第363話 治癒士の誓約
8月17日(土曜日)
ニベの街を
だってまだ15時だったんだよ(笑)
ラウナンの大山脈に遊びに行った。昨日キラーバイソンを狩った高原だ。見下ろす中腹でキラーバイソンが野生の猛牛(魔獣)なのにモーモー鳴いてのんびりと草を食んでいる。寒くなったら草の生える所に大移動する手間の掛からない牛なので昨日タナウスとメルデスに連れて行った。タナウスの大山脈まで騎馬民族は来ないからその内に増えるだろ。
タナウスに負けじとラウナンの大山脈も雄大に過ぎる手つかずの自然。高地だから一面の草なんだよ。森林限界より高い高山帯に生える高山植物って事ね。高原から見降ろす大地はアマゾン的なジャングルだ。
周りにちょこちょことダチョウ(草食魔獣)がいる。座って羽根を広げてうにょうにょうねってる。様子が変なので見ていたら求愛のダンスだった。そういやこいつらハーレム作ってハーレムごとに群生するんだよ。以前タナウスでダチョウと卵を獲った時、コレ大丈夫か?と言う程近くに他のメスが産んだ卵がある。視たら一匹のオスに6匹ほどのメスが卵を産むので同じ様な場所に卵が固まる。まぁ、外敵に卵が襲われても満腹になって残る様にしてるんだと思う。
ダチョウの肉も高級と言うし焼肉に良いなぁと思ったが、うにょうにょくねる大変そうな求愛ダンスを視た後に狩るのも嫌だった。
そんな事を思ってる時にコアさんが言う。
「リズ様でございますか?」
「え?」
「熱心に見られてるので」
「えー!あそこでうにょうにょ踊って頑張ってるから焼肉にしたら可哀想かなって思ってたんだよ。なんでリズが出てくるの、この光曜日に夏祭りで遊んだじゃん。ダチョウのアレ見てリズは無いよ、絶対に無いでしょ!(笑)」
求愛と掛けてるのか?と焦った。
「よろしかったです、コアの思考予測と
ホッ!
「それなら、焼肉でございますかでしょ!(笑) その逆説的会話はアロちゃんだぞ。お前アロちゃんだな?」
「コアでございます」
「またまたー!(笑)」
「アロアがよろしいですか?」
「コアさんでいい」
「かしこまりました」
「たまごも取らないからね(笑)」
「アル様の思考で
周りでシズクがスフィアの真似してウインドカッターでゴルフ場のラフに囲まれたグリーンの様な物を作ってる。視たらここでお茶と思って作ってた。
あぁもう15時過ぎか。いいな。それもいいな。
・・・・
「お茶の休憩になさいますか?」
「うん、お願い」
高原で取る休憩のお茶っていいなぁ。
真夏でも高所で気持ち良い。
綺麗に芝狩られた直径30m程のグリーンの真ん中にコアさんが転移装置を置いた。ん?と見てたらアロちゃんとフィオちゃんがお茶とお菓子を運んできた。
「あはは!その発想は無かった(笑)」
「アロアもフィオリーナもハウスで暇しております」
「(笑)」
30m先でシズクとスフィアがダチョウを構って遊んでる。ダチョウは人を見た事無いので好奇心で寄ってきて無警戒だ。視ると雑食らしいけど穀物が好きらしいな。パンやったら大喜びで食ってる。あんな怖い生き物(3mぐらい上に頭がある)よう近付くわ。
雄が240kg、雌が160kgほどある。このダチョウ系の鳥は脚力あるから種類は違うけど国によっては一頭立てや二頭立てのダチョウ馬車?まであるからな。南方系の馬と北方系の馬みたいにもっと大きいダチョウもいるのよ。ここのもタナウスのも野生で生きてる野良ダチョウだから馬車とか引くには小さいと思う。
「イコアが先程メルデスのギルドへ解体の肉を取りに行きました。エールの手配も行ってます」
「え!ありがとう、明日から?」
「本日、土曜日の晩からです」
「動きが早い!(笑)」
「アル様の解体依頼を受けたメンバーから焼肉の噂がクランに駆け巡っておりました。今朝の読み書き教室で質問が出たのでイコアが先程臨時集会でメンバーに周知致しました」
「そういう経路!(笑)」
「本日の晩からエールを手配しました」
「そんじゃ、任せていいね?」
「お任せ下さい」
「あと先程ベルがアル様に相談があると参りました」
「え?何だろう?」
「先の治癒士の件かもしれません」
「あ!そっちか?ベルって関係無くない?」
「回復士として繋がりが出来たのかも?」
「あ!個人的な要望とかあったのかもね」
「待遇は罪人にしては破格かと思います」
「だよねぇ・・・罪人って。まぁそうなんだけど」
「ま、いいや。またベルに聞きに行くよ」
「今回は昨日ギルドに参ってますからメルデスに滞在と思われております。すぐに会っても問題ございません」
「あ!そうか、それで夜の連絡じゃないんだ(笑)」
