていた。
「ユークレイスの精神魔法は素晴らしいですね。
私も集中しなければ、この姿を見破ることは出来ないと思いますよ。」
「ブラック様。
もったいないお言葉です。」
私はユークレイスを連れて来てよかったと思った。
彼の魔法のお陰で、我々3人は実際には無いのだが、他の者にはこの国の者と同じように翼があるように見えているのだ。
とにかく舞を連れて帰れれば良いだけなので、無駄な争いはしたく無かったのだ。
街中を歩いて気付いたのだが、この国はどうも貧困に苦しんでいる者が多いようで、活気があるとは言い難かった。
店も閉まっているところが多く、外を歩いている人も多くはなかった。
もちろん、翼があるので飛べるわけだから、歩く必要はないのかもしれないが。
ただ、すれ違う人々からは、何かしらの闇を抱えているような気配を感じたのだ。
それに引きかえ、兵士達は傲慢で偉そうな者が多く、軍人がかなり強い立場の国のようだった。
余計な事ではあるが、国民を大事にしない統治者では、国の発展は難しいように感じたのだ。
しばらく歩くと、この街で一番高い建物の近くまで来ていた。
ここに、舞のペンダントやアクアの気配を感じるのだ。
舞のペンダントの魔力が減ってはいないので、特に危険な目にはあってはいないようなのだ。
そして、この建物の前には兵士が2名立っているだけであった。
しかし、上を見上げると、最上階には数十人の黒翼人の気配を感じたのだ。
「下から行くのが賢明ですね。」
トルマの言う通り、大勢を相手にすると騒ぎが大きくなる為、ここから入ることにしたのだ。
「では、私に任せてください。」
そう言うと、ユークレイスは二人の兵士の元に向かった。
すると、ユークレイスが話した兵士達は静かにその場を去ったのだ。
どうも、交代の時間になったので持ち場に戻るようにと架空の記憶を二人に見せたようなのだ。
流石である。
そして私達は問題なく建物に入ることが出来たのだ。
外装と違い、中は無駄に豪華な作りになっていた。
外の街の貧困状況の一因がここにあるように感じられたのだ。
やはり、この建物はこの国の城のようだった。
中には兵士だけでなく民間人も多く働いているようで、私達が歩いていても、目立つことは無かったのだ。
しかし、舞やアクアの気配が上の方にあったので、そちらに向かおうとした時である。
こっちを見る痛い視線を感じたのだ。
ユークレイスやトルマも同じように感じていたようだ。
その視線の先には、あの黒い影が作った人物と同じ者がいたのだ。
その気配から他の兵士とは違い、ユークレイスの術に簡単にかかる相手ではない事はすぐにわかった。
まずいことに、その者よりも格上と思われる黒翼人がもう二人一緒にこっちを見ていたのだ。
そして、すぐにその中の一人がこちらに歩いてきたのだ。
黒い影の記憶にあった者であれば、我々が異世界から入ってきた者である事に気付いているはず。
ましてや、舞を連れて行った者達である可能性が高いのだ。
「私が・・・」
ユークレイスが向かおうとしたが、私が行く事にしたのだ。
「いえ、私が行きますから。
もう彼らにはバレていますから。
ここで待機していてください。」
私は二人をその場に待たせ、歩いてくる黒翼人の元に一人で向かったのだ。
向こうから歩いてくる黒翼人に特に敵意は感じられなかった。
いや、隠しているだけなのかもしれない。
見た目は穏和な雰囲気を装っているが、正直油断出来ない相手に感じたのだ。
「これはこれは、魔人の王であるお方がこんなところまで足を運んでいただくとは。
光栄ですね。
私はブロムと申します。
なぜこちらにいらっしゃったかも存じております。
とにかく、こちらでお話を。
皆さんもご一緒に。」
このブロムという黒翼人は微笑んで話を続けたが、私は淡々と返事をしたのだ。
「なぜ来たかも分かっているのなら、話が早いです。
舞を返してください。
上にいますよね。
返答次第ではこちらも考えがあります。」
「・・・ええ、その事で問題が。」
ブロムという者は居心地悪そうに答えた。
そして、ある部屋に入るように促したのだ。
私はトルマとユークレイスに目で合図したのだ。
私は警戒してその部屋に入ったのだが、私が想像していた場所とはかけ離れていたのだ。
そこには見知らぬ黒翼人の少女がベッドに横になっていたのだ。
「この方は?」
「私の妹のリオです。
実はこの事で舞さんに来てもらったのです。」
私は舞をこの世界に連れてきた理由をブロムから聞いたのだ。
ところが、この少女が舞の使った薬で良くなったと言うのに、舞はなぜか軟禁状態であると言うのだ。
なんだか納得がいかない話なのだ。
「あなたが関与してないとしても、連れてきた責任がありますよね。
この状態は納得できるものではありません。
この国の事情は私達には関係ありませんので、すぐに舞を連れて帰ります。」
私がそう言った時、大きな音と振動が響いたのだ。
どうも、上の方で爆発か何かが起きたようなのだ。
私の頭にはアクアの顔が浮かんだのだ。
ユークレイスとトルマを見るとため息をついていたのだ。
もう、静かに帰る事は無理だろうと思ったのだ。
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