第378話 魔眼狩り
8月30日(雷曜日)クリスク王国。
バファエル伯爵領18時>ブラス子爵領18時。
教会に帰るとコアさんに
「今はこんな感じに考えてる」
「アル様は根源を断つ事をお考えなのですね」
「うん、こんな魔眼の小さな犯罪なんて頭に無かった。始祖セリムの時代の魔眼の凄い豪族しか知らなかったもの。中央大陸は魔眼発現者を聖教国が保護してるからそんな小さな魔眼の犯罪なんか聞いた事も無いでしょ?頭にすら無かったよ」
「そもそもさぁ、1月にテズ教とラウム教を深く視た時にこの大陸にも始祖の時代にあった魅了眼みたいな危険な魔人災害は知ったよ。でも聖教国と一緒で危ない魔眼は教会に相談が来た時分で保護する事も知ったのよ。こんな末端の魔眼犯罪まで予見は不可能だよ。僕の中では魔人災害なんてマジ昔話だったの。過去の歴史と思ってた僕を責めないでよ?(笑)」
「責めてはおりません(笑)」
「防ごうと思っても聖教国式の対策は取れない。宣誓の儀が無くてもステータスボードが発現しちゃうから不可能でしょ?流民や貧民の子でもステータスボードが付いた瞬間に発現したら誰も分かんないんだよ。教育も何も無く昔と一緒で覇権に向かうか世を恨んで悪事に行く率も高いと思う。コレ、世に隠れる魔眼持ちの
「それで変則的な聖教国式の集め方ですか?」
「取り合えずだけどね、今日の話だもん(笑)」
「これなら
「それでさ、神教国が
「数が問題ですね。アル様が仮定で計算された魔眼出現率が10万分の1でもコルアーノの人口比率では毎年30人は出ると思われます。大陸の全てがステータスボード持ちと考えると、ラウム信徒国だけでも10か国以上。毎年300人以上、そして8歳から高齢者までと仮定すると2万人以上という途方もない人数になります。全ての魔眼持ちが申告しては養うのが困難になります」
「そうなのよ。その莫大な数字も分かるけど、聖教国の御子と聖女の数からしても、宣誓の儀に対する魔眼持ちの出現割合が分からないと机上の空論なんだよね」
「あんまり来たらタナウスへ連れて行く?(笑)」
「間違いなく養えます(笑)」
「生活を約束して集まったら考えたら良いよ。魔眼で人を泣かせて来た奴は僕が裁く。魔眼ホイホイだ(笑)」
「魔眼や有益な恩寵急募!来たれラウム教会、高給優遇!とキャッチを入れましょう(笑)」
「イヤイヤ!司祭が教会で粗食なのにそれは酷い。司祭の暴動を誘発するよ(笑)」
「ほどほどに(笑)」
「まぁ冗談はさておいて魔眼持ちの救済と犯罪予防対策として考えただけだから。悪い奴は明日の教会裁判後にルウムリアの盗賊と一緒に狩ってくる」
「はい」
「そんじゃ、各教国の魔眼や恩寵募集はあくまで教会が仕事を与えて生活を援助しますという感じでお願いね。僕は教会裁判に間に合うようにブラスの街のギャング気取りをとっ捕まえるよ。
あ!
