第389話  お婆々のしっぽ


9月21日(雷曜日)


昨日は深夜にカナディオ王宮に行き、国境を見て帰って来た。


初戦から10日経ってミランダ国境は突破され山裾の最初の街をカナディオ軍が占領していた。街の大多数はミランダ国境門を突破された敗残兵と一緒に逃げ出した。街は抵抗もなく占領されカナディオの進軍拠点を築いていた。


占領したのは王軍、伯爵軍、子爵軍なのでさすがに統率が取れて略奪は起こっていない。が、街に残った者で拠点作りに非協力的な口さがない年寄りやその年寄りを庇った者達は容赦なく殺されていた。第二王子は参謀の進言で街に侵攻拠点を築いてカナディオからの侵攻軍待ちという所だった。


やっぱ問答無用で戦争を終わらさないとダメだったか? 知った時には戦っちゃってるからどうしようもないよな・・・武装商船三隻で補償は足りるかな、街まで占領してたらダメだろうな。そんな事を考えながらラマス子爵領の貴族宿に帰ってきた。


・・・・


8時半には先触れを出したラマス子爵の邸宅に向かう。初見の子爵相手には大人の方が良いだろ?と馬車の中でグレンツお兄様に変身しておいた。


領主様は垂れ耳うさぎ獣人の族長である。GPS検索済の勝手知ったるラマス子爵の屋敷に向かった。着いてみると板塀に囲まれたうさぎ様式のお屋敷が族長の家だった。何の因果か日本のなドッカリと構える平屋の木造屋敷だ。


森の中にある族長の屋敷と思いグンマーの県庁が少しでも俺は負け組だ。


※日本のどこかに存在すると言われる秘境の地。


貴族馬車を横付けして門番の騎士に用件を言う。


「王都への参集使節団の件で子爵様にお取次ぎ下さい」


昨日の先触れで神教国の使者と言ってある。


「ようこそおいで下さいました。子爵様がお待ちです」


でも使で謁見を願い出た瞬間に王都からの使者と勘違いされていた。人族が貴族馬車で訪ねるだけで完全に王家の使者と断定されるのがウケる。


それこそ荷馬車で使と人族が来ても王家の使者と勘違いしそうなうさぎ族。 


(お前いっぺん酷い目に遭え!)


笑っちゃいけない。うさぎ達も頑張って人のルールに合わせようとしてくれているのだ、ありがたやありがたや。


ちゃんと執事さんやメイドさんが居た!わーい。

応接でお茶やお菓子を出してくれる。わーい。


(うさぎ獣人をお前が一番蔑視している)


「ようおいで下さった。ヘネシー・ラマスと申します」


「アルベルト・タナウスと申します。取り急ぎ使節団の件で伺いました」


「昨日出た使節団に何かございましたかな?」

「使節団は刺客に襲われましたが無事です」


子爵の目が一瞬細くなり魔力が膨れ上がったが俺達には眉一つ動かさず核心を突いてきた。


「襲ったのはマウロピン耳の者ですかな?」


「そうですね。襲撃場所で和解させ両者無事です。マウロの者は帰途に付きました」


「よくも引いたものだな・・・」


「あ!それでですね、仲裁の最中に神託が降りました」


「え?」


ので混乱になる前に知らせに参りました」


「神託が降りた?」

「申し遅れました、私はこういう者です」


加護を見せた。


「え!」

数多あまたの神々の使徒でございます」

「王家の使者ではない?」

「通りがかりの宗教国の皇太子です」


「皇太子殿下!・・・ようこそ我が領へお越しくださいました。てっきり王家の勅命を帯びたご一行と思い込んでおりました」


あー!そんな感じか、戦争中だし仕方ないな。


「まぁミランダと戦争中ですしね(笑)」

「初戦は大勝利と伝令が届いております(笑)」


「大活躍だったそうですね(笑)」

「その通り!(笑)」


「あ!すみません。参集の使節団が襲われた件はお知りにならないと思い今日は参ったのです」


「お!そうでしたな。しかし、昨日の壮行会で見送りすぐに襲われたとは・・・マウロに見張られていましたかな?」


「まぁ、襲われましたが助けましたのでご心配なく」

「ありがとうございます」


「使節団の襲撃の一件は、両者を和解させました。私が知っている事だけでも、カナディオの王宮参集の真意と思惑のお話をしましょう。このミランダとの軋轢が元になっている参集です」


