第351話 パターン青:使徒です
サントの移民船を皮切りに、次々とハムナイとワールスの移民船がタナウス神都に入港した。
一番最初に到着したサントの移民船が近くの島影で停泊し、明日の朝9時に合わせて入港すると聞いた時は胸がドキドキしてなかなか眠れないほど興奮した。ベッドの中からリズに連絡し、明日の朝7時に迎えに行くと連絡して興奮を伝えた。
この喜びと興奮をくれた人達。神教国タナウスに移民したいと手を上げてくれた人たちに心から感謝した。
国は民を守るために存在する・・・最小単位の家族から段々と皆が寄り添って大きくなったコミュニティーが国だと証明したかった。国として大きくなると
・・・・
翌朝6月8日(光曜日)
メルデスのリズとセオドラとナタリーは朝の7時に用意して待っていてくれた。
二人並んで入港して来る船を待った。キョロキョロ周りを見ていたら着岸岸壁の根元にヒッソリとバーツさんがロラン執事長と見に来てるのを見つけた。
「バーツさーん!」
「これは御子様。王女様も式典から1週間ぶり(笑)」
「送らないと来られなかったですね(笑)」
「サントの移民ですから老婆心ながら見に来てしまいました。私がここに居ると不味いので陰から見せてもらいますよ(笑)」
「そっか!サントで見送ってここに居たら変ですね(笑)」
「御子様なら皆納得しますけどね(笑)」
「さすがに皆が知ってる訳じゃ無いです(笑)」
「聖教国の大魔法は吟遊詩人も歌ってますぞ」
「あ!そうだった(笑)」
「銀行の件はもう少しお待ちください。サントとワールスの用地は押さえておりますが、現在世界の主要港を押さえるために動いております。商業国家なら二つ返事でしょうが国が費用を負担するとなると王族を通す手順が必要です」
「難しい仕事ばかり頼んで申し訳ないです」
「いや、王族も港で交易税収も伸びておるのです。この銀行システムを入れないと世界の交易商人が港に入らなくなると聞けば主要港に銀行1つの使用料は問題なく認める筈です」
「ご尽力ありがとうございます」
「尽力しますとも!恩恵は商人にもたらされます。船が沈んでも代金は必ず残るのです。どれ程の商人が救われるか知れません(笑)」
「あ!アル様!来ましたよ!」
「お!入ってきましたな(笑)」
半島の陰からゆっくりと帆船が姿を現した。
遠くに魔動帆船が見えたらメイドさん達が歓迎の魔法花火を上げた。ドドーン・ドン・ドドーンと尾を引く7色のライトの巨球が遥か上空で弾け飛ぶ。弾け飛んだ光のすだれが魔動帆船をカーテンの様に包む。
アルノール卿を捜したらアルムハウスの3Fテラスで3賢者で見物しながら飲んでいた。
ハッキリ乗ってる人を視認できる頃には3本マストの全ての帆が畳まれた。
入港して来る船に向かって俺とリズは思わず手を振った。岸壁に迎える人達も皆手を振っていた。船を見たら振らずにいられなかった。
船から沢山の人が身を乗り出して手を振っている。手すりに鈴なりに
船の入港とか見た事無いので全然分からなかったが、80mもある巨大な魔動帆船の着岸は見事だった。自由自在だ!魔動回路のノズルが360度回るんだからそうかもしんない(笑) 船から投げられるロープも執事たちがテキパキと石の杭に取って行く。
そんな作業中に二隻目の移民船が入港して来た。またもや上がる魔法花火。弾け飛んだ光のすだれが一隻目の魔動帆船に降り注ぐ。それはアルノール卿に計算された歓迎の演出だった。
上甲板のマストに付いたデリック(クレーン)から大きな階段が滑車で下ろされると船から岸壁への通路が出来上がる。
俺にとってはそれは夢の世界の様だった。
たった二年だ!コアさん達が開拓しだして二年だよ!俺は何もしちゃいない、タナウスの遺産がここまでしてくれた。
心が震えた。巡り合った奇跡に感謝した。コボルさんに感謝した。
俺はアルムさんクルムさんが降りて来る人たちに花吹雪を見舞うのを見ていた。子供達が降りて来た団長たちに花束を渡すのを見ていた。メイド達が演奏するのを聞いていた。
リズが手を握り締めてくれた。
俺とリズは何もせずそこに立って見ていた。
・・・・
岸壁の根元で移民たちが入国手続きに並んで、執政官達が
入管手続きしてる間にメイドさんがすでに家族の手荷物を用意してるからそのまま荷物と体調の具合の確認をしてメイドと執事が荷物を持つ。
