第390話  上位種と変異種



9月21日の午後。


カナディオ王国、ラマス子爵領、マウロ男爵領都、14時。


ピン耳族長のマウロ男爵家に招かれた。妙に素直に平伏したと思ったら、敵意を持った者全てが魅了状態になっていたのよ。皇太子の印籠のせいとか思ってたわ。


祈祷お婆々同様、格上のピン耳が12人集まって和気あいあいとお茶とお菓子を頂いた。どう見ても普通のうさぎ獣人より格上のステータスを穴の開くほど視せてもらった。


ステータスの考察も色々とあったが、否定派を何とかする事でラマス子爵へのお礼が出来た訳だ。海賊退治の最中でもあり、早々にアルは海賊退治に戻ろうとしたらお爺様からの連絡。


マウロを辞してからお爺様と連絡を取ると、冬を前にした(他領の)開門村に魔法陣を刻む依頼だった。


カナディオ、マウロ男爵領15時>コルアーノ王国18時。



・・・・


後日


10月の収穫祭(豊年祭:亜熱帯から亜寒帯に属する上に南半球で季節が逆なのでタナウスは本来なら春)が過ぎて、忌み子の里が無くなる旨の周知が終わった連絡が子爵から来て神教国に里の全てを移した。忌み子の移住について色々なを労したが、以後忌み子が生まれた場合は相互通信機でタナウスに連絡するようにラマス子爵に約束して来た。(隷属したともいう)


・・・・


後日の話はさておいて。


お爺様の連絡の通りに他領の作ったバンガローの様な開門村に暖房紋と小さな街路灯を付けながら俺はコボルさんに聞いた言葉を思い出していた。



色々なキメラ生物を作っても絶滅し、唯一星の覇者になる資質(タナウスを理解する資質)を垣間見た人型種も滅んでしまった事。その人型種を生んだ何世代か前のサルたちはいつしか魔素具現化因子が薄れて潜み、二度と進化の過程でその資質を出さなくなった事実。



うさぎの国を色々視ておぼろげながら分かった。大きなコロニーになると森の魔獣と生活圏が重なったり、食料不足により奥地への進出を余儀なくされる獣人。その様な状況になると自然に部族が割れて新たな旅に出る。否定派に転じていたのも歴史有る種族のプライドもあるだろうが、群れを割る行為は種族の防衛本能(危険を分割して生き残る種の本能)だったかも知れないと思ったのだ。


この世にリスクヘッジなる言葉は無いが、まさしく生き残るための株分けを獣人(エルフも)は現にしている。


うさぎ獣人も一定数増えると特異能力を持つ者がポツポツ現れる。祈祷お婆々の恩寵は未来眼に似たLv8という生まれた時から先天性に持つ恩寵だった。その事象について祈祷すると好転する吉日が分かる。今回は使節団を襲う祈祷した結果、アルを引き寄せていた。


この襲撃の事実が明るみに出たら国どころか部族内でさえただでは済まない、反省しても死んだ者は帰らない。領内で使節団は襲われているのだ、部族紛争になってもおかしくない。そう考えるとうさぎ領の未来はどう転んだか分からないのだ。まさしくを吉日に選んでいた。


獣人は人に近しい声帯で話し、ステータスボードも発現する。そして獣人として個体数が増えればお婆々の様な特異能力を持つ者も現れる。


同じ様に・・・遺伝的欠陥では無く血の濃さと種族数により生まれ、呪われた忌み子と言われる人が生まれ出ていた。うさぎ獣人の基礎身体数値を持ちながらまるっきり人の姿で生まれ出る呪われた子。毎年各男爵領から2~3名が生まれて来るような確率だ。それは異様な確率だった。


忌み子。


それを分けるのは


そう、獣人には人間が退化した尾てい骨から尻尾が生えているのだ。毛のある無しは基本獣人には関係ない。毛の少ないのもいれば二足歩行の動物みたいなのもいる。しかし尻尾は別だった。尻尾の無い忌み子は姿をしていた。


