第352話  破滅する奴隷狩り



6月1日の神聖国の新教会祝賀記念式典から15日の移民歓迎式典までにいた奴隷案件だった。検索しても見つかんないの(笑)


移民歓迎式典は神都大教会前広場を使って盛大に行われた。ベルン代官の挨拶に始まり、クラウス司教の挨拶、学校の先生の挨拶まであったのは、明日の風曜日から移民の生徒と新しい先生が学校に通うからだ。平民の子が学校で読み書きを教えてもらえる国は余り無いので子供が覚えたら自分も教えてもらおうと親も気合を入れている。


すでに最後に入港したワールスの移民も家と職場に案内されて2日が経ってホッとしている。親の店を手伝っていた小間物屋(針と糸やボタン、布などを扱う店)などすでに商品が並んだ店ごともらえて感動の余り泣いていたとアロちゃんの報告にあった。遺品だから店を大切にしてくれたら供養になるよねと交感会話で笑った。


村の大工も持って来た道具の他に大物工具まで一揃い付いた仕事場をもらえた上に裏の倉庫には資材まで置いてあって目を丸くした。


村の鍛冶屋も同じく、大体魔鉄か鉄、銅を扱うので専用の鍛冶場付の店舗に倉庫にはコークスと素材は置いてある。


ガラス職人までいた。基本は鍛冶屋の設備とアンケートで知って鍛冶屋の店をもらっている。


あり得ない待遇に皆が感謝してくれた。


教会広場の喧騒の渦の中。


楽隊に合わせて俺とリズは踊った。人数は1年半前と桁違いの多さになっている。踊りに参加する人が60人ぐらい広場に居るのだ。


教会前の広場はまだまだ神教国の様に埋まらないけれど各種露店や音楽隊、人形劇、振舞われる酒と、シスターが配るお菓子。教会に垂れ幕が掛かり、花吹雪が舞う移民歓迎式典は第一回と言う事もあって皆が大はしゃぎのお祭りとなった。



タナウスが浮かれる中、世の中は少しずつ動いていた。



入港する筈の奴隷船が入って来ない。最終寄港地に問い合わせても船も人も突然いなくなったと言う。他の船は最終寄港地にすら寄って無かった。奴隷の到着を心待ちにしていた奴隷商人達は焦った。貴族からまだか?と矢の催促があるのだ。商人は嵐で遭難している可能性を疑った。


奴隷商人達もまさか後進国の奴隷収集基地どころか洋上の奴隷船まで全滅しているとは知らない。そんな奴隷船がいない中で検索に引っ掛かったのは奴隷船の捜索依頼で集められた捜索隊だった。


交易船の寄港地となっている南海の孤島アバ。そこで仕立てられた捜索船は乗組員ごと雇われた傭船ようせん契約。奴隷航路に詳しい奴隷商人と複数の冒険者PTや奴隷船発見時の傷病人回復役の治癒士が3名乗っていた。後進国までの奴隷経路を順に追う海の旅で未開地での食料確保のために依頼を受けた冒険者PTだった。治癒士はギルドで正式に依頼票を受けていた。


依頼は奴隷船の捜索と救出。近隣4島の後進国へ向かう現地捜索も含めて往復1か月の護衛任務の様な短距離捜索依頼だった。



・・・・


アルは安心していた。


5月の末に奴隷狩りを全滅させ、居なくなってから6月の末まで何も検索に引っ掛からなかったからだ。


実は奴隷狩りを全滅させても1か月かそこらではその情報が伝わらない。アルは2月に大陸中のさらわれた奴隷を開放した。逃げた奴隷を発注して、奴隷商人が受注し、奴隷を沢山集める様になった経緯までタイムラグがあった。


逃がした奴隷は奴隷商が長い年月を掛けて、貧しい村、誘拐された奴隷が近隣諸国から何十年も掛けて集められた奴隷たちだった。


奴隷がいなくなったことで奴隷需要が急増した。急増した結果、安易に捕まえて来る未開国、後進国への奴隷狩りが爆発的に増えていたのだ。


アルが安心してやるべき事を済ませ8月になる頃、思い出したように検索してみると奴隷狩りはまた山ほど増えていた。愕然とした。現場も洋上も一掃した奴隷狩りが新たに復活していた。


救出船が通った奴隷航路には奴隷船が復活していた。


大陸に供給される奴隷の経路は二つある。アバかズサを経由してその周辺の島の未開人や、ブラ、アス、ガル、ハマスという大きな4島の後進国から連れて来る二つの経路だ。その4島は港を整備した他国の入植者が勝手に国と言ってる国だ。


