第392話  故意のエンカウント作戦


9月24日(風曜日)


リルを振り回して冒険号で鍛錬する一人の朝。


いつもの通りの静かな一人の時間だ。


今日から腰を据えて拉致った海賊の受け入れ施設を作るのでアルムハウスに滞在中。海賊の街を丸ごと潰してすでに23万人の関係者が衛星都市マリンで選別されている。一回休みを取れと言われたが、休みを取った二日間で熱くなっていた頭が冷えた。


・戦争の原因を取り除きたかった。

・獣の様な海賊たちを見て熱くなった。

・悪党の集まる犯罪都市を許せなかった。


心の赴くままに暴れ過ぎた。


暴れ過ぎたとは思うが残りの者を見逃す訳にいかない。


ぶっちゃけ海賊狩りに先が見えない。えーん。 orz 


海賊産業の末端まで連れて来ると全部で50万人ぐらい移住するかも知んない。恐ろしい数だ、今更ながらに多すぎて捌き切れるのかと心配になっている。


剣を振りながら何度も己の心と問答を繰り返す。


良いか悪いかの二択で問えば間違いなく良い!


まぁあくまで魂の磨き基準と言う誰も知らない俺理論だ。


我欲で本能のまま彷徨う海賊稼業。それは世のどんな国でも死罪になる稼業、10年後の生存率はたかが知れている。俺に知られた事で心機一転、何もかも忘れて今まで体験した事のない生活で平和に生きて行くのも良いと思うのだ。少なくとも人から奪わない、殺さない、陥れる事はない。人に迷惑掛けない人生が待っている。以後は自分の足で人生を踏みしめて生きて行く。


人から奪う刹那の生を謳歌おうかするよりマシだろうと俺は思う。太く短く生きるのも自由だが迷惑かけるなら更生村行きだ!


我田引水で悪いが勝手な俺の都合で奴隷だよ。 悪人を罪に問わないならそのまま放置して俺が知らぬ振りするしかない。だからと言って善人が被害に遭うのを見過ごすなら生き易い世にしようなんて思わない。


元々行き場のない人達を保護する神教国だ。罪人を攫って奴隷にして働かせるために作ってない。俺が勝手に広義に解釈し、どうせ罪を暴いて騎士団に突き出せば死罪だから・・・今すぐに輪廻の列に並ばなきゃならない魂だ。


死罪になる業を背負った魂が永劫の時間を待つなら現世で少しは磨いて帰れば輪廻が早くなるかも知んない。現世の何十年なんて輪廻の順番待ちと比べればカウントされない短い時間だろ?


全てが俺の独断と偏見でさらって奴隷となる悪人たち。そもそもがだ、布教されて思い込んで働く事で磨かれるかどうかも怪しい。


理由に迷いや苦悩や決断が無いのだ。俺に与えられた間違った記憶と布教で教義に沿って喜んで働く悪党達。本当なら海賊で死んでいく奴らが嫁をもらって子供を作って幸せに暮らして魂が磨かれるのか不明だ。


でもあっさり死ぬなら生きてみたらどうなの?という俺の思惑もあるのだ。


俺としては汗をかいて働き、子を成し夫婦で育てる過程や飢餓対策の農耕に参加する事も含めて魂が磨かれるんじゃなかろうかと想像でやってるだけだ。


想像でやってんだよ。(オイ!)


秋本の磨かれた魂は本人の努力だけではなく、人の善きを見ようとする徳で磨かれたと天と地の神が言った。


それも俺に無理やり隷属されて?とそもそもの疑問がある。笑ってしまうが、本人の徳ではなく、むしろ俺のを積んでいるのではないか?と堂々巡りの案件である(笑)


でも、更生村だって罪を憎んで罪人を追いかけまわす神聖国の国民と一緒の布教状態になるんだ。1Kでカップラーメン啜ってる独身が居たら外に引っ張り出して世話を焼く大阪のヒョウ柄並の村だぞ!困っていたら助けるし、世話も焼く。だから徳を積むという思惑だ。


思惑だから思うだけだ、そうなるかは知らない。(オイ!)


