第385話  奇妙な盗賊


9月7日(雷曜日)


は教会スタッフが集まり次第に身代金事件の検索を掛けて一人の教道士(道士)を隷属した。こいつが獣人身代金に関する司教への指令を持って来た奴だ。その指令は隣の王都教会の大司教から司教に伝わりこの道士に出ていた。


リケット教の道士、道女は各地を巡り布教する。元々は各地の教会を助ける幅広い経験を積んで司教になるための修業期間だった。


修行期間の経験を積む意味が近年少し変わってきた。


国内の末梢神経としての情報収集とリケット教会に有利な風聞を流す役割が重要になってきたのだ。教会司教や大司教が推薦枠や人事権を持つために教会司教や大司教の顔色を見たり、喜ぶ情報で手柄を立てる期間に移行したのである。


簡単に言えば、今や教道士(道士)、教道女(道女)はリケット教の忍者だ。そして忍者に甲賀衆、雑賀衆、伊賀衆がある様に道士、道女にも大司教に繋がる派閥がある。アルが隷属した道士の派閥は国の実情に合わせる事で教会の栄達を説く急進派の大司教が元締めだ。


急進派とは少々教義に外れてもリケット教の栄達に繋がるならと容認する派閥だ。


さて、今回の人質事件はアルが行った略取奴隷解放が引き金だった。それはガナン、ラウナン、セルノス、リブの4国なら略取奴隷が居なくなってもハーヴェス包囲網の戦争回避に支障は無いと強行した略取奴隷解放だ。


今でこそ9月で温かいが、1月当時は凍える程も寒い中だった。元々ミンク(イタチ)獣人専門のが居た地方でラウナン北方は貧しく、人買いが跋扈ばっこしていた後進国だ。アルはこの地の略取奴隷をすべて解放した。


それから9カ月。

リケット教信徒国ラウナン、セルノス、リブの三国は

(借金奴隷と犯罪奴隷、戦争奴隷しかいなくなり)奴隷がガクッと減って困った。新たに5月に行った奴隷狩りもアルが察知し消えてしまった。8月初旬には奴隷を集める指示系統の人間が消えた。


ラウナンは逃亡奴隷を探索し情報を集めると隣国ガナンで興味深い噂を聞いた。同じく奴隷が失踪したガナンではラウム教会が神の怒りと説法していたのだ。それを聞いたラウナンはリケット教会にラウム教の説法を相談した。ラウナン王都にはリケット教の枢機卿がトップに居たがリケット教会としては風聞と答えるしかなかった。


今までそんな奴隷失踪事件は無かったからだ。


そのに追い風を受けて知恵を絞ったのは悪徳貴族である。リケットの枢機卿の元で実務を行っている大司教にをした。その大司教は信徒国に便宜を図る急進派だった。


大司教は計画を知っていた訳ではない。


この世の常識で異教徒、獣人、亜人に対して差別を強いる国が多数ある。それが下地で奴隷狩りをしているのは何度も説明した通りだ。


教会の人間も信徒国に都合の悪い教義は強く説かない。説けば相手にされないからだ。差別を謳ってないリケット教会の聖職者でも世の常識に沿って軽く考えられていた。


地球には恐ろしい疫病は魔女のせいとされる時代が有った。恐怖に取りつかれた群衆が疑わしい者を教会に密告し神を説く教会が先頭に立って容疑者を殺しまわった魔女狩り。当時はそれが当たり前の認識だった。


この世も同じ様な認識だと思って欲しい。

学があるのは数%、文盲が大多数で、常識はの世界だ。


巧妙な錬金術が貴族から大司教にお願いされた。


・困った獣人が来たら相談に乗ってほしい。

・相談への対応策は大司教に連絡される。

・大司教は道士、道女を使い指定教会に指示を出す。


急進派大司教は最初は何も知らずに加担した。


何件か相談に乗るうちに、獣人の寄せる相談は結果として全てが金の無心であり、結末は獣人達の借金奴隷に収束する事に気付いた。気付いた時には急進派の教会関係者はどっぷり嵌っていた。国や領地単位で貴族から喜捨が教会に届いた。


