第354話  ラムール商会の正体



ここはハムナイ、鉱山の街ラムール。


テーブル台地の見上げる地層に開けられた坑道。


坑道の中、地上500m南西12kmの坑道にいる鉱夫長のキャップス(42)が鉱石と小さなハンマー持ったままラムール商会跡地に跳んで来た。闇の世界の地上500mから一気に光あふれる地上に降りると耳がおかしくなるみたいで顎をカクカクしながらぎゃー!と絶叫して驚いてた(笑)


家族を連れて行くと決めた使用人の家族は職場から家からお構いなく誘拐して来た。ラムール商会の爺ぃと婆ぁがニヤニヤ見守る中、大魔法ショウは続けられた。商会の跡地の何も無い更地にパッと現れた瞬間に色んなリアクションで驚く人達。爺ぃ、婆ぁが手を叩いて大喜びする。


洗濯物干してるお姉ちゃんはウケる爺ぃに怒って下着をぶつけた。ニンジン切ってたお母さん、お玉持ってるお婆さんが商会跡地で腰を抜かした。10時過ぎなのでお昼作ってるお母さんたちが多かった。


従業員たちもそれぞれで、嫁だけ連れて行く者と、今住んでる家族を連れて行く者、今住んでる家を戦争に行ってる息子に譲る者、高齢の従業員は夫婦のみの人が多かった。


ラムール商会の従業員の家や親族を用意してたら結局昼まで掛かった。最後に山の上の宮殿を持ってタナウスに跳んだ。


・・・・


築何百年と経つ宮殿は何?と視て色々と納得した。


ハムナイが建国する時にはラムール商会はこの地で千年以上も続く豪族だった。先祖代々の金鉱豊かな土地を守るために密林の部族と融和政策(同化政策)を取り、富を分け与え、武力を拡大して外敵を跳ね除けて来た豪族だった。


ハムナイが国になった時、貴族に取り立てる誘いには乗らず山師は山師らしく国の助けを行ってハムナイに寄り添う方向に転身した。豪族と言っても元々が山師の集団、礼儀もクソも無く、当時の山師の首領に貴族となって土地を治めるなどその気も無かった。


当時の蛮族がはびこる山の中や密林の中では貴族の肩書は意味をなさなかった。道を阻む蛮族にさえラムールと部族名を言って自分の胸を叩けば敬意を持たれて道を通された。ラムールとはそれほど奥地で名が通っていた豪族だった。地質調査の探掘に動きまわる山師たちはそれほど強かった。


時は巡りハムナイ国は安定した。攻めて来る豪族、部族がいなくなったのを皮切りに豊富な鉱石を世界に売りに出たのがラムール商会の起源である。売りに行った先で未開の鉱床を発見し採掘ノウハウの無い土地の豪族や領主と交渉し5割の取り分で鉱山の権利を得てその国の産業と成す。それがラムール商会であった。


この時代は豊かな場所は武力で奪う。鉱山の権利を与えた豪族や領主が滅ぼされると鉱山は自衛が必要だった。鉱山とはランボーもこもる天然の要害である。元はハムナイの豪族で代々金鉱を守り抜いてきたラムール商会は守る事に関してはスペシャリストだった。


鉱山開発時には人員と共に周到に用意した武器も供給していた。この大陸の者は大人になると皆がステータスボードを持つ。屈強な鉱山の男達は武器を持てば半端無く強かった。ドーラ一家にも負けはしない。新たな豪族、土地の支配者とも新たな契約を結ぶまで要害は決して落ちなかった。


その内に世は火薬の時代になり、硝石の鉱山を持ったラムール商会は鉱石、武器、硝石を売った。


硝石を国に売る関係から同じく武器も納めた事で武器の取り引きが多数を占め、今では武器商人と思われているが実は鉱山の専門家なのだ。


屋号のラムールはこの街の名。


当主は代々ラムールを名乗る。豪商達への通り名は「探鉱」その名の通りが縮まった通り名だ。


・・・・


お屋敷の管理はラムール商会の代々の使用人だった。その執事長がチッタさんだった。ラムール商会副会長ジスク(長男)の元で跡地に支店を新たに作る。ラムール千年の血筋の者と言う。


総勢128名が海の家に跳んだ。


マス席の一画に皆を座らせて当社比3倍に増えたアロハのメイド部隊に言う。


「取り合えずエールとピリ辛出しといて」

「かしこまりました」


「急遽移民が来ちゃった。なんとかなる?」

「いたします」

「交感会話で見てくれる?」


「かしこまりました」


「家族がこんな感じ、持って来た家がこんな感じ」

「家族と商会の従業員を分けてよろしいですか?」

「そうだね、息子や孫は商会関係ないからね」

「お食事が終わり次第に抽選でよろしいですか?」

「そういう感じで」

「持って来た家の大きさで区画の抽選します」

「ラムール会長の家は外交官地区ね」

「かしこまりました」


喋ってる間にアロハのメイドが20人ぐらいエールとピリ辛の乗ったお盆持って駆け付けていた。


「みなさん、メニューで好きなもの頼んで下さい」

「見た事無いのが一杯!」

「どれも美味しいですからね(笑)」


「御子様!この冷えたエールと焼き肉!」


「仕事に疲れたらあそこにあるビーチチェアで海を見ながらサイドテーブルにエール置いてピリ辛です。結構浜に居るでしょ?あれが疲れに効くんです(笑)」


食事の後の抽選会で皆が盛り上がる中、先発で派遣されていた商会関係者が家族で呼ばれた。ラムール邸の料理人は店をもらって嬉しいやら困惑するやらしながら移民以来一ヶ月食堂を開いていた(笑)


身内なんだから黙ってないでそういう事は早く言ってくれよ!