何を言ってもだな、答えは出ないのよ。どうせ死ぬならタナウスで磨いて土に還れという俺の我田引水な思惑だ。俺がムカつく奴を〆るリケットマスク理論362話アル様マスク参照だから我儘にも程がある。



・善良な獣人を攫って隷属の首輪で苦役を与えていたリノバールス帝国。


・迷惑を撒き散らす悪人を攫って隷属して喜んで働く仕事を与える俺。


とっても似ている気がする。どうなんだソレ?


端的に言えばそうだが、突き出すと死罪になるから仕方なく誘拐して更生村に入れてるんだが・・・俺のやってる事は宗教国にあるまじき鬼畜の所業だな。


いやしかし! リルを逆袈裟に振りながら反論する。


グッピーは子を産むと小さいの食べちゃうんだよ。だから卵が産まれたら水槽を替えて食べられないようにするの。だから海賊や盗賊は出会った弱い人間を食べちゃうし、出会った騎士団に食べられない様に水槽を替えてあげなくちゃダメなの。


グッピーの飼い方か!バシ!


まぁあの世に行ってから俺が責任取るからいいんだよ。俺が悪かったら責任取って永劫の輪廻の列に並ぶさ。だって悪人居なくなったり飢餓がマシになるなら混沌から救われる人は沢山居るんだもん。


知ってしまった戦争の元凶が海賊なんだから解決に直結する我田引水で良いと思う。副次的な効果だが、更生村の人手が増えたら予定より早くハイブリッド種子が世に渡るのだ。今年二年目となる更生村の実証実験を経てやっと必要最低限の種子が揃う。連れて来た海賊が23万人で更生村の人口が30万人になるなら計画が一層進む筈だ。


更生村と村々言ってるがタナウスの北島(ヘブン島)は北海道以上の面積だ。そこにチマチマと7万人で大規模プランテーション級の畑作地で収穫していた。


最初は贋金シンジケートに始まった更生村。それは盗賊狩りで人口が増えて行き、シズン教とシーズ教の上層部をそれぞれ2万人以上連れて来た事で爆発的に人口が増えた。今年春からの奴隷関係者の誘拐と移住で更生村は7万人が携わる耕作規模だったがここに来て23万人の増加である。


※搾取奴隷は何万人も連れて来たが希望地に逃がしているので行き場のない(故郷の名前も場所も知らない)6000人程が神都郊外の移民村に住むだけだ。


※必要最低限の種子:タナウスの科学で作った世に広めるハイブリッド穀物の種子絶対量。タナウスの収穫量が多いほど世の飢餓は改善される。


時間は既にシズクとスフィアが並んで行う波動螺旋拳の鍛錬になっている。ファーちゃんの艦内放送で朝食に呼ばれたのでアルムハウスに帰った。


・・・・


朝食を取るとクルムさん達4人は山に食材調達に行った。


俺はお茶もそこそこに一人でせっせと更生村を作って2時間。そろそろ休憩かなと思う10時にクランのイコアさんから連絡があった。ポッティさんがクランに来たので管理棟の応接に案内してると言う。だと聞いた。


