第353話 石の妖精
7月4日(雷曜日)
シズクとスフィアを連れた開門村設置もだいぶ進んでいた。たまにアルムさんとクルムさんも遊びに来る。と言うか一週間に何回かは、朝からシズクとスフィアを連れて何処行くの?と何をやってるのか気になって見に来る(笑)
見に来たら見に来たで、毎日違う街や違う町で仕事の責任も無いから好き放題に観光できる。いい旅夢気分かアナザースカイのような異邦人気分でエルフ姉妹も楽しいのだ。
侯爵領と辺境伯領の開門村、S.A、銀行の用地問題など好きに公園の空き地を使ったり、執政官庁舎の敷地に銀行を建ててサインして来るだけで代官が受け入れてくれるので気持ちがいい。勿論勝手に建ててるんじゃないよ?ここにこうやって建てるけど問題はありますか?と執政官や守備隊にも話をしてから建てているのよ。夜明かしの商人の数を聞かないと開門村も建てられないもの。
現場の執政官はあれよあれよと建って行くS.Aを見てどの様に街の行政が関わって行くのか心配で聞いて来る(笑)
開門村、S.A、城壁内S.A、銀行の運用の仕方を書いた領主のサイン入り説明書を契約書や執行書と一緒に代官に渡してるんだけど周知する間もなく即日で建つから現場の執政官が集って聞いて来るの。
王都で大人気の奇妙奇天烈な魔法施設と言われても、噂しか知らずに見た事無いなら驚きもハンパない。
出来たら施設の数と日にちを書類に書いて執政官に渡し、2名から4名の銀行員を駐在員に置いて行く。駐在員のカウンターレディーは銀行開業しても最初は誰も来ないから2Fに作った宿泊施設作りと銀行業務を分業で進めていく。
アロちゃんやファーちゃんに色々と面白い話を聞く。(銀行カウンターレディー経由だ)
エンターテイメントな代官は、まず騎士団と守備隊、執政官を街頭S.A前に整列させて大きな声で説明して周りに野次馬で集まった民に聞かせる口コミ方法を取った。
男性・女性の使い方説明の人員を当初1か月S.Aに貼り付けた代官もいた。
使い方を知る者が多くなると、鑑札を売る時に使ったことあるね?と守備隊が聞いて、初めての人には鑑札に印を付けてゲートの係員がそれを見て使い方を教える。
各地の執政官や利用料の徴取吏員が勝手に知恵を絞って運用をして行く事が嬉しかった。
平民があまり触れない魔法道具が広まって行った。街路灯に始まり、開門村とS.Aで身近になって来ていた。
※開門村には給水紋、暖房紋、出入り口に足元灯が付いています。給水紋から出る水の排水溝は壁裏の馬屋の水飲みに溜まるので開門を待つ荷馬車隊の人は必ずキューブハウスの給水紋で馬に水を出してやります。
・・・・
そんな町や街を巡っていると冒険者ギルドがギリギリあるような街がある。人口は少ないのに薬草の採取に特化していたり、染料の元になる石が取れたりする町だ。
町の男衆は冒険者登録して山に行った帰りや農作業の帰りについでに採取して来て副業にしてるの。
たまたま一緒に来ていたクルムさんは染料の石が取れると依頼表で知り、目を輝かせてアルムさんと山に向かった。
開門村作りが終わってから連絡を取ると、山に来てと言う。行ってみると普通より妖精が濃い場所だった。それは魔素が濃く生み出されている場所だ。
行って見るとアルムさんが700kgの豚を血抜きしていた。見事な豚に気を取られてたらクルムさんが沢の方から呼ぶ。木が
大きな藍色の石の塊だった。岩石の7割ほどが濃紺の色に覆われて緑色の石も一緒に付いている。周りに居るのが石の妖精か?見るとアズライト鉱石と言うらしい。あっちの世界では岩絵の具の原料って出るな。
「ここ見て」
「あ!削ってる(笑)」
「これ、来るたびに削ってるよね?(笑)」
「あー!そうだね(笑)」
「これ、もらえないよね?」
「クルムさんギルドに出さないんでしょ?」
「自分で使う分だけね」
「使う分もらえばいいじゃん(笑)」
「エルフは見つけたらみんなに言うの」
「え?」
「こんなに大きいの持って帰れないでしょ?だから皆に言って共有するの。人間だから共有してないとは思ったけど一応アルに聞いたの」
「僕も持って帰れるからって、こんな塊を丸ごとインベントリに入れたら奪ったような気になりそう(笑)」
クルムさんはこぶし大の石を3つほど割った。
「そんなんでいいの?」
「これを
婆ぁに戻った。
視たら
「見つけるのも挽くのも大変なんだねぇ(笑)」
「これで神教国の塗料が増えるわよ(笑)」
「染料ってそっち系?アロハとかの青色は違うの?」
「あれは実の汁で染めて色を
「色々違うんだねぇ。ちょっと待って・・・」
「どうしたの?通信?」
「なんか同じような・・・似たのが居るの」
「え?」
「こっちに似た妖精が居るけど見てくんない?」
「似たような精霊?」
「さっきの
「いや、いても不思議じゃ無いわよ、岩や石、山や川にも精霊が居るって言うもの」
「山の精霊って・・・」
スフィアがいるならいるよな(笑)
「アルムさん!ちょっと離れるよー!」
「えー!手伝ってくんないの?美味しそうなのに!」
「今はクルムさんの手伝いなの!」
標高1000mの山の尾根まで跳んで斜面を見下ろした。
「あの辺!」検索のプロットは妖精が映ってる。
2km程先の急斜面に注意して跳んだ。
やっぱ似たような妖精が多い。
「この辺にない?見てくんない?」
見た事も無い、知らない物を検索するよりクルムさんに見てもらう方が手っ取り早かった(笑)
「この辺が特に妖精が多いんだけど」指で指す。
「あ!
