第375話  ゴジラ対エヴァ



教会の裏に隣接する公園の木陰で天幕を張り、休憩のお茶をしながら息子エルノスの裁きの番が来るのを待つペンテ伯爵。広場で巻き起こる大歓声を斬首が出たかなと笑っていた。エルノス様の裁判が始まったと青くなった執事に聞き、広場に行くと長男はぼろくずのように蹴られて広場で観衆の見世物になっていた。


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ペンテ伯爵を呼びに来た執事はパニックになっていた。奥方アドリア妃が昼には無罪で帰ると聞かされ、屋敷で祝宴を用意してるからだ。


執事は裁判は無罪が確定すると安心していた。お茶で休憩する伯爵にエルノス様の番を見て来ますと断り広場に向かった。広場に出ると見てしまった! 大司教のクロスカウンターがエルノスに決まった所を。


広場の小さな大司教は背中で語っていた。


執事は顔面蒼白になりながら伯爵を呼びに行った。


・・・・


伯爵が慌てて案内する執事に付いて行くと信じられない事に息子のエルノスが広場で蹴られて転がる姿だった。


「な!」目を疑うペンテ伯爵。


ペンテ伯はボロ屑の様になって動かないエルノスを見て絶句。そんな中、倒れて動かないエルノスを尚も蹴り飛ばし広場に転がす大司教。


ペンテ伯爵は思わず広場に駆け込んだ!


#「大司教!何をやっておるか!儂の!儂のエルノスだぞ!忘れたか!伯爵家の長男だ!昨日会ったのに忘れるとは無礼にも程が有ろう!」


「えー?」大歓声で聞こえなーい。


伯爵が広場中央に出て来た事で歓声は静まった。そしてアルに近付き言った。


#「えー?ではない!免罪証の話は何処に行った!返答次第ではタダでは済まさんぞ!」


「免罪証を民に語り免罪を与えようにも、人を殺して反省もせず、無罪が当たり前と大観衆の前で公言されては教会もどうしようもありませんよ(笑)」


#「何を無礼な!誰に物を言っておる!言われた通りにさばけばよいのだ!ラウムの司祭風情が大層な口を利きおって、身の程を知れ!」


バカ親に上から目線で言われムカついた。


「教会裁判に乱入してなに言ってんです?」ドスが効く。


#「うるさい!小僧は黙っておれー!」


「団長!教会裁判を妨害する者を捕えよ!」


騎士団長も騎士団も大慌て!


#「何を言っておるか!騎士団は儂の騎士団だ!」


「ルウムリア国法を破る狼藉者を捕えよ!」


騎士団がワタワタしている。


この時点でアルは裁判の正当性と何人たりとも犯せない教会裁判を大観衆にアピールしている。


#「この者共は儂が俸給を払っておる。教会が俸給を払っている者ではない。指図は止めてもらおう!」


「教会裁判を妨害してタダで済むと思うのか?それと俸給はここにいる民が払っている、お前は配っているだけだろう?」


#「小僧の減らず口がうるさいわ!こんな茶番はもうよい!儂が宣言する!教会裁判は無効だ!」


そろそろ地を出す事にした。元々アホ貴族を〆るのが目的だ。


#「おぉ!お前、喧嘩売ってんのか?」

#「何を言っておるかー!」


#「ラウム教国に喧嘩売ってるのかと聞いている」


#「何がラウム教国だ!下っ端の分際で国を出すな。片腹痛いわ!ペンテ領で儂に逆らうとは分別も分からぬ子供が何を言うか」


#「確かに下っ端かもしれんが聞け!聞いたらペンテのクソ領主に子供が分別ふんべつを分からせてやる。裁判を見に来た観衆よ、よく聞いておけー!」


フー!と一息ついて集まった者全てに言い聞かせる。


「この大観衆の面前で、エルノスは人殺しと言われている。何人もの目撃者もいる、家臣の中には殺人を知って隠してる奴もいる。それを神の見守るこの教会裁判で無罪放免に出来ると思ってるのか? 広場を見てみろ!皆がお前の正気を疑ってるぞ」