隔離されて子爵領の深き森の奥に作られた忌み子の里は1800人を超える。産んだ親は隠れ里の長老に子を預ける長旅に出る。(中には子と一緒に姿を消す親も居る。物心付き人として生きようと他領に消える者も居た)長老に預けられ孤児として成長すると大多数は里で結婚して子も産んでいた。忌み子の森の住人は子爵領では差別の対象だった。


うさぎ獣人の中には耳が短く地中の穴を住居にする体の小さな短耳種もいた。穴の上に家がある。寝る時は勿論、子を産む時、子うさぎの授乳は安心できる穴の中。エルフは森であるように短耳種はうさぎの本能に近い種族なのかもしんない。


短耳種の忌み子だったお母さんは寝床で垂れ耳の子うさぎを育てていた。お母さんの姿形は尻尾のない人間そのまま。生まれ出て来たのは垂れ耳を持つ可愛い子うさぎの三つ子だった。


お母さんもお父さんも人の形だから捨てた親以外何処の種族か分かんない。結婚して子供が生まれたら耳が中途半端な長さの垂れ耳が生まれた。家の中にクレーターの様なすり鉢形状に穴が掘ってある。そこに毛布が敷かれて三つ子が寝かされている。二人が尻尾のない完全人間の忌み子と言われる赤ちゃん、一人がすこし短め、尻尾もある垂れ耳の赤ちゃんだった。


人でありながらその様な巣穴とも違う、すり鉢状の寝床を作って安心するのはまさしく短耳族の血だ。忌み子と差別するうさぎ獣人達をクソバカ野郎とも怒れなかった。異形の者が生まれたら人間でもそうなってしまうと思う。



俺は今やっと気付いたのだ。


1億2000万年前。コボルさんが実験した色々なキメラ種族は滅んだように観測されたかもしれない。しかし姿かたちが全く違う種族になっていたらどうだ?


例えば、別種と判定される程の変異種だったらどうだ?例えば全然違う姿かたちだったらどうだ?


モンスターの変異種は赤青黒などと略して呼ばれるが、赤、青、黒一色ではない。オークの場合はうろこ状の皮をまとうがその鱗の色が変異種は違うのだ。赤いラインが浮き出た者、青い鱗があでやかな者、輝くような黒い縁取りの鱗を持つ者。変異種と言うだけで最初から普通のオークや上位種とは違う強烈なポテンシャルを持つ変異種。


その種族で生まれた、姿かたちの違う変異種とも言えるは各種族で滅ばずに生きていたんじゃないのか?姿かたちの違う変異種がキメラの資質・・・生物の資質を繋いでいたんじゃないのか?


2000万年の思考錯誤の末、1億年前にはコボルさん達は諦めた。


でも繋いでいたんだよ!見た目は全く別の種族の忌み子たちが原種の迫害に耐えながら。原初の森では開拓などされず大きな部族は大いなる森に育まれてドンドン繁栄した筈だ。そしてしきい値を超えて来ると忌み子達が生まれ出した。滅ばずに繋いだ可能性は否定できない・・・。


不意に考えていた確率論による魔眼の考察が浮かんだ。種族個体にも因ると思うが仮にロード級の出現確率が0.1%であれば1000匹に一匹のロード。ロードが生まれたら女王蜂の様に群れを統率する個体として7000匹でも1匹という推論も成り立つ。


ギルドの文献だと個体数が増えて上位個体が生まれると言う。上位個体数が増えて上位個体同士の子はさらに上の上位個体となる実例が示されていた。多くなると上位個体そのもののコロニーになる魔獣さえいると言う。


それは言い換えれば種族のコロニーが大きくなればなるほど進化は加速するとギルドの文献は言っている。忌み子(変異種)同士で夫婦になって生まれ出た三つ子は明確に変異種の確率論から外れた存在だ。変異種同士の掛け合わせで変異種のコロニーとして増えて行く忌み子の里。


