第10話 アクアの炎

 スピネルとアクアは舞の居場所を見つけたのだが、そこに行くためには、この怪物のような黒翼人を倒さなければならなかった。


 二人よりも何倍も大きな身体で、大きな剣を持った者はこちらの気配に気付き、舞のところにつながる通路を塞ぐように仁王立ちしたのだ。


「体の大きさだけなら、私の方が大きいぞ。

 あんな者、一瞬で消滅出来るぞ。」


 アクアが本来の姿に戻ろうとしたので、急いでスピネルは止めたのだ。


「まあ、待てアクア。

 アクアが本来のドラゴンになってしまったら、この建物は崩壊しちゃうよ。

 そうなっては、舞も危険にさらすことになるし。

 なるべく、事を荒立てないように倒すとしよう。」


「そうだな。 

 ブラックに怒られてしまうからな。」


 アクアがそう言った時、その仁王立ちしている怪物は持っている剣をこちらに向けて一振りしたのだ。

 ちょうどアクアとスピネルの間を風のように衝撃波が通り過ぎ、二人の後ろの壁が崩壊したのだ。

 ただの剣ではなく、衝撃波を放つ魔剣のようであった。

 人間達の国と同じように魔法の武器が存在するようだった。

 

「何者だ。

 この国の者では無いな。」


 そう言って、その怪物のような黒翼人は二人を威嚇したのだ。


「我らが話をしている時に攻撃を仕掛けるなど、なんて姑息な奴だ。

 お前など、燃え尽きるが良い。」


 アクアはそう言ってスピネルが止める間も無く、その怪物に向かって怒りを込めて一吹きしたのだ。

 大量の炎が波のように怪物目掛けて放たれたのだ。

 今のアクアは人型ではあったが、ドラゴンの時と同じように口から炎を吐き出す事が出来た。


「まずい・・・」


 スピネルはアクアの吹き出した炎がなるべく建物に影響が無いように、放出した炎の波を操作しその怪物のみに衝突するようにしたのだ。


 しかし、その怪物は少し後ろにのけぞったが、倒れる事は無かったのだ。

 スピネルの操作で炎の威力が弱くなっていたせいもあるが、どうも魔人と同じようにある程度の結界を作る事が出来るようで、あまりダメージを受けているようには見えなかったのだ。


「なるほど。

 僕達と同じような結界を作る事が出来るらしいね。

 それに、自己回復力も強そうだし。

 遠慮することは無さそうだね。」


「スピネルが私の攻撃を弱めてしまったから、まだ立っているではないか。

 ここは私に任せ、邪魔をするではないぞ。」


「でも、あのままだとこの辺一帯が燃えつきていたよ。

 舞も黒焦げになってたらどうするのさ。」


「・・・ああ、それはまずい。」


 二人がそんなやりとりをしていた時、また怪物は剣を何回か振り下ろしたのだ。

 今度は回転しながら大きな衝撃の波が向かってきたのだ。

 スピネルは左手を怪物に向け、風を操作しその衝撃の波を反対に受け流したのだ。

 しかし戻って行った衝撃波を、怪物の大きな剣が全て吸収してしまったのだ。


「なんであいつは我らが話をしている時に攻撃を仕掛けてくるのだ。

 本当にイライラするな。」


「アクア、今度も思いっきり炎を吹いていいよ。

 後はなんとかするから。」


「本当か?

 わかったぞ。」


 そう言うと、アクアはさっきよりももっと力を込め大きな炎を吹き出したのだ。

 スピネルは大き過ぎるな・・・と思ったが、その炎を丸いドームのようなもので包み込み、怪物に向けて同じ威力のままぶつけたのだ。

 そして炎のドームは怪物を中に閉じ込めたのだ。

 ドームの中では全方向から炎が怪物に向かって行き、あっという間に全身が炎に包まれたのだ。

 さすがに、全方向から炎の攻撃を受けると自己回復が追いつかないようで、唸り声を上げて膝をついたのだ。

 そして、黒翼人の特徴でもある黒い翼も焼け焦げ、パラパラと下に落ちていったのだ。

 ドームの外には炎が漏れることはなく、怪物が倒れるのが分かると、スピネルは炎を消しドームを消失させたのだ。

 この者を死滅させる事が目的では無いので、戦闘不能がわかれば、それ以上の攻撃は必要なかった。

 アクアではその辺の手加減が出来ないだろうから、スピネルは自分がいて良かったと思ったのだ。

 ただ、焼けた嫌な臭いだけは消す事が出来なかったのがスピネルにとっては不快であった。


「スピネルは甘いな。

 その甘さが命取りになるぞ。

 まあ、私がいればいつでも助けてやるがな。

 さあ、舞のところに行くぞ。

 こっちだ。」

 

 アクアは上機嫌に、その倒れた怪物を見下ろしながら駆け出したのだ。


 スピネルが周りに気を配りながら歩くと、この階層はやはり拘束部屋になっているようで、それぞれの部屋には人の気配があった。

 牢屋とまでは言えないが、全てに鍵がかかっており自由に出入り出来る場所では無かったのだ。

 

「あ、ここだぞ。」

「舞、ここにいるのか?」


 嬉しそうにアクアは話しかけたのだ。


「どうしてここが?」


 スピネルもアクアも舞の声が聞こえてホッとしたのだ。

 

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