#「ええい!無礼な小僧め!ここを何処だと思っておるか!」


冷静に説明したのに、またもやアルに再点火。


#「無礼だと?何言ってんだ。何人も殺してる極悪人を裁いてる教会裁判に口出すな。お前こそここを何処だと思ってんだ!お前にそんな権限はない!エルノスを斬首して首をさらすに決まってるだろうが!」


#「なにをー!エルノスを斬首と申すか!」


アルもどんどんヒートアップ。そろそろ抑えているパターン青が心配だ。


#「偉くなったもんだなぁ?ペンテの伯爵よ!お前はネロ様より偉いのか? ネロ様のラウム教舐めてんのか? お前は何様だ?あぁ極悪人を権力でかばうバカ親か!だからこんなろくでも無いのが育つんだよ。お前も一緒に教会裁判妨害の罪で断罪してやるから遠慮するな!(笑)」


アルの顔がヤンキーの因縁ズラで引き攣っている


領民の前で言われまくる伯爵。


#「このれ者が!ほざきよって!騎士団!何をやっておる!逆賊を捕えよ!」


騎士団がワタワタしている(笑)


#「早くせんかー!」キレまくる伯爵。


覚悟を決めた騎士団が俺に殺到した勢いでパタリと倒れた。


大観衆に言って聞かす。


「あーぁー!神を敵にしちまったよ!」


「何だ!何が起こった?」


「教会に逆らう気になった奴はそうなるぞ!まだ動ける者は教会に歯向かうな!ルウムリアの国法に背く事になり同じく断罪されるぞ!」


輪陣形で立膝で控える騎士団が、立ち上がった者だけ輪陣形で倒れている。


#「何をしておる!逆賊がここにおる!捕まえんか!」


二人動いて俺に向かった者がパタリと倒れる。


「な!・・・」


#「てめぇ!ラウムの大司教に向かって二回も逆賊と抜かしやがったな? あっはっはっはっその通りだ!神に逆らう奴から見たら逆賊だ。神から見たらお前は神敵だ、神敵はラウム教会が一緒に断罪してやる」


このやりとりが大観衆の前で行われている。


「騎士団、倒れている者は教会に害を為そうとした神敵だ。後で教会裁判の妨害罪でこのバカと一緒に裁く、縄を打って被告席前に転がして置け!」


騎士団が倒れている者を被告席の前に引きずって行く。


この犯されざる二大権力の戦いは実写版ゴジラ対エヴァンゲリオン(に出て来る使徒)に匹敵する世紀の戦いだ。


アンギャー!と怒るゴジラに使徒が半麻痺の怪光線で攻撃を開始した。


伯爵に正面から飛び掛かる大司教!


バチコーン!


張り手気味の右ビンタが炸裂!後ろに飛ぶ伯爵。グッとよろめきながらも耐えて両足で踏ん張る伯爵が見たものは風の様に迫る大司教のヤクザキック。


顔面に衝撃をもろに喰らった伯爵がもんどり打った。


転んだ伯爵にストンピングとキックの嵐。


見下ろす伯爵が動かないのを見て使使エルノスと同じ様に市中引き回しの刑を実行した。


今度は小太りの伯爵をビッタンビッタン投げまくる。


あろうことか大司教は伯爵の悪事を一つ一つ民衆に言って聞かせながら断罪しては広場に投げて行く。(騎士団の)輪陣形の歯抜けた部分から伯爵が飛び出すと観衆が大喜びで広場に押し戻してくれる。わーい!


