第381話  想念の至宝


9月3日(風曜日)


朝6時にはクリスク王国、ブラス領を旅立った。


領都をラウム教国方面に出る南門までは第一騎士団が見送りを兼ねて送ってくれた。南門の前では第一騎士団に聞いた第二騎士団長と副騎士団長も見送りに来てくれていた。


「正直、今回は領都の騎士団から賊を出した叱責を恐れておりました。教会裁判後、民が騎士団を見る目は変わっておりません。アルベルト大司教様、騎士団を代表して感謝いたします」


「真面目な者は報われますよ。すべて神の思し召しです。神に感謝を」


「言われるまでもなく感謝を捧げます。ラウム教国の大司教様のお陰で視野が広くなりました。これは大司教様への感謝です」


「あはは、それでは最高のお言葉を頂きましたのでご無礼致します。皆様に健やかなる幸福が訪れますように」


馬車に乗り込んで跳ね上げ式の窓から南門で見送る騎士団に手を振った。



・・・・


7時。


ブラスの街が見えなくなると山に向かう脇道に入って行く。程なくして馬車は止まった。


「周囲1kmに人はおりません」


「はーい。シズクもスフィアも一旦タナウスに帰って遊んでおいで。ペンテ伯爵領で視たらルウムリア王国だけ盗賊が異常に多いのよ、根絶すると他の国と不公平になるから魔眼優先で少々間引いてくる。


この大陸はネズミ魔獣の時以来の盗賊狩りなの、魔眼持ちも検索に引っ掛かってる(笑) 今回はタイムアタックで捕まえて更生村一択です。隷属だけしておくから布教して割り振ってね」


「かしこまりました」


「時差見てクランに跳んでメンバーの面接済ますからコアさんとニウさん聖騎士はインベントリ入ってくれる?」


「イコアが面接時間をお知らせに連絡致します」


「あ!それは嬉しい!(笑)」


馬も馬車も聖騎士もみんなインベントリに入れた。シズクとスフィアは俺が見たらスッと消えた。


「そんじゃ行きますか?タイムアタックに(笑)」


誰ともなく言い、気持ちを切り替えて防御恩寵マックスとポヨーン魔法をONにして身体強化を巡らせて飛ぶ。プロットの多い盗賊団から潰せば、冒険者だの傭兵だの騎士団も討伐が楽になるだろ。


・・・・


プロットが濃い訳だ(笑) 


いきなり跳んだら隊商襲ってる最中の盗賊だった。護衛冒険者と盗賊が切り結ぶが初撃の矢を受けて押し包まれ、商人も護衛もだいぶ旗色が悪い。腹に矢を食らった三人だけ応急のヒールしておく。


「ラウム教でーす!」


立派な僧衣の子が戦いに割り込んで注目させる。その間に隷属紋を叩き込んで恩寵を奪ってる。シャドの影が四方に伸びた刹那、とっ捕まえてそのまま更生村に跳んだ。


ミスリルのインナー着てるからって派手な教会服は大雑把過ぎた。乱入した俺を見た全員が一瞬固まってたな(笑) ポヨーン魔法付いてるから盗賊なんか気にして無いが隊商は戦う司教と思ったろうな・・・隊商に挨拶したら着替えよう。


ルウムリアに取って返して宣言する。


「もう安全です!出発して結構です」


「ヒール!幸福が訪れますように」


矢傷をみんな治して死人は出なかった。結構いい魔獣皮だが斬撃には強くても刺突には弱い。矢じりは容赦なく貫いてる。


「待ってくれ!盗賊は何所どこに行ったんだ?」

「ラウム教が滅ぼしましたよ」

「えぇ!?」


「獣に落ちた人間はラウム教が消し去ります」

「・・・」メチャクチャ恐ろしい事言う子供司祭。


「ルウムリアに獣に落ちた盗賊が多数いると教会から報告が届きましたが違いますか?」


「確かに盗賊は多いが・・・」

「良かった!それでは!」

「ちょ!」


「皆さんに幸福が訪れますように」


微笑みながら手を振って教会服の子供は消えた。


隊商はラウム教会が助けてくれたのは分かった。


そのまま盗賊のアジトの村に跳んで一瞬でお着替え。


ヤケクソで何でもやって生きて行こうという、ある意味セーフティーゾーンになっている避難村。元々は村民ごと村を捨てて逃げて来た集団が作った猟師と農民と盗賊の兼業村だった。