「明日の打ち合わせはどうします?」
「時間がまだ分かんないでしょ?」
「先程、聖騎士を子爵邸に送り、日程と時間の連絡を兼ねてその件を話し合っておりますのでしばらくお待ちください」
「あ!・・・お見それしました」
「騎士団には国法の教会裁判に従えと教会から釘を刺しておかないとね。伯爵家と子爵家の
「そのように今から話します」
「お願いします(笑)」
・・・・
19時には教会裁判が9月2日の光曜日9時から行われる事が決定された。
教会での夕食後。俺はコアさん、ニウさんを連れて騎士団駐屯地に赴き教会裁判の決定を伝えると共に今夜領都の賊を討伐するので団員をお借りしたいとお願いした。
今日の輪番の第二騎士団長に当然連絡が行き、第二騎士団長と副騎士団長と他に3名の騎士が21時に教会まで来てくれた。討伐は教会が行うので現場の確認と伝令がいればよいと伝えたのに自分達が討伐する気満々だ(笑)
俺としては深夜に徘徊する賊を美少女メイドを餌に釣り執事のフォボス、ダイモスで返り討ちにしようと思っていた。
騎士団が伝令どころか捕縛に加わると息巻くので作戦変更。シズクとスフィアは部屋で寝かし付け、俺とコアさん、ニウさん、聖騎士四名、騎士団五名のPTで22時に街に出た。餌はすでに泳がせてある。
領都を徘徊する獲物を狙う賊まで一直線に向かい、美少女メイドを襲った瞬間に二名の賊を皆で押し包み捕縛した。
「
「これでよろしいですか?」
「ちょっとお待ち下さいね・・・」
隷属の首輪を出す。
「裁判まで大人しくしてもらいます(笑)」
「分かりました(笑)」
隷属の首輪で大人しく従う様に言い含めた。本人が逆らう気になっただけで首輪が締まる。以後は二人の賊が大人しく自分で付いて来る。
「次はこちらで釣ってます」
「こちらの女性は教会の?」
インベントリの美少女戦隊だよ。
「はい、私のお付きを餌に襲わせようと(笑)」
「危険過ぎますぞ!」
「私のお付きは賊には負けません(笑)」
話しながら先行させたニウさんの方へ向かう。
もうニウさんが二名を倒していた。剣を握って悶絶する賊に隷属の首輪を嵌めてヒールして起こす。大人しく言う事を聞くようにゲッシュする。
「あと二名、こちらに釣って来るみたいです」
「こちらに?」
「皆さん南から来ます。その建物の裏に隠れて下さい(笑)」
平民服をまとった美少女メイドが小走りにやってきた。後ろの賊二名は今駆け出した。メイドはダッシュして差を詰めさせない(笑)
丁度良い距離になると美少女が助けを求め出す。
「お助け下さい!」
「お助け下さい!」
「どなたか、お助け下さい!」
#「待てーい!」
団長と副団長がメイドの叫びで耐えきれず飛び出しちゃった!抜剣の騎士二名を見て途端に身を
0時前。
向かう先は隷属の首輪で聞きだしたアジト。
六名の賊を後ろに引き連れる。すでに総勢二十一名の一行になっている。
「アジトはうちの聖騎士が突入します。相手は魔眼を持つ賊ですので騎士団では危ないのです。そのための教会主導の討伐ですのでご了承下さい」
「は!承知しました」
「教会裁判は第一騎士団の仕切りになりますか?」
「そうなるかと思います」
「それでは教会裁判にコルツ騎士団長と副団長の証人出席をお願い致します。本日はもう遅いので
「は!間違いなくお伝えします」
「アジトに着いた様ですぞ」
捕えた賊が屋敷の入り口と裏口を説明している。
「こちらの屋敷ですね?聖騎士一名が裏口を押さえて、正面から三名が賊を無力化して下さい」
「は!」
「行きますよ!」
俺が正面の鍵の掛かって無いドアを開けると聖騎士三名が突入した。俺は交感会話でコアさんに邸内の賊の位置をプロットで伝えること一秒。
聖騎士は各々違う部屋に向かった。
「なんだ!てめえは!」
「ラウム教会だ!大人しくしろ」
「ふざけんな!やっちまえ!」
たちまち怒号渦巻く無茶苦茶な乱闘音が邸内に響く。
「乱闘の収まった部屋から見て行きましょうか?」
「大司教様、私が先に!」
団長が
「お願いします」
転がる賊に騎士団が捕縛する。隷属の首輪を掛ける俺は認証しながら大人しく従う様に言うだけだ。
最後の部屋で騎士団長が絶句した。
「フラベル様!
