第358話  ドワーフ温泉を掘ろう



7月29日~8月2日は奴隷対応~伯爵四位に叙爵の4日間。


この四日間のアロちゃんの報告だ。



神教国関係。

・ハーヴェスでは造船所建設の中古大型魔導機械をバラし終わって摩耗個所の部品を交換する作業に入ったそうだ。整備されると第一便の四隻に積まれる重機となる。


・ドワーフが温泉施設を作りたがっている。


・8月9日(雷曜日)はタナウスの夏祭りで王宮広場と波止場から魔法花火が打ち上げられて夏祭りの開催を告げる。(10月28日最後の光曜日が秋祭り)


・マルテン伯爵からの使者が銀行に来たので至急謁見して欲しい。 オワタ。済み。


・春夏物の野菜の種が収穫を迎えて転作や二毛作で他の野菜に変えて今年二回目の収穫に向かう村が出て来ている。今年分が実れば輪作や二毛作、連作障害についてデータが取れると聞いた。


サルーテ関係

・サルーテに執政官仮宿舎を置いたが、各領の執政官にも割り振られてとても活用されている。サロンでは執政官同士の交流や討論の場となって互いによしみを結ぶ場となっているそうだ。グレンツお兄様やヒルスン兄様がサルーテに視察に来て他領の話が聞けると二、三日泊まっていくそうだ。


・サルーテの土地を取得した大店の跡継ぎが店や家が出来るまで銀行の上にある賃貸物件を借りたいと銀行カウンター嬢に言って来た。


・四部会の歓楽街が一部稼働して人足が流れる様になっている。稼働に当たって執政官事務所は女と酒には許可を出したが、事前に言われていた通り賭博場は徴税が行われるまで許可しなかった。


・メルデスの洋品店から服が一揃い出来たとの使いが来た。オワタ。済み


・ドワーフの洋品店の使いは本人が行って服を合わせて微調整後に引き渡すと言ったらしい。オワタ。済み


・明日はクラン一斉集会なので面倒臭がらず面接に行け! オワタ。済み。


------


要するに昨日は急転直下のリンバス伯爵の叙爵だったが俺だってのんびりしたい。ハムナイのラムール商会の移転を含めてS.A、開門村の契約締結やら奴隷狩り発見と14日間も連続出勤だ、一日10時間は何かやってるぞ、チクったら労基が喜んで来るぞ。


※異世界には来ません。

(そもそもアルは使用人では無い)


とにかく、去年のシズンとの会敵から続いて、パリスの寄生スライム、新年からの世界大戦も春のS.Aも開門村も奴隷案件も汚れ者の件も全部収まった。


俺は良くやっている!頑張ってる!夏祭りが終わったら今度こそシズクとスフィアを世界旅行に連れて行ってやる。と言う理由で休暇を取るんだ!決定事項だ!去年から働きずめなんだ! 夏祭りでリズを充分に楽しませて、一カ月後の誕生日でナレスに送って行く仕事だけ優先で今年は終わろう。


俺は壮大な野望を胸に抱いて今日も頑張る。



そんな訳で貴族服に帯剣で、のんびりと遊びっぽいサルーテアパートの契約をしに行った。


モンド商会、カクタスさんを視たら驚いた。セイルス商国の豪商の次男だ。本来は開門村とS.Aの揃ったロスレーン領都に店を出そうとしていたが、去年の5月に領都で景気の良いサルーテの噂を聞き、見聞に来た時点で開門村とS.Aが完備してた事で気に入った。土地を得やすいサルーテに自分の店と家を作る事を決めていた。


セイルス商国でカクタスさんは商会長にロスレーンのサルーテ子爵領に腰を落ち着けると報告した。驚く商会長と長男を説得して、自分の隊商から数人を仕入れ担当でモンド商会本店に置いてきた。のれんを出すサルーテを基点にモンド商会の販路を広げてサルーテの大店として家族と生きて行こうと決めていた。


45歳、家と店が出来たら家族を呼ぶが、店が来年1月、家が3月完成予定なのでうちの集合住宅に入りたがっている。借りられたら家族を呼んで一緒に店と家の完成が見たいのだ。