ギルドの文献通りと言える。


変異種は突然現れると言う。それは言い換えれば個体数が増えると赤や青や黒が生まれる。この忌み子と一緒じゃないのか? 俺はマルテン領で100匹程のゴブリンの巣で赤の変異種を一匹見ている。コロニーの数ではなく、確率的な出現率なら100匹だって充分にあり得る推論だ。二匹の子一匹だって変異種が生まれる確率的には0ではない。


確率的に生まれるとしたら当然個体数が多ければ生まれる可能性も高くなる。俺の知る獣人村は多くて1000名だった。この男爵領にはうさぎ獣人が2万も住んでいる。子爵領全体(領全体が森)のうさぎ獣人の数は14万だ。それは魔獣のコロニーと同じ様に祈祷お婆々の様な上位種っぽい格上の特殊能力者や忌み子の様な形状変異種を生み出す土壌として確率的には高い出現率となるはずだ。


上位種と変異種。


どちらも通常体を上回る能力。単なる上位種という形式では無くならどうだ?お婆々達のスペックの説明が付く気がする。それは生まれながらにホブゴブリンだったり、生まれながらにメイジだったり、身体特性が高かったり、恩寵の吉夢だったりするのではないかと思う。


アルは重大なキーに気が付いた。


当時のコボルさんならどう考えるかな?


・・・・


カナディオ15時>コルアーノ王国18時。


俺は冬を前に他領が作った平屋の板塀で作った開門村に暖房紋と街路灯を付ける要望をこなしてきた。ナッソ子爵領やマルベリス伯爵領はそのまま平屋の掘っ立て小屋だから窓も扉も井戸やトイレも完備していた、扉だって最近ロスレーンで付け始めた所なのに(笑)


感心するのが流石に王都にあるS.Aを街より先に開門村に付けようとする領主はいない。お爺様によるとサルーテに駐在する執政官からS.Aと銀行の問い合わせは多いようだが、そもそもS.Aは王都に出来てからまだ5か月だ。やっと王都の噂が国内領地に巡った頃なので注文も取っていない。来年の謁見の時に注文殺到は覚悟しないとな(笑) 


魔法陣を刻み終わると20時過ぎだった。


コルアーノ20時>ラウト15時。


鼻歌でラウトのリフォームハウスに帰ると時差でラウトは15時なのよ(笑) だいぶ時間があったのでコルアーノで考えた忌み子の考察をコアさんに見てもらった。


「よく考えられております」

「そんな可能性を感じたの」


「決めつけるのは良くはありませんが、進化や突然変異は子孫を残して生き残ってこそ進化であり変異が肯定されます。潜在因子の開花と考えられても、その後滅べば単なる変異亜種。ステータスが如何に高かろうが、現有環境への不適合という虚弱形質の遺伝となります」


「あ!そうか。ステータスだけじゃ無いのか。あらゆる外敵(微生物も含めて)から勝ち残る形質が上位種や変異種の進化の道なんだ」


「アル様は口に出しておられましたが?」

「え、何の事?」


「コボル様の実験ではまで進化し、その後絶滅した魔法人種を再現させようとサルの形質を変えて何世代も実験した影響で魔素具現化因子が影を潜めたお話です。因子は潜んでしまいましたが、逆にそのせいで中央大陸は魔人災害(魔神災害)と呼ばれる大陸を巻き込む災厄は起こらなかったとご説明されておりましたが?」


「あ!そうか!」


「そうでございます、コアもアル様のお言葉によって当時の認識を改めております。具現化因子が開花しない事は絶滅した種の本能的危機感から辿繁栄したのではないかという推論も立つのです」