飢饉に税が払えず食い詰めた家族で隣の領に逃げようと山を越えると村に出会う。逃げた恰好を見たら分かるので家族で村に入り運命共同体の盗賊になる。


山深い隠れ村だが魔獣だけでなく人も襲っているから盗賊なら連れて行く。


留守番や母子も含めて隷属し、建物や荷馬車や馬まで丸ごと更生村に持って来た。新天地は良い暮らしが待ってるぞ!


次の盗賊を表すプロットの集合地に跳ぶ。


山賊砦だ。無かろうが盗賊全員の恩寵を奪うので関係ない。そのままシャドが盗賊含めて全ての建物や馬まで持ってくれる。砦の建物がでかいので一旦難民用に作った開拓地に建物を置いて更生村に跳ぶ。ハーヴェスVSカラムの時に捕らぬタヌキの皮算用で三振食らった難民用の開拓地だ(笑)


ちょっと休憩で葡萄ジュースを一杯飲む。


このルウムリアは盗賊と言うより山賊だな。やってる事は一緒だが襲った後に山のホームグランドに帰っている。国と国を跨ぐ山深い所に討伐隊を阻む山道が工夫されている。一本道で個人対個人の戦いで討伐隊がもたつく時間稼ぎに逃げる経路も整備されていた。


岩場を削った秘密基地みたいな倉庫にある鹵獲品を奪ってインベントリに入れる。馬や荷馬車はシャドが巻くから山賊と一緒に更生村だ。


検索すると呑まれた魔眼持ちがポツポツヒットする。

魔眼や面倒臭い恩寵持ちの盗賊団を優先だ。


恩寵取って隷属のコンボ。アジトの建物も物品も全部押収してアルが通れば更地状態、ぺんぺん草も生えない。


そんな中で捕えられた奴隷予備軍が八人いた。まだ奴隷狩りを始めて半年、奴隷に関わると破滅するなんて情報は内陸まで伝わって無かった。捕えられただけでまだ奴隷じゃないから検索も引っ掛かってない。


捕えられた者を衛星都市マリンのナノさんに預け、開拓地に置いた鹵獲品を整理してもらう様にお願いしておく。


魔眼だろうが恩寵だろうが超長距離レンジのアルには敵わない。飛んで来るアルの真実の眼とシャドの影縛りのコンボはなど相手にならない。


盗賊の中に危機感知が居ようが縮地が居ようがお構いなしだ。山の中腹から見下ろし、危機感知で何キロ先で逃げようがシャドが一瞬で巻いて行く。盗賊プロットの処理の手順を以心伝心でシャドが拾う。巻いた時には恩寵も無し、隷属されて更生村で布教を待つ状態にされている。


明が転生時。暴走せぬ様に危惧した人の神ネロはアルベルトの召される魂の記憶を明に転写した。そんなアルは間違いなく神の御子、使徒である。


肩書はそうだが、やってる事は魔人である。


・・・・


色々な恩寵を自由自在に操っているアル。


思い返せば、最初の盗賊団との邂逅は、一人一人を眼で追い『次は物理障壁だ!失敗するなよ!』と単発単発で用意して対応する魔法だったり恩寵だったりした。今では指を動かす如く、視線を向けるが如く当たり前に魔法も恩寵もコンボで繰り出している。


あれから色々な事を知ったアル。


恩寵の事は勿論、自分に足りない物も知り、それを知るために努力もしている、身体的に上限の基礎数値を考察し、伸びが悪くなると自らそれを捨てて効率良く一人で魔力線を練る様になっている。