アルが視た今回の図式はこうだ。


1:傭兵団が獣人村を占拠し、身代金を要求。

2:払えない金額を長老が教会に相談する。

3:教会が身代金が高すぎると盗賊と交渉。

4:安くなった身代金を納得させて借金奴隷として何年か縛る。


今回の図式はこの様だが、あの手この手で借金奴隷を作るベルトコンベアーに獣人を乗せて行く手口は皆同じだ。


急進派大司教も腹を括った。国の奴隷政策の基盤が傾いてると己に言い聞かせた。教会は身代金を交渉して安くしてやるだけだ。家族愛や種族愛の強い獣人は森の家族が守れたことで教会に感謝する。後は貴族が上手くやり借金奴隷で獣人を何年か縛る。教会が相談に乗るだけで獣人達は納得して感謝する。


この錬金術に乗った者の心は痺れて行った。


傭兵団より身代金を貴族が回収、一部は喜捨としてリケット教会に還流する。貴族が貸した借金は、獣人の労力で返済される。それは獣人が借金奴隷として集まる負のスパイラル。


貴族は程しか思って無いので仕方がない。巣箱を鉱山に置いてここで蜜を集めろと言うだけだ。


奴隷狩りのクソ共にウンザリしているアルは誰にも文句言うつもりが無かった。説教するのが面倒臭い、文句言うより狩った方が早い。闇の錬金術関係者を彼岸島送りからの更生村行きにした。


出資したのは侯爵どころか第二王子も絡んでいた。


全ての奴隷が消えた。


名簿から工区の割り振りから奴隷期間を示す書類、貴族や傭兵団、教会関係者は勿論、関係書類が何から何まですべて消えた。加担した領地の闇の錬金術は全てが停止した。


そこに事件があった事が消えてしまった。略取された獣人には、借金は消えたと森に帰すだけだった。


関係者は彼岸島研修の後、更生村で一生幸せに働く。奴隷狩り傭兵団はそのまま更生村だ。ある貴族は領主以下の跡取りがすべて消えた。だましてもそれをタブーと思わぬ分、喜んでやってしまう。


普通に暮らす者が奴隷になるまでに辿った険しい多様性を何も知らない。常識は奴隷同士で番い子をなして子も奴隷とするループ。それを命令する者に奴隷を問うても意味はない。


アルの想いを言う事も問う事も無意味なのだ。それは奴隷の子を鞭打って、我が子は溺愛する貴族なのだから。それが当たり前なら何を言っても無駄なのだ。


8月に奴隷関係者が消えても諦めぬ根性は認めるが危険な博打を打ち過ぎた。そしては風聞の通りに消し去った。


グレンツに変身したアルは静かに幕を引いた。


・・・・


リケット教を弁護しておく。


リケット教は基本獣人、亜人差別はしていない。それどころか獣人が司祭になる事も可能な開かれた教義を説いている。


今回のラウナン、セルノス、リブの三国は特に獣人が多い地域なのでリケット教に帰依して司祭になる獣人もいる。


元々獣人族は村が大きくなると他の森に移り住む。国を作らない分、未開国の未開人と同じで蔑視べっしし軽んじる人間は何処にもいる。それはメルデスでも獣人差別者は必ずいるのと同じだ。この世の常で少数派は力なく叩かれる。後進国は植民地、未開人は奴隷と少数派部族には人権が無い。


同じコミュニティー価値観や土地にいるとその中の意見を強固に信じ込む。それを多数派と思い込み自分は主流派とイキッてしまう。少数派の悪口をコミュニティーで聞くと安易に染まってしまう。


そんな背景で起こっている事件、リケット教の一派閥が利権や思惑に囚われただけだ。リケット教が悪いわけではない。奴隷狩りに加担した者は都市伝説の通り人知れず退場すればいい。


アルは迷惑な混沌衆を退場させるだけだ。


・・・・


18時にサンザ教会に戻りを報告した。司教と教道士が二人居なくなった事を報告するだけで良かった。この事件の関係者はすべて冥界に連れて行かれたから何も報告しなくて良いと神の御使いが現れた事を口止めした。


そして変身を解いて12に変わる。


教会の皆にしっかりと目線を合わせて、微笑みながら神の御使いらしく消えた。すでに事件があった事すら消えた。


驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。



・・・・



サンザの冒険者宿、銀馬車亭に合流した。今回の宿は家族部屋、ニウさんとコアさん、シズク、スフィアの5人部屋だった。


部屋に入るなり近くのニウさんと交換会話。


「凄い事件に発展しましたね」

「普通に盗賊に捕まってると思った」

「部族ごと人質を取り、身代金は回収とはすごい作戦です」


「簡単に大量に消えない奴隷を安価に作ろうとして、結局自分の人生まで消えちゃったね。どんな世にも後悔するまで分からない悪人は多いよ。みんな彼岸島でキッチリ後悔すると思う(笑)」