休憩がてらに話を聞こうと管理棟に跳んだ。


タナウス10時>メルデス8時。


クランマスター室のイコアに挨拶して一緒に応接に入ると、ソファーに座ったポッティさんがメモ書きから目を上げた。


「アル君、久しぶり!」

「はい!開門村の件は何でした?」


「それよ!取材のネタを事前に聞きたかったの。アル君がルーツとホルンにキノコと樹の開門村を作ったんでしょ?」


「あー!あれ?(笑)」

「それそれ!」


エルフの丸薬に酔った御乱交を思い出す。


「噂になってます?」


「ミラン男爵とミウムの屋敷で会う機会があって、ミラン男爵が孫娘にせがまれてキノコの開門村に泊まったと聞いたのよ(笑)」


「え!貴族家が開門村に泊まったの?(笑)」


「すごく可愛い家だそうだわね?」

「えー!ホントに泊ったんだ!(笑)」


紙とペンを出して絵に書く。


「作った人にそんな可愛い開門村を作った切っ掛けと言うか、そこだけに作った意味を知りたくて」


エルフの丸薬のせいとは言えない。


「美味しいキノコが有名だと聞いたので(笑)」

「なるほどねぇ」ペンを走らせる。


「こんな感じに並ぶキノコの家ですよ(笑)」

「アル君、絵心無いわね・・・」


ガーン!


「すいません。図面しか書けないです(笑)」


「キノコと樹の家は机と椅子とベッドが有って、開門村と同じく毛布や敷物は持ち込む感じ?・・・えーと、ザッと書くとこんな感じなの(笑)」


ちゃんと図面を書いて証明した。


「これって梯子が6個ある二階なの?」

「寝る時にキノコの傘に上がる中二階かな」

「仕切りがあるから雑魚寝じゃないのね?」

「天井も低いから個室感はありますよ(笑)」


「良く考えたわねぇ・・・」


「でもリビング側からは丸見えの同じ部屋(笑)」

「寝顔を見られなきゃ大丈夫よ!(笑)」


「元々大森林が近いでしょ? 冒険者PTも泊まれるようにしたの。リビングにもベッドがあるけどそこにPTの荷物を置いて6人は傘で寝るの。7人目が居たらリビングで寝たら良いし、中心がかまどになって煙突があるから夜は酒を飲む夜更かしの仲間を見ながら中二階で寝られるの」


「PTなら拠点になるわね(笑)」


「開門村は基本6人定員だからPT用に無理に作った(笑)」


「こんな作り初めて見たわ(笑)」


「キノコと樹の開門村は特別製ですよ(笑)」


こだわりが半端じゃ無い所が狂ってたなぁ。


「まぁいいわ、行く価値はありそうね?驚くほど先進的な家だそうじゃないの」


「先進的って設備は普通の開門村ですよ」


「デザインがよ!」


「デザイン?あー!ありがとうございます」

あっちのパクリだしな、樹はエルフ村3Fのパクリだ。


「今から大魔法で見に行きます?」

「それじゃすぐに終わるじゃない」


「え?」

「時間を掛けたいのよ(笑)」


「???」


「こっちの事よ(笑)」

「はぁ・・・」


「ミウムから逃げる口実が出来たわ!ありがとう」


「え!逃げる?何から?」

「イヤミから逃げるのよ!(笑)」

「・・・?」


嫌味を言われる相手が気になって視てしまった。


隣の子爵家の次男の所に嫁に行ったポッティさん。その後結婚1年目に起こったオード戦役の緒戦で旦那を無くした。今のフラウ姉様の立場だ。子供が出来る前の事で未亡人になったポッティさんは傷心のままミウムに帰って来たのだ。19歳で結婚して22歳で戻って早12年の今年34歳。


そんなポッティさんにミラン男爵が嫁の伝手で貴族家の後添のちぞいの縁談をミウム伯に持って来ていた。


「あー!縁談断ったの?(笑)」


#「何で知ってるのよ!」


「ミラン男爵とミウム伯とポッティさんが会って、嫌味を言われる話題って縁談かなって(笑)」イヤ、視ている。


#「・・・」

「僕を睨まれても困ります」


#「聞いてよ、今度の相手は53よ!」


「僕のお父様45だから(笑) 従妹いとこですよね?」


相手に孫が3人居るのも視てしまったがイジリたくなる(笑)


