第355話  島の名は


7月29日(木曜日)


タナウス20時>メルデス18時


奴隷を発見して激怒したアルが血相変えてメルデスの導師ハウスに帰って来た。アルムハウスで話すべき事案じゃ無いし、何より顔色を見られるのが嫌だった。


「アロちゃん!交換会話」

「かしこまりました」


「これ見て、二か月でこんなに増えやがった!」

「だいぶ増えてますね」


六十を超えるプロットが矢印のベクトルで距離表示される。


「うん、奴隷狩りを拠点や船ごと消したから奴隷狩りも終わると思ったけど・・・6月の頭には終わってて、6月末まで視てたけど一切現れなかった。実際の所、いなくなってたんだよ。それから二か月でこんなに増えるって事は、やっぱ上で命令してる奴消さないと無理だわ。クソ馬鹿共が調子に乗りやがって!こいつら俺をなめてる!神教国をなめ腐っとる!」


(決してアルをなめていない、神教国の名すら知らない)


「お考えのプランですか?」

「え?」


「青切符プランで思い知らせますよね?」

「何それ、知ってるの?見えたの(笑)」

「だいぶ前からお考えでしたので」


「うーん、やっぱ思い知らせるしかないよね?」

「良い結果になるかと」

「お年寄りにショックなのはやめてね?」

「生体機能はナノマシンでコントロールします」

「血圧とか注意するならいいよ」

「そのように」


「考えたのこんな奴よ。作れる?」

「作れますとも、ネズミーランドでも可能です」

「それは作っちゃまずいだろ(笑)」


「ネズミにまみれるアトラクションになります」

「ガチのランドかよ!(笑)」

「チケットは青切符でございます(笑)」


「(笑)」


青切符とはの混沌に関わるを青切符と赤切符で仕分けして赤切符は即更生村と考えてたんだよ。更生村を魔界村とかに名前変えようかしらんとウケながら色々考えてたの。違反で青切符は怖いアトラクションにご招待とか(笑)


現場の奴隷狩りの奴らはやりたい事やって殺しまくるから容赦しないけど、王族とかは奴隷なんて見た事すら無いのが、陳情されて足らぬなら連れて来いと言うから、何が悪いとか全く知らない。そんなのを裁いても何の反省もなく俺が虚しくなるのよ。


王は奴隷を命じて神の罰を受けたと通告しても、家族すら何それ?何も悪く無いじゃない!と怒りだしたら、この野郎!と家族まで拉致らちりたくなる。俺だって人間だから言われたら怒れるけど、どう考えても奴隷の生活知らない反省のはの字もない奴らを裁くのは意味が無いと思うの。


だから奴隷体験させて、自分が何をやらせてるのか知ってもらう。知った上でやるならこっちも気合入れて恩寵剥奪の上で更生村に送れる。そんな案を練っていた(笑)