ロープに振られて戻ってくる伯爵を不沈艦のウエスタンラリアットが迎え撃つ。ユース!とやっても誰も分からない。


教会裁判は一体感に包まれていた。


伯爵は使徒の怪光線でボロぞうきんにされた。


広場中央でゴジラとミニラがノビている。武官恩寵を持つ伯爵が一方的ににやられた事を騎士団は恐れた。


使徒は倒れたゴミを見下して幽鬼の様に立っている。


それを見ていた次男ジータ・ペンテは震えあがった。


幽鬼が振りかえったのだ。


ゴジラとミニラが広場に沈む中、使徒が振り向いて目を光らせると(N2爆弾窒素爆弾の惨劇を背に)フラリと近付いて来た。


使徒が恐ろしい声を響かせる。


「おめえも一緒にやってるな?」


使徒の手が伸びて次男ジータの襟首をガシッ!と掴んだ。そのまま引き寄せて顔を覗き込む。


覗き込んだジータの顔に頭突きをかまして頬をパンパン叩く。飽きたら腹パンで膝をつかせる。次男の髪の毛を掴んで広場を引きずり回す第三幕はプロレスショーが開幕した。


#「お前ぇはおこぼれのつもりかも知れんが、バカ兄とお前が泣かした女の分はお返ししてやるぞ。ジータ・ペンテ!ラウム教会の神敵の子よ!」


広場の観衆に良く聞こえる様に宣言した。


その場でボコボコに技を掛けておく。投げ技はゴジラとミニラを探してぶつけに行く念の入れようだ。


「神の報いは必ず来る!わかったな?」


「・・・」


「返事がねぇな?」


襟首えりくびつかんで言う。


「おまえも教会に断罪されたいか?」

(すでにされている)


ジータが首をフルフルする。

フルフルしようが視て分かるアル。


#「いいや・・・まだ分かってない!悪事を働くとこうやって報いが来ることを分かっていない!」


更に痛め付ける。投げ飛ばす。


「お前が分かるまで続けてやるぞー!」


蹴り上げる、蹴り飛ばす。


#「ほら!痛いだろ?これがお前がやってきた悪事の報いだ。悪事をしそうになったら思い出せ!この痛みを思い出せ。この大観衆に悪事がさらされる事を思い出せ。神を代弁するラウム教会がお前の身体に罪を教えてやるぞ!罪の痛みをその体に刻み込めー!」


ズシーン!と広場にブレーンバスターが炸裂した。


「分かったか?」


「はい」


「この極悪人を断頭台に掛けるが文句はあるか?」


「ありません」


ねぇのかよ!何か言えよ。お前の兄だろうが!お許し下さい言うと思ったらまさかのボケか?驚いてツッコミ忘れるわ!


「騎士団!その転がった罪人を断頭台にかけよ!」


ワタワタする騎士団の尻を蹴りあげる。


#「民を助ける騎士団じゃねぇのか!騎士団が民の恐れる悪人捕まえないでどうする!こいつは極悪人、殺人鬼エルノスだ!」


ノロノロと動くのでじれったい。


伯爵と長男を断頭台に引き立てる第一騎士団長と副騎士団長。


実はもの凄い苦悩が視えたのでドミニオンの隷属紋を付けて催促したら使命に燃えて大喜びでやりはじめた。


「お前達!何をする!儂は主だ!血迷うな!」


「血迷ってるのは狂ったお前だ!正気になれ、裁くのは教会だ。ルウムリア王国が認めたラウム教会が罪人を裁くのは国法の元、正当な行為だ」


「騎士団長が伯爵と長男を断頭台にかけた」


見ている大観衆は目を疑った。領主と跡取りが断頭台などあり得ない光景だ。


「見たか!罪人は断頭台に据えられた!この教会裁判に歯向かう親子は処刑までここでさらしておく、観衆は裁判の最後を楽しみにするがよい」


「次の被疑者を前に!」


・・・・


伯爵と長男を断頭台に嵌めたまま、教会で昼を悠々と取り13時からまた教会裁判は始まった。


今回の裁判に民が唾棄する神の免罪証が最後まで一回も出なかった。盗賊一味が三組いたが断頭台が塞がっていたので首領だけ吊るして子分は生涯奴隷とした。結局詰めかけた観衆は三人の死刑執行しか見られなかった。最後の罪人は軽犯罪だったので叩きのめして断罪は終了したと観衆の中に返した。


エンターテイメントの領主と息子が最後に残ってるから観衆は帰らない、それどころか領都中から増える一方だ。


ここでラウム教に唾する奴らを叩きのめす事にする。


「今日はね、前代未聞に教会裁判を侮辱されましたのでね、少し熱くなって口が悪くなってしまいました。断罪もね、お聞き苦しかったかも知れませんね。折角見に来てくれたのにすみませんでしたね」ぺこり。