もうリノバールス帝国に一人潜入したアルではない。


新年開けた時にネフロー様に鍛錬してもらった事で大切な根本を教わった。あの鍛錬で全て単発のことわりと思っていた事象が結びついた。物質世界に囚われた人の精神的な束縛の意味を学んだのだ。


その意味が分かったアルは強くなった。武術が強くなった訳ではない、強いて言えば恩寵が具現化するイメージ(想念)のテクニックを知ったのだ。人の持つ固定観念が恩寵を形作って縛っている事に気が付いた。


切っ掛けは色々あった。


・最初はSPの数字を一つずつステータスに振って防御恩寵を手に入れた。導師や師匠の恩寵付与もSPとにらめっこしていた。いつしか恩寵を付与と考えるだけで付くようになった。


極めつけは『インベントリに入れなきゃ世界樹が倒れて危ない!』と思っただけでSPの自動付与まで含めてインベントリの容量が世界樹すり切り一杯まで増えていた。


・ファイアボールがお辞儀する。精霊魔法もお辞儀する。


・金品強奪は概念でそれを価値と思えば証文も武具も奪える。武具強奪の恩寵があるのに付け替えなくても、武器も防具も荷馬車も家もアルが『金品に変わるじゃん、どうなのよソコは?』と考察した途端に金品強奪で奪える不思議。それが出来た時に自動的に消える恩寵:武具強奪。それはゴミでも価値ある物と思えば金品に限らず強奪する恩寵だった。そういうモノだと思って使っていた。


・想いの強さで精霊魔法が強くなる。その現象のイメージを精霊に正確に伝える事は重要だが、アルの場合は確固とした物質世界の真理であるあり得ない具現化を成す重要なカギだった。


・傷を怖がらずに中身を見て仕組みを見ながら治すという確固とした意志で魔力量は同じでも効果が違うとベルが驚く。それはアルが教えた事だ。


・気配察知の瞬間に危機感知の恩寵で悪意を同時判断する恩寵感覚。感知して負けたことが無い初動の先制攻撃。ファランクス自動迎撃システムとアルが呼んだ帝国の公爵護衛。それはアルが考えた様な便使様な物では無かった。


恩寵の複合は考えて行うものでは無かったのだ。意思と熟練で同時に発動する複合恩寵のコンボである事を今は理解している。


・大陸の土地によって恩寵の名前も変わり、Lvすらも1/1000単位の数字になる不思議。アルが視るステータスボードは槍術や格闘術なのに大陸によっては棍術や拳術と本人には見えてる不思議。


・魔獣の多くは掛け合わされたキメラ生物。種族的強みで生き残るサルと組み合わされたゴブリンやオークやオーガ。そいつらはステータスボードも無く、魔力具現化能力を持って生れ出るメイジの不思議。アーチャーが弓に天性の技を持つ不思議。上位種や変異種には特化能力がある、それは(イメージ力)から来ているかもしれないと言う事。



白い世界でネフロー様に武術を教わった時に全ては結びついた。魔力が流れる魔力線を血管に見立てたアルの想念で生まれた魔力線は魔力が流れると太くなり、結果として細かく出来ず霧散していた。


魔力線は細いと中を通る魔力の摩擦で魔力が詰まって太く高圧になる。とアルが知っている固定観念のせいだった。


自己流で鍛錬していたアルにネフロー様は言った。剣を振れば体得する物を剣も振らずに・・・視たアルはその意味を知った。


考えれば考えるほど考察して、自分が決めた固定観念に縛られてがんじがらめになっていく概念の世界を知った。


ネフロー様の操る武術と共にネフロー様を視た。概念とは形無きもの。想う世界の形無きものに、枠をめてとらわれ、物質世界では概念が個人個人の想念に制限される本質。そこにアルは想念の至宝を視たのだ。


転生する時に創世の神々に言われた言葉。その物質世界によって恩寵は変化するという意味は、その世界の神に決められた恩寵ではなく、その世界の固定観念や囚われる意識のせいで恩寵自体が変化するのではないかと今は思っている。俺の場合は地球で読んだラノベの定番を知るせいで本来の恩寵が無茶苦茶になっている可能性さえあった。