・王宮への参集は各部族の窮状や要望を王家が直接聞き届け、管轄する貴族家に各獣人の居住地を円満に治めさせるための政策であること。


・参集した部族代表の職務は王都政務官へのご意見番。その仕事は政務官待遇の俸給。


・謁見の間で宰相含め政務官や獣人部族代表に王みずからが趣旨を説明し、カナディオの貴族全体に部族参集の趣旨が伝わる様に後日書簡を出して明確に通達する事。


「こんな感じですかね。王都から後日書簡も届くと思います」


「安心しました。領内には明らかな人質と騒ぐものがおるのです」


「安心して頂いたら結構です。カナディオは各部族が調和し協力しあって安定している事を周辺国に知らしめ、反ミランダに向けて各国の足並みを揃え同盟を組みミランダ包囲網を構築したいのです。今日はその話を手土産に他のお願いをしに参りました」


「何でしょうか?出来る事なら協力致しますが」


が近日消えます」


「な!なに!」族長が殺気だった。


「神託を伝えに来たと申しました。加護を見ましたね?」


殺気立つ使用人達にも先制攻撃で釘を刺した。


子爵とアルが睨みあう。


「皆さん、軽はずみに動かぬ様に。執事さんもメイドさんもそこの騎士さんも子爵と一緒に静かに聞いて下さいね?」


それほどうさぎ獣人にとっては秘匿されるタブーが忌み子の里だ。なんせ、森に押し込めて秘匿している。


「みなさんはサルマン教の信者ですよね?私は神教国タナウスと言う宗教国の皇太子です。先程加護は見せました、今度はこの指輪と教義を見て下さい」


認証指輪(皇太子の身分証)と教義書のその部分を見せる。


・獣人も人も平等、その悪口も禁止とする。

・獣人、人には親切、仕事に熱心でありなさい。


「サルマン教には類する教義はあれども各国の獣人政策に口出しをしていませんね。我が国はです。だから獣人と人の間に生まれた子も平等です。当然も平等です。子爵領に生まれた人の子に対する差別は我が国は許しません。それは神が神託を下すほどの罪なのです。しかしこの子爵領うさぎ部族には歴史のあるルールや掟がある事も分かっています。ですから協力頂きたいのです」


「殿下、何を協力すればよいのです?」


「子爵様、聞いて頂きありがとうございます」

「取り合えず聞くだけです」


「忌み子の里が消えます」

「え!」


「忌み子も家も村も何もかもが一瞬で消えます」

「なに?」


「神が全てを連れて行きます。忌み子を連れて領を出た親は許すそうです。それだけではありません、里が消えた後は神教国に託すと神は仰いました、以後領内で生まれた忌み子は神教国にお知らせください。連絡を頂けたら忌み子を預かりに参ります」


「・・・」


「それが神託です」


「それは部族会議で決めさせ・・・」


「神の行う事です、部族会議は必要ありません。信じぬ者に何を言っても無駄です、神託にご協力頂くお話をお願いに来ただけです。部族会議で何を決められても忌み子は消えます」


「本当なのですな?」

「どこの地にも神隠しがあるのはご存じですよね?」


「むぅ、本当なのか・・・」


「本当も嘘も神のなさる事に私達は何もすることは出来ません。忌み子の里は無くなるという神託ですから、無くなるとしか言えません。それはどうしようもございません。神に逆らうなら忌み子を隠しても良いと思いますが隠しても消えてしまうのは一緒だと思います。いつ消えるのかも分かりませんよ」