「そんなもんを神の国に作るとは恐ろしい」

「タナウスの南端の孤島ならよいかと思います」


「以前にこれ以上やりやがったら目にもの見せてやると思ってたけどまさかガチに作るとは思わなかったよ(笑)」


「実演するのは仮装した私共でよろしいのですね?」

「人に実演したら死ぬだろ!(笑)」


「見せて鞭打ち、苦役を課せばよろしいのですね?」

「鞭でシバいてヒールで」

「かしこまりました」


「こんな感じで、助けて助けてと極卒にすがる様に」


「人食いのオーガにしましょうか?」


「紛れておいて、食っちゃえばいいよ(笑)」

「かしこまりました」

「自作自演乙で!(笑)」

「(藁)」 こいつ分かってやがる。


「今、その世界観のダンジョンを生成しました」

「え!もう?」

「アル様の世界の地獄の伝承から生成しました」

「あ!それなら。そっちのが忠実だと思う」


「全10階層、王族用、政務官用、貴族用、商人主人用、使用人用、騎士団用、執政官用と色々と揃えて生成してあります」


「そんじゃ、南端の島に連れて行くね?」

「お待ちしております」


南端の島じゃなぁ、名前付けるか・・・。


「宗教国に地獄島はまずいよねぇ(笑)」

「宗教国に魔界島もまずいですね(笑)」

「タナウス名人の冒険島!(笑)」

「趣旨が外れてるかと」

「ごめーん」


「宗教国なら・・・彼岸島?」

「アル様!(笑)」


「なに笑ってんのよアロちゃん、彼岸ひがんて極楽浄土の事よ、此岸こがん(この世)と彼岸(浄土)を繋ぐ日がお彼岸なのよ。何かあった?(笑)」


「アル様の命に従います」


「そんじゃ宗教国らしく彼岸島で!」

「かしこまりました」


「手の長いモンスターが生成されました(笑)」

「コラ!最初からそのつもりだっただろ!(笑)」


「彼岸島らしく(笑)」


「邪鬼はダメよ?蜘蛛までね」

「えー!」


「あんなの出してどうすんの、奴隷体験施設だぞ!」

「(草)」


「あしながおじさんの蜘蛛までね・・・ぷっ!」


「・・・」

「・・・」


アロちゃんとアルが笑っちゃって会話にならない。


「現場の奴隷狩りは今まで通りで更生村で」

「かしこまりました」


「検索に掛かったのは六十だから2時間ぐらいで終わると思う。帰って来たらここでご飯食べるよ」


「用意しておきます」


現場の奴隷狩り、拠点、奴隷、船を全部取って来た。海上に奴隷関係の船はいなくなった。



・・・・


7月30日(水曜日)


ダンジョン生成の翌日。


昨日は奴隷も奴隷狩りも拠点も奴隷船も奪って来た。


今日は奴隷商会の者全て、現場に命令を下したもの全てが消えた。奴隷の買い注文が世界的規模で出されたのか、通常の奴隷航路以外のタナウスの西にある島からも奴隷が捕まっていた。


今回は奴隷狩りを命じた者、受けた者、関わる者を家族とか関係なく拉致らちった。奴隷使うなら、奴隷体験しなきゃダメよ。


青切符、赤切符切りまくった。


基本命じてる奴らは奴隷の事知らない。奴隷だからいいや、鉱山掘るのが奴隷、どこから来て、どんな暮らしして、どんな過酷な扱いされてるか分かってない。命令を慣例に沿って流してるだけだ。だから大いに体験させてやる。


わざわざ作った奴隷体験型アトラクションでな。


・罪を知らぬ者は青チケット:彼岸島講習。

罪状:奴隷を知らず常識に沿って命令を出している


・罪を知る者は赤チケット:恩寵剥奪、更生村。

罪状:奴隷をどのように作るか深く知る者。



毎日検索して1人~30人見つけると検挙した。30人の時は奴隷推進派の議会演説だったので演説終了と共に衆人環視の中で漏れなく派閥は消えた。


冒険号のモニターで彼岸島の様子を見る。


百目と言われる8mクラスの6つ目、6つ手、のヘカトンケイルが中華風な服を着て大きな机と椅子に座り被告を見下ろして大斧を振り回し裁きを下す。


「神がつかわした無垢な魂をよくも捕えて悲しみの涙を流させたな、お前たちは針山の刑に処す。八階嘆きの間で奴隷になるが良い。罪深いお前たちは二度と人の世界には帰れぬ。神を愚弄するにも程がある、思い知るが良い」


3m程のミノタウロスがオーガやオークを引き連れて鞭でシバきながら隷属の首輪を嵌めて行く。しか言われない。奴隷達は暗い魔穴に連行されて行った。隷属で縛られていないので素の奴隷労働が待っている。首輪は奴隷ファッションの象徴だから外せない。


・・・・


奴隷がまとうお洒落な白黒のボーダー貫頭着に隷属の首輪、足には5kgの鉄球がついたコスプレ奴隷が十人ずつ並列に並んで台車を曳いている。切り揃えられた大きな石を台車で運んで塔を作っている。塔は途轍とてつもない大きさのバベルの塔。


塔の五段を目指して横幅のある坂が石切り場から塔まで続く。奴隷はオーガの獄卒に鞭打たれて泣きながら石を運ぶ。


台車の通る坂の下には働きの悪い奴隷たちが投げ込まれる。死兵の群れに投げ出されて悲鳴と共に食われている者がいる。


オーガたちは面白がって鞭を討つ、イバラは悶絶して仕事にならないので音だけ派手なプレイ用に変えてあった。手加減してるので何度打たれてもせいぜい腫れて血がにじむだけだ。


