第14話 アルゴン
アルゴンは、何人かの兵士たちを呼びつけ、早急に城に侵入した者や、消えた娘の捜索など、抑えきれない怒りをぶつけながら、指示を出していた。
どう見ても、何者かが侵入したとしか考えられない。
あの娘がいなくなったと言うことは、何者かが助けに来たのだろう。
警備はいったい何をしていたのだろうか。
娘自体には特に魔力もない普通の人間であるのだ。
昔、人間も住んでいた世界にいたので、ある程度は見ればわかるのだ。
そうなると、助けに来たのはやはり・・・魔人なのだろう。
だが、魔人は人間との付き合いをやめたはず。
いや、以前はそうだったとしか言えないのだが。
今は重体だが、あの階層を警備していた兵に詳しく聞かしかない。
それにしても、本当にあの王子は忌々しい。
数百年かけて今の地位までたどり着いたのだ。
思えば今までが順調過ぎたのかもしれないのだが。
今の王も上手く取り込む事が出来たのに、あの三兄弟だけはなびかなかったのだ。
特に一番上の王子は魔人のように精神が強いのだ。
だから私の力では操ることも不可能だった。
私はこの国に復讐するために今の地位まで上り詰めたのだ。
400年前、この国が私の命よりも大事だったカレンにした仕打ちを忘れる事は無かった。
この国は自分達の手で崩壊する道に進むように私は導いて行きたいのだ。
それで、私の復讐は終わるのだ。
その為にも、あの王子達は邪魔以外の何者でも無いのだ。
私の計画を邪魔する者は何者であっても許すことは出来ないのだ。
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私がこの世界に通じる別の世界にいた時の事だ。
かれこれ、400年以上前になる。
私は絵を描く事が好きで、よく湖に出かけていたのだ。
自然の絵を描く事が好きで、特に水辺の風景を描く事が好きだった。
私は天気が良い日には、湖を色々な方向から描くために何箇所か移動しながら絵に没頭していたのだ。
そんな時、バサバサと大きな羽音をたてて、バシャンと湖の中に何かが落ちたのだ。
この世界には魔獣である怪鳥が空を飛んでいることはあったので、その類かと思ったのだ。
しかしよく見ると、翼はあるがそれ以外は私達と同じような風貌である事がわかった。
私は急いで湖の中に入り、その翼を持つ女性を助けたのだ。
水から引き上げた後も、彼女は苦しそうにしていた。
すると、岩場の方に行って欲しいと訴えるので、連れていったのだ。
そこまで行くと彼女は黒い大きな翼を羽ばたかせ、
頭を下げると何処かに消えていったのだ。
私はその後もその女性の事が頭から離れなかった。
もしかすると湖に行けばまた会えるのではと、私は暇さえあれば湖を訪れたのだ。
それから数ヶ月経っても、その翼の女性とは会うことは出来なかった。
最後に消えた場所に行って落胆していると、バサバサっと大きな羽音が響いたのだ。
見上げると黒い影がこちらに向かって降りて来たのだ。
それは、私がずっと会いたいと思っていた女性だった。
私は驚いて言葉を発することが出来なかったが、その女性は笑いながら話しかけてくれたのだ。
「やっと見つけた。
ずっとあなたを探していたの。」
それから私達は上手く予定を合わせて何回か会うことが出来たのだ。
色々な話をするようになり、彼女が別の世界から来た事を知った。
彼女達の種族にとっては、この世界は身体に合わないようで、半日もすると呼吸が苦しくなり長く滞在することが出来ない事を知った。
初めて会った時も苦しくなり、湖に落ちてしまったと言うのだ。
だから、私が彼女にとっては命の恩人だと言うのだ。
彼女はカレンと言って、とても綺麗な女性であった。
黒い翼も彼女をとても魅力的に見せたのだ。
この世界に通じる場所を知っているのは、彼女の世界の王家の人物のみで、この事は公にされていなかった。
もちろん、他の者が来ても半日ほどでこの世界にはいられない状況になるので、彼女達の種族にとっては、この世界に通じる事にメリットは無かったのだ。
彼女は自分の世界で嫌な事があると、たまに気分転換にこちらの世界に遊びに来ていたようだ。
ただ、昔と違いこの世界に私達が移住して来た事で、今はこちらに来る事は禁止されていると言うのだ。
だがカレンはそんな事は気にせず定期的に遊びに来ていたようだ。
しかし、私は会えても半日だけと言うのが我慢できなくなっていた。
長く彼女に会うためには、彼女の世界に行くしか無いと思ったのだ。
私の魔力は強くは無かった。
しかし、色々な姿に変身する魔法が得意であった。
とは言え、格上の者にはすぐに元の姿がわかってしまうので、自分の世界ではあまり使う事は無かったのだ。
また意志の弱い者であれば、思考誘導の魔法をかけることが出来たが、これまた自分の世界では私より強い者が多いため全く使っても効果がなかったのだ。
だが、彼女の世界でならどうだろう。
この世界では冴えない力ではあったが、別の世界でなら使えるはず。
私はそう確信して、彼女の世界に行く事を決めたのだ。
そう、私は魔人の国を捨てたのだ。
彼女と共に岩場の穴に入って降りていくと、そこは黒翼人の世界であったのだ。
私は実際に飛ぶ事は出来なかったが、翼を備えた自分に姿を変える事は簡単であった。
自分が把握している空間なら瞬時に移動が可能なので、飛ばなくても問題は無かったのだ。
そして、誰もその姿が偽物であると気付くものはいなかったのだ。
私は王室の厨房に上手く潜り込む事が出来たのだ。
人手が足りないと、カレンから聞いていたので、雇ってもらえるように頼み込んだのだ。
そして、姫と使用人との関係ではあったが、毎日のようにカレンを見る事が出来たし、上手く時間を合わせて二人で会えることも多かったので、私はそれで満足だったのだ。
しかし、そんなささやかな幸せは長くは続かなかったのだ。
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