「・・・」

「明日なのか半年後なのか」

「突然に?」


「はい、天災が突然やって来る様、神によって突然に。それは誰にも分かりません。だから消えても驚いてはいけませんよ?」


「はぁ・・・」


「突然消えたら領民が驚くでしょう?預ける里が無くなるとこれから生まれる忌み子はどうすれば良いのですか? ですから神託を伝えに参りました。お願いと言うのは里が消えても驚かぬ様に触れを出して頂いて、以後の忌み子は子爵様預かりとして神教国に連絡してもらう感じになりますね」


「分かった。消えてはこれから忌み子を預ける事も出来ん」


「神託のお話をしに来て良かったです」

「いえ、使節団への便宜だけでも助かりました」


「神教国への神託を前向きにとらえて頂いたお礼にマウロピン耳族を大人しくさせて帰ります」


「え!」


「昨日の襲撃は使節団を皆殺しにしても参集を阻止しようとするマウロ男爵(ピン耳うさぎ獣人族長)の企てでした。事実使節団は矢を受け斬られ殺されかけていたのです。マウロ男爵と領の政務官達は襲撃計画を謀った者なので痛い目に遭ってもらいます。うさぎ獣人族が誇り高く勇猛なのはよろしいですが、それが過剰になり部族全体を侮る様では子爵領の為に良くありません。国境へ派兵した子爵軍の糧秣部隊に落石や、倒木、焼き落とした橋で輸送を妨害するようでは子爵領に住むうさぎ獣人の結束を疑われますよ」


「・・・」


ラマス子爵を視るとマウロ男爵には何を言っても無駄と諦めていた。部族長会議では何を決めるにも否定に回るのだ、糧秣隊が自然災害で遅れている報告は聞いていたがそこまでされているとは思って無かった。そして使節団の襲撃である。同族に対しての武力行使を聞きショックを受けている。


紛糾すれば!と群れを割る存在のマウロ男爵。それはうさぎ族の中でも武闘派の存在だった。


待ってろよピン耳!


・・・・


カナディオ王国のマウロ男爵領11時。


ラマス子爵とは話が付いたので今度は祈祷お婆々に話がしやすい様にお兄様の変身を解いた。お婆さんに絡むなら子供が鉄板だ。


(たれ耳族の)ラマス子爵領都から(ピン耳族の)マウロ男爵領まで馬車でも3日程掛かるのでさっさと領の手前に跳んだ。道ですれ違うのはうさぎ獣人で人はたまにすれ違う程度。


貴族馬車で門を入ったマウロ男爵領は20000人程の森の中に街がある。そもそも子爵領全体が森なのだが(笑)


まず最初にお目当ての祈祷お婆々にお目に掛かる。この婆さんが領を上げての襲撃計画の日時を決定してるから男爵領では相当な重要人物と思う。ここまで信頼される祈祷なら未来眼系統の恩寵だろうな。


お昼近いので街に漂う良い匂いに釣られて視てしまうと肉屋が昼の総菜用にこんがりと焼いた鳥やイノシシを吊るしてる。焼けた色目がクリスマスの鳥のもも肉ぽくて美味しそう。焼けたうさぎも一緒に吊られているのがシュール。


こんな貴族馬車で聖騎士まで連れて露店に止まれないのが恨めしい。男爵家御用達のレストランを検索し、少し早いが横のコアさんに提案すると何も言わずに御者のニウさんがレストランに向かった。


俺とコアさんとニウさん、護衛騎士6人がそのまま店で食事を取った。と持って来られたサラダはメインでもなくニンジンが多い訳でも無かった。改めて俺自身の偏見が凄い事に気が付いた。当然デザートにウサギ焼きバウムクーヘンは出て来ずにキウイの様なフルーツが出て来た。