「そのように予測しました(笑)」
「あの三人はちゃんとやってるんだろうね?」
「それはもう毎日通っています」
「ならいいや」
・・・・
あの三人。
それは奴隷船捜索兼救助船に同乗していた治癒士ギルドの依頼を受けた女性回復士たち三人である。
アルは奴隷狩りの拠点を潰す中で唯一、奴隷の作り方を知らずに参加していた冒険者数組と治癒士が三人居るのを知った。まぁ、知らなかったならしょうがない。知ってしまった後も拠点で奴隷狩りの風土病やかすり傷を直して高額な報酬を得ていた。
そこまでならアルは許した。
乗って行った船の治癒士としてそこに船が留まって、奴隷狩りをしてしまったのは治癒士に関係ないからだ。
例のごとく奴隷は当たり前の存在と、常識として認識されてる世界。当然の様にその待遇を美味しいと思った。高額報酬は奴隷を売って莫大な利益の上に成り立っている事を実感したからだ。三人の回復士はその奴隷業界の美味しさに甘んじた上、今の依頼が終わった後も次の奴隷商人の依頼も受けようとしていたのだ。
人として当然の行動だからそんなのも責めない。
捕えて来てからタナウスで交感会話を通じて衛星都市マリンの統括メイド、ナノさんに伝えられた。全ての奴隷狩り関係者の行った仕事と故意の認識的な部分を伝えてナノさんが色々な階層別に分けて更生村送りにしてるからだ。
階層別とは
・奴隷の牢を管理していた者。
・報酬を支払ってる事務員。
・拠点で食事の世話や飲み屋を営む者。
・拠点をモンスターなどから護衛する者。
・奴隷狩り実行部隊。
やっていた仕事を階層別で分けて仕事を割り振っている。
※上記は現場の実行部隊。奴隷自体を知らない者は彼岸島送りとなっている。
すべて更生村で殺人を悔いろと言う人間ばかりでは無いのだ。まぁ、そういう辺境の奴隷狩り拠点に流れて来る者は奴隷狩りやってなくても何かしらやらかしてるから
当然
その階層分けに引っ掛かったのが三人の女性治癒士だ。
ナノさんが、経歴から更生村には向いてないと言った。もっと有益な仕事を俺に与えてくれと言う事だ。救助船の冒険者が報酬に流されて奴隷狩りになったなら、回復士も仕方なく手伝うしかないとも思っていた。捕まえた時にどんな人間か視ていたのでナノさんの判断に丸投げしたら処遇についてブーメランで帰ってきた。
俺はナノさんに芝居をしろとシナリオを描いた。
奴隷狩りを許さない神教国の裁判を行ったのだ。
定期的に奴隷狩りを駆逐している神教国に拠点を押さえられ捕えられたシチュエーション。捕まえられた者は極刑。一生
真偽官の前で自分達が捕まるまでの経緯を(交感会話で)話し、『違うな、高給に引かれて次も依頼を受けようとしていた』とナノに真偽を見破られ三人共震え上がって反省した。
判決は三カ月のボランティア。
判決理由。
奴隷狩りの一味と言えども怪我人を治癒し、人の命を奪って無い事。初志は奴隷船の救助依頼として参加した事。救助の成り行きで回復士以外の者は奴隷狩りに変貌してしまった事。裁判の席上では治癒士の誓約に違反して無い事が真偽官により証明された事。
情状酌量の判決の言葉を聞いて治癒士たちは涙した。神の代行者として人を救う理念の治癒士の誓約を誓った通りに神が守ってくれたと思った。
治癒士の誓いとは、地球のナイチンゲールの誓詞みたいなもんだ。回復士証、治癒士証をもらう時にギルド憲章の誓約を声に出して誓うのだ。俺の思考論理を駆使してナノさんはそういう判決を下した。
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治癒士の誓約
私は、ここに集う治癒士ギルドで神に忠実な回復士であることを誓います。全ての毒あるもの、害あるものを退け、常に患者を救う努力をします。私は神に誓約を誓い、私のドアを叩く全ての患者の幸せを願って、この身を回復士の道へと捧げます。
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ナノさんは裁判で締めくくった。
「ボランティアの詳細については信徒国コルアーノ王国のロスレーン伯爵家のアルベルト卿が治癒士だ、回復士の
裁判はその言葉を
後日、俺が司教服でタナウスに現れ三カ月ボランティアの三人を受け取ってメルデスに連れて行った。
俺は三人の治癒士を北、北東、東のギルドに常駐させた。神教国の(姉妹国:聖教国の)信徒国コルアーノ王国、ミウム辺境伯領、メルデスの冒険者ギルドでのボランティアだった。
ベルの仕事取る訳に行かないだろ?(笑)
・・・・
