第3話 邂逅一番
森の中、木々に止まった野鳥たちが仲睦まじく体を合わせ、そして和やかに嘴を交わし、キィキィと囀っている。穏やかな時が流れるその空間を、一瞬の風が吹き抜けた。猛烈な速さで木々の間を駆け抜けるシィンであった。その髪はすべて後方に流れ、足を地面に踏み込む度に落ち葉が宙に舞った。
「バジョ!」
ヒーア村に住むバジョは、シィンにとって親友であり兄弟のような存在だった。年齢も近く、本当に小さな頃からずっと一緒だった。そんなバジョに危険が迫っているのかもしれない。そんな考えを断ち切るようにただがむしゃらに足を前へ前へと進めた。その刹那、「シィンだ」と声が聞こえ、よく知った顔とすれ違うのを横目で捉えた。気付いた時にはかなり進んでしまっていたが、急いで地面に手を突き刺してブレーキをかける。辺り一帯にジジジジッと肉がこすれる音が響いた。
「やっぱりシィンだ」
先ほどの声の主たちがこちらに下ってきた。「ノノ!?」とシィンは驚いた顔をする。まさに今向かおうとしているヒーア村に住む別の友達が、目の前にいるのだ。
「どうしたの、そんな急い・・・」
「無事なのか、ノノ!?シホゥとチオも!」
ノノと呼ばれたすらっと背の高い少女の言葉を遮ってシィンが詰め寄る。その勢いに今度はノノたちが目を丸くした。ノノの後ろにいる小さな女の子2人は驚いたのかノノの服を掴んだ。
「・・・?まあ、お昼ご飯を食べてお腹一杯、ちょっと苦しいってところかな~」
少し緊迫した空気を和ませるためか、ノノがお腹をさすりながら冗談めいた返事をしてもシィンの表情は硬いままだった。
「それは良かった」
「ちょっと、冗談だからね、あたしは・・・」
「分かってる。さっき三日月山から赤色の狼煙が上がっているのが見えた」
にこやかだったノノの顔にスッと影が差した。それもそのはず、ヒーア村で敵襲を知らせる狼煙など十年前を最後に上がっていない。それほどの危機が目と鼻の先、自分の住む村で起こっているかもしれない。その事実に身を固くするノノ、そしてそんなノノと、鬼気迫る様子のシィンを見比べて目を白黒する2人の女の子。
「そんな、だってさっきまであたしたち村にいて・・・バジョだって畑仕事を」
「バジョは、村にいるんだな!」
確認するや否やシィンの目が大きく見開かれ血走った。その様子に気圧されノノは「うん」と答えつつ後じさりした。その時、シィンの背後、ヒーア村の方角から「キィヤァ―――!!!」と耳をつんざくような女性の金切声が聞こえた。少女2人が声をそろえて「お母さんの声だ」とつぶやいた。その場の全員が顔面蒼白となる中、シィンだけが踵を返して動き出していた。
「ノノたちは母さんのいる三日月山で隠れているんだッ!」
そう言葉を置き去りにして再びシィンは猛獣のごとき速度で駆け抜けていった。惨劇の待つ、ヒーア村へと。
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