普通の人族のコース料理だった。お茶請けのクズの根から作った美味しいクズ団子を出されてもネタにならん。


12時過ぎにはマウロ領の中心街を抜けて、族長や祈祷お婆々の家のある貴族街方向に向かうと騎乗のピン耳騎士2人が追って来た。


「そこの馬車待たれいー!」

「そこの馬車しばし待たれぃー!」


うちの騎馬聖騎士6名が剣を手に押し包み、追って来たピン耳騎士2名は臨戦態勢の抜剣聖騎士に囲まれて超ビビる。


「よい!ここまで通せ」御者のニウさんが応対する。


「は!」

しかし剣を手に押し包むのは止めない。


「何か用か?」

「ご尊名をお伺いしたい」

「東門で貴族証はあらためた筈だ。何故名を聞く!」


「すまぬ。王都のお使者かと思ったのだ」


視たら違った。街中で人族と貴族馬車を見るなり襲撃計画が露見した沙汰を持った使者と早とちりしていた。


「我々は神教国タナウスの者だ。カナディオ王国の者ではない。疑うなら東門に行くが良い」


「失礼した、早合点で馬車を止め申し訳なかった」

「仕事なら構わぬ。それでは失礼する」


騎士を残して馬車は祈祷お婆々の家に向かった。


・・・・


貴族街への通用門でひと悶着あった。


貴族証で通ろうとしたとき、行き先を聞かれて祈祷お婆々の家と言った途端に殺気立ったのだ。


「人が祈祷お婆々に何の用だ?」


俺が祈禱お婆々と言ったから俺が対応になっちゃった(笑)


「ここはカナディオ王国のマウロ男爵領ですよね?人は入っちゃダメなんです?」


「うっ!・・・入って良いが、用事を聞いている」


「うさぎ獣人の祈祷お婆々に会いに来ました」


「うっ!」


「祈祷お婆々の家はこっちですよね?」


「教えると思うのか!」聞く必要も無い。


「え!普通は教えてくれるのに!」

「この街はお前たちの街とは違う!」

「え!教会の教えはこうですが・・・」


教義書を出した。


・獣人も人も平等、その悪口も禁止とする。

・獣人、人には親切、仕事に熱心でありなさい。


神の教えと言われ困惑するピン耳守備隊。


守備隊が挑発的なのは襲撃計画を知っているからだ。襲撃成功の報も届かない中、大事の前に人族から祈祷お婆々の名前が出てピリピリしている。アルに一々もっともな事を堂々と受け答えされて口ごもる。


たまたま門前を通り掛かる貴族のピン耳うさぎたちが野次馬で立ち止まるので守備隊との問答も目立って来てる。


「他の人に聞きますので結構です。すみませーん、祈祷お婆々の家知りませんか~?」


守備隊にで聞いたった(笑)


「もう少し進んだ左手に出て来る大クスノキ下の家が婆々様の家だがよ。婆々様に用事かんね?」


(背中に籠を背負った)うさぎ獣人の貴婦人が教えてくれた。麦わら帽子に耳の穴が空いてるのがオシャレ。視たら貴族のお母さんでも森(市街地)に食べ物取りに行ってる(笑) スカート姿の背の小さいお母さんは等身のシルバニア人形が動いてる様だ。


「うん、そうなのー!」

「もう少し進みなー!」


「ありがとうー!行ってみますー!」

「早く行っても婆々様は昼寝中は起きないがよ(笑)」


「ありがとうー!」


「入って良いって言うから行こう!」


貴族街の門の守備隊を無視して馬車は婆々様の家に向かった。貴族街って言うけど森や林が多すぎてまんま農村の雰囲気だ。守備隊はマウロ男爵(ピン耳族長)に慌てて知らせに行った。


実は子爵領に入ってキョロキョロと視るに付け、常識と言うか、このうさぎの国では当たり前の事が色々と分かって来た。子爵領の各男爵(各うさぎ獣人族の族長)はうさぎの種類が明確に違う。大別して七種、だから七種族の領都の族長(子爵1、男爵6)がいるのよ。うさぎ獣人の血脈的には九種族に分かれるらしいがこの子爵領には七種のうさぎ獣人が居た。


このマウロ族のうさぎ獣人は地球で言うミックス種だ、耳がピンと立って長い。この男爵領にはその種族しかいない。子爵領でたれ耳しかいないのと同じだ。でもバッグスバニーの大きくなった感じだ、好奇心旺盛で熱しやすく冷めやすい。外見も性格もバラバラ。強いて言えば好戦的で縄張り意識が強く排他的だが、人だって田舎の村単位ではそうなのでうさぎの事言えない。猫の様に単色、多色あり、色目が牛柄のブチだったり三毛だったり各色入り乱れた柄がある毛を持っている。