モンスターのメイジ。アーチャー、ナイト。人間の様に鍛錬してその技能を使える様になってない。つまりそういう想念に強い個体が群れの個体数で生まれ、それを利用してギルドは群れの大きさを測っている。人の魔眼出現が仮に10万人に一人なら、メイジなどの魔法特化は300匹に一匹と個体数ではなく出現確率的な物ではないかとアルは考えている。


アルはまだ至宝のさわりの部分に触れただけ。ネフロー様から学んでも物質世界にどうしても引っ張られる自分がいる。ハッ!と気が付く度に修正している毎日の鍛錬だ。それは己を練るための鍛錬、身体や基礎数値が修めた技に追いつくまで効率よく一人魔力線を練る鍛錬。



そんな事を思いながら盗賊ホイホイしてるが鹵獲品が勿体ないから回収してると手間取ってしまう。盗賊のタイムトライアルはダメだ、鹵獲品の多さでタイムが変わる(笑)


(アル様そろそろお時間です)イコアさん。


「はーい、これ運んでから行きます」


・・・・


ルウムリア11時半>メルデス6時半


メンバー希望のPTがクランハウス前に並んでいる。管理棟から横切ってハウスに入るなりリナスに『面接始めるぞー!』と伝えた。途端にハウスがバタバタし始める。事務員がなんか多いので視るとリナスにいつ子供が出来ても良い様に副事務長マイア(21) とエレクトラ(21)に仕事を叩き込んでる様だ。


リナス自身は子供を生んだら隣の家で母のラーナに面倒を見させるつもりなのだが、若手の危機感をあおってる。


希望者は7位が六名、6位が四名、5位が三名、外部PTが五名だった。十三名に宣誓の儀をしてやる。最近は宣誓の儀と装備準備金(小金貨一枚の装備を整える貸付金)目当てで入って来る下位冒険者が定番だ。人数的には今年の1月にランサンの冒険者学校が出来てからメンバー希望者が減って良い感じ。


横のイコアさんに10月のギルド研修所推薦の5位(魔鉄級)メンバーを聞くとギルドが5位のソロ四名と雷鳴が5位のPT六名を推薦して10枠は埋まったとの事。


7時の集会後に串屋、ロスダンとマリー夫婦の家を移築する。バイオレンス:ジョンとマニー夫婦と串焼き店長ポンスの家の間を綺麗に整地。クランの集会後に家の移築を見ている野次馬の中にキャプターがいた。「先生も噂を聞いたよ!早くアレッタと一緒になって家建てな!」言ってやったら野次馬に冷やかされている(笑)


ロスダンの家を建ててクリーンしてたら店長ポンスから注文。共有のゴミ穴を開けてくれとのこと。ポンスの所は串焼きを売って生ゴミが沢山出る。元々のゴミ穴が大きいのでジョンの家とロスダンの家とポンスでゴミ穴を共有した方が敷地が有効に使えるとの提案だった。


了解!と井戸の様な深いゴミ穴を掘っておく。子供が落ちない様に俺の身長ほどの煙突型のゴミ穴だ。生ごみはここに全部放り込む。まぁゴミの問題は・・・ゴミも語っておくか。


雷鳴食堂はギルド準拠の魔法コンロがあるが、教官も冒険者も基本は土間でカマドだ。(特別寮(元執政官宿舎)とクランハウスも魔法コンロ)7位のPTは炊事棟のカマドで焚き木燃やして三食炊事して野焼き放題、穴があればゴミ捨て放題の世界だ。街では隣の家がゴミ燃やしてたら通報どころか芋持って集合みたいな隣近所だ。


その中で粗大ごみも当然出る。

粗大ごみは出るが非常に少ない。物が高いので買わずに修理して使う。修理代の方が高くなるとその区画にある空き地に粗大ゴミが集まって、欲しい人が拾って行くサイクルだ。当然粗大ごみ置き場など無い、勝手に粗大ごみが空き地に集まって地域住民のリサイクルの輪に入って行く。