「今回のアル様は粛々となさいましたね、交感会話でも怒りの感情が特に薄くなってます」


「そりゃそうよ、安価で安全な奴隷の量産だと大喜びでやってたけどさぁ、やってたトップは第二王子と侯爵よ?そのままじゃん、地位に胡坐をかいてるもの。何か発覚しても尻尾を切って代償は払う気も無く逃げる気満々。そんな言い訳を僕は聞く必要も無いし粛々ともなるよ(笑)


着る物、剣、馬、馬車、家、地位、名声。人の纏う物は物であってその人じゃ無いのよ。王子だとか侯爵だとか纏う物で惑わされてけど、大体そんなのは結末で自分を思い知る。今回は国を巻き込んだ詐欺だからね、この世の法律でも斬首よ?罪人はみんな更生村に行ってもらう。やっとけば彼岸島だけで済んだのにね(笑)」


「アル様が視たら言い訳も必要無く更生村ですね(笑)」


「そうよ。消え残りの奴隷を考察して消去法でに辿り着いてた。そんな基礎研究から借金奴隷を錬金するなんて新しい犯罪過ぎる。頭のいいのは何処にもいるね、他に生かせばいいのにね」


「お金と奴隷が増える錬金術ですね(笑)」


「みんな更生村オプションの彼岸島ツアーにご招待だ(笑)」


「アル様を驚かせたご褒美ですね(笑)」

「そうよ。労働力が欲しいなら正規品使え!」

「正規品(笑)」

「バッタ品はダメよ?(笑)」


不意に交感会話が途切れた。


「アル様、夕食まで30分ですがお風呂は?」

「あ!あるの?行く!ありがとう!」

「いえ、ハウスに(笑)」

「あ!ギャフン!」ズッコケるのが新喜劇風。

「(笑)」


19時に食堂に行くと王都の隣の街だけあって隊商護衛の冒険者達がいっぱいいた、と言うのも街道情報の交換が活発だからだ。


その中で変わった盗賊の話を聞いた。


そいつが出たら、剣で立ち会って負けろという。負けて食料を渡すと大人しく帰ると言う。新手の剣術乞食と言われているらしい(笑)


視ても皆が噂だけで誰も遭遇して無いし口コミで対処法が語られてるのが面白い。勝手な噂が方々で流れてるみたいで信憑性しんぴょうせいもクソも無い(笑)


お父さんニウさん、面白いねぇ」


「おーい、お前さん達、うちら家族はこれから東のリブまで行くんだが、その剣術乞食は東方面かい?」


ニウさんが護衛冒険者の話に加わってくれた。


「おぉ、うちも東から来たんだが途中の街から噂に聞いたからそっち方面だ」


「ありがとうよ、知ってるだけでありがたい。こっちは女子供連れてるからな、一人の盗賊でも食料で許して貰えるなら安いもんだ」


「戦わないと食料を受け取らないらしいぞ(笑)」

「そうなのか(笑)」ニウさん。

「ホントかよ?(笑)」

「何だよ!ほどこしはダメなのか?(笑)」


「だからただの乞食じゃねぇんだろよ(笑)」

「たしかになぁ(笑)」


「剣の達人じゃねぇのか?」

「剣のお化けがお供えを取りに来たみたいだな(笑)」

「(笑)」


皆がそれぞれのテーブルでエールを飲みながら笑って話した。


部屋に帰って開口一番ニウさんに言う。


「明日捜してみようか?」

「わざわざ捜すんですか?」

「人が気になるってなかなか無いのよ(笑)」

「ははぁ、なるほど(笑)」


「盗賊は弓で射かけて襲ってくるよ、そんな風に出て来ない。そもそも護衛の冒険者に勝負を挑んで糧を得るなら盗賊じゃないよ。子供を育ててる剣の達人かも知れないし、達人なら街で冒険者も出来るのにそんな事する理由が知りたいよねぇ(笑)」