その二経路の奴隷航路の島には人別帳も何も無い、誰がいて、どんな名前の者が住むのかは先住の村の者しか分からない。


奴隷を供給しているアバかズサの二経路は渡った入植者が先住民を連れて行くのを黙認している国と治安部隊がいない国だと思えばいい。


そんな国は民を守らない。勝手に増えるから連れて行けである。その為に寄港して補給して金を落す船を優遇する。捕まえるのは自由、村人に抵抗され死んでも自己責任だ。奴隷狩りに手を出す者は限られた者だけだった。


餅は餅屋で武力を持ち、捕まえる能力のある者が販路に乗せて売りさばく。知ってる者はどんな世界の住人達か知っている。文化の香りとは無縁の殺伐としたすさんだ無法者の世界だ。



6月中旬に奴隷船の航路をさかのぼって後進国までやってきた救助船。あの冒険者達は奴隷狩りになっていた。


救出船には奴隷収集の航路と拠点を知る奴隷商人が乗っていた。拠点が壊滅して跡形もない事に奴隷商人は激怒した。現地人の襲撃にあったと思ったのだ。村を襲う時には抵抗されてもさらって牢に入れたら大人しいのでなおさら激怒した。


商人は冒険者にかたきを討つのと奴隷の捕獲を依頼した。合法だ、裁く法律が無い。せっかく来たなら復讐代わりにやるか?と数組の冒険者PTも高額報酬でやる気になった。治癒士の3人も奴隷狩りには眉をひそめたが一緒の救助船で来た仲間を援護しサポートした。


奴隷狩り初体験の冒険者だった。高額報酬の契約で何人も捕まえて手枷足枷をめただけだ。


捕まえて来た女、子供、大人までが助けて殺さないで逃がしてとすがり付いて泣きわめく。


普通に暮らしてた冒険者が、武力で屈服させ捕まえた人間の生殺与奪せいさつよだつを握る絶対的支配者になってしまった。心が痺れて行く、暗い悦びに目覚めていく。それは魔女狩りの異端裁判と同じ道だ、捕まったらもう逃げられない。女は襲い、逆らえば殺す、村に行けばまだいっぱいいる。


言葉は話すが、こいつらは泣き叫ぶ家畜と認識が変わって行く。奴隷狩りはエスカレートし憐憫れんびんの情を持たぬ笑って殺す者にちて行く。捕まえただけ報酬は山ほど増えて行く、笑いの止まらない世界にはまった。


救助船は奴隷船になり往復1か月でピストン輸送していた。帰りには船を仕立てて3隻になっていた。新たな奴隷狩りを乗せて。


・・・・


アルは7月下旬に知り、性懲りもなく湧いて来る奴隷狩りに激怒した。直接的な供給を担う奴隷狩りと前線拠点だけではなく、命令を下す者も狩る様にした。


奴隷商人は奴隷をどんな風に狩るのか知っている。しかし、王や大貴族になると奴隷の集め方は。と命令するだけ。鉱山や農業プランテーションで働く奴隷すら直接見た事が無い。


王や貴族が当たり前に生まれて来る様に、平民は当たり前に生まれて増える。当然奴隷は奴隷として当たり前に生まれて来るぐらいに考えている。常識がそうなのだ。奴隷はそういう認識だ。


奴隷が足りませんと報告を受けたら、それなら奴隷を集めよ、捕まえて来いと言う命令になってしまう。


そんな何も知らぬバカを連れて来ても世の常識だから罪の意識が無い。明の世界では法学生だったから知っている。簡単に言えば犯罪が成立するには、確定的故意と未必の故意という故意が必要で、それが無い場合には犯罪として成立しない。だからその様な判断基準が無い犯罪にならない。


確定的故意:あの婆ぁ、歩きスマホでぶっ飛ばしてやる!未必の故意:歩きスマホでぶっ飛ばすかもしれないけどいいや。


そんな感じだ。


この世は地球のその時代に行われていた様に合法だ。しかし奴隷自体を奴隷から生まれて奴隷で帰結する者として認識されている事実。実際に奴隷を見た事もなく、実態も知らぬ者が部下の要求で必要と言われた場合は「良きに計らえ」と言う。これはどうなんだ?アル自身が答えが出ず放置していた問題だった。


奴隷を知っていたら確定的故意。これは奴隷狩りに相当すると判断した、拠点も奴隷船も同じだ。奴隷商人もこれだろう、店先で商品を売っていた小僧はどうなる?一緒に更生村なのか?


