第349話  ミニス農業、家事Lv2


6月2日(風曜日)


雨の中、朝からクランのメンバー希望者の面接だ。若いくせに食い詰め浪人みたいなのが多い。俺は食えない経験は必要だと思ってる。食うために教官から学ぼうと意思が固まると思うのよ。。


貧民街でもチビたちはゴミの山に入って金目の鉄、道具、金具や留め金、穴の開いた鍋、ボタンを捜している。中には折れたナイフまで落ちている。ハングリーだから諦めない、簡単にやめない。ゴミ屋に素材で持って行き銅貨1枚くれたら何か食べられるのだ。


そんな世界から来た6位冒険者。今日の3人は7位の30件の依頼はもう終えていた。6位になるのは良いが汚れ仕事で食ってきたお陰で討伐系の技術は無い。お手伝い系の仕事は体や服からすえた臭いがするから屋内の仕事や対人の仕事は拒否されたりする。屋外の掃除以来しか取れず行き詰まっちゃう。


言い出したらキリがない。


今日の奴らはリナスがクランハウスに入れなかった。余りにも濡れネズミでズタボロだから雨の中軒下で待たせて俺を呼ぶ。呼ばれた俺も行って苦笑してクリーンする。


「おまえら大変だったなぁ。でも良く来た!(笑)」


見るからに貴族の俺とイコアさんを見て黙り込む。外で全員クリーンして宣誓の儀を行った。面接もクソもない。もう冒険者人生が切羽詰まってるからだ。


「クランで借金漬けにして稼ぐまで強制労働だ!」


以前面接に来たズタボロPTにそう言ったら言葉が悪すぎますとたしなめられた。でも借金が終わった頃には充分に食える冒険者だ。


この後雨の中でも集会は行われる。寄宿は全員出席だ。


雨の中でも獲物を追うのだ、山では急に天候も変わる。雨なんて関係ない。皆マントは持っているし夏に向かう雨などへっちゃらだ。護衛依頼など雨に打たれて行軍だ。それが仕事だから甘くない。


今日は時間が掛かったので集会を先に受けさせた。


終わったら雷鳴商店に直行だ。

そんな訳で切羽詰まった奴らをピカピカとは言わないが、中古の服で着飾ってやる。着ていた服は廃棄しない。クリーンで綺麗になったから再利用と大事に抱える。


今の綺麗になっただけで生まれ変わった様な嬉しい気持ちを忘れるなよ。それを忘れると踏み外すぞ。


・・・・


今日は雨だから丁度良かった。


俺にも事務仕事があるんだよ(笑)


俺はよごれ者と言われる村八分な村人を視て以後はさらうことにした。村長に言い渡されたらそのような暮らしを一蓮托生で子供まで強いられる。たまったもんじゃない。そんな親を選んで子は生まれてこない。


勝手に連れて行けないので(連れて行っているが)、ミウム伯とマルテン侯爵にお願いした。村の掟に背いた汚れ者が忌み嫌われてる存在となっている事。村八分ながらも真面目に働いてる事。出来たら普通に暮らせる土地に移してやりたいと願い出た。


辺境伯も侯爵も俺を可哀そうな目で見たが、何も言わなかった。どの様な集団にも村八分が生まれる事を知っていた。そして、それが村人の不満のけ口になる事を子供の俺に教えたくなかった。


大切に思ってくれてありがたかった分、内心で連れて行く村人の分は農業恩寵で返すと誓った。最近増えている奴隷狩りから奪った恩寵変換SPだから大威張りで誓えないけど。


辺境伯と侯爵は、その者達を連れて行く所は?と聞き掛けたが、サルーテの流民村か周辺の開拓村だと推察してくれた。必ず村にはそういう者が生まれる事を知り、無駄と知りながら俺の好きなようにさせてくれた。


罪人で連れて行くほどの罪では無いが、閉鎖コミュニティーではモラル的な大問題の話だった。村で顔を突き合わせて性格も真面目さも気ごころも知るお互いの男女。何年もおすそ分けをお互いの家にする中で好きになってしまい、子がある同士の不倫になってしまう。