・・・・


バロック調建築のリノバールス帝国の伯爵邸、石積みの古城、いにしえの宮殿が時と所と場所を選ばず並び立った。異国情緒が溢れすぎて敷地の境界から異国情緒である。コレはなんとかならんのか。


海神、ショバンニ、探鉱と呼ばれる3人の外務大臣はお互いの家を指差してネタにして笑いあう。仲良さそうに見えたのに妙な所で張り合っている。人生を思う様に生きるてっぺんの豪商にという言葉は無かった(笑)


着岸岸壁右に作った広大な交易商人の倉庫群の中にラムール商会(本店)は収まった。そこはその後魔窟と呼ばれる昔のチョイ悪爺ぃ、チョイ悪婆ぁメイド嬢の巣になった。


俺は顔を出すと異様に可愛がられた。性格が脳筋なのを見透かされていた。この人たちも見極める眼を持っていた。標高のある山々を寒さに震えながら歩き通す。モンスターも恐れず渡り歩く。かじかむ手で石を見る事で鍛え上げられた筋金入りの眼の持ち主たちだ。


若き日のラムールを山から山へ連れ歩き、山師の持つ経験と歴史の積み重ねで得た地質鉱物学の全てを叩き込んだ会長の師匠たちだった。最近は息子のジスクにも叩き込んでいた。


それは全てを息子に託しても、裸一貫から始めるに充分な資本だった。変わらぬ本質を身に宿す者は強かった。


そして山師たちのタゲはアルに移っていた。


「俺はそういうの間に合ってんの!(笑)」

その会話にすでに地が出ている。


言っても爺ぃには効かない。


イヤヨイヤヨも好きのうち。

アルが地層や鉱物の話に良く食いつく事を爺ぃ達は見抜いていた。真剣に聞こうとするからバレている。


積み重ねた経験に裏打ちされた鉱物や地層の話を操る爺ぃたち。一回見せたいだの、見る価値の素晴らしさを説かれたアルは次第に濃い衆達と山に入る様になる。そして吐く息の白さ、横殴りの雪、その世界で間違いなく己が生きている実感、山の稜線が太陽に彩られる何万年も何億年も変わらぬ営みの世界に魅了されるようになる。


石と向き合う事は、星の営みに向き合う事と知る。


・・・・


7月29日(木曜日)


最後の開門村セットを侯爵領の小さな街に付けて、S.Aセットは全て設置完了。執政官事務所で証文とマニュアルを渡して代官のサインをもらって来る。


周辺の村もここが最後だ、町の近くの村だけついでに行けるので残してあった。


汚れ者といわれる村の掟で裁かれた人はそんなに多くない。50軒を超える200~300人の村に1軒ぐらいが普通なので、村を色々回っても2世帯2軒の16人とか20人前後をナレス村に連れて行くだけで済んでいる。


連れて行った分だけナレス村の農民に扮するロボが家を空けて家族ごと帰還して来るだけだ(笑) お陰でナレス村は現役の農民700人が暮らす3カ所に増えた。皆が現役の農民だから教えてやると動きが良い、皆が一緒に笑いかけて喋ってくれるだけで嬉しくて仕事も弾む(笑)



3月中旬から始まったS.Aの仕事が一段落済んで一息ついた。



・・・・・



おーし!と気合が入った。


辺境伯領も侯爵領もS.A施設の代金集計額見て腰を抜かすなよ。事実5月の末から稼働し始めた開門村とS.Aの収入を見て辺境伯領都ミウムの財務担当政務官と徴税担当執政官達は目を疑った。


簡単に言ってメルデス6.5万、ランサン6万、オード子爵領(3位)5万:周辺村含む。領都ミウム7万、ミラン男爵領(3位)2万:周辺村含む。ミウム領の街、村領民10万の約36万人が暮らすミウム辺境伯領なのだ。


当然人が多い分は物が無いといけない。交易収入も多い、だから商人達も多い。領民と冒険者と商人が開門村とS.Aを使うのだ。王都の様に1/3を見越してない。小さな町まで銀行費用を出す領なのだ。


毎日都市部の半分の領民がS.Aを使う計算だ。銅貨3枚(300円)が18万人=毎日白金貨2.7枚の収入だ。領に出入りする入領税大銅貨1枚(1000円)がかすんだ。基本領民は住む街の出入りは自由なのだ。払うのは隊商か旅人しかいない。