(口が悪くなったどころか使徒が襲来してたぞ)


「さて、被疑者は見ての通り居なくなりましたが、ラウムの大司教から言わせてもらいます」


「この街には神につばする不埒ふらちな奴らがいます。ラウムの馬車に石を投げたり、司祭につばを掛けたりするアホな者を裁かねばなりません。ラウム教国本場の断罪を見て下さいね」


大司教はその場でチョンと跳んだ。


人口六万人のペンテの街。教会広場に2300人がパッ!と現れた。


大観衆がうぉー!と凄い大歓声をあげた。


「騎士団の皆さん、取り囲んで逃がさないで下さいね、神につばする罪人です。今から一人ずつ断罪します」


中にはのこぎりを持つ者、模擬剣を持つ者、お玉を持つ料理人、冒険者が三分の一を占める、フォーク持ってる奴はギルド食堂で食ってた最中か?(笑)


アルのスイッチがONになった。


#「貴様らー!ネロ様をあがめ、助けて助けてとすがくせに教会をめてるな? お前らが教会や司祭やシスターにやった事をこの場で断罪する。逃げられると思うなよ?クソバカ野郎どもがー!」


観衆は、何が起こっているのか分からない。


「ラウムの本山でも断罪が甘いと言われる大司教がわざわざペンテに来てやった。大人しく裁かれりょ!」


んだ。

観衆も噛んだのが分かった。


赤くなって演台から下りて行く。


「てめぇー!ラウムの馬車に石投げやがって!ついでにお前も一緒に投げてやる!」


手をつかんで石畳にズシーンと投げる。


「お前ぇ、シスターに下劣な言葉かけやがって!教会のシスターは娼婦じゃねぇー!」


昇龍拳ー(→↓↘+P)!」 余韻を含んで飛んで行く冒険者。


ノコを持った大工が護身で構える所に構わず突進。


「司祭に罵詈雑言浴びせて笑いやがった大工はてめえかー!」


ノコを叩き落として大工は腹パンでうずくまる。うずくまってんじゃねぇと髪の毛掴んでココナッツクラッシュ。


「ラウム見つけたら所かまわずションベン掛けやがって!神に変わってお仕置きだ!食らえ!」


ぶっ飛ばして転がる冒険者の所に行ってズボンを下げた。


観衆は広場にションベン小僧を見た。それ以前にこんな下品な神への奉仕者を初めて見た。


「騎士団!贖罪の済んだ者を輪の外に連れて行け!終わった後にラウム教のありがたい説教を聞かせてやる!」


「おめえ!教会馬車にわざわざ残飯ぶちまけやがったな!」


言いながら料理人からお玉を取り上げパカンパカンと逃げ回る料理人を叩き回る。


人を盾に逃げ回る冒険者が居たのでどっかの海賊船に乗る料理人の必殺技スピニングバードキック↓タメ↑+Kで盾もろ共狩っておく。(後ろにいた騎士団も狩ってしまった)