獄卒のオーガを怒らせると運んでる奴隷を摘まみ上げてその場で頭から食ってしまう。みな必死で石を運ぶ。八時間の苦役が終わると鬼婆ぁ(オーガの婆ぁ)の所で健康診断、その日の傷をヒールしてくれる。


朝叩き起こされるまで石の牢に鎖で繋がれると毛布一枚に包まれてつかの間の幸せな睡眠時間がやって来る。


朝と昼と夜には人の物とは思えない酷い味の麦の雑炊が出て来る。食べないと体力が保たない。食べずに痩せて働けなくなった奴は釜茹かまゆでの刑で食われると牢を出されて居なくなった。


獄卒オーガの上司にはとんでもない化け物が居た。筋肉モリモリでカッパの様な緑色、頭は円形に禿げ、頭のお皿の横からドレッドヘアが首まで垂れた醜悪なモンスター。未知のUMA未確認生物だった。


「怠け者の奴隷はいねがー!」何か叫んでいる。


横切った奴隷を邪魔だと手ではたいたら上半身が千切れて坂下のエリアへ跳んでってしまった。謝りに行った獄卒のオーガが頭を下げると下げた頭がポトリと落ちて一面が血の海になった。


死んだオーガも奴隷も坂の下に蹴り落とされて食われている。


(アロちゃんはUMAの正体を知っていた、それはアルが異世界に来た時分にダンジョンの夢でうなされたUMA。トモダチ、トモダチと追いかけられてチビったカッパとアルシンドとプレデターが合体した瞬速のなまはげだった)


塔へ至る坂道の下は人を殺して食べる者達の世界だった。獄卒たちの不評を買うと下に落とされるか、その場でオーガに丸かじりで食われてしまう。奴隷の前で下に落とされる者が二、三日に一人いた。闇の穢れの者に集られ悲鳴を上げながら食われて行く。


その日働きの悪い者は牢から連れて行かれた。連れて行かれた者は二度と見なかった。


そんなミスをコアさんはしない。


・・・・


兵たちは隷属の首輪を嵌められて、金を掘らされていた。鞭を持って回る獄卒はオークだった。ブヒブヒ言いながら共通語を話して命令する。飯の時間に何が入ってるか分からないクソ不味い麦のおかゆを持って来るが、お椀を渡す時におーくのよだれがダラダラ大鍋に落ちていた。オークには御馳走の様に見えた。


ある日オークにつるはしで向かった騎士団員が居た。隷属の首輪なのにしか命令されてない。金を掘る振りで横に近付いたオークの頭につるはしを振り下ろした。


メコッ!


オークの頭につるはしが根まで埋まった。

つるはしが頭に埋まったままオークはニヤリと笑って鞭打った。鉱山の中で騒動の獄卒を指差してブッヒブッヒ笑うオークがたむろした。頭につるはしが刺さったオークは得意げにつるはしを頭にまだ付けていた。


一日の鉱山作業が終わって夕飯の麦飯を食べた頃、つるはしを頭に付けたオークと仲間が鉄格子の牢前にやってきた。ブッヒブッヒ笑いながら仲間はつるはしを頭から抜き。自分の頭に突き刺した。オークの仲間がまたブッヒブッヒ笑う。また抜いて今度は仲間の腹に突き刺した。


六匹のオークは大ウケで笑う。ふざけ合いを見せられる血の気を失う奴隷たち。


オークにつるはしで攻撃した騎士団員が牢から引きずり出された。牢の前でオークに集られてブッヒブッヒとつるはしでめった刺しにされる騎士団員。後の血だまりには少しの肉塊しか落ちて無かった、さっきまでオークが集って食ってたのだ。何処の騎士団員かも、どこの国かも、名前さえも知られずにそこに塊が転がっていた。