#「私四女よ!八人兄妹の末なの!従妹いとこだからってアランと同じに見ないでよ。ポッティお姉ちゃんと言ってくれたのに!」


「・・・ごめんなさい」


余りの剣幕に謝るしかない。本当にその通りなのだ。


「・・・」


「ポッティお姉ちゃんは綺麗だし若いけど・・・」


#「けど何?(出)は戦争のせいよ!」


「それはそうだけど・・・」


#「私は悪くないわ」


「まぁ、今更後妻と言われてもねぇ。分かります」


「そうよ、自由に生きるって決めたの!」


「・・・」


嫁いだセルス子爵家も貴族家として跡取りの居ない死んだ次男の嫁の処遇に困ったらしい。なんせ辺境伯家から来た嫁なのだからし辛いのだ。自分からミウムに帰ると言いだしたポッティさんだ。


イヤミに食いついて変な空気になっちゃった。


「あーあ、アル君みたいの居ないかしら・・・」


「え!」俺が好み!・・・ショタ?


「伯爵家の三男で自由に好きな事してるアル君みたいな貴族がいたら喜んで縁談も受けるのに(笑)」


あ!なるほど。でも言われようが酷い(笑)


「好きな事してって・・・酷い!」


「好きな事してる人の妻なら自由にさせてくれそうじゃない?私は今の生活が気に入ってるし(笑)」


「あぁ、そういう・・・」


「アル君がやってる事は分かるわよ。でもね、20歳近く年上の後妻に収まってお菓子とドレスと噂話じゃ退屈過ぎだわ。アル君みたいに型に収まらない貴族は珍しいのよ(笑)」


実家で無役の騎士としな(苦笑)


「まぁ、イヤミから逃げたいのは分かります(笑) 僕の様な貴族も余り居ないでしょうし・・・あ!」


「?」


「伯爵家の三男で自由な人が一人いました(笑)」


「え!」

「他国の貴族ですが・・・(笑)」


「歳は?歳はいくつなの?」そこかい!

「今年35か6歳と思います」


「他国の貴族もいいじゃなーい!」

「その人初婚ですよ(笑)」


「初婚でもいいわよ!」

「(笑)」イヤ、相手はどうなんだ・・・。


後妻の縁談から逃げたい一心だ(笑)


「会って見ます?」

「会うってお見合い?」急にシナる。


見合いなら然るべき筋の話がいる。


「イヤ、その人武術教練師範ですから辺境伯家令嬢の護衛名目で呼んだら如何です?キノコの家を取材する護衛で釣って引き合わせます。気に入らなかったらバイバイしたら良いんです」


「いいじゃない!圧倒的に有利だわ!」


圧倒的有利!(笑)


まぁ辺境伯家のお姫様は貴族学院でもなけりゃお相手も自分で選べず恋愛にならないしな。舞い込んだ縁談で結婚が決まる。家格もあるしなぁ・・・あ!この人四女だ、家格はあんま関係無いか?


「齢も言わなきゃ、なお有利!(笑)」ズビシ!


合いの手を入れる関西気質。


#「何言ってんの。まだ20代で行けるわよ!」


「確かに!でも相手だってそうですよ」


確かに行けるがダウドさんをめるみたいだ。


「その人はザナーク王国イード伯爵の三男でダウド・イードさん。神教国の武術教練師範の5位叙爵で~」


「顔に凄い傷とかイヤよ?」面食いか!バシ!


ポッティさんには顔に凄い傷の長兄がいる。大迫力のバイキングみたいな人だ。


「大丈夫!普通です(笑)」


「普通なのね?」凄い眼で念を押すなよ!