物が高いというのは大工が使うノコやカナヅチも当然高い。大工の息子が大工になるのは親と一緒に同居して食わせてもらって親の道具が使え、一人前になって嫁をもらう30代頃には大工道具が一式手に入るからだ。それ程にも職人が使う道具は高い。カナヅチやノミだけで数種類以上使う上に、使いやすく改造した道具を持つほどだ。


アルのリフォームハウスの大工さんが工期短縮とクリーントイレと暖房紋で釣って集めた大工は、皆一本立ちした息子達だった。俺は一人前の大工に成長して嫁を貰った経緯を視て感心した程だ。


物が高いというのは原料の希少性と物流の単価や世の税制でそうなっているシステムだ。冒険者の武具だけが高い訳ではない。


そんな事を考えながら串焼き店長ポンスの案が良い案だったので教官住宅三軒に一個のゴミ穴を開け直して行く。普通はこんな事しない、みんな自分でゴミ穴ぐらい掘るが、ポンスが来た時に大きなゴミ穴を掘るのが大変そうだったので凄いのを掘って以来俺の仕事になってるだけだ。あの時はみんながクランに来てくれるだけで凄く嬉しくて何でもやってあげたんだよ(笑)


でも、普通は貴族にゴミ穴掘れなんて言わない。orz


・・・・


8時に穴掘りを終えたらミッチスへ寄って(昼食代わりの)朝食を取りながら店長のアンリ(22)に予定していた3人の伯爵家メイドが来られないので、今まで通りアンリがこの店を仕切ってくれとお願いした。


「それは、今のままでしょうか?」


「今のままだけど、生活魔法持ちとか欲しいだろ?そういうのもアンリが考えて雇ってくれたら・・・」


「今、クランの事務員さんが来てくれてますよ」

「え?あ!そうなの?」


「はい、ヘーゼさんが去年の11月頃にリナスさんに仕事が忙しいと申し入れてから毎日来てくれてます。月によって違う方がみえますが、交代する日は使用人寮やお風呂場のクリーンもやってくれます」


「あ!そうなのね? 店は上手く回ってるのね?」


「はい!人員も問題ありません」


「そんじゃさぁ、アンリがいたギルド食堂の後輩いたら誘ってもいいからね。伯爵家のメイドが来るまでと思ってたけど、宿舎の食事当番がアンリだけじゃまずい。人を増やして余裕が出来たら2人ずつでも休みが取れるようにしよう」


「わかりました(笑)」


「春に孤児院から二人連れて来るけど男女の二人がいい?」

「はい、力仕事も多いので(笑)」


「それではミッチスは今まで通り任す。孤児院の子が春に来て男の子が三人になったら男子寮を隣に作る。現状の即戦力をギルドから雇うならリナスに言って支度金も用意して面倒見てやってね? アンリもさ、あの荒くれを客にして来た即戦力なら安心して店も休めるだろ?(笑)」


「はい!(笑) かしこまりました」


・・・・


朝食を取って雷鳴商店に寄って品揃えを見る。


スルマン店長の嫁のセリア(36)が赤ちゃんをおんぶして『アル様!』と気付いて驚く。新しい子が出来てた。弟と妹夫婦にも一人ずつ赤ちゃんが出来ていた。スルマン三兄妹は教官の親も入れて十五人の大家族になってる(笑)


セリアと話してたらスルマンが厩舎の方から入って来た。


「アル様!」

「久しぶり!盗賊の鹵獲品が有るけど在庫はどう?」


「そろそろ少なくなって来てます。2年経ってやっと安い店と口コミで広がったみたいです(笑)」


「うん、そんな感じの値付けでいいよ、ここで売るのは食えない冒険者向けだからね、そんじゃ倉庫に出そうか?」


「よろしくお願いします」


雷鳴商店が規模の割に二年で白金貨四枚(8000万円)近く稼ぐのは仕入れ無用の鹵獲品やメンバーがギルドで買い取りにならない半端な食糧を引き受けて売っているからだ。ここだけの話、盗賊が持っている物は全て商品になってしまう。鉄剣、ナイフ、楯、兜、丸胴鎧に手甲脛当てっこうすねあて。背嚢とか冒険者用の外套や隠れ家の寝具や毛布もそうだな。下着と上着をクリーンするだけで立派なリユース品になる。この世の生活必需品は盗賊が必ず持ってる物なのよ(笑)