教会広場で大司教の子供がラウム教をめやがってとシバいて行く図だった。身体強化を持つ冒険者も子供とあなどった者は気を失う程の罪科ざいかを支払った。


贖罪しょくざいの分だけぶっ飛ばしていく。


#「うちの子供を怖がらせたら許さんぞ!お前らだって子供がやられたら頭に来るだろうがよー!」


子供が司祭やシスターを子供と言う。


#「日頃の鬱憤うっぷんを優しく真面目な司祭やシスターにぶつけやがって!お前らほど教会の者はスレてねぇんだ!てめぇらいい加減にしろ!」


殴り掛かる大司教が凄くスレている。放任主義の体育会系の中心で育ったアルは伊達じゃない。


冒険者をぶっ飛ばしながらの捨て台詞まで言う。


#「今度教会につばしやがったらギルドマスターも一緒にここで断罪してやるからな!おめぇ、覚えて置け!」


もう、無茶苦茶だ。言いたい放題言っているが殴られた者が教会に何をやったか観衆には良く分かった。一般の善良な者が聞けばそれは神をも恐れぬ所業だった。


気が付くと広場はコロシアムに変わっていた。


子供大司教が軽犯罪者をやっつける会場だ。罪人を応援する者も出るが、子供大司教に負けるなー!みたいな応援だ。



~~~~



「ラウムの大司教とあろう者が少し興奮してしまった様です。言葉が少し崩れてしまいましたがお許しください」


(少しどころではない)


「今、領都で軽犯罪を行った者に教会裁判の簡易裁判を行いました。次もやったらもう一回わからせるだけです。


さて、最後にラウム教に対する不埒ふらちな行いをした者を断罪したのには訳があります」


一回大観衆を見回す。


「この国の者は神の免罪証を勘違いしているようですから言っておきます。普段真面目に働いている領民はこの様な教会裁判の被疑者にはなりません。しかし何かの弾みで罪を犯して守備隊や騎士団に捕まったとします。どうしますか?今まで真面目にやって来たのにたった一つの間違いを犯して捕まってしまったのです」


「そんな時は神の免罪符を司祭にお求めください」


「神の免罪証と皆さんが言われている物は、正しくは神の免罪符と言います。神の免罪符を買うには信心深く司祭と親しい街の年寄りや街区長や村長、街の人達が教会に相談に行き、捕まった者の良い所を司祭に話し罪を減じてもらう物です。


司祭に聞きいれられた時に免罪符は発行され、裁判にてこの被疑者はこんな善行を積んだ者であると裁判で示されて罪を減じられる物なのです。それはまさしく神の免罪符です。金で買える物ではありません。


それは皆さんが積んだ善行で神から買うものです。貴族が免罪符をお金で買うと教会の孤児院で戦争やモンスターによって親を失った子供の為に使われます。皆さんが思う程には一方的に悪い物では無いのです。


それによって、民は真面目に働き、隣近所とも仲良くして、皆で支え合う生活を後押しする物が神の免罪符です。神はいつでも民を見守っています。同じ様に街の中でも皆があなたを見ているのです。善行を積むあなたを神と共に誰もが見守っているのです。


考えてみて下さい。誰しも見習う善行を積む者が周りにいる筈ですよ。あなたはその人が良い人であることを知ってるはずです。その人がつまらない罪で捕まった時には是非助けてあげて下さい。


そうです、教会に相談に行くのです。どれほど真面目で頑張っている人かを司祭に訴えるのです。それが本当ならあなたは免罪符を買う事が出来るでしょう。


その様な人を見習って下さい、そうすれば何か災厄が襲った時でも隣近所の人が教会に神の免罪符を相談しに行くでしょう。司祭はその言葉に耳を傾け免罪符を皆に語りその贖罪しょくざいを軽くするでしょう。これこそが皆さんが知る神の免罪証と言われている物です。


神の免罪符は決してお金で買うものではありませんよ。みなさんが善行で買うものです。


そこに神の免罪証で人殺しの罪をのがれようとした親子がいます。息子エルノスは25の齢までに九人も罪なき領民を殺しています。その罪は何処どこの土地に行っても死罪です。どの国でも間違いなく斬首です。それを無罪などとほざくバカはラウム教が許さない、イヤ神が許すはずなど無いのです」


大観衆を見渡してから一息ついて言う。


「だから最後に断頭台の罪人に言い渡します。今、執政官の前で宣言しなさい。宣言せぬ場合は長男エルノスの斬首を騎士団長に執行してもらいます」