「普通です!」田舎者っぽいけど・・・。


~~~密談中~~~


ポッティさんの速記がふと止まった。


「神教国なのよね?」

「そうですが?」


「話には聞くけど国を全然知らないのよ」


あ!さすが!普通の人なら流すのに・・・。


「ここ何年か聖教国、神聖国、神教国って良く聞くのよね。国に勢いがあるって事かしら?」


「僕が聖教国関係だから?」


「それ以外によ。王都じゃ神教国の大司教が大群衆の前であっと言う間にS,Aや騎士団詰所を作ったとかニュースが入って来てるのよ」


「へー・・・」まぁ情報誌の編集長だしな。


「あ!大魔法ですぐ連れて来られますけど。まず先方に取材の護衛を受けてもらわないと話が進みませんが・・・取材の予定はどうします?」


「分かったわ。ええと・・・取材旅行には絵師とメイド一人。御者の二人は月間ミウムの記者も兼ねてるの。その五人で出発は二日後の水曜日でいい?」


「あ!そうか。急な話になるんだ」


「それなら三日後の木曜日は?」

「受けてくれるなら二日後で良いと思います」


「なら26日の朝から取材の護衛を依頼するわ(笑)」

「その様に聞いてみます」


・・・・


メルデス9時>タナウス11時。


神教国の教練道場。


道場の中で騎士団が4人、守備隊が2人、ダウドさんに稽古を付けてもらっている。ダウドさんは木剣で打ち合う二人に受けの剣筋を見せて矯正してる。鍛錬の終わった5人は外の導水溝で体を拭いているのでもう上がりなのかも知んない。横目に見ながら道場主のバルガ教練師範に話があると応接に誘った。


コルアーノ王国の辺境伯家令嬢の旅の護衛。身元のしっかりとした腕利きを探している事をバルガ師範に話し伯爵家三男のダウドさんを推したことを伝えると名誉な仕事だとバルガ師範は大層喜んだ。


賛成してくれたので導水溝で水を浴びてるダウドさんを呼んだ。


話を聞いたダウドさんは二十年も縁無きザナーク王国に生まれた己の素性が、確かな血筋と信用されていることを深く感じ入って護衛任務を聞いてきた。


「アル様、一行の人数と期間は?」


「ポッティさんはミウム辺境伯領で情報誌を発行する人で今回は領地取材の旅です。自身は風魔法の使い手で前衛の騎士がいたら盗賊など目じゃないです。お付きがメイドと御者二人、取材先の絵を残す絵師が付いて5名。最短で往復すると十日ほどの護衛になります」


メルデス-ケルン-ミウム-ミラン-ルーツきのこの家ホルン樹の家。貴族馬車なら行きに五日、帰りに五日だ。26日からなら10月5日に帰ってくる・・・10月5日は晩にメルデスに着くから6日の朝には連絡が来るな。


ダウドが考えた後、ふとバルガに目をやった。


「道場は儂がおる。公務じゃ、行ってこい」

「先生、ありがとうございます」


「アル様、光栄なお話です。お受けいたします」

「神教国の貴族証や鎧も受け取ってます?」

「受け取ってます。余りに軽く驚きました(笑)」


「魔導大国だから重量軽減魔法が掛かってるの」


ドワーフ達が作った各種の鎧(ミスリル布:アルPTの服みたいな鎧のデザイン違い)をガンズ親方が見定め弟子が量産している。と言ってもまだ30も出来て無い。30でもタナウスの騎士団(元チリウ近衛騎士団:宰相や大臣を警護していた近衛)は30人居ないから余ってる(笑) 守備隊には必要無いので支給していない。そんな急所部分しかプレートの付いていない最新のミスリル鎧は早々無い。


「ミスリル鎧あるなら大丈夫ですね。馬は神教国が都合を付けますのでダウドさんは騎馬で同道して下さい。宿泊は貴族宿で野営はしないと思います」


「承知しました」


「私用の護衛なので旅装束もご自由にお任せします。そうだ!魔法袋はお二人の叙爵祝いに神教国からたまわりましょう」