盗賊が始末に困るモノ。

それは簡単に換金出来ない生活物資の生地や服のたぐいだ。男物は自分で着られるが女物の品物や子供服など換金できずに隠れ家に積んである。高い靴だって売り先が無ければ困るのだ。


そして鹵獲して来た生活物資をまとめて売るのが雷鳴商店とタナウスとサルーテだ。特にサルーテは流民の一万五千人以上が毎日の日雇い労働で働く。膝や肘が抜けたり、破れたりする服の代わりに良く売れるのだ。最近はサンダルの代わりに中古の靴を履く流民も多くなったり、流民村で河原の煮炊きの鍋もよく売れる。鍋は数が違うな・・・ネズミで滅んだ二国の生活物資だな(笑)


タナウスの方は街の人口が少なく、更生村の人口がもの凄いのでそっちで中古の服は消費される。行商のメイド隊がお安い生活物資や服を持って村に行くと奥さんが群がって良いイベントになっている。


雷鳴商店の倉庫に武具や生活物資を卸して行く。


多重視点でギルドのボランティア回復士を見るとお姉さんもお年頃、用の無い冒険者が回復士ブースに集っていた(笑) 仕事が無いなら良い暇つぶしと楽しくしゃべってる。


ブースが出来てちょうど一ヶ月になるので評判を北東のギルド長に聞いた。ギルド長はボランティア期間の延長を強く求めて来たが、ボランティアでLv3~Lv4の治癒士にいつまでもLv1の回復などさせていては経験値も少ない事を言って納得はしてもらった。


帰りに治癒士ギルドに言って何か不具合は無いか聞くと、Lv1相当の回復魔法で治る傷では冒険者は金出して治さないのでまったく問題無いと言われた。まぁ爪が剥がれたとか、かすり傷など冒険者はつばで治すしな・・・。ベルの最初の回復ってそうだったわ。って言ってた(笑)


なかなか難しい問題だった。

そんな小さな傷から細菌が入って一週間で死ぬのだ。大森林の土や魔獣の爪にはありとあらゆる菌がいる。中でも壊疽えそ破傷風はしょうふうは典型だ、腐って行く方は本人も気付くが、いきなりフラついて二、三日寝てる間に進行してどうしようもなくなる。皆がそんな知識もないから、ぽっくり病と怖がるが対策など下位の冒険者には何も無い。


知っているアルですら対策はクリーンを掛けた後に患部を切開して行うアルコール消毒、浄化薬(錬金術士ギルド、治癒士ギルドの魔法薬)、魔術士ギルドの状態回復魔法、聖水か教会神聖魔法のピュアしか無いのだから。


冒険者ギルドの窮状を伝えて、師匠が見つからない回復士の卵が居たら雷鳴で使い物になるまで引き取る事を伝えると治癒士ギルドマスターは喜んでくれた。


ベルの様に師匠の見つからない子が居るかもしれない。例え一人でも安い回復士を冒険者ギルドに置いてやりたかった。回復士も顔なじみなら冒険者PTに誘ってもらえるかも知んないけど初級の回復士なんて分け前が減るだけで戦闘の覚えが無いと邪魔者なのよ。


回復ブースの延長の話で思った時に止めた事。


ソロの冒険者に魔法の才が出た瞬間に光回復Lv1や水回復Lv1を付与したらと思った。が!止めた。魔法の事を何も知らない相手にスクロールや魔法玉を与える様なもんだ。しかも付与した事でその人生が大きく変わる。