閉鎖社会で禁じられた事。お互いにモラルはあっても男も女も生き物だから好きになってしまう。好きになったら恋焦がれるのは仕方がないのだ。ダメだと知っても眼で追ってしまうのだ、男女がお互いにそうなったら仕方が無い。流されてしまうのだ。


自分が悪い事は承知しているから大人しく掟に従う。追放なら流民である。流民より汚れ者でも食えるだけマシだ。


アルは視ても責める事は出来なかった。

その時は熱病に迷い前後不覚にが手に取る様に分かるからだ。熱に浮かされのぼせ上がった心神耗弱・心神喪失状態の様なもんだとアルは思う。外からの掟やモラルでは決して見えない。本能の根源から求めあう男女の奥底までアルはのぞいてしまう。


残された子供は?残された家族は?新しい命が生まれたら?言い出したらキリがないほどの大問題だ。


それでもアルは責める事が出来なかった。そういう業の魂なのかも知れないと思った。反省もしてるなら環境を変えてやりたかった。


業:(ごう、カルマ)人が背負う行為の代償。魂が器に入って生きる行為は良い事も悪いことも必ず業となり自分に返ると言う因果応報の思想。


・・・・


6月3日(火曜日)


今日は昨日と打って変わって一転天気となった。


昨日ミウムとマルテン領で発行してもらった村の掟破り赦免状と領民移動許可証を開門村、S.A設置、銀行設置に関する監督官の委任状と共に確認してシズクとスフィアと一緒に出掛ける。


この書類で俺のやる仕事に掛かる事はすべて領主公認の自由裁量になる。お殿様の許可状だからとても大事。そもそもこんなものくれるのが俺を子供のように信用してくれる証拠だ。イヤ、孫扱いか、聖教国関係者だからって信用しすぎと俺の方が心配する。



今日は開門村施設を昼で終わらせて、村人に恩寵付け終わると村長に断り、汚れ者をナレス村に連れてった。大きな村に2~3戸。小さな村に1戸無いぐらいの感じだから大した数じゃ無い。


村長や近所には、領で奴隷が足りないので連れて行ったと通達を見せて言った。村人たちは震え上がった。タダでさえ汚れ者になるのを恐れるのに村長に裁定されたら家族ごと奴隷である。どれ程驚くか分かると思う。何処の村でも心底震え上がったので良く考えたら物騒な領主過ぎるわ!


汚れ者を助ける事しか考えてなかった(笑)


視ながら訂正した。


「奴隷と言っても盗賊や帝国兵の鉱山奴隷の飯炊きや風呂焚きだよ、そんな怖がらなくていいからね?(笑)」


やんわりと訂正したらもっと怖がった。基本的に農民は殺人系の罪人を心底恐おそれてる。


大人しく善良な秩序系の魂過ぎる。農民は何度も転生して魂的には相当なもんじゃないのか?と村人に入った魂たちを見なおした。器に入ったばかりの混沌系の荒ぶる魂を根源的に知ってるのかもしんない。


次から開拓村に連れて行ったと言おう。



次の村で汚れ者は開拓村と聞いただけで村人が恐れおののいいた。視たら開拓村とは冬が越せない代名詞だった。冬に餓死するって酷くね?・・・よく考えたらロセとミニスの村、最初そんな感じだったわ。


連れて行く場所に悩んだ。


楽園に連れてっただと死ぬほど怖がるしなぁ・・・。



・・・・


毎日街を巡り三位一体の開門村は出来て行く。


そして村の訪問も忘れない。


村八分の呼び名が土地によってみ者、よごれ者、はずれ者と変わる。何処の土地でもコミュニティー地域社会を維持するためにそういう村の掟があった。


マルテン侯爵領の開拓村を作りながら汚れ者を検索し、村人に恩寵付けて誘拐する日々だ。そんな毎日でもシズクとスフィアが大喜びで付いて来てくれる。


今日開拓村セットを作った街の近くの村の話。汚れ者を誘拐しに行ったら、昨日ゴブリンが来て鳥小屋壊してコモラン(にわとりのようなすずめ)を持ってったという。大きな被害が出る前に駆除を頼んだ方が良いか相談された。(人の女も巣穴にさらう)