「そうか・・・そうとも言えるのか」


「あの時に具現化因子が発現しなくなったのはサルから枝分かれして繁栄した人種のみです。具現化因子を取り戻す試みはサルでしか行われておりません。取り戻す実験が過去に行われたとしても、あの中央大陸魔素を利用するステータスボードが無くなるとは推論が短絡的過ぎるのです。当時の人種はサテータスボードが無くても、呪文が無くても具現化しておりました。サルの魔素具現化因子の不活性化はあくまで生物の種が選んだ切っ掛けであって、その後生物が辿った種族を越えた掛け合わせによって中央大陸の全ての種が本能的に因子開花を必要としない道を選んだとも考えられるのです」


「そういや最初はサルの具現化因子の話だったな」


もう俺は何が何やら分からなくなった。


「この大陸のうさぎ獣人からも人は生まれております。この星の人種もそれぞれのサルと掛け合わされたキメラ種族から派生した人種なのかもしれません。コボル様の関わった中央大陸がサルの不活性因子を広めて獣人を巻き込み派生していったと考えると、種全体が不活性に向けて舵を切ったと考える方が良いのかもしれません」


そう言えば・・・6つの大陸だったんだもんなぁ。サル以外は不活性してないなら、獣人が他の大陸で繁栄して元の人の形質を継ぐ形で生まれるなら忌み子の話も分かる。イヤ、元々他の大陸のサルは大丈夫だったんだよな。そうしたらサルの進化種だし、何とでも言えちゃう(笑)


「今回の場合は、生物が多様に枝分かれしていく進化の過程を垣間見ただけです。ステータス上昇イコール種の繁栄を担う者とは言えません。環境に適応して後退しても進化なのです。但し、1億2千年前の絶滅種が種族の持つ形質因子を形を変えて繋いだと言う説は可能性の高い考察と思われます。群体の増加による上位種の誕生と特定因子の発現確率での変異種の誕生は、環境と遺伝因子の二方向から種の進化を促している推論とすれば現状確認している情報上、信憑性に異論はございません」


「でもさぁ、どう考えても上位種や変異種の方が勝ち残るし、覇者となるのに優位だと思うけどなぁ」


「アル様、地球で恐竜が滅びた様に覇者が強い訳ではありません。生き残った者が覇者なのです。通常種は繁殖力も強く生き残る意味においては一番の覇者に近い者とも考えられるのです。コボルも申しました、寿命の長さと森地形で天敵を振り切るサルも、地中深く安定の気温に住み、氷河期を越えるサルも居るのです」


あ!そうだわ、そう言ってた。間違いない。


「あぁ、ごめん!分かってるのに!どうしてもカードバトル的な基礎数値や特異能力や恩寵Lvで強さを比較しちゃう。数値が高ければそれが覇者だと思っちゃうのは直さないとダメだね(笑)」


「以前アル様が己のLvを知ろうとした様に?(笑)」


「あはは、そうそう!ゲームやラノベし過ぎてたのよ。今は分かるよ、その人が持つでさえ人生にとっては生き抜く強さとなり得る事。そんな物にLvなんて存在しない。山の高さと海の広さにLv付けてどっちが強いと言っている様なもんだよ(笑)」


「アル様、お上手!(笑)」


「あの時さぁ、ステータスボードに生物的な相対強さの指標(Lv)を求めて文字化けしたのは、存在しない物を望んだからだと思うの」


「真実は推し量れませんがコアもそう思います」



注:過去に種族の進化を経験するタナウス人。それは星の半数が一斉に進化による形質変化を起こした。牙を生やした荒々しい性格の種族と論理的行動を取る精神的な進化を遂げた二種類のタナウス人。旧タナウス人は二つの形質に進化し、最終的に精神的進化を果たしたコボルさんの祖先は生き残って続いた。



交感会話は続く。


「アル様、クランのPTリーダーより要望が出てます」


「ん?何だった?」


「冬に向けてダンジョンの講習をしてもらいたいとの要望です。北東門から足を延ばせる距離では冬の獲物が枯渇気味になりそうなのを肌で感じています。冬が近付く事もありますが、ダンジョンの狩りもメンバーの経験として必要かと思います」