俺は日本の出身だからうさぎは白くて目の赤い大人しいピン耳のイメージだったけど、そんなうさぎは日本の固有種で真っ白なうさぎ獣人は少ない(笑)


総族長のラマス子爵はたれ耳の日本ではあんま馴染みのない系譜のうさぎ獣人。耳がよじれて縦巻きカールの様な耳、俺も初めてみるうさぎ獣人だ。性格は温厚で社交的だがうさぎ族ではピン耳かたれ耳かという程も群を抜いて体格が良い。一番体格の小さいのが鳴きうさぎ族だって。穴に暮らす穴うさぎ族もいる。この男爵領はピン耳のマウロ男爵が族長だ。


そんなうさぎの国子爵領の情報を得ながら祈祷お婆々の家を訪れた。元々お婆々の事は視たかったし、部族内の揉め事の事情は分かったからこの子爵領で天狗になってる過激派を〆ないと以後もカナディオ王国との関係肯定派に対して否定派となって子爵領を混乱させる存在になる。もうすでに混乱させてるけどね(笑)


「こんにちはー!」


「あれ!珍しい。人がわざわざ来なすったかね?」


祈祷お婆々の息子の嫁だった、同じくピン耳だ。貴族の端くれなのに言葉が平民過ぎて拍子抜けする。


「はい、王都に向かう使節団の件で伺いました」

「あー!婆々様ね、起きるまでちょっと待って」


さっきの貴婦人といい、ここの嫁さんといい、貴族的な形式や気位的なツンが無い。自然体でスレて無い田舎の人だ。



「王都の使者とはお主らか?」


王都の使者と聞いて跳び起きてきた(笑)


土間にのっそりと立つを羽織ったもんぺ風の作務衣、うさぎ獣人がお婆々だ。体毛はグレーだが、元は黒うさぎが白髪でグレーになっている。眉の辺が真っ白のフサフサで年寄りなのが分かる。俺の白髪うさぎのバラライカを思い出して止めた。


威厳ある声で偉いおきなっぽいので祈祷お婆々と分かる。後ろに付いて来た人はお婆々の息子家族で旦那は男爵領執政官で役所勤めだ。


「王都の使者ではありません」


「王都の使者でも無く人が何しに来た?」


「祈祷お婆々に会いに来たの」子供スキル。


「はぁ?儂にか」


土間とで話をするがお客を上げる気すらない。門前払いにならなかっただけマシという感じなので本題からズバッと言った。


「王都へ参集する使者を襲ったでしょ?」


#「何でそれを知っておる!」


毛がフワリと立った!というか、驚いてそのまま犯行を語ってしまっているのがお茶目なお婆々(笑)


「あの使節団ねぇ、カナディオ王宮の人質とは違うからね?王様が色々な領の困った事を改善しようとして、ラマス子爵領の事情を聴くために呼んだ領の代表なの。政務官待遇で王宮勤めになるから何も心配しなくていいからね?」


#「余計なお世話じゃ!王国に尻尾を振って国に仕えるまでもない。勇猛果敢で鳴らした誇り高き我が部族はカナディオに留まるつもりも無いわ!」


カッチーン!


余計なお世話と来た。この婆々ぁ!部族長会議では参集は人質だと猛反対していたのに!人質じゃ無い事に安堵するどころか襲っておいてその言い草か、人質よりタチ悪いわ。クソッタレめ。


イヤ!いつもここで!が出てブーメラン現象が発動し、から耐えよう。頑張って耐えよう。


口で反撃する。


「ラマス子爵領に留まってるじゃないですか?」

「それは新しい森が見つからんからじゃ」


「元に住んでた森に帰ればいいじゃん?」

「うっ!」


「そうなるでしょ?(笑) 今はみんな国になっちゃってどこかの国に属さなきゃ森なんかないのよ。ここの総族長さんの様に人間と上手く付き合って村の安全を守るのも正解だと思うよ?」