アルが雷鳴でそれをやってしまうとクランで食えるように技術を磨こうとする者を無理やり目指してもいない回復士にしてしまう。それは人の人生を狂わせると思った。


アルはクランで千人以上の宣誓の儀を行っているがステータスボードに恩寵が発現した者を見ていない。司教クラスになると恩寵の発現を見た記憶があるのをアルは視て知っている。魔法の才が出るのは平民で1/30程度。そんな状態で回復の恩寵が出現するなど奇跡だ。(貴族は何代にも渡る領地経営と魔法士と武官の血筋で濃い薄いはあるが武術の才や魔法の才、経営(政務)の才を持って生まれて来る)


簡単に言うが魔眼の発現なんて夢のまた夢の確率だ。大司教クラスは内政担当で現場が少なく魔眼の発現に立ち会った者など居ない。宝くじにも程がある魔眼の発現はこの大陸に張り巡らされる教会ネットワークがあるから拾えてるだけだ。


宣誓の儀に来た冒険者に有益な恩寵が出ると当然教会は誘うが冒険者は誘いを断る。宣誓の儀をやる位の冒険者PTではすでに経験が深く、恩寵発現したなら貴重な存在になれるからだ。10歳以上で魔眼発現なら御子や聖女、それ以外の有益な恩寵は誘われるだけだ。末は上級司祭への地位が約束されても現状稼げる冒険者が読み書きから始めて将来は上級司祭と言われても断ってしまうのだ。


治癒士ギルドの紐付きでない低級冒険者向きの回復士の確保。ギルド長からボランティアの延長を強く望まれる事で打開策を考える様になった。


今はあの時の何も知らぬ知識とは違う。


今までのコルアーノ王国では、怪我や裂傷、創傷などの身体損傷を治す回復士が重要視されていたが、これからは病気も治せる治癒士も必要だと思うのだ。


治癒士とは以下の事を言う。


・治癒術士ギルドで回復魔法三種の光回復、水回復、聖回復どれかで刻印を得れば回復士。それに状態回復魔法を持つか、薬術士ギルドの状態回復薬調合か錬金術士ギルドの状態回復薬調合を持てば通称、魔法系治癒士


※冒険者ギルドで上記を行っても回復士は取れる。(師に付かぬ発現した回復士、若しくは冒険者をやりながらスクロール、魔法玉で回復魔法を取得した者)


・薬術士ギルドで回復薬(傷薬)調合でギルド証に刻印を受けて回復士。回復士が各種解毒薬状態回復薬、魔力薬の調合でギルド証に刻印を受けて通称、薬士系治癒士。


・錬金術ギルドで回復ポーションの調合ならギルド証に刻印を受けて回復士。回復士が状態回復薬、魔力ポーションの二種調合でギルド証に刻印を受けて錬金術系治癒士。


・聖教国は聖魔法のヒール(回復)、ピュア、ピューリファイ(浄化)とディバイン(状態異常回復)で教会で治癒士証に刻印を得たら通称、教会系治癒士。


魔法回復士は状態回復魔法か薬術か錬金術を修めなければ治癒士になれない。一般的に回復士の戦時召集が多かった為、状態回復魔法を修める期間より薬術か錬金術を覚える方が早いのでコルアーノではそうなっている。


魔法系治癒士の道は資質に左右される。薬師系治癒士か錬金術系治癒士なら努力で何とかなりそうだと思った。今の段階ではどうなるか分からないが布石は打って置く事にした。


その日の晩、アルはクルムに出来る限りの錬金術、薬術を基本からファーちゃんに教えてくれる様に頼んだ。当然、冒険者ギルドに常駐する低レベル治癒士を置く必要性と無医村が多い国の現状を説いた。


Lvが上がり次第に故郷の村に返して無医村を少しずつ無くしたいことを訴えた。それを聞いていた三賢者もそれぞれが必要であろう事を教えてくれると約束してくれた。


※コルアーノ王国には普及、体系化されてないが呪術系治癒士と精霊魔法系治癒士がある。




次回 第382話 私バージョンアップ

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