未必の故意は、命令したら奴隷狩りを向かわせて現地で捕まえるのも仕方ないなと思う事だとすると、何も知らずに足りぬのなら兵を使って集めて来い!と言うのはどうなんだ?とアルが迷うのだ。


奴隷の生活や奴隷のなり方、奴隷の一生を知らない。だから奴隷も見た事無いのがいるのだ。話だけは聞く、鉱山で働いてるのが奴隷と知るだけだ。これを捕まえて更生村に入れてどうすんだと徒労感も有った。だから今まで命令系統は放置したのだ。


取り合えず、もう放置できないので施設を作って、そこで選別して処理することにした。まずは教育しないと話にならない。奴隷を知らない初心者の為に教育システムを作り、知った上でやったら確信犯としてアルが裁くようにするのだ。


コアさん達に教育してもらうのだ!わーい。


アルはそれなら徒労感や自分の判断に虚しくなる事は無いと安心して奴隷に関わる全ての者を狩る様になった。


・・・・


倉庫に押し込められている移送待ちの奴隷ばかりか、移送途中の奴隷も馬も荷馬車も全て奪った。買われた直後の奴隷も元からそこにいた奴隷も全員消息不明となった。奴隷狩りで雇われた冒険者も新たに作った更生村へ叩き込んだ。


もう容赦しなかった。命令した奴も動いたやつも全部消した。


奴隷商の主人と使用人が消えた。奴隷を頼んだ数日後に受けた商人は連絡が取れなくなった。そして頼んだ者すらいなくなった。新たに雇った奴隷狩りも運ぶ船すら消えた。


そして国が本腰を入れたら兵士と船が丸ごと消えた。命じた王も宰相も消えたのに、とりあえず奴隷問題を片付けようと二回目の奴隷略取の命を下したりない政務武官がいたのでさらった上に王城に呪いの最終兵器、タナウスの新型爆弾が落とされた。奴隷問題どころでは無い。悪臭問題に全力を注いだ。全ての王の親族と政務武官の重鎮を助けるために第4次救出部隊まで王城で遭難した。


噂を聞いた貴族がそんな馬鹿な話があるかと思った。今奴隷を捕まえて来たら大儲けでは無いか!と笑って部下に奴隷狩りを命じたら、出発した部下と兵士が丸ごと消えた。長年仕えた者が家族を残して突然失踪した。捕えた奴隷の皮算用どころか、とんでもない損失を出した。人的損失、物質的損失に大騒ぎする貴族も消えた。


要望した奴隷はいつ届くのか?どうなっているんだ?と鉱山や橋梁建設、街道整備の現場から例年のノルマは無理だと執政官事務所は突き上げを食らった。


噂の通り消えるなら、今いる犯罪奴隷や戦争奴隷に奴隷狩りをさせろと声が上がったが、それで命令を出すと出発した途端に消息は途絶えた。命令した者も消えた。その国は唯一いた奴隷すら失った。


噂は本当だ。アルが責任持って消している。


一夜で4万人誘拐して来るアルだ。まとまってる略取奴隷も奴隷狩りも誘拐するのは一瞬だった。60以上の地域を指し示す奴隷検索のプロット全部誘拐するのに2時間掛からない。アルが街や奴隷船に転移で跳び込み該当者と船を巻いてタナウスに誘拐して行くのだ。その場で足取りも無く街から海から消える。


ドライブスルー誘拐だ。


父をさらわれた家族が泣くのも関係なくさらった。世の常識がなんだから、を優先した。ピラミッドの頂点一人の命令で現場で何千人が迷惑する。人の痛みを分からない奴らに家族もクソもない。


当~たり前、当たり前~、当たり前破滅~。


神教国で奴隷教育センターが待っている。卒業生がやりやがったら今度は更生村に叩き込む!