「お主ら、カナディオ王国の者か?」


「ううん。違うって言ってるでしょ。昨日穏健派たれ耳過激派ピン耳のうさぎ同士で戦ってたから来たの。同族で殺し合うなって、戦いを止めて帰らせたからね?」


#「なんじゃと!」


「使節団を助けたって事。ふふっ!」ニヤリ。


#「やりおったなー!」


お婆々が叫んで飛び掛かって来た。俺に向かうケンシロウの様なその飛び蹴りを瞬時にニウさんとコアさんが受け止める。スピードのピン耳、ジャンプの垂れ耳とか余計なフラッシュが視える(笑) 


だからたれ耳族1000名は崖を飛び降りて急襲出来たと納得する。アレ見てうさぎはジャンプだよなと思っていたが種族によって得意分野が違うみたいだ。


マテ!なに納得してんだ。


「コアさん、ニウさん、止めるだけでいいから」

「かしこまりました」


お婆々は二人に羽交い絞めにされて土間に立つ。家族も驚いて毛が逆立っているが、お婆々みたいにそこまで気が短くないみたい。話の行く末を見守っている。


状態の祈祷お婆々をさとす。なにやっとんじゃーいは封印だ。


「お婆ちゃんさぁ、人族と争ってた昔話と勘違いしてない?今は田舎の力自慢相手の戦いと違うよ。武術教育を受けて恩寵技術を修めた軍隊の時代なのよ。少数派のうさぎ獣人が勝てると本気で思ってるの?」


「うさぎ獣人の方が優れておるから勝つんじゃ!」


「じゃ、何で他の長老たちはそうしないの?」


「臆病者だからじゃ(笑)」鼻でフッ!と笑う。


「あんたらが間違ってるからだよ!」


バシ!


ムカッとして思わず突っ込んじゃった。


頭を片耳が折れて妙に可愛くなったお婆々。家族の毛がフワッと逆立ってとても驚いている(笑)


目上の人はうやまい尊敬するのがうさぎ獣人族の礼儀とか俺に視せるな。人族だってそうだわ!うさぎの礼儀など知るか!


「この部族のプライドが高いのは分かるけどさぁ。たった2万そこらの男爵領レベルで安住の地を切り取れる弱い国なんか無いからね? あんたたちが人間を認めないのは勝手だけど、この子爵領で何を決めるにも反対や妨害するなら今すぐここを出てった方がいいよ。このうさぎの国が混乱するだけだよ。戦地で戦ってる同胞の糧秣隊は妨害するし、昨日はうさぎ族の代表を殺す所だった。あんたらはうさぎ獣人の害にしかなって無いよ(笑)」


#「なんじゃとー!」


#「何が何じゃとー!だ!老害のクソ婆ぁ!」


家族はお婆々に!と言う者を初めて見た。


視て穏健派の使節団をは9月20日と大喜びで予言する婆ぁはやっぱ〆なきゃダメだ。もう決めた、行くだけ行け!


#「おのれ小童こわっぱ!今何を言うた!」

#「クソ婆ぁの害獣と言ったんだ!」付け足す。


ピキ! 身体強化でクソ婆ぁの魔力が膨れ上がって毛が逆立った。


#「たかが人の子が。後悔させてやるぞ!」


婆ぁもキレた。近年バカにされた事が無いらしい。それにしてもに後悔させてやるとかマジギレにも程がある。


#「何が森が無いだ!クソ弱い上に何も出来ない口だけ達者なクソ婆ぁ!老害婆ぁ、掛かって来い!」ニウさんに。


でも更に油を注ぐ言わずにおれないアル気質。


#「なにをー!」


「ニウさん、とっても弱いクソ石頭のお婆々に灸を据えてやりなさい!略してクソ婆ぁでいいよ」


「かしこまりました」ぺコリ。


「アル様(笑)」コアさんにロールプレイを予測された。


お婆々の家族は、略してクソ婆ぁに納得していた。



・・・・



ピン耳うさぎ獣人のマウロ領、祈祷お婆々の家の前。


決して弱くはない。体術勝負だと負けそうでカッコ悪いからニウさんに振った。俺の盛ってある基礎数値はあくまで人間基準の基礎数値だ、獣人の族長レベルと比べるな。祈祷お婆々のソレは、男か女かだけで族長クラスと変わんない。うさぎ獣人の上位種レベルだ。112歳だけど基礎身体数値が高すぎる、俊敏はエルフ装備で盛ったアルムさん以上なんだよ。格闘戦でアルムさんに勝てない俺は当然勝てない。