「領都を騒がす賊だったからですよ」
「俺にこの様な真似をするとはな!」
足腰が立たない程も聖騎士に痛め付けられ、床にノビて動けない。魔眼を使っても逃げられないので機会を待とうと観念してる(笑)
「捕まった賊が何言ってるんです」
団長が捕縛を躊躇するので首輪を嵌めて隷属する。
「神から頂いた恩寵を無駄に使いましたね、ラウム教会が来たからには魔眼のお遊びは終わりですよ」
フラベルは的確に言い当てられて絶句した。
「皆さん、こちらへ・・・」
扉に
囚われる娘達を騎士団全員に目撃させて扉を閉める。息を呑んだ騎士団に説明する。
「今から法術でここで有った事を忘れさせます。捕えた賊の自白を元に騎士団が囚われた娘を発見、人買いに売られる寸前に連れ戻した事にして下さい」
「そんな事にして良いのですか?」
「あの中の一人に結婚の約束のある者がいます。この事実で
「その様な事まで分かるのですか?」
「ラウム高位の神職は神託が聞けます、王国真偽官の教会版です。ですからその様にお願いしております」
「大司教様が仰るのであれば。皆、その様に!」
「は!」
「口外無用にお願い致します(笑)」
アルはニッコリと笑いかけた。
「それでは、法術を掛けに参ります」
アルは扉を開けて中に入っていった。
10分程してアルが出て来ると言った。
「もう夜分遅いです。ここに
「分かりました、明日にでも騎士団、守備隊には事のあらましを周知致します」
「よろしくお願い致します」
「罪人と娘達を騎士団で保護するのをお願いしてよろしいですか?」
「は!」
「これをお持ちになって各団長に言い含め、罪人を決して牢から出さない様に」
廃嫡書類を第二騎士団長に持たせた。
「な!・・・承知いたしました!」
深夜1時過ぎ。
教会に帰ったアルは明日は9時まで寝るとベッドに入ったがコルアーノのオークション結果が入っていると聞いて交感会話をしてもらった。
交感会話で8月中旬に行われた王都オークションで飛竜の皮が白金貨七枚(1億4000万円)で売れたと聞いた。これは出品した北東ギルドへの速報という。皮の移送と代金の回収を含めて税金やギルド手数料を含めるとカウンター受取額は白金貨五枚。北東ギルドから10月中旬頃には貰えるらしい。元々イコアPTが狩った事になってるのでイコアに任せた。
・・・・
9月1日(土曜日)
アルが9時に起きると、第一騎士団長から第七騎士団長までが教会を訪れていた。大司教様に面会を望んで来られたとのコアさんの言葉。
視ると大司教様は子供なので良く寝ると言って待たされていた。何言ってくれてんだ!・・・そうだけど(笑)
「顔を洗ってすぐに行きます」
教会横にある孤児院の食堂に通された。
机には司祭二名とシスター七名と騎士団長七名がお茶を飲んでいた。鎧の武官が七名居ると人口密度もさることながらとても狭苦しい図だった。
「ラウム教国、大司教のアルベルト・カミヤです、皆さんお初にお目に掛かります。明日の教会裁判はよろしくお願い致します」
「ブラス子爵領、第一騎士団長のガズ・ヘルマンと申します、次に第二騎士団長のコルツ・ノーマン、第三騎士団長のジョゼ・ハリスン、第四騎士団長の・・」
皆が余りにも子供の大司教なので驚くが、すぐに気を取り直してそれぞれが紹介と共に挨拶してくれた。
取りまとめる第一騎士団長のガズさんに言った。
「ご丁寧にありがとうございます。小さな子供とお思いでしょうがラウム教会は法力の強さで序列が決まります。まだ15歳の子供大司教ですが教国では教皇様以下10位ほどの序列で総本山の名簿に載って成人しております、子供と思わず何でもお聞きください」
皆が子供がNGワードと知った。
「大司教様、この度の賊の件。不甲斐ない騎士団をお許し下さい。しかし、どの様な法力を持って賊を討伐されたのか出来たら教えて頂きたいのです。コルツの話では賊に一直線に向かわれたとか・・・雲をつかむ様な法力のお話で信じられないのです」
「この世におわす神々の導きですね。皆さんは神がおわすことを知っていらっしゃる。しかし手助けせぬ事も知っていらっしゃる。それでいいのです。神が手助けしない事を知って己で解決しようと個々の騎士団員が日々を努力する。
今回の件はそういう世の
「神託なのですか?」