「うーん、そうだねぇ。こんなに人数多くなって各教官の固く稼ぐ方法を覚え終わるとライバルは増えるしなぁ。そもそもうちのクランは食えない冒険者の救済が目的で、メンバーの増収増益は目指して無いからなぁ・・・食えるならクラン出て行けって言うのもなぁ・・・うーん」


コアさんの言葉を元に並列思考で順を追って考察して行く。


やっぱ食えるようになったら収入や生活の向上を望むよなぁ。禁止じゃ無いから行く奴は行くだろうしなぁ。キッチリ教えた方が間違いはないのかなぁ。今年は4回目の冬かぁ、メンバーの数、要望の多様化、イコアの予測。


そもそもが冒険者は自己責任・・・危機を脱する経験と仲間を失う経験、それも磨きなんだよなぁ・・・。


↑交換会話中でコアに全部読まれてます。


「そうだね、ダンジョンは無慈悲だけど過保護もダメだと思う。教える事だけは教えて自己責任を己の肌で知らないとダメだよね。キッチリ教えて己の意思で散って行くならそれも冒険者の人生だ(笑)」


「最悪の想定から始まる考察に齟齬はありません」


「わかった、ダンジョンを解禁します。希望するPT・・・ソロは身体強化必須の自己責任で連れて行って。管理棟は新たに連絡や遭難救出のメイドを6人常駐させてくれる? イコアさんを除くPT6名はダンジョンの教官で研修プログラムは自由にしていいからね。各PTやソロの技量に合わせてダンジョンの特性と注意点を教えた後に討伐に最適な連携まで教えてくれたらいいよ」


「かしこまりました」


「あ!それとね、ダンジョン内を観測してるだろうけど危機に陥ったPTやソロは助けなくて良いからね? 元々がコボルさんが進化を促すために作ったダンジョンだから個々のメンバーがリスクを背負って散るなら手を出さないで。ダンジョンから救援依頼が届けばイコアが遭難救出を出す方向で助けてあげてね」


「そのように。アル様がダンジョンの方向性をお決めになってからダンジョンのことわりは変わっておりません。それはアル様でも同じでございます」


「あ!そうだった。心配して付いてくれてたね(笑)」


(クルム、アルム、シズク、スフィアPT、横掘りの魔穴攻略時にアロアとフィオリーナが付いて行った)


「はい(笑)」



「まぁ、メンバーも冬はダンジョンの活動の方が過ごしやすいしねぇ、貴重な意見をありがとう」


「かしこまりました。のスマッシュボアはオーク肉より単価は落ちますが倒した分だけ固い稼ぎになるかと思います」


:具現化が解けてドロップは抽選。初心者用ダンジョンと言われるのは倒せば消えるモンスター故。は具現化が解けず、倒した獲物の解体時に新手に不意打ちを食ってとても危ない。


「あー!そんな感じね。稼ぎを求めてダンジョンの先へ先へと行くと思った。冒険させてたらいつか死ぬわ(笑)」


「はい、そういう方向で参ります(笑)」


「来月から?」


「明日には臨時集会で周知し、恩寵や装備品の要件などを伝えます。翌日朝には希望者を集合させ、恩寵と装備を確認後に引率を始めようかと考えますが如何でしょうか?」


「そりゃ、要望した奴らは一番喜ぶよ(笑)」

「その様に(笑)」



・・・・



「サルーテですが二年目になって慣れからの怪我が流民に多くなって参りました。アル様の思考論理からメイド隊が回復し、治療費は怪我の程度で5段階に分け、銀貨3枚から7枚を取っております。さらに流民互助会に入っている者は2/3を補助しております。今はアル様のお屋敷のメイドとして疑問は抱かれておりません。今後は子爵領になる以上、メイド隊も治癒士証を取り、治癒士ギルドの定める正規の治療費にした方がよろしいと考えます」