超科学の自作自演はもはや魔法だった。と言うか一億年以上前から斬り飛ばされたモンスターの首が血しぶき上げながら跳んで行くダンジョンでは当たり前の光景だった。


液体ナノロボットジェルのオーク軍団。何処に何が刺さろうがリアルな傷口も再現して一滴の血も出ない。つるはしが刺さってもその気にならなきゃ保持して抜けない。このつるはしエピソードは奴隷体験中一度だけ見られる六番目のアトラクションだ。



・・・・



見渡す限り続く瓦礫の道。


遠くに見えるのは生け花の剣山のようになった大きな山。


良く見ると足から頭まで針の山に貫かれている人たちが多数死んでいる。死んだまま放置されていた。奴隷たちが道を歩いてると上から何か大きい物が降りて来る。


何が降りて来たかと注視して奴隷はパニックになった。


暗くて見えない高い天井から人の顔をした巨大な蜘蛛が降りて来て、虫ピンに刺さった死体を細くて長い手で針から引き抜いてボリボリ食べて、また糸を辿って天井へ消えて行った。


「あしながおじさんも元気そうだなぁ、お前たちも元気に働けよ」ピシィ!獄卒のゾンビがプレイ用の鞭を鳴らして楽しそう。


奴隷たちは自分がどんな場所に居るのか悟った。


瓦礫に見える足つぼマットの道を歩いてるのは悟ってない。瓦礫と思わせるためにわざわざ足を小さく傷つけ血を流させる。


王や貴族は裸足で瓦礫の道を荷運びさせられた。瓦礫で足が切れるが止まると鞭が飛んで来る。獄卒は奴隷の首輪をしたお洒落なゾンビだった。このゾンビの獄卒は良く喋る。奴隷狩りに捕まったが死んで、神様にここで働けと言われたと身の上話を聞かせる。奴隷を自分と同じ目に遭わすとゾンビはよだれを垂らしながらにこやかに鞭を討つ。


「それを運んでたら足の皮が厚くなるんだよ。分厚くなったらあそこの針の山に荷運びさせてやるからな。フッヒャヒャッヒャヒャ!(笑)」バシーン!


足の皮が厚くなると、より険しい5kmの足つぼマットの道を王族と貴族たちは痛い痛いと泣きながら裸足で10kgの荷運びしている。体重+10kgと苦痛は決められていた。


コアさんは自販機で不味いと言われた食材をチョイスしてブレンドしながら麦がゆを作っていた。えずいてレインボーが出るくらい不味い麦がゆだ。食わないと獄卒の鞭が飛んだ、皆が喉から流し込んだ。不味さと栄養を追求した至高の麦がゆだ。


寝る前に「明日痛めつけられないからねぇ、イッヒッヒ(笑)」と必ずが牢に入ってヒールしていく。


・・・・


毎日、毎日、新しい奴隷が地獄ダンジョンに運ばれた。アルが休憩ついでに検索に引っ掛かった数人を連れて来るだけだ。


強制更生施設:彼岸島、地獄ダンジョン。


神教国タナウスのダンジョンである。


働けど働けど何も出ない残念なダンジョンだ。


三か月働くと魂は浄化されるという噂がある。


アルとアロちゃんが喋った位の噂だ。



・・・・



8月、9月は略取奴隷取り締まり強化月間で一日一回の検索が行われ、略取奴隷の肯定発言や議会で奴隷を何とかしろとの命令を下した貴族、商人、鉱山の執政官はすぐに足取りが消えた。


彼岸島で行われる体験型アトラクションに参加するためだ。


・・・・


取り締まりは毎日お茶を飲むほどの時間しか取られない。俺は好き放題に思う事が出来た。


捕まえてきた中には更生村にもアトラクションにも入れられない処遇に困る奴もいた。消えた執政官の代わりに奴隷証明書の作成する政務官や執政官だ。いきなり奴隷担当でも何も知らない、そのポストに付いたから作成する。迷ったら就任するポストが無くなるまで彼岸島体験ツアーにご招待した。



S.Aの契約書やロスレーンの貧民街の整理やサルーテの宿舎や孤児院。やる事やった俺には時間があるから奴隷検索に掛かると日課のように彼岸島に御招待した。


彼岸島は研修施設だから学んでもらうのよ。




次回 356話  ロスレーン家の勲功

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