そういやクルムさんもエルフの上位種クラスだな。導師も人外の上位種だ、爺ぃ婆ぁは上位種だ、認定だ!(笑) 


「お婆々。強がるなら勝負で負けたら言う事聞く?」


#「バカ者!儂が負けたとて皆が従うと思うな!」


「なんで昨日を指定して使節団を襲わせたの?」


「む!」


「その日が吉日だったの?」読んだまま聞いた。


#「知らぬ!黙れ!」


「長老や騎士がお婆々に従ってるじゃん!」


#「その様な事は知らぬ!」


「襲撃を邪魔したって言ったら飛び掛かったじゃん」


「・・・」


恩寵を言われて驚いている。俺は言葉を投げかけて発生するイメージをフラッシュバックで拾いまくる。


返事もせずお婆々は攻撃に移ったのでニウさんとの戦いが始まった。始まっても話しかけて次々生成されるお婆々のイメージを抜いていく。


お婆々がニウさんにを食らわせているが効いて無い。お互いに得物は無く、肉弾戦でうさぎ獣人のお婆々が投げられ地面に叩きつけられる。通り掛かった血の気の多いピン耳が毛を逆立てて参加に来るのを『種族の意地を賭けた試合です!』とコアさんが行く手を阻んで参加させない。もとい、それでも向かってくる血が昇った奴はコアさんの一撃で参加出来なくなってノビている。


15分ぐらい祈祷お婆々がニウさんに遊ばれてると、守備隊に呼ばれたピン耳族長(マウロ男爵)が来た。


「両者待て!これは何をしておるか?」


「うさぎ獣人が強いと言うので間違いを正してます」


「はぁ?」


もうお婆々と戦っちゃってるから腹を括った。


、街の外では弱いうさぎ獣人でしょ?」


「なっ!」


「あんたら勘違いし過ぎ!強さは戦いだけにあらず。でもうさぎ獣人は戦いでもクソ弱い事を思い知れ!」


火に油を注いで男爵の長老をあおり倒す。


「あんたら全員、弱いんだからいい加減プライド捨てて国の参集に協力しなさいよ」


言いながら上を指差した。長老たちが見上げると上空に巨大な火球が出現する。それをジリジリと下げて遠赤外線でポカポカにしてやった。


徐々に降りてくる大火球を見て、うわー!と野次馬のが逃げ惑う。


「あんたらにこんな事出来る魔法士はいるの?」


皆に何かを予感させる姿で一歩踏み込み両手を鳴らす。敵意を向ける全員を麻痺させて屑折れさせた。ピン耳と目は普通に動いている。


頭上の火球にも耐えて敵意満々だった男爵以下の騎士や守備隊の23人がお婆々の家の前、扇形に戦闘不能。


「あんたらカナディオの参集令を受けた使節団を襲ったよね?お前らさぁ、同族殺しの指令出してるじゃねぇか。お前らごときクソ弱いうさぎ獣人が調子こきやがって。国に逆らう意味を教えてやる。動けるようにしてやるから掛かってこい!」


麻痺を解いてやる。


余りの言葉に煮えくりかえった族長と騎士団が殺到しようと俺に踏み込んだ瞬間にシャドの闇の槍に太ももを貫かれた。全員貫かれたまま槍に保持される。


「ぐ!」

「ぎゃー!」

「うわー!」

「ぐあ!」


動こうとしても貫いた闇の槍は大地に潜ってビクとも動かない。槍が神経に触って悲鳴が上がる。一面に血の海が広がって行く。


「お前たち!カナディオと手を取るつもりが無いならこの子爵領を去れ。こんな男爵領などいらん!人と手を繋いでやって行こうとする子爵領の足を引っ張るな。お前たちなど国の前では弱者だ。強いと言うならこのぐらいの魔法を防げるようになってから言え。防げぬなら総族長に大人しく従え!」