「「えー!」」


魔法袋と聞いて師弟が目を剥いた。バルガもダウドも親が魔法袋を持っていたので価値を知る。


「こんな感じのは如何ですか?」

背負い、巾着、肩掛け、手提げと種類を出した。


「よろしいのです?」

「儂も?」


「叙爵祝いです。よろしいですとも(笑)」

「それではこれを!」

「儂は父が持っていた形にしよう(笑)」


バルガ師匠は貴族らしく手提げ(執事に持たせる)を選んだ。ダウドさんはそのまま巾着タイプを手にした。やっぱタスキで背に回せるから戦うに便利だしな。現役っぽくて良い!


「神教国の家臣団に相応しいですよ(笑)」


「身に余る光栄!」

「ありがたき幸せ!」

「認証はこうやりますからね?」

自分のバッグで実演する。


「今回の旅費はお付きが全部払うでしょうが現地通貨は別に渡します。二日後、9月26日水曜日の8時に道場前に迎えに来ますね」


「承知しました」


「辺境伯家の護衛とはとても名誉な仕事を頂いた。流浪の剣士にその様な誉れ高い任務が頂けようとは夢にも思わなかった。ダウドよ良いか?己の磨いた剣で世を助け大きく駆けよ。お主は目の見えぬ師に良く尽くしてくれた、以後はその剣を以って自身の人生を歩め、良いな?」


「はい、先生!」


ダウドさんは輝く笑顔で返事した。


20年バルガに付き従ったダウドはすでに免状持ちだ。

(弟子を持つ事を許された技量の者)



・・・・


道場からテクテク歩いてアルムハウスに戻ったら12時半。4人が帰って来てた。


厨房でインベントリから肉や果物を出すアルムさん。


「みんな、お帰り~。良いものあった?(笑)」

言いながら厨房の丸椅子に座る。


「あった?じゃないわよ。アル君は一人でふらふら何やってるのよ?旅行に行ったと思ったらシズクとスフィアを連れ帰ってくるし。まさか一人で楽しんでるんじゃないでしょうね?」


「もう!言わないで!ホント忙しいんだから」


「アルム!言うでない。アルは啓示を受ければ動く身よ。アル、今から豚を焼くから待ってなさい」


「うん!ありがとう」

(白状したら?(笑)) 


#しつこい奴だ!


#「何言ってんのよ、朝から晩まで働いてるのに!」


「今座ってるよね?(笑)」


#テメェ・・・冗談に聞こえない。


「昼から一緒に来る?」

「行く!」

「(笑)」噴いた、この人変わんないわ。


「クルムさん、昼からアルムさん借りていい?」

「お手伝いなら私もするわよ?」


「クルムさんにはファーちゃんに薬術と錬金術教えてもらってるし・・・頼めないよ」


「薬術士や錬金術士として恥ずかしく無いぐらいはもう終わったわよ?虫毒の薬も千差万別でそっちはまだ時間は掛かるけど・・・」


「え!もう?」


「三賢者も教えてるのよ? 三国の薬術と錬金術をそれぞれが披露するから私まで勉強してるわよ(笑)」


「あはは!(笑)」


「アルの話は無医村の子に治癒術を教えて冒険者ギルドでLv2にして村に返す事でしょ?急いでるの?」


「・・・急いでない、早い方が良いけど・・・」


「虫毒用の薬草が無いと簡単に作れないのよ、効能もすぐに抜けちゃうから。毒を見て作る位なのよ?」


薬術は薬草の効能で治療するから膨大な知識が要るな。


「はい!ありがとう。充分です(笑)」


「だから手伝うわよ、言って見なさい?(笑)」


「簡単な事なんだけどお願いしていい?」

「何するの?」


「アルムさんの見張り!・・・じゃ勿体ないから三人なら3倍早いな。そうしよう!シズクとスフィア連れて五人で村作りするからねー!」


・・・・


更生村で働く人たちの村を実際に見せた。