マルテン侯爵領は街中のS.Aの代金が入らなくても、領民が多いから(50万人)日々の収益は凄いものになる。領の代官は守備隊か騎士団に鑑札売らせてお金は銀行に入る。それは日銭としてロスレーンに入り、それがマルテン領に帰るお金だから結局侯爵領が潤うのだ(笑)


明日から何しようと心が弾んだ。


去年のシズン教国との会敵からシーズ教国、パリス教国。正月前から世界大戦阻止に動き、春からS.Aや開門村だ。奴隷の件も一応片付いた。1年休みなく、何かに追われる様に走って来た。ストレスを自分の趣味にぶつけてると言われた。そろそろゆっくりしたい気分になっている。


ミンのラプカ寺院へ鍛錬に行くか。1年2か月ぶりにムンの四峰に帰るか・・・新年にネフロー様から概念の至宝を教わってからアルは内面の鍛錬しかしていない。型の練習こそするが物質世界に流される観念を概念世界のことわりに修正しているのだ(それは後述する)その内面の鍛錬で実はもの凄い事になっているのでドヤ顔で行けないのだ。


他の宗教国を見に行くか、滅んだ遺跡を見に行くか。あ!今度の休みはシズクとスフィアが居るしクルムさんに預けっぱなしじゃなぁ・・・。


ハウスに帰ってシズクとスフィアに提案した。


「みんなで旅行に行こうか?世界旅行」

「行きます!」シズク

「行きます!」スフィア

(いきます!)シェル

(いきます!)シャド

(☆ミ)リル(喋れない)

(あ!リルとシャドとシェルは一緒に決まってるじゃん(笑))


ALL(笑)


声に出さなくても俺の考えを読んで知るって凄いな。


(アルムさんとクルムさん連れて行くと、冒険者が寄って来てウザイのよ、だからタナウスで遊ばせておく方向で(笑))


ALL(笑)


皆が俺のイメージを視て笑う。


・・・・


メルデス18時>タナウス20時


S.Aの仕事が終わった事と旅行の話をしてみた。


「ダメよ!」クルムさんが怒る。

「え!」ダメだと思わなかった。


「明後日から夏祭りの準備があるじゃ無いの!」

「え!」

「8月1日から準備じゃ無いの」


視たら、そうなっていた。知らねぇよ!


8月の第二光曜日は夏の祭りで、その前の雷曜日の晩から土曜日の一日、日曜日の晩までが祭り。街区と役職でそれぞれの住民が街を飾って教会前広場でお祭りを行う。露店の準備、教会の飾りつけ、踊れる舞台の設置など役割が決まってるらしい。


「僕、何も聞いてないんだけど・・・」

「教皇様には執政官も仕事割り振らないわよ?」

「・・・」


「私たちは8月1日から女衆で教会のキルト作りよ」


キルトってなんだ?と視たら、教会の椅子の上に置く薄い座布団で、中に綿が入って絵柄の布を縫い付けるとエンボスの様に浮き上がる感じの柄と座布団みたいな感触の布が出来る。


キルトで教会の演台のカバーも作るみたいだな。教会の尖塔から広場に向かって斜めに張られるロープに風鈴の様な?ウインドチャイムを作る係がアルムさんとクレアさんが当たっていた。


「そっかー!係じゃ抜けられないよね」

「アル、村の手伝いを抜ける事は出来ないのよ」

「そうなの?」


「そうよ!みんなで住む村を飾るのに何で抜けるのよ」


・・・あー!俺完全に第三者から見てるわ・・・


住んでる周りの皆や土地に感謝してないと、変な発言になっちゃうな。


「そうだね、その通りだった。ごめん」

「分かれば良いのよ(笑)」

「外の村も一緒にお祭りなんだよね?」


「アル様、タナウスの村と言う村が全てお祭りになります。気の早い村はすでに1月前から山車をつくっております。神都でも部署によって二週間前から用意する街区もあります」


「え!山車?」


皆の山車を視たら、それはかかしの大きいのだった。ねぶた祭りの人形の原始的な奴。ネロ様とか神々をかたどってそれを持って練り歩くの(笑)


「山車って知らない?大きなお人形の奴よ」


「分かった分かった!ハーヴェスの戦勝パレードの台車に乗った凄い奴と思っちゃった、大きな魔動帆船のハリボテが乗ってたのよ(笑)」


「あ!ドワーフの人達が作ってるかもよ(笑)」

「ありそうだねぇ(笑)」


「アルは教皇様だから仕事は無いわねぇ(笑)」


「王様が住民と一緒に作ってたら変よね?(笑)」

「普通なら貴族でも変よ!(笑)」

「(笑)」



明日から時間あるからサルーテ行って、実家に寄って、ミウム伯にメルデスの学校の施設の事聞いて来るかなぁ? ミウム伯は領全体に学校とか言ったから巻き込まれそうなんだよな(笑)



アルの顔色が変わった。


奴隷検索に引っ掛かった。


5月末は神都の東方向を指し示していた検索プロットのベクトルが、今は西方向にも距離を指し示していた。




次回 355話  島の名は

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               思預しよ

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