面接で一発入居OK。ハイツサルーテに是非と言われて気が付いた。あ!そんな看板半年前に作ったな。だから銀行にみんな聞きに来たのか・・・今更納得。


集合住宅はハイツサルーテだった。


四階の36畳3LDKに主人のカクタスさん。二階12畳1DKの3部屋で従業員6人が店が出来る一月まで暮らすそうだ。3LDK月銀貨12枚、1DK月銀貨3枚(銀貨一枚1万円相当)


何もかもが建築途上の領なので集合住宅の相場がまだ無い。S.A同様の設備が付いてる魔力認証付きの賃貸住宅だから2倍もらって置いた。


S.A、ハウス共通券1日銅貨5枚×30日×2倍=1DK料金。一人部屋の想定に二人で住むのは借り手の勝手。カクタスさんは家族五人だが1日銅貨5枚×30日×2倍×4人=3LDK料金にした。4人部屋の想定に5人で住むのは借り手の勝手。


アパートの居住空間を見せたらカクタスさんの目が点。

貴族の俺に忖度そんたくしてか、家賃を倍額で調度品を損傷した場合の免責をお願いされた。すべてドワーフ製の建材に魔法道具と見抜いての話だが、それは俺が刻んだ魔術紋だ。お願いされても家賃は上げなかった(笑)


他にも四階の3LDK希望の商人達が居たのでそのまま全部貸した。全てサルーテに店を作ってる人たちだった。俺から見たらそれは俺のプランに賛成!と手を挙げる教室の同志そのものだ。そんな同志に俺が貸さない訳が無い。どの商人もドワーフ製の内装を見て震え上がった(笑) 家賃で収益が取れるのか心配されたが大丈夫。


ハイツサルーテは六人の銀行レディー(メイド隊)がいるが二階の1DKに六人が住んでいる。屋上のペントハウス二軒と1DKが七軒残った。


来たついでに歓楽街の稼働状況を見させてもらった。

やっぱ餅は餅屋だね、メルデスから送り込んだ長屋に住ませてた女で人気が高く疲れ気味なのを歓楽街の少しお高い部屋に移して仕事を減らし収益を上げていた。使用人の食事は専属に雇った料理人が作っている。近くに作った一杯飲み屋も人足達には気晴らしになって取り合えず盛況みたいだ。


今回許可が下りなかったカジノ施設というのはクラップスみたいなサイコロの博打だな。金回りの良い人足相手にやったら仕事が手に付かなくなるからなぁ、まぁ禁止だろ。



サルーテの用事は終わった。

ドワーフの温泉の話の前に冒険号で情報が欲しいな。


「コアさーん!」

たちまちコボルさんの執務室にシュワっと実体化するコアさん。

「何でございましょう?」


「ドワーフの温泉って、どんなの?聞いてる?」

「教会のクラウス司教に聞いていたぐらいしか」

「こっちの温泉と僕の記憶の温泉と齟齬そごはある?」

「基本は同じ事かと思いますが」

「基本?」


「古代ローマの時代からバルネア、テルマエと呼ばれる公衆浴場からアル様の知る日本式浴場まで変わっておりません」


「それ映画で聞いた知識だからね(笑)」

「言われるまでも有りません(笑)」


「地下どの位まで掘れば出るかな?」


「水脈的には低層で出ますが温度が低いのである程度深く掘った方がよろしいと思います」


「ホールの深みって回転に比例するんだよ、100m、200mなら良いけど2000mとかあんまり深いと何万回転なんて回せないし、ゆっくり回したら何時間掛かるかわかんないのよ(笑) 低い所だったら穴開けて内部のコーティングまでOKなんだけど、何かいい方法ある?」