襲われた鳥小屋はメチャクチャだった。視たら10匹のゴブリンが棍棒持ってピンポイントで鳥小屋へ一直線に向かってた。獣除けの170cm程の柵の扉は自分でこんにちはと開けている。忌々いまいましいチビ鬼野郎め!


目の前の山から来ていたゴブリン連中。鳥で味をしめたら次も来やがると討伐に向かった。山に向かう途中で検索してオークだ!と見つけた奴はシズクに吊られた逆さオークでズッコケた。俺が検索で見つけたゴブリン穴までの経路にいるイノシシも吊っている。通るついでに血抜きしておく。


たまには山も良いなと3人で結構な距離を歩きながら、見つけた村からの標高差が200mのゴブ穴に着いた。入り口1.5m程のかまぼこ型のゴブリン穴でアリの巣の様に所々大きい部屋がある。


巣穴は全体で出入り口が10カ所もあるかなり大きいコロニーだった。一カ所でつつくと逃げちゃいそうなので一番上の穴までハイキングしてきたのよ。


ふもとの出入り口の穴9カ所に栓をして硬化。一番上の穴から水を流し込んでやったら上手く空気が抜けない部屋にゴブリンが寿司詰めに集まったので土で埋めてやった。122匹と上位種の赤が1匹いたが溺死した。


元々夜行性なので昼には出歩かないが、それでも山の薄暗い森にチラホラ居るのでリルで斬ってやった。帰りにはオークを解体してイノシシを解体して食材の補給作業。


今日の開門村セットは終わってるので、3人で食べられるわらびやフキなどの山菜を狩りながら山を下った。


シズクが取って来たキノコを見て驚いた。パーヌの貴族宿で出た高級食材スエンキノコだ。お前何処どこにいたんだよ!俺の冒険者生活で初めて収穫したよ。メルデスで一回も取れてねぇよ!


シズクが俺の喜び様に気を良くした。一緒に採りに行ったスフィアもこっちだと手を引いてくれた。そういえばこういう食材の検索して無いな、無頓着にも程がある(笑)


シズクとスフィアの二人はクルムさんの指導通り次にもキノコが生える様に採取してた。


メルデスのハウスに帰る前にバラ肉をロセとミニスに持って行った。バラ肉を手に入れると肉を食わせたくてここに来てしまう。今回は部屋から赤ちゃんの鳴き声がするので驚いた。ロセとミニスの弟が生まれて男の子でセロスとジェーンの子でジェロという名前だ。お祝いに農業Lv1付けておく。赤ん坊をよく視たら2年前にも女の子が生まれて半年で病気で亡くなってた。


ここの家族の農業恩寵レベルがLv2になっていた。ミニスとお母さんのジェーンは家事もLv2だ。年末にはLv2になってなかった。4年半で?・・・視たら開拓村に流れ着く前にはオードの近くのコノスという街の金物屋の若夫婦だった両親。オード戦役で街がメチャクチャになって流れて来てた。


元々の農民じゃ無いと4年半も掛かるのか。まぁ初心者じゃキャンディルの農民みたいに3年半という訳にも行かないか(笑)。


それでもLv2はLv2だから作業や収穫もそれに見合ってる筈だ。何よりロセとミニスもLv2だから家族で農業Lv2が4人だぞ!


ついでの話だがロセが年を越えて12歳の成人になっていたので魔鉄のナイフをやった。


・・・・


メルデスに帰ってシズクとスフィアとアロちゃんが作ったキノコ鍋を食べてホロリと来た。あんなに小さくて盗賊が怖かった俺が今ではブイブイ言わせて奴