赤いプツっとした塊が岩石に付いていた。
視たら、HgS(硫化水銀)安定物質で毒性低い:バーミリオンと呼ばれる顔料絵具の元だった。
「多分ここは鉱床よ。探すといっぱいあるもの」
「売れるの?」
「何言ってるの!教会の壁画や絵画の赤は全部この鉱石よ。凄い価値よ、さっきの
緑の石が一杯出て来た。
「その色の石もそうだったんだ(笑)」
「クルムさん
「そうね、碧玉と同じぐらい欲しいわね」
「ちょっと待ってね」
ソフトボールぐらい。ソフトボール、ソフトボール、バーミリオン。あった!強奪。
インベントリからソフトボール1号球~3号球ぐらいの4つ出した。
「はい!これでいい?」
大きい
「これどうしたの?」
「神様にお祈りした」
「・・・」
「うんとさ、ここの侯爵様にお世話になってるのよ、ここ教えてあげても問題ないよね?」
「アルがそうしたいなら、するといいわ(笑)」
「うん、ありがとう!」
豚を
街で代官に報告してマルテン侯爵に手紙を書いた。検索のプロットには相当数の塊が出た、専門家に見てもらえば分かると思う。そこで見つけたと一番小さなソフトボールを置いてきた。
実はここからマルテン領都は3日程の距離で近い。マルテン領で呼ぶミウム街道(始点がマルテン領都~終点がミウム領都)なので街道沿いの1000m級の山は鉱床を見に来るのに都合がいいと思う。そもそも街道は山を逃げて作るので街道沿いに山は当然なんだけどね。
鉱床の目印は簡単だ。
急斜面を100m位近く平地に均しておいた。
・・・・
その日の晩。
アロちゃんとの交感会話でタナウスの海水浴の人出が心配になってきたと聞いた。人口が増えた事で平日でも7割ほどマス席が埋まるという。
「え!7割って80人超える人がマス席座るの?」
ファミレスの席のつもりで120席作ってある。机が30あるって事ね。
「いえ、占拠率です。母子の2人や3人が座ります」
「あ!するとマス席は40人から60人ぐらい?」
「はい、次の光曜日には食事する所が心配です」
「あー!そうか・・・人員は足りてる?」
「現在8人に増えております」
「そっちもか、店の飲食スペースもあるしな(笑)」
「近いうちに増設をお願いいたします」
「今から行くよ!」
「お願いいたします」
ハッと交感会話が醒めるとガバッと起きる。
メルデス21時>タナウス23時
人目が無くていい感じ、何かやるなら夜だなぁ。月の光の精霊を検索で捜したがいない。新月なのか弱々しくて真っ暗だ。
海水浴場は左の岬から右の魔動帆船の岸壁の間を砂浜にして全長は約1km。沖の水深4m程にモンスター避けの鳥かご型に柵で囲って砂浜に卵を産みに来たカメを海水浴場の左右の砂浜に誘導する。
1kmを3等分に区切ってその中央に海の家とマス席と呼ばれる1m程高い台に机30と椅子120が置いてある。今回は海の家の両脇に同じ形のマス席を作った。今まで使っていた海の家の横にも追加しておく。
砂浜の白い砂で机150個、椅子600個を速攻で作ったら、いつのまにやらメイド部隊が来て次から次へと運んでくれた。インベントリあるからいいのに(笑)
海の家は倍の大きさに建て替えだ。中央の海の家をインベントリに入れて同じものを3戸建てる。近くに今までの海の家を置くと中からメイドさんが一杯出て来て引っ越しを始めてくれた。
海水浴場の両脇にウオータースライダーと呼ぶのもおこがましい滑り台を作ってやった。母子が多いというので考えた末に満ち潮、引き潮もあるだろうが60cm位の水深から4m程階段を上がって岸に向かって滑って来る滑り台と。クルクル回って腰程の高さの場所に帰る滑り台を海の中に作った。どちらも海に落ちる前に台で止まる様に作った。濡れた水着だけで滑るようにツルツルピカピカの石に仕上げた。両脇の手すりも掴めないほどツルツルだ。
座ったら最後落ちるしかない(笑)
両脇の沖にも甲羅干し用の富士山舞台をポコポコ作っておく。滑って転ぶと危ないのでエンボス加工と角など無いよう緩い曲線で仕上げておく。
これで充分・・・あ!