族長達の目は憎しみに燃えている。


「どこの国に行っても弱いお前たちが勝ち取る森など無い。国を相手にすれば男爵領20000の獣人など一日で滅ぶぞ。大陸ではそうやって獣人村が消えていく事を教えてやる。魔法の怖さが分かったか?」



「血が流れ過ぎてるから大人しくしてなよ?」


お婆々の家の前が大分血だまりになってるので貫いたシャドを太ももから外して、ヒールを掛けて治してやる。ついでに丸い尻尾丸出しでノビてるお婆々にもヒールしてやる。


傷を治してくれる敵対者に一同は呆気に取られた。


皆が駆け寄ってお婆々を助け起こすと、使と俺達を指差して涙目で族長に言い付ける・・・このクソ婆ぁ!(笑) 


取り込み中に言ってやった。


「歴史に示した武勇でプライドを持つのは構わない。しかし同族を襲撃するなんてうさぎ獣人の領で暮らす資格が問われるぞ。プライドを持つなら領の平和を守れ。国を拒絶するなら国を出るなり、平和を望むなら総族長に協力するなり考えろ」


#「バカな!」


「バカは同族を襲うあんたらだ!」


「これは消しておく」


上を指差して巨大な火球をフッと消した。


火球と共にアルの殺気は消えて優し気な口調に変わる。すでにピン耳たちは折れているからだ。


「もうね、個々の武勇の時代では無いのよ。種族が大きく群れとなって強さを誇る時代なの。否定するなら掛かっておいで、脚の刺し傷も治ってるからね? 分からないならお婆々の様に分かるまで痛みと共に弱さを教えてあげるよ?(笑)」


「ニウさん、この人達相手にしてあげて。魔法には敵わないが体術なら勝てるとか言い出しそうだから、お婆々みたいにやっつけちゃっていいよ。剣出してきたら斬っちゃっていいや。使節団を殺そうとしたバカだから斬られなきゃ分かんないよ(笑)」


「かしこまりました」


祈祷お婆々の家の前。野次馬の集った貴族街は静まり返って族長以下誰も動かなかった。


「どうしたの?弱いと言われて気に入らないなら掛かってきなよ。お婆々のように揉んであげるって言ってるんだよ?」


試合はもう8回裏なのでダメ押ししておく。それは野球のセオリーだ。


「一つ教えて欲しい」

「何よ?」


「カナディオはここに兵を寄こすのか?」


「寄こす訳無いでしょ。僕たちカナディオ王国と関係無いもの。世間知らずのうさぎが同族襲って滅びそうだから教えに来てあげたのよ」


「・・・カナディオと関係無い?」


「王国参集の使節団を襲う者や自国の戦争の妨害工作をしてるのをカナディオが知ったら問答無用で兵が捕えに来るだろうね。もっとも捕えるじゃ済まないだろうね(笑)」


「カナディオはまだ知らないのですな?」

なんか急に理性的になってきた、さすが男爵(笑)


「だから怪我も治してあげたでしょ?お婆々だって治してあげたじゃないの。分かった? 僕たちは神教国という宗教国の人間だよ。たまたま旅の途中で同族が戦ってたから止めただけよ。ホラ、お忍びの旅行だけど見せてあげる」


認証指輪をみせてあげる。


「神教国タナウス皇太子、アルベルト・ド・カミヤ・メラ・タナウス。・・・こ、皇太子殿下!」


「分かった?カナディオと関係無いでしょ? 子供が井戸で遊んでたら危ないから怒ってゴッツンするでしょ? ここのうさぎも危ない事してたからゴッツンしに来ただけよ?(笑)」


「兵は来ないのですな?」

「王国は知らないから来ないね」


「ははー!」


印籠を見せちゃったから族長(男爵)たちは平伏ひれふした。



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