「この一面の草原に村セットを置いて村を作るの。コツは村長の家を中心に穀物倉庫や皆が集う広場と水場を置くと村の中心地と分かりやすくなるの。中心地を作ったら道がこれぐらいで村人の家を周りにポコポコ置いて行ってくれる?」


「好きに置いていいの?」


「好きに置いていいの。広場の穀物倉庫はメイド隊が行商の馬車で転移して来るから大きめの納屋を置いてあげて。小さい納屋は好きな所で良いよ、農具庫や馬屋に使うからね」


「家の大きさはどうするのよ?」

「家族か独身が大きさに合わせて生活するから大丈夫」

「さっきの村は学校があったよね?」


「あ!ごめん、あれ寺子屋って言って家族連れが多い村には学校があるの。メイドさんが字や算術を教えてるのよ。今度の村は海賊ばっかだから村に学校要らない。村の近くに小さな町が出来るから、子供が揃ったら学校はそっちに作るからいいよ」


「海賊ばっかなのー?(笑)」

「なるほどねぇ(笑)」

「海賊だって子供いるかもよ?(笑)」

「学校はホント大丈夫だって!」視てるから。


女は薬飲んでるし、生まれても生存率が低くて子供があんまいないとは言い辛い。


「水回りはこんな感じ。あ!池とか農業用水はメイド隊が作るから魔力が沢山いる事はしなくていいからね」


6mの直径で10cmの深さの水受けを作って中心に円柱錐のテーブルを作る。給水紋を中心に作って溝を12方向に切る。水受けには踏み石を作って中心に行けるように作って行く。


「すごい水場じゃない!」

「農具洗いも水浴びも馬も飲める水場なの(笑)」

「水路で子供の水浴びよりいいわね」

「グレゴリ村よりだいぶ進んだ水場よね(笑)」

「そうそう、進歩してるの(笑)」

「今までの村と同じ規模でいいのかしら?」

「うん、80軒~100軒で好きに置いて」


「家の中身がそれぞれ違うんだけど?」


「あ!中身の不要な物はメイド隊が集めて回るから、家の中の調度はそのままにしておいて」


「アルム村を作ってもいい?」

「好きに作っていいよ」

「やったー!」


「この方向見えなくなるまでアルム領ね(笑)」

「(笑)」


「あ!村の道は人用じゃなくて荷馬車用で広めにしてくれる? 収穫の時に納屋までメイド隊が荷馬車で運ぶからね、楽にすれ違えるくらいは欲しいの」


「わかったー!」

「誰が一番良い村を作るか競争ね(笑)」


「アルム村が一番よ!」

「一番住みやすい村ね?住み易くしてね?」


「公園とか庭も要るよね?」


「村人がお祭りする広場は最初の村にあったでしょ?あんな感じで良いよ」


「アル、小川も引かなくていいのよね?」

「それはメイド隊が農地に沿って作るからいいの」


「クルム村はそっち方向お願い、アルム領は丘の上の木から向こうをずっとやっていって。足りなくなったら倉庫から村セットを取って来てね」


「わかったー!」

「15時に休憩。この広場に集合ね(笑)」


言ったときには二人は消えていた。

(シズクとスフィアは道路と水場を作ってくれる?)

(作ります!)


俺がポコポコ家を置くと、この辺に井戸か?と思うだけでシズクが水場を作る。道幅はこれぐらいと思うだけでスフィアが道を作る。家の敷地を分ける塀が60cm程の高さで出来て行く。


・・・って楽してちゃダメだな。土魔法の構造物も数が多いと流石のエルフでも魔力が心配だ。


(シズクはアルムさん、スフィアはクルムさんに付いて同じ様に水場と道路や塀を作ってくれる?)


(わかりました)

(はい)


・・・・


休憩時間にアルム村を視て驚いた。滅んだマジス王国とカムラン帝国の建築様式を分けた上に似た家で村を作ってた。


インベントリで村セットが分別されるのを利用してた。俺は神都と同じく二国の建物を偏りなく置いてたけど国で揃えたら調が出た。