人が多くなった分、海の家を中心に浜のゆったりと座れるビーチチェアーを40脚ずつサイドチェストと共に作っておく。20mぐらい後ろの海の家に振り向いてエール頼むとチェストにエールが届くんだよ(笑)
※今までは海の家で使いたい人が借りてめいめい好きな所にセットしていた。
近くのメイドさんにこんな感じで良いかな?と聞くと親指立ててグー!と言った。俺にしか分からない表現だ。
月の無い真っ暗な浜をメイド隊が転移装置始め、色々な物を運び込んでいる。転移装置が出来上がると自販機が設置されて、ひょうたんの浮袋、たらい船、ラクダのコブ袋のビーチボールが用意されている。
売っている水着がカラフルになっているのを発見した。誰も見てないと思って手に取って色々視てしまう。ドワーフ製の美しいシルエットのビキニが開発されていた。視たから間違いない、布の面積が10%減っている。
当社比10%ぉ~!
大丈夫なのかな?この世界まだ野蛮だから襲われそうで怖い。そんな
俺の好みはさておき、生物の進化の過程を垣間見た。
オスもメスも磨くのは本能だ。武芸でも容姿でも能力でも磨いて伴侶を捕まえるのだ。相手にアピールする事、それは生物の求愛のダンスだ。見事に光り輝く羽根だ。相手の眼を引く意味で人種は進化している事を実感して俺は満足した。
そう言えば・・・ドワーフは明るい所は苦手だから海辺用にサングラスを提案しよう。ドワーフは喜ぶだろう。
・・・・
7月の中旬
開門村建設の辺境伯領分は終わり、侯爵領の4000人程の町ばかりになって来た。町の中心部など300m程の商店街しかない。そんな中心地の公園に小振りなS.Aを作っているとラムール会長から連絡が入った。
タナウスに家と店を持って来たいとの連絡だったので翌日の朝にハムナイに迎えに行った。会長とは移民船出航日以来なので2か月ぶりとなる。
ラムール会長は生き生きとして神聖国に外相として骨を埋めると言ってくれる(笑) 余生を共に過ごす者達を迎えに行くという。
ハムナイの密林地帯。
ギアナ高地の様な凄まじいテーブル台地の上と下にとんでもなく大きな鉱山街があった。その名はラムール。
街の名前を聞いてランジェロ会長と同じく領主かと思った。ロスレーン家の領都だってロスレーンだ(笑)後に話すが今は置いておく。
城壁は今まで見た中で一番古いんじゃないかと思われる石積みの6m。日本の城の石垣並の大きさだ。ラムール会長曰く、最盛期には40万人が暮らす鉱山の街だったという。
ギアナ高地の様なテーブル台地を上から下から横から掘って銀、スズ、金を採掘しているらしい。今では余りに掘り過ぎて産出量が落ち、違う場所を試掘中と言う。
スズと言うのは白い鉛の様な元素で銅と混ぜると合金である青銅になるので硬貨作成の重要資源でもある。融点が低く工作性が高いので食器にも使われる。現代ではハンダ付けの元となるハンダにも使われる。
最盛時は40万人、今は20万人弱が住むこの鉱山街のラムール商会をタナウスに持って行くというのだ。はっきり言ってコルアーノの王都よりデカイ上に、ロスレーン領の人口より多い人がこの街に居る。こんな国だから10年以上も戦争出来るんだよ(笑)
「もしかしてタナウスにラムール商会の本店を置くと言っていたのはここが本店なんですか?(笑)」
「なかなかそれを知る者はおりませんぞ(笑)」
「私も聞かなかったら分かりませんよ(笑)」
「ここはどうするんです?」
「畳みますな」
「え?無くなるのです?」
「イヤ、親族の者が跡地を使います」
「見えましたぞ!あれです」
山の上に宮殿があった。
「あれ、商会じゃないですよね?」
「あれは家ですな(笑)」
「あれ持ってくの?」
「大きすぎますかな?」
「イヤ、あれってこの街の象徴じゃ無いですか?」