一際大きい声で言った。


「ペンテ伯爵はこの場で伯爵位を次男ジータ・ペンテに譲り引退すると宣言して下さい」


子供大司教は本当に容赦しなかった。


「騎士団長、良く切れる剣を見せてあげてね。剣が痛むなら処刑人の斧でもいいですよ」


躊躇ちゅうちょなく処刑人の斧を取りに行く団長。


「宣言無ければ長男エルノスの首を刎ねよ」


「は!」


「伯爵よ!家督を譲って引退するか?どうだ?」


「この様な事をしてどうなるか分かってるのか?」


「分かってます。悪人が国中の笑いものになって死んでいく話は吟遊詩人に語り継がれるでしょうね(笑)」


「戦争になるぞ!」


「こんな子供にも勝てない者が良く言う!(笑)」


「エルノスよ、もうお前は終わりだ。親父が宣言しないからな、恨むなら横の親父を恨むんだな。ヨシ!団長いつでもやってくれ」


「は!」


「引退を宣言しなかったら首を落せ!団長の判断に任せる」


「は!」


一歩横に位置を修正して斧を構える団長。


「待ってくれ!宣言する!引退を宣言する!」


「引退して家督は誰に譲るのです?」

「次男ジータ・ペンテに家督を譲る」

「長男は家名を剥奪しますね?」

「廃嫡する!エルノスは廃嫡する!」


「執政官は王都に奏上そうじょうして下さい!」


「は!」


「只今より次男ジータ・ペンテがこの領の領主だ」


そして言った。


「ラウム教国の教義通り、皆が見た様に爵位を降りて我が子を思う親の愛により免罪符を与えます。長男の斬首は罪を減じて生涯奴隷の苦役とする。


また長男の無罪を主張した元伯爵もやっと殺人を犯した長男の罪を理解し認めました。殺人鬼に対して大観衆の前で無罪を言い放つ狂った言動も正気に戻ったようです。正気に戻ったなら教会裁判を妨害した罪も私が充分お仕置きしました。あれは鞭打ちと同様にしてあげましょう。そうですねぇ・・・まぁお仕置きと引き替えに免罪符を与え無罪としましょう。


教会裁判の妨害を行った首謀者が無罪になった事により同じく妨害しようとした騎士団員も無罪とする」


広場は拡声魔法が要らぬほど静まっていた。


「後は次男と健やかに過ごせ。長男はそこの牢に入れ、騎士団が隷属の首輪を嵌めよ。両親との別れを惜しみ、面会は自由とする。明日の朝陽が上り次第に刑を執行する」


「騎士団長、親子を断頭台から外して下さい。領主ジータ・ペンテ伯が不服をとなえるならば、ルウムリア国王を国法に沿って問い、返答によっては裁きます。国王も民もネロ様の元でラウム教が公平に裁く。不服があればラウム教会に来て下さい」


「ラウム教国、大司教のアルベルト・カミヤは教会にいます。今日の教会裁判の断罪に不服な者、断罪が重すぎると言う者はラウム教会に免罪符を買いに相談に来るように。みなさんはここに居ない者に免罪証の本当の意味を教えてあげて下さい。


さて、今日は本場ラウムの教会裁判を見に来てくれてありがとう。これで教会裁判を閉廷します」ぺこり。


パラパラと拍手は起った。観衆は度肝を抜かれて言葉も無い。ただ集まった群衆は神の免罪証(免罪符)の使い方が良く分かった。


「大司教様!かかあがうるさいんでさばいて下さい」


ALL「(笑)」


群衆の中で茶々を入れた奴が広場中央に転移した。


「わかりました。家に金を入れぬ男を裁いてやる」


男に近寄って行く。


男は蒼白だ。


「遊んでないで働けー!」


子供大司教が尻を蹴り飛ばす。


ALL「(笑)」


終わったのは開廷から6時間経った15時だった。


・・・・


妙な違和感を感じていた。


教会裁判で裁かれた者より腐った奴は領内に一杯居た、盗賊連中だ。伯爵家の長男は貴族だけあって大人しいもんだ、大人しいからって9人も遊びで殺してる奴を俺は絶対に許さない。伯爵も黙っていたら許してやったが叩けば埃どころか粗大ゴミが出るぐらいはやっている。


夕方から俺を見に教会を訪れる人が多かった。まぁ見に来たらお布施もくれるから教会も助かる。


いつも司祭やシスターが食べてる質素な食事を一緒に頂いた。


教会裁判に不服な者が深夜に来る。


まだ、誰も知らない。




次回 376話  神敵認定

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