当時俺は夏祭りまで暇になっていたので、晩の交感会話で回復士の顛末をアロちゃんに聞いてから聖教国聖都にいる教会部のミイルフ大司教(聖教国の治癒士証を発行する人)に聖都の留学生として三人に治癒士証をもらった。
聖教国からの留学生としてコルアーノで活動させるために聖教国の治癒士証が欲しかったのだ。
治癒士証を取得させてから、聖教国からの留学生として回復士Lv1までの回復を冒険者ギルドで低価格で行いたいとメルデスの治癒士ギルドにねじ込んだ。
・三カ月の短期留学。
・Lv1のヒール一回大銅貨6枚。
・ヒール代金は留学費として聖教国の布施になる。
・冒険者以外のヒールはしない。
・病気と大怪我は治癒士ギルドに回す。
メルデスの治癒士ギルドに属するベル。その師匠で弟子に治療させている名目(責任は俺が取る)でクランで治療行為してるので俺自身が聖教国の治癒士である事をギルドは知っている。小学校の件でクラン雷鳴とも関わって来る治癒士ギルドは聖教国の治癒士証を持つ三人を許可してくれた。野良ヒールでも良いのだが伯爵家のアルベルト卿と言われてボランティアで預けられてる名目だからキッチリしないとダメ。
馴染みの北東の冒険者ギルドに寄って、三ヵ月間聖教国から来た留学生の回復士が光曜日を除いて24時間三交代でLv1ヒールを大銅貨六枚でやるから場所を貸してくれと相談したら。三交代では無く北、北東、東のギルドで13時から19時までの6時間やってくれと言う。言われて見たらそうかもしんない。これからは陽が早くなるからソロの奴は夕方には帰ってくる。PTになると日が暮れるまでにギルドに帰るから18時頃には混み出す。
回復士専用ブースと期間限定の看板を作り、買い取り窓口近くに用意してPTやソロの冒険者に目に着くようにしてくれると言うのでお願いした。お金の徴収はお客が来たらギルドが徴収する。
三人にその仕事を言い渡してクランの
ヒールの報酬はクランが貰うが、食って行くには金がいる。神教国には内緒だぞ、と三人に銀貨十五枚を渡し、来月から俸給を銀貨十五枚支給するようにリナスに言い付けておいた。
期間は治癒士のブース(診療用の個室付き)を用意する三日後の8月9日から三カ月の間、光曜日はお休みにして冒険者ギルドに通えと放置した。
・・・・
ベルのアルバイト、雷鳴食堂の朝の食券売りが9時に終わると聞いたのでまだまだ日の高いラウナンからメルデスに跳んだ。
ラウナン17時>メルデス9時
ベルをクランハウスの応接に呼んで聞いてみた。
「何の話だった?」
「あの治癒士さん達なんですけど、奉仕活動三か月の後はどうなるのでしょうか?」
「なんか聖教国の関係国で軽犯罪しちゃったそうだから預かって来たんだけど、奉仕活動が終わればそこの国に返すよ?」
「そうですか・・・」
「なんかあった?」
「こないだ、ご一緒に食事したのですがこんな進んだ国は初めてだって。お風呂や街路灯や銀行、今の宿舎もすごく気に入ったみたいで・・・奉仕活動終わったらここで雇ってもらう様に交渉するって言ってたので心配になっちゃって。・・・すみません」
「あ!そういうことね(笑)」
「すみません・・・」
「ベルのここの席は無くならないし、診療所はベルの受け持ちだ。三人はここの者は治療しない。そんな事は治癒士ギルドとの約束で出来ない。もしその様な話が有ったら他の貴族、同じような施設のあるお貴族を紹介するから大丈夫。弟子のベルが困るような事はしない」
「本当ですか!」ベルの顔が明るくなった。
「ホントホント」
「みんなが雇ってもらえるのです?」
「そうそう、三人がそう言ってきたらね? 僕のお兄様のサルーテ子爵領でも良いし、お父様のロスレーン伯爵領だって同じ街路灯もS,A施設もある、ミウム辺境伯領のランサンだってS.Aや銀行あるよ」
「よかった!私まだLv2なので出されちゃうかと」
心配していた元を打ち消しておく。
「大丈夫。あの三人は治癒士ギルドで経験を積んでた人だ。たまたまギルドの依頼受けたら犯罪関係に巻き込まれて
「はい!ありがとうございます!」
「うん、相談はそれだけだね?」
「はい。朝、雷鳴食堂に来た三人に今晩の焼肉一緒に食べようと誘われました」
「美味しく食べられるね(笑)」
「はい!」
ベルは水属性指輪に一度目を落して元気よく返事した。
・・・・
ベルと別れた後、俺の方が心で泣いた。野良ヒールで宿代を心配するよりマシだと連れて来たクランの居場所をベルはあんなに大事に思ってくれていた。
俺がベルに感謝した。
次回 364話 それぞれの決着
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