「戦わないと食料を受け取らないとは不思議ですね(笑)」

「お金要求して無いもんね(笑)」


・・・・



今から2月ほど前、その噂を聞いてアルの様に興味を持ち面白がった商会長が居た。押し売りのごとく奇天烈な立ち合い問答で食糧を要求する愛嬌のある剣士の話だったのだ。


その話の真実はこうである。


尾羽打ち枯らした埃にまみれた40代の剣士が、進む隊商の前に躍り出て膝を付き頭を下げて言うのである。


「武芸の達者な冒険者と見た、一手指南願いたい」


隊商は止まってしまう。

男は片膝を付き道の真ん中から動かない。


「なぜこのような事をする!どけ!」


「立ち会って頂き、剣技に何か得る物があった場合に2~3日分の食べ物を分けて頂きたいのだ、と思ってお立ち会い下され」


顔は垢じみて40代にも見える男が片膝を付いて一生懸命に頭を下げる。


深く頭を下げる男に護衛の冒険者が顔を見合す、止まってしまった商隊長が病に伏せる家族に食べさせる事情ならと食べ物を渡そうとすると、それでは物乞いか盗賊になってしまうと頭を下げて固辞する。あくまで立ち会って得る物があったなら食べ物をくれと言うのだ。


皆がその潔さに人柄を見て立ち合ってやるのである。そんな話を剣士と出会った商店主から聞いていた。


「病に伏せる者とはおっ母さんなのかねぇ?」

「はてさて、どんな事情があったのやら(笑)」


商会長と懇意の商店主の茶飲み話だった。


・・・・


そんな噂話から2週間後。

元よりどんな訳があってその様な事をするのか興味深々の大店の商会長。長男以外の息子も娘も独り立ちして悠々自適ではあるが商会は天職と隊商を続ける商会長。そんな者が実際に剣士と会ってしまったのだ。


「武芸の達者な冒険者と見た、一手指南願いたい」


興味がムクムクと起き上がり、護衛を押さえ商会長が歩み寄った。


「それでは指南してもらおうかの?」


隊商の主はよわい75である。


「立ち合う前に仔細は話してもらうぞ!」


行く手に立ちはだかった剣士に、仔細しさいを話さぬと食糧は出さぬと豪胆にも無手で剣士に歩み寄ったのだ。


剣士の男は驚いた。

そんな返しをされるのは初めてだったからだ。


(剣の柄に手を添える)抜剣姿勢で?と脅しても爺ぃはとズンズン近付いてくる。爺ぃは知っていた。立ち合っても相手を傷付けず、立ち合った後に深々と頭を下げお礼を言って食べ物を押し抱いて森に帰って行く正確な話を茶飲み話に聞いていたのだ。


「良いのか!」


しわの浮いた爺ぃじゃ、斬ってもよいぞ(笑)」


「うっ!・・・」


近付きながら言う老人に怯む剣士。


「もう2時間もすると我が街のシリカだ、もう旅の食料も必要無いからあげようというのだ。もらってはくれぬのか?」


剣士に迷いが生じた一瞬。爺ぃは柄に手を置く男の前に立ち、剣士の肩をポンと叩いた。


それは逆に店主が一手指南した様な形になっていた。


「ここは往来だ、護衛の冒険者もいる。仔細を話せとは言ったがゆっくり聞いている間もない、食べ物を持てるだけ持っておゆき。こんな事をやっていたらいつかは騎士団が来てしまう。シリカの西街、雑貨商のコモンドルだ、食べ物が無くなるまでにはこの爺ぃを訪ねて仔細を話しに来てくれよ(笑)」


荷馬車二台の近隣村専門の隊商。2~3日しか旅をしない一行でも食料は沢山持っていた。


・・・・



剣士ダウド(35)は街道にほど近い洞穴に持てるだけの食料を山ほど持ってトボトボと帰って来た。


洞窟の中にいた老人バルガが、ダウドが並べる多くの叱った。


「ダウド!おのれ隊商を襲ったか!」


「先生!襲ってはおりませぬ、それだけではなく負けてしまいました・・・」


「何!おのれが負けた?それは本当か?」


「本当でございます、無手の老人に負けましてございます。無手の老人に打ち込む素振りも出来ませんでした」


「無手の老人に負けて指南代とはどういう事だ?ダウド、物乞いに堕ちたか?」


「違います違います!」


・・・・


この二人、れっきとした貴族である。今は見る影もなく落ちぶれ薄汚れた風体で寝込む老人がバルガ・シャナクル(72)元ザナーク王国、宮廷騎士団剣術教錬である。ダウドもシャナクル流の剣術を継ぐ高弟、イード伯爵の三男でダウド・イード(35)という貴族である。