なんか負けた気分。


クルム村は見本の村を忠実に再現してた。自然に動線効率の良い建て方や道になって、村の配置が既製品化してる事に気付いてる。


「スフィアは凄いわね!私の思った通りに水場と道を作ってくれるわ」


「シズクだって同じよ!(笑)」


二人が褒められて俺が嬉しい。糧は俺から、イメージは姉妹から具現化するから精霊の本領発揮だ。本来とは異なる精霊魔法になっているが姉妹が魔力切れにならなくて都合が良い。


俺は二人が道に揃えて家を置いて行くのに驚いた。


「この家の並びは相当練習したよね?」


「鹿とリスが出来たら何でもできるわよ(笑)」

「棒の上に出してたのよ!分かってる?」


「あ!そうだった。棒の上だった!(笑)」


「ベント様は練習まで研究してるわよ(笑)」

イヤ、練習はあんたらだけだよ。


ALL「(笑)」


「アル、収穫祭は10月13日から14日よ。街区の準備が6日の土曜日からだから明日(9月25日)から10月5日まで村作りを手伝えるわよ」


「え!いいの?」

「アルムも手伝うわよ!」


「ホントありがとう!これから更生村に40万人ぐらいは来そうなの。1軒に4人換算なら10万軒も置かなくちゃならないのよ」


本当は50万人以上居そうだが目安なので報告しない。


「え!40万人?」

「何よ!それ!」



「世界にそれだけ海賊やが多いの」

「無理して集めなくていいんじゃない?」


ドテ! 危な〜っ! もうちょっとでコケるとこやった。


「今回海賊の被害が多くて、それが元で戦争になってる国が有ったのよ、急いで減らさないとダメなのよ」


「数を聞いたら急に疲れたわね(笑)」

「アルムは面白いから手伝う!」


「二人共シズクとスフィアと一緒にやってね。僕は色んな用事で抜けてもすぐ村作りに来るからお願いします」


「用事って何よ?」

「そっちは手伝わなくて大丈夫なの?」


「獣人族に迫害されてる人族を連れて来るから移民村の整備もしないとダメなの。そっちは1800人ぐらい連れてくる予定。それと海賊が拠点にしてた荒廃した街で真面目に働いていた人も移民して来るからね。あとリズの誕生日の関係で明日の25日の夕方と、明後日の26日の晩はナレスに送り迎えの予定があるの」


忌み子の里が消える件が子爵領全域に通達されてから神教国に連絡が来る。それから忌み子たちを迎えに行こうと思っている。


「ホントに働いてたの?」

#「おまー!」

本物だ!素のアルムだ、間違いない!


「わかったわ。こっちは任せて!」

「ありがとう!」


早急の課題だった更生村作りに援軍が現れた。わーい。


・・・・



悪ノリで決まった故意のエンカウント作戦。


夜の交感会話で王子様が乗るのに相応しい(鹵獲した中で立派な)馬の用意をセカちゃんに頼んだ。俺を観測して学ぶだけあってノリ良く色々と提案して来た。


セカちゃんに提案されても俺は行かないから故意の作戦なんぞ何も出来ない。旅費や馬のおやつを決めるぐらいなもんだ(笑)


今回は師匠とリリーさんの時とは違う。二人共出会ってもいなければ顔も知らない間柄だ、家格しか合ってない(笑) もし気に入ったなら、ダウドさんにアピールするのはポッティさんの役だ。そんなモンは俺は感知しない、二人の話だ。人のそういうのを考えるとヤキモキするから知らん。


ちなみにダウドさんには護衛任務の完遂しか頭に無い。神教国に庇護された大恩を己の剣でどの様に返すのか師弟共々頭が一杯だ。視て余りにも真っ直ぐな武人だったので嬉しくて魔法袋を奢ったのだ。俺も感激すると流されやすい奴だ。






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