「あ!そうだねぇ」


執政官事務所にも治癒士は待機して執政官掌握の職人はそっちに掛かる。執政官事務所じゃ流民には敷居が高くて行けないよな(笑)


「そんじゃ、ロスレーンの領都でメイドさんは治癒士証を取ろうか?その内に治癒士ギルドも建てば治癒士も増えるだろうけど取り合えず聖教会の司祭とシスターが来るまでは治癒士は必要だから取りに行こう!」


「かしこまりました」


「ん?互助会って保険と一緒じゃん!(笑)」


「?」


「失業保険や医療保険みたいだなって、この前王都の貧民をサルーテで食わせてハウスに入れたじゃん、アレが失業保険で今回のが医療保険みたいでしょ?運用実績とかで町の平民は月大銅貨3枚(3000円)とか決定してやれば根付くんじゃない? 治癒士に駆け込もうが教会に駆け込もうが2/3は互助会が出してあげるのよ。非営利だから共済保険みたいな感じかな?メイド隊と銀行能力が有れば運用率とか出せそう(笑)」


「それなら安心して治癒士に掛かれますね、ただ流民センターから領民センターに名前を変えないとなりませんね(笑)」


「流民が領民になってからの共済会だね。考えておくよ(笑)」


「かしこまりました」


・・・・


「現在更生村と衛星都市マリンでは移民の振り分けにメイド隊を増員しておりますが、時差で昼夜逆転の強行軍の移住になっています。概算で23万人の海賊が増えタナウス人口は44万人を超えております。海賊討伐を10日ほど休んで頂けると選別から移住、生活用品の支給、仕事の案内までの対応もスムーズになるのですが如何でしょうか?」


海賊の逗留する町は2000人~5000人クラスの街が多い。貴族が海賊だったりすると1~3万の街がある。国に庇護された海賊なので領地の政策より海に略奪に走っている。


「あ!ごめんごめん。海賊被害を知って海賊どころか港町まで潰すとは力が入り過ぎちゃった(笑)」


「戦争の終結とうさぎ領の忌み子の問題は早々にかたずけられましたが、この機にラウナン王国、シリカのコモンドル商会の件を先に済ませた方が良いと思いますがいかがでしょう?」


「あ!うん。そうするよ」


「アル様が10日も休んで頂けたらだいぶ落ち着く予想ですが、すでに更生村の受け入れ施設が足りない状態です。お休みの間に早急に更生村と神都への家屋の移築をお願いします」


「はい、分かりました」


10日休むっても5日もしたらリズの誕生日になっちゃうな。


「それならねぇ、執事隊は問題なく魔動帆船は動かせる様になってるよね?」


「それは問題なく・・・魔動補給艦隊ですか?」

「うん、榴弾艦隊20隻に付いてた船ね」

「問題無く操船出来ます」


「休みの間、海域の海賊を見張って欲しいの」

「海賊被害の抑制でしょうか?」

「海域のプロットを見てくれる?」

「高空観測からの確認が取れました」

「それが出航したら捕まえてね」

「問題なく」


「その海域に6隻、イヤ8隻を置こう。休んでる間に拠点から動き出したら海賊を〆ちゃってくれる? 対海賊の治安部隊を海域に置くって事ね? 街ごとの移民が無理なら、休業中に動き出した海賊はとっ捕まえて連れて来たらいいよ。僕も休み中に奴隷狩りや盗賊を察知したら連れて来るし。イヤ、シリカに捕まえに行くんだった(笑)」