20年前、ザナーク王家の御家騒動に巻き込まれ、王太子派閥以上に力を増した第二王子派閥の政争が激化する中、聡明な第二王子を襲撃して殺したとの嫌疑を掛けられ、バルガ・シャナクルは間一髪で国を逃げ出した。王太子派閥に巧妙に仕組まれた罠だった。王太子派閥もやらなければ逆にやられるからである。


そんなバルガが生き残っているのは、王太子派の内情を知る王宮貴族が逃がしたからだ。その中でもシャナクル流派の高弟達(騎士団長や政務武官)が中心になり内密に事を運び、わが師を居宅からかくまい逃がした。バルガ・シャナクルがザナーク王国を出奔しゅっぽんするときには、王太子派はバルガが犯人と断定して居宅で捕え、翌日には息の掛かった真偽官の嘘証言でバルガが襲撃の真犯人にされる寸前だった。


まさに間一髪で王都を脱出したのだ。


魑魅魍魎ちみもうりょうが住む王宮政争の怖さを知る貴族家の高弟達は、以後の追手に備えて剣筋の良い息子達を師の護衛に付け、師から剣を学べと国を逃がした。


当時の王都の剣術道場。剣術教錬としての父とその子バルガ・シャナクルは上に交わりてへつらわず 下に交わりておごらず を地で行く師範親子であった。弟子を心から気に掛け各人の気性に合った剣の道をもって人生を説く人徳の師で有ったため心酔する者の中には命を投げ出す高弟もいたのである。またそれだからこそ王都務めの騎士団や政務武官の高弟たちに望まれて王家の教錬役に就いていたのだ。


当然、出奔しゅっぽんの後は王太子派の者によって、物事を知らぬ若い弟子をたぶらかしてバルガが逃げた事になっている。詮議を逃げた事で第二王子を殺害した罪が確定し、ザナーク王国から第二王子を殺した重罪謀反人として追われる身となった。


バルガ・シャナクルの王都道場でバルガの父とバルガ本人を師として可愛がられた現在のファドル・イード伯爵は20年前は伯爵家を継いでおらず、王都政務武官をしていた。当主として領地イード領に帰郷するまで二代の師に傾倒した。その三男ダウドは当時15歳。剣の筋も良くバルガが我が子供の様に可愛がったのでファドルが師の逃避行に同道させた。父にお師を頼むと託されたダウドは逃避行の満天の星の元でバルガと直参の弟子たちにシャナクル流派の神髄しんずいを叩き込まれていた。


出奔して早20年。4回の急襲があった。中でも5年前の大規模な襲撃でその当時5名いた弟子たちは押し包まれる手勢に皆倒れて行った。一番若いダウドは他の弟子たちに最後まで守られて、先生を頼むと言う遺言を何度も聞き、一人だけ今まで生き残っている。


最初は9人居た師の護衛団だったが、襲撃を受ける度に徐々に減って行き、今では路銀も二人で稼ぐ。剣術乞食はその時どうしようもなく尾羽打ち枯らしていた二人の窮余の策だった。師のバルガは出奔してから目が徐々に悪くなっていき、ここ3年は目が見えていない。


・・・・


行きずりの隊商の主との仔細しさいを聞き終えた師バルガは言った。


「なるほどな。ダウドよ、名人に会ったの(笑)」

「無手の老人がですか?」


「そうよ、何事も物事に精通すると世の事が見えて来る。その隊商の老人はお主の曇りなき目を見たのだろうよ。無体に剣を振るう目の曇った心の貧しき者ではないとお主は見込まれたのじゃな。商人と言ったの?言うなれば人を見る名人なのだろうよ(笑)」


「剣ではなく、私を見切られたと?(笑)」

まさにそうじゃな(笑)」


「ダウドよ、お前は儂が手塩にかけた最後の弟子だ。お主が剣を振れぬ者がいようか、お主は何処に出しても恥ずかしくない剣士ぞ。だからその老人は名人じゃと言っておる。違う世界の名人じゃ。お主が剣を振れぬなど、お主を呑んだ大した名人じゃろうな(笑)」


「はい、仮に剣を振っても止めた剣を笑ったでしょう(笑)」


「そこまで肝が据わっておればそうなるな(笑)」


「して、礼に行かぬ訳には参らぬぞ」


「明日、川に行って体と服を充分に清めてから礼に行きます」


「うむ、そうせよ。充分にお礼を言っておくれ」


「先生、頂いた食材で馳走を作ります。滋養を取って早くお体を治し稽古を付けて下さい(笑)」


「うむ、分かった(笑)」




次回 第386話  盲目の剣士

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