第2話 ヒーア村

 三日月山から少し離れた集落、ヒーア村。

 畑で作業をしている村人がいる。その指先で薄い青色の小さな紙のようなものをつまんでいる。村人が「水撒きするかー」と言い、少しの間目を閉じ、次に目を開けた瞬間、手の中の小さな紙から水が溢れ出た。それは正真正銘の水であり、村人は畑を歩きながらまんべんなく全体に水をかけて回るのだった。

 しばらくの間、水やりを行った後村人が少し息を止めた。すると紙から溢れ出ていた水が徐々に勢いを失い始め、完全に止まった。先ほどまでは紙全体が薄い水色だったが、今は半分が薄い水色、もう半分は白い普通の紙への変わっていた。

「おっちゃん、お疲れー!」

 紙をポケットにしまい、また別の紙を取り出そうとしていたところ、元気な声が聞こえてそちらを向いた。少し先に色白な、しかし健康そのものといった体格の男の子が一人こちらを向いて両手を振っていた。その後ろには女の子が三人ついている。

「おぉ、バジョか、どこかに行くのかい」

「三日月山までー」

「ハッハッハッ、元気だなぁ。気を付けて行ってくるんだぞ」

「ありがとー。おっちゃんは今から草刈りかー?」

「そうだよ、昼までには終わらせないとな」

 その言葉を聞いた、バジョと呼ばれた男の子は後ろの女の子を振り返って「ノノたち、先、シィンのとこいってて」というと畑に向かって駆け出した。

「草刈り手伝うよ、二人でやった方が早いだろ」

「それは助かるなぁ、さすが村長の息子だよ」

 えへへとバジョが照れ、その頭を村人がなでる。二人が農作業を始めるのを確認して、女の子三人は三日月山に向かった。


 時を同じくして、村全体を見渡せる木の上で、じっと村人たちの様子を伺う人影がいた。その冷たい視線は農作業をするバジョにも注がれるのであった。

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