「そのように。補給艦隊の出航は明日ですか?」


「うん、朝起きたらメルデスの武器倉庫に取りに行って来る。執事部隊は何人乗れば一隻動かせるの?」


「魔動商船の航海には甲板部30人の昼夜4時間の8時間3交代で90人。それに司厨部などの雑役員を入れて110~120名です。執事隊なら30名で航海できます」


「それなら明日の朝、補給艦隊に乗っておいてくれる?そのままインベントリで担当海域に浮かべに行くよ」


※コア達や補給艦隊だけならショートジャンプで自在にメルデスの武器庫やタナウスの大倉庫に出入り出来ます。お客を案内する時用にも転移装置が置いてあります。


「かしこまりました」


「タナウスのメイド隊、執事隊の手が空いたら教えてね。海賊達を街ごとさらって来るから」


「お急ぎになっても更生村の準備がまだです(笑)」

「ついでにズサ沖の漏れたのも狩ろうかと(笑)」


「お急ぎになるよりも、ひとまずお休みになられてリズ様の誕生日をお迎え下さい、選別の進捗はお伝えします」


「仕事が多くて旅行が片手間でごめんね」


「何を仰いますか、新しいあるじがこれ程も働くとは予測の範疇はんちゅうを超えております(笑)」


「コボルさんだって働いてたでしょ?(笑)」


「先の主は艦外活動を致しませんでした。研究の手が忙しくデータの参照も思考論理観測装置(宙航用長期睡眠装置)の中でしたので・・・」


交感会話でデータを聞いて指示を出し、コアと考察を繰り返したら起きてる何十倍も研究が進むな。目鼻が付いたらスリープで次のチャプターへ跳べるし、コボルさんはタナウスの後継者を作る責任感から己を犠牲にして幼い種族を導くように頑張ってた。


「あ!頭脳労働派と僕を比べられても困るよ(笑)」


「アル様と同じく使命を感じて動かれてました」


「うん、僕のは使命と言うより感謝だから。コボルさんみたいにタナウスを背負ってないから楽なのよ(笑)」


「やってる事は同じでは?」


「それはねぇ、環境の淘汰に任せたコボルさんと違って僕は種族の紛争に介入するから低い意識でその上短気なのよ。意識の中心が人間保護優先で生命全体を考えて無いから小物なの(笑) 差別してるつもりは無いけどサル原人が襲ってきたら人間を助けちゃう。コボルさんは人型全体の未来を見守ったけど獣人(キメラ)も元々いた動物も人間も人型なら全ての種族を受け入れて環境の淘汰に任せた。それはサル原人が人間を襲っても見守るってことで神様と同じ立ち位置なのよ。穴に籠るサルでさえこの星の代表候補に考えてたでしょ?(笑)」


「先の主人に代わりお礼を申し上げます(笑)」


「やっぱりさぁ、船団を率いる船長は人格者なんだよ。タナウス星が無事だった時に並み居るタナウス人を押さえてこんな大きなEnterprise冒険号の船長だったんだよ。この星の生まれたばかりの生物レベルなら万能の神に等しい科学力を持った存在なの。その地位に居た人がコボルさんだからね?すごい人をリスペクトしないと僕も勉強にならない。


まぁ、コボルさんに限らず周りの人も皆先生なんだけどね。聖教国の始祖セリムやコボルさんはこの星のレベルでは別格の存在なのよ。飛び抜けた意識の持ち主だから気持ちだけでも真似はしたいよね。僕は頭で敵わないから動く方で(笑)」


「アル様をお助け致します」

「ありがとう、コアさん」



「取り合えず明日から休みか・・・・」


「何か?」


「ラウトにいる意味無いじゃん(笑)」

「はい(笑)」


「明日の22日は起き次第に海上治安部隊の配置。帰って来てクランとサルーテに顔を出してメイド隊はロスレーン領都で治癒士の証を取ろう。時間があればラウナン王国のシリカの街まで行きます。コモンドル商会に師弟の無事を伝え次第に逃げた盗賊を退治します。そんな感じの予定でお願い」


「かしこまりました、その様に」


「はいはい!ラウトから撤収撤収!交換会話解いてアルムハウス行くよー!」


「今からタナウスは23時ですが?」


「そっか、メルデス行こう!(笑)」

「21時でございます(笑)」



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