湧いていた新興勢力を一掃すると、あとは毎日15分ほどで奴隷検索に新たに掛かった者を連れて来た。1人~30人だ。多い時は議会で奴隷肯定派が奴隷の必要性を演説していたのをウンウンしながら消した。議会の全員が肯定派が消えたのを目の前で目撃した。


今回の件で捕えた者を売った盗賊も略取奴隷検索で引っ掛かるので一緒に更生村行きにした。大体皆が関わってるので丸ごと消えた。


執拗しつように、あの手この手で隠密裏おんみつりに奴隷狩りを繰り出す政務官の国にアルもエキサイトした。


政務官の命令書を出す奴を誘拐しても、今度は部下の政務官が命令権を引き継いで命令を出すのだ、アルと政務官のいたちごっこは3人消えたら無くなった。


エキサイトしたアルは、当事者を消しても消しても何度も命令を出す懲りない国の犯罪奴隷も借金奴隷も戦争奴隷も全部さらった。面倒臭くなったのだ。現場がヤイノヤイノ突くから政務官が命令を出す、面倒なので元から断った。


聖教国の様に、明確に奴隷を犯罪奴隷、戦争奴隷、借金奴隷に限ると信徒国に宣言している国は少なかった。またそういう国は一切被害を受けなかった。アルはと認めているからだ。(戦争奴隷は捕虜で身代金を払えなかった者)


区切って無い国(誘拐された者も金で買った直後に奴隷と認定する国)は奴隷が全部いなくなった。注文を聞く商人も居なくなった。奴隷鉱山など軒並み止まった。奴隷が足りないとノルマが達成できないと政務官に騒いでたものは黙った。足りないのではない、もう居ないのだノルマもクソもない。鉱山を掘る奴隷が一人もいない。


それを神の教えで教会から発信させた。神の怒りに触れていると。奴隷の事を知らず鼻で笑った王は司祭の前で消えた。王がいなくなっても奴隷も大事と言う我田引水の貴族がいたのでさらって、分からず屋のアホ共食らえ!とタナウス爆弾をプレゼントに行った。神を笑った王の親族と貴族の末路を吟遊詩人が歌った。ネタを提供したのはアルだ。


アホ共!というアルだが世の常識に弓引く大犯罪者だ。


幸せに繁栄しようと頑張ってる村や町を蹂躙じゅうりんして不幸を振りまく者達に心底怒れた。アルは怒れたからと蹂躙はしない、更生村に送った。


奴隷を狩る者に容赦しなかった。己が奴隷の人生を送る事になるのは皮肉だった。


人が人生に迷って奴隷に落ちるとは違うのだ。


親が居ない時に明と雫を武器で略取しに来た者が居たら明は釘バットで戦う根性は持っている。でも相手が有刺鉄線上等の1000針縫った大仁田みたいな奴なら敵わない。同じ様に村が襲われた時に先住民が槍や剣を持って戦っても恩寵を理解して強化している対人戦特化の奴隷狩りには敵わない。そして連れて行かれたら一生奴隷だ。


アルが助けているのはそういう事だ。


命令出してる王族に、お前らは人間じゃないから奴隷狩りに来たと言ったら本気で怒るだろうなと笑えた。マジで分かって無いからだ。


イジメで内田を奴隷にしてたのと一緒だ、何ひとつ変わってない。あそこには法律があった。こっちには無い。


誰しもが自分に置き変えたら絶対に許せない行為なのだ。それが分かってない奴らに落とした爆弾は悪乗りだ、来年会うネロ様始め神々に視聴者サービスで使った。


幸いなことに商国連合はすぐに声明を発していた。絶対に奴隷に関わるなと。関われば破滅すると広めた。タイムラグがあったお陰で知り合いを誘拐しなくて済んだ。


関われば破滅する。それは本当の事だった。


奴隷狩りの加害者だけで6000人を誘拐してきた。

中にはどうしようもない国王もいたから遠慮も忖度もせず更生村に入れてある。王の座などすぐに子供が継ぐから国王も居なくて大丈夫だ。


以後、奴隷狩りパトロールは続ける。

どうせ15~30分の軽作業だ。更生村で奴隷になるのが相応しい。


9月末。

5月に始まって9月末まで足掛け5か月。


奴隷の値は上がり続けて崩壊した。奴隷に関われば人は勿論、荷馬車から船から財産付きで消えて行く。人を雇った方が安かった、安全だった。貧民に仕事が出来た。流民を優遇して国に入れた。


流民、貧民を鉱山や農園に巧みに誘い込み奴隷にした時点でその奴隷も雇い主も消えた。リピーターの鉱山は瓦礫がれきに埋まり、奴隷プランテーションは原生林の森に回帰した。


※略取奴隷をアルが奪ったのに2回目の略取をした施設。



風評では、奴隷に関わると破滅するのだから。



風評被害である。


実際は更生村で転生して幸せに暮らしている。




次回 353話  石の妖精

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