「いや、信じるも信じないも自由です。そんな事を言っても疑う者は信じないのですからどうでも良いです。事実として領都の賊は討伐され、売られようとした娘は取り返した。これは全て騎士団が行った事と明日の教会裁判で私が民衆に聞かせますのでそのつもりでいて下さい」
「その様な事を・・・」
「いえ、教国のお偉い流れ者がフラッと現れ、巷を騒がす賊を討伐したらどうなります。守備隊、騎士団、果ては領主の面子にも関わります。街の少年たちの
「しかし・・・」
「嘘を吐くのはいけない事と言うのは子供に言って聞かせる物です。大人の嘘は周りを明るくする嘘です。家の前の捨て子を拾い親だと嘘を吐く者に、正義を振りかざしてそれは嘘だと告発しその家族の幸せを壊すのは正義ですか? それを知る周りの者は暖かく見守ってやるでしょう。そのような嘘は神は喜んで見守ってくれますよ。それは人の世が住みやすくなる嘘だからです」
皆が真剣に聞き入ってくれている。
「今回の事件、騎士団が内偵して賊を暴いたというニュースはこの街を明るくします。治安が良いと民が街を誇らしく思います。民の為、領地の為と思って後ろめたい気持ちを
聞く皆が、それは子供の言では無い事を認識した。
「そのお役目お引き受けいたします」
「昨夜、女性の助けを呼ぶ叫び声を聞いて窓から覗いた者が、すでに領都騎士団が助けた事を見ています。
ALL「(笑)」
「明日の教会裁判の段取りはこの様に・・・バファエル伯爵家のみなさんもフラベルとカーツ・バファエル卿との
ALL「え!」
「しかし、その様な事は・・・」
「出来ます、教会から申せば出来ます。第二騎士団はバファエル伯を命を掛けて守って頂けますね?」
「・・・」
「なら、第三騎士団がお受けする!」
「ちょっと待て!話は第二騎士団に・・・」
「第四騎士団が命に掛けて!」
「その任、第五騎士団が・・・」
「待て待て!待てー!」
「第二騎士団のコルツ卿は昨夜フラベルの隠れ家を急襲して捕える事に成功しておりますのでバファエル伯もお喜びになると思ったのですが・・・それなら騎士団長に決めて頂きましょう(笑)」
「コルツ、お受けしろ!」
「は!謹んで!」
「それでは、昨日の仔細を子爵様に報告して、賊の隠れ家を見分して頂きましょう。総責任者のガズさんと昨夜の輪番で事件を目撃したコルツさんもご一緒にお願い出来ますか?」
「は!伺います」
「帰り次第に連絡する、屯地で待機せよ」
「は!」
第一騎士団長は他の団長のジト目を振り切った。
馬車の用意を待つ間に、お茶を飲みながら司祭やシスターと雑談する。ラウム教の司祭は民心を安堵するのが役目で教会の手に余る問題は王都大教会に相談する様に伝えておく。ラウム教国に恩寵集団の御子や聖女がいるのは信徒国の諸問題を解決する為と告げておく。
司祭は朝からの話を聞き、体は子供でも言う事は立派な大司教と感心した。ブラス子爵とタメで打ち合わせを行うどころか領都の騎士団さえも手足の
その大司教がやって来た訳は、あくまでラウム教の布教を兼ねた奇跡の実演が目的だ。
・・・・
子爵に昨夜の報告と共に昨日廃嫡にした長男を諦めて踏ん切りを付けてもらうように言った。
そして悲しむ奥さんの前で宣言した。
本来は領都の民を襲う賊の統領など断頭台で首を
月に一度ぐらいの精の付く食事や菓子の差し入れは許すが、フラベルのみに差し入れるのは許さない。鉱山に働く者全てに差し入れるなら許す事を付け加えた。
子爵と夫人は涙を流して、感謝しますと礼を言った。騎士団の二人はそれを悲痛に聞いていた。
湿っぽい話になったので、本当の事を教えてあげた。この子爵は神を信じ
神のネロ様はなぜ人を愛するのか、人は物質の欲の中で生まれて
そして家族になっている者達は不思議な
次に家族として生まれて来る時には、この世で反省して磨かれた分だけ良い子で生まれて来ると教えた。
だから、親が甘やかそうが厳しくしようが本人が磨くかどうかは本人次第。その罪を見据えて
誰もが多かれ少なかれ罪を犯す。
その過ちに気が付いて反省して人生を修正するのは世の全ての人の
辛い奴隷労働で豊かな家に生まれていた事に気付き感謝し、優しかった母の愛に気が付き、
だから何も心配は要らないと言った。
良かれと説法したら夫妻を余計に泣かせてしまった。
騎士団長二人も目を瞑って清聴してくれた。
信じるも信じないも個人の自由だ。
次回 第379話 神前決闘
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