「そういうのは、あそこにありますな」
「塔とトロッコの橋みたいのが崖にあった」
視た。
1400mほどのテーブル大地から落ちて来る水を貯めておく給水塔だった。滝の水を石積みの給水塔で受けて給水塔から上水路が扇状に広がって行く。アレだ!簡単に言えば、流しそうめんの真っ直ぐな竹の道が家を貫いて走ってる感じ。
何本かある滝の川は生活用水路で流れている。上水はタナウスの進化版みたいな作りだ。そこに上水道があるから家を作って、家を作ったから支流を作って・・・それを繰り返すとこんな街になる(笑)
「1300年前に作られたという給水塔ですな」
「へー!」
「店に着きましたぞ」
「え?」
「そこが店ですな」
笑う。普通の事務所だ。タクサルさんが居た事務所の3倍ぐらいの事務所だ。それでも従業員は30人ぐらいが机仕事出来る程のスペースはある。
貴族服の子供を連れた会長が店に入った。
「会長!どうしたんですか?」
「ぼっちゃん!」
「坊ちゃんがお戻りになられたぞー!」
「儂もまだまだ小僧ですな(笑)」
たちまち25人の従業員が店の中に並んだ。後ろにメイドさん6人。
「今6人ほど出ております」
「よいよい(笑)」
「会長、おかえりなさいませ!」
「うむ、皆久しいのう!(笑)」
「今日は何の御用で?」
「これよりラムール商会は神教国タナウスに本店を移す。この地に残りたい者はチッタの所に席を用意する。まだ夢を見たい者は新天地タナウスにゆくぞ。3000m級の山が連なる未開の地だ!見たい者は付いて来い」
ALL「・・・」ぽかーん。
最高齢115歳が居た。アルムさんと同世代だった。
メイドさんの一番上95歳なんですけど・・・。
・・・・
呪縛が取れた一同。
「何が必要です?」
「お主が必要と思う物じゃ」
「タンガは?ここにはおりませんが?」
「もう現地に入っておるわ(笑)」
「え?」
「先日の移民で入っております(笑)」
「あぁ!」
「タンガも居るとよ(笑)」
ALL「(笑)」
視たら採掘スキルLv9を持つ2位冒険者、2位傭兵の爺さんだった。山師一本で食ってる97歳で一族郎党連れて移住してた(笑) と言うか・・・会長が雇う予定の従業員が多数移民団に紛れ込んでいた。妙に多いと思ったんだよ!ハムナイから魔道帆船6隻よ?普通にアンケートで使用人とか料理人で申告するから分かんないよ。料理人は食堂もらってるんじゃないのか?
ラムール商会の使用人まで支度金払ってるじゃん、制度上お金ないと何もできないから良いんだけどさ、同じ様にランジェロさんの使用人にも支度金払ってるけどさぁ、アレは正攻法で、こっちはハムナイでの移民主催者特権の裏口入学ぽい感じだ(笑)
なんか
それからは大質問大会になった。
Q「孫が鉱山で・・・」
A「家も孫も何でも持って行け」
Q「家も?」
A「持って行かない者は家が貰えるらしいぞ」
・・・・
「出たな?」
「はい」
「お願いします、御子様」
「はーい」
スッとラムール商会が消えた。
「・・・」
「家ごと持って行く者は?」
10人が手を挙げた。
「後の者は?」
「親族の誰かが使うかもしれません(笑)」
「夫婦だけで行く者はそれも良いな(笑)」
「手を挙げた人の家を持って来ますね?」
「お願いします」
たちまちシャドが巻いて跳んで行く。
「あのお子は? 御子様と先程・・・」
「そうじゃ!紹介しとらんかったの(笑)」
「高貴なお方です?」
「息吹じゃ」
「・・・」
「?」
「!」
「見つけなさったんで?」
「そうじゃ・・・3年前にな(笑)」
老人たちは顔を見合わせて微笑んだ。
次回 354話 ラムール商会の正体
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