パン屋、食堂、商店、職人、特殊技術など20ブースもあるカウンターに家族は案内されて支度金を家族分渡されて抽選を行う。抽選が行われると大きな看板地図にパン屋の誰々と書かれて家と店に案内されるのだ。村の大工、鍛冶屋、雑貨屋さんには村直行の乗合馬車が待機している。
移民団の最後の方で船を降りてきた家族が先頭集団の家族を目で探すと、すでに荷物を持って自分の家に向かって半数ほどは抽選場所に居なかった。
この入国手続き>荷物の受け渡し>支度金支給>家の抽選会>家や職場に案内の動きは船内で移民団に周知されていた。家の抽選と言っても家賃ただである、誰も文句言わなかった。
アルも国としてどうかと思うが、元々モンスターが濃い緑の魔境を勝手に開拓して国を作り、滅んだ国の中古の家建てて、困った人を国民にした上に金を貰うのは人としてどうかと思う所もあった。困ってタナウスに来た人がタダなら移民もタダじゃ無いと不公平だ。その辺はとても平等なアルだ。
ハムナイ移民船が6月10日、ワールス移民船が6月13日にタナウスに着いた。
街のメイド部隊が仕入れた移民の生の声を毎晩交感会話でアロちゃんが聞かせてくれた。
「民が少ないのに、誰が作った超先進国」
「この国を作った宗教国は重税で苦しんでる」
「家は中古で街がある、前の住人はどこ?」
「銀行の不思議、S.Aの不思議、井戸が無い不思議」
「風車や水車が無いのに小麦粉がある不思議」
ミステリーマガジン「ムー」の都市伝説の様な見出しを聞かされた。
明らかにカットされた偏向報道の生の声だった。
移民が持って来た麦を粉にしようと粉屋を捜して、粉屋が無い事に気が付いた。普通は村にも街にも粉屋がある。完全に盲点だった。
アロちゃんの警告で大倉庫から水車小屋と風車小屋を持って来た。ついでにロスレーンで頼まれていた執政官宿舎や孤児院や集合住宅付きの店舗も持って来た。
深夜にひっそりと村の端に用水路を引いて水車小屋を建てた。首都に水車小屋もなぁと思ったが街の端っこの用水路の最終地点に水車小屋を建てて執事を粉屋に偽装しておいた。子供達が海水浴の時に上から滑ってくる街の用水路には危なくて付けられない。
ロスレーン領都も夜中にひっそりと集合住宅や店舗が置かれた。サルーテ領にも夜中に執政官宿舎と孤児院が置かれた。シュミッツと話は出来てるから相互通信機で連絡取って上手くやるだろう。
サルーテではポツポツ民間の建物が出来始めていた。ロスレーンの銀行の調度品取付けも5月の中旬に終わったばかりだ。
住民がおらず点灯してない街路灯を灯しながら建築中の建物をゆっくり見て歩いた。ここは何屋さん?ここは?と順に見て分かった事があった。四部会が東西南北に仕切るこの街で歓楽街を4つ作る計画を早めていた。その計画の一環で、流れの露天商を誘って四人の元締めが自勢力への勧誘をやっていた事を知った。
流れの露天商を領民に誘うとはあいつらも貴族を喜ばすツボを覚えやがってと笑った。
露天商を領民に誘っている新事実。
歓楽街とは花街、ギャンブル場、露出気味なお姉ちゃんがお酌してくれる店の集合体だ。高級な貴族用と平民用の店があり色々趣向を凝らしたうさ耳のぷりんぷりんなお姉さんの店もある。
目の前の建物は人足を満足させる歓楽施設だった。ロスレーンにもあるからサルーテにもあってもおかしくはない。生き物の本能を攻めているのでガチで固い職業だ。
俺は昔から固い職業に興味があった。検事とかだ。
違う!なんか違う。その固さは違う。
まぁ男は好きなんだ。そういうのが・・・。
四部会の元締めたちが勧誘で集めているのは歓楽街を取り巻く飲み屋や飲食店だ。まだサルーテではギャンブルは認められてないが歓楽街の者も客も遊びに来たら近くに飲み屋や食い物屋があると都合が良い。
繁華街の近くに店を持たないかと露天商を誘うとロスレーン家との契約で4月1日に土地が貰えるので晴れて食い物屋の店主になると露天商の皆が嬉し気に言う。
さっそく四部会は執政官を通じて露天商の店の話を聞き込んだ。
領と契約を交わした100露店には4月1日に希望の場所の用地1区画10m×10m(約30坪:60畳)が提供される。それは東西南北に散らばる人通りの多い一等地に飛び地で用意されていた。来年の4月の情報を掴んだ四部会は秋には動いた。
景気が良いと聞きサルーテに流れて来た露店商を四部会は自分のシマの繁華街に連れて来ようと勧誘した。資金を出してやり繁華街に店を作るから入ってくれと勧誘した。