「そんな都合の良い方法はタナウスの魔法しか(笑)」

「あー!やっぱタナウスの魔法しかないよね(笑)」


「タナウスの魔法は最終手段として、精霊にどんなイメージなら伝えられる?温泉なんか掘った事無いし(笑)」


「精霊剣を伸ばしてみたら如何でしょうか?」

「え!」

「アル様が伸ばされた記憶がございますが」

「あ!うんうん、どこまで伸びるか分かんないけど」

「優れたイメージであればそのまま伸びるかと」

「やってみるか」


「王宮裏の大山脈に2000m付近に水の層がございますこの付近であれば80度程の温泉になると思われます」


「怖いよ!大陸交易路が洪水になったらどうすんの(笑)」

「貫通させなければ大丈夫でございます」

「本当?」


「交易路外筒、内筒は高温高圧下でも形状変化しません、真横を温泉が通ったとしても大丈夫でございます」


「場所をピンポイントで教えてくれる?」

「モニターのこちらでございます」

「コレ衛星都市も(笑)」

「神都だけでは不公平かと」

「分った分った」


ガンズ長老の所に行った。


「あの山の所から温泉が出るらしいんだけど」

「なに!それは本当かな?」

「温泉は出してあげるけど、湯が出たらいいの?」


「それで充分じゃ、湯が出たら圧力調整すればよい」


「穴は2000m掘るけど、湯が吹き出すんじゃないの?」


「バルブで自在になる。穴はどれぐらいじゃ?」

「15cmぐらい?やったことないけど」


「穴を開けたら5m程の15cmのパイプを穴に入れる。パイプには抜け防止の返しと台座がついとる、パイプの先にバルブを付ける。バルブを開けた状態でパイプを突っ込み台座ごとハンマーで地面に埋め込み、バルブから水を流して圧を抜いたままパイプと台座を包み込む様に土魔法で石に変える。完全に固定したらバルブを閉めてやりゃええ」


「やった事あるのね?」

「鉱山脇には掘削くっさくした温泉があるでの」

「それなら安心した。掘るしか出来ないの」

「掘るのが大変だろうに」

「ここは魔法大国だから(笑)」


「そんじゃ、作って下さい、作ったら穴掘ります」

「15cmで間違いないな」

「それ位の穴は行けるかと思います」

「ちょっとその辺で開けてみい」

「そこの空き地に?「うむ」」


精霊剣を出して念仏を唱える。


「15cmの穴、15cmの穴。ビームサーベル超高温で何もかも溶かす、周囲はガラス質まで溶けてコーティングされる・・・ゆっくりゆっくり」


ぶわわわとウジャウジャ精霊が寄って来てキモイ。イメージがシッカリしてきたら精霊剣の柄の先にDVDの束が生成されるイメージに固定された。直径15cmの灼熱のDVDが増えて行く感じで精霊が寄り添って円筒になって行く(笑) 


地面に1m程精霊剣を突き立てて15cmのDVDを生成するイメージで段々と穴が大きくなって行く。


「おぉ!充分じゃ。本当に15cmじゃの(笑)」



・・・・



六日程経った8月8日。


大山脈にドワーフ30人が道具や資材を持って集結した。俺はコアさんに言われた帯水層(岩石粒子が荒く水の溜まる層)をすでに視ている。15cmの太さのビームサーベルをそこまで突き通すだけだ。


湯元の穴を開ける予定個所にドワーフがワラワラと寄って4m程のやぐらを組んで行く。このやぐらに乗って5m程の取水パイプを打ち込むというのだ。



手順としては帯水層まで穴を突き通した後にパイプを打ち込み固定した後、地面を石化で完全にパイプと接着する。終わり次第に最深部の取水口を石化してストレーナーろ過フィルター形状にする。



準備が出来たら精霊剣にビームサーベルのイメージを流し込んで地面に穴を開けて行く。15cmの径で帯水層を視ながらドンドンと突き通して行く。


岩盤を溶かして進む為、穴から上がる輻射熱で熱気がもの凄い。並列思考で風を吹かせながら熱気を飛ばして30分程で貫通した。


「穴開きました!」

「ヨシ!分かった!」


ビームサーベルが帯水層まで突き通しても周りの高圧な岩石帯を溶かしてるから水は上がってこなかった(笑)


そのまま内部を視ながら15cm、2kmもの穴を圧力から保護する様に念入りに石化して行く。


「それ!パイプを入れろ!」

やぐらの中に立てて置いてある5mのパイプがドワーフ達に持ち上げられて穴の位置にセットされる。


周りに抜け防止の返しのトゲが付いたパイプが差し込まれ、やぐらに乗ったドワーフが4m程の所に付いているパイプの台座を四方からハンマーで叩き込んで行く。台座はパイプを中心に矢じり状の逆円錐、抜け防止の溝が切られている。円錐の底辺をスコーン、スコーンとハンマーで叩いて20cm位ずつパイプが沈む、四人のハンマーの息ピッタリ。


台座が地面にめり込んで行き、ハンマーの打撃面が20cm程陥没すると、ドワーフの魔法士が台座の埋まった地面を石化して固定完了。


地面から1m程突き出したパイプの上部にはL型のバルブが付いている、バルブハンドルが異様に大きい。


パイプが固定できたので地底の最先端の取水口をジリジリと広げて取水面積を増やしてからストレーナーコシ器形状に石化する。


ストレーナー形状にしたら一気にお湯が上がって来た。


「お湯が出ますよー!」

「おー!」


というかストレーナー形状にした瞬間に大きなバルブからシュゴー!と恐ろしい音で空気が排出されてるのが分かる。


先端に付いたバルブのハンドルは直系60cmもある。ドワーフが二人で待機しハンドルを掴んでお湯が出て来るのを待っている。


シュゴー!ブッ!ブブッ!バババッ!ドザー!


バルブの口から30m程先まで最初は色水のお湯がブシャーと吹き出して辺り一面モウモウの湯煙。すぐに綺麗なお湯に変わった。


たちまち30人程のドワーフの大歓声!

ウォーウォー!とハンマー振り上げ叫んでる(笑)


「わーい!出た出たー!」

「よっしゃー!」長老が叫ぶ。


ガンズ長老がもうもうと湯気を出すお湯を触って舐めたり臭いを嗅いでコップで口に含んで味わっている。最後に水桶に湯を汲み、集まったドワーフに頷くと皆が水桶にそれぞれ湯を汲んだ。


「バルブを閉めてええぞー!」

「はい、親方!」


水桶をバルブの前に置き。長老が俺に言った。


「飲めるぞ。温度は82度じゃな、良い水の温泉じゃ」

「ありがとうございます、僕じゃ無理でした」

「誰だって一人では無理じゃ(笑)」


お湯を視て調べてみると、泉質はナトリウム系炭酸水素塩泉、重曹が含まれる弱アルカリ性の軟水で飲める。検索すると日本では美人の湯と出るので女性に人気の温泉になりそうだ。


バルブの前に水桶と大壺を出して供えて祈った。俺の祈りを見てドワーフも皆が祈った。皆で祈った後で大壺の酒を柄杓ひしゃくで小壺に注いで皆に振舞った。


信心で祈ったのではない、物凄く細かい精霊が今もバルブの前にドンドン生まれているのだ。温泉の精霊なのか水の精霊なのか分からない。存在がおぼろげ過ぎて何も視えない、フヨフヨ、ポツポツ仁丹の様な精霊が次から次に生まれてる。その不思議、偉大な異世界のことわりと恵みに感謝するのは当然と思った。


自然の恵みに感謝する。感謝する祈りからも精霊が生まれるってクルムさんが言ってたなぁ・・・。



コアさんの示した水脈は大山脈に降った水が地底深くに流れ込む流水路の役目を果たす水の道だったらしい。大山脈の奥の方から地底を通って海の中で湧いている水と言う。山のミネラルをふんだんに含んだ水が海に達すると海は富むという。


そんな由来の温泉なので余りに降水量が多いと湧き出すお湯が増えたり、渇水だと減ったりする類の水と聞いた。タナウスは夏にスコールの様な雨が短時間降ったりするので渇水は無いと思う。


そしてドワーフ達は宮殿の裏の湯元のバルブに湯守小屋を建てて温泉郷を作り始める。エール、ワイン、ウォッカの醸造、蒸留施設を作っていたドワーフが大喜びで洞窟温泉から作り出すという。コアさん達にもタナウスは亜熱帯だからジャングル風呂をリクエストしておいた。


五カ所の衛星都市にも同じバルブのものが作られた。衛星都市も人が住む様になったら温泉郷も出来るだろ。2000m掘ると自然に80度位の温泉が出るみたいだ。山の同じような高度で80度を超える温泉が出た。


ドワーフ♨

https://www.pixiv.net/artworks/105388920


ドワーフ達の要望に応える一週間がオワタ。済み!


そして俺の待ち望んだ夏休みじゃ無くて、夏祭りがやって来た。




次回 359話  戦略的撤退

---------------


この物語を読みに来てくれてありがとうございます。


読者様にお願い致します。


応援ポチ。☆も頂けたら嬉しいです。


ポチをしてくれる事。それはとても励みになるのです。


一期一会に感謝をこめて。よろしくお願い致します。


               思預しよ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る