何も悪い話では無い。この時代は強い力を持つ者の下に居ないと安全じゃない世界だ。現に元締め直々に誘われてサルーテに腰を落ち着けようと大喜びで承諾していた。四部会の元締めたちは秋から自分のシマに呼ぶ露店を勧誘していた。
アルは上機嫌でメルデスに帰って行った。
今度褒美にブランデーをやろうと思っていた。
・・・・
去年の秋。
四部会が誘った中にベークス領の露店商が居た。サルーテが景気良いと聞き、流れて来た露天商は誘われた時に勘違いしていた。
ロスレーン家の三男アル様の委任状を何か揉め事があるとチラつかせるサルーテの四部会。どうにか上手い事手に入れた委任状で四部会が執政官のお目こぼしも含め新領地を牛耳ってると思っていた。伯爵家の三男は聞けばまだ小さな子供だという。
四部会に勧誘されたヤクザ崩れの露店商からロスレーンと領境を接するベークスの領の元締めに話が行った。伯爵家の子供の委任状を上手い事手に入れて新しい領の利権を吸う奴らの事を話した。小遣い稼ぎに元締めの所に行ったのだ。そして勘違い情報を吹き込んでしまった。
「そんな上手い事やってんのか?」
話を聞いたベークス侯爵領都の元締めが舌なめずりした。以後転落の一途を辿ってしまう。
頭を
陳情を聞いた執政官事務所にいる侯爵家三男がこれでいいかい?と気も良くサインして渡したのがあの委任状である。ベークスが大きな山脈に接した広大な荒れた土地を使って作る葡萄から出来たワイン、ロスレーンはそれを領の全土に買っていた。木工家具は庁舎の机や椅子、チェストとしてサルーテに運ばれている。
なにも建築資材の特産がある領だけでは無いのだ。農作や手工業の盛んな領はサルーテの建築資材を供給出来ない。そんな意味で自領のワインや木工家具、手工業の織物や敷物の特産を街路灯の代金に充てているベークス領。(代金は払ってもその代金は特産を発注してくれるので要するに特産と魔道具との交換なのだ)
執政官の三男は、自領の特産品で街路灯という便利な魔道具と交換できる事に感謝して委任状にサインしていた。
侯爵家の委任状を取り付けてその名前を使って四部会を牛耳るつもりだった。相手はロスレーン伯爵家の委任状をチラつかせるなら、こっちはベークス侯爵家の委任状でぶっ潰す。
元締めは勝った!と思い込んでいた。
元締めはアルのハウスやS.A利権も当然狙っていた。それはアルの名前を
元締めは勝ち誇って委任状をチラつかせ執政官の所に現れた。
四部会は何なんだと聞かれたら、執政官もロスレーン家の三男アル様の話が絶対に出る。実際に出たのだ。
執政官もS.Aやハウスはアル様が作った物と知っている。アルが委任状を四部会に持たせて流民サービスを運営するのも知っている。しかし正式に領の通達も無ければ、アル様に直接聞いた訳でも無い。実際に面と向かって正式に四部会と河原に出来たキューブハウスやS.Aの事を聞かれたらアル様の筈だけどなぁ?と流民センター併設の貴族家に話を聞きに行った。
そしてアルに話が行った。
アルも勘違いしていた。大体合っているがだいぶ違っていた。
流民センター及び四部会を組織し、運営しているのがアルだった。貴族は普通そんな流民を助けるNPOみたいな事しない。執政官以外の人足やってる普通の平民はロスレーン家のアル様を見た事が無い。でも四部会の元締めは持っているロスレーン家の委任状をチラつかせる。一人一回出せば4回もチラつかせたことになる。
サルーテの誰もがアルの名前と委任状でサルーテを仕切るのが四部会だと思っていた。
とても危険な大間違いである。
全てを仕切ってるのは
ベークス侯爵領の元締めは上手い事やりやがってと藪を
身内に手を出された変異体、パターン青:使徒が出て来た。それはシシ神の森を
パターン青:使徒は手役や待ちなど関係ないパワーの塊。ゴッドハンドによるリーチ一発ラス牌稲妻ヅモ、ダブ東に裏ドラ《※》が乗る変異体青だ。親リーにベタ降りが通用しない相手。危険にも程がある。
※この時点で親の倍満8000オール(24000点)確定。
以前パターン青を藪から出したのはハイエルフとラムール会長の次男を
そんなの藪から出したらダメだよ。
侯爵家の三男はクソ孫じゃなくて良かった。
次回 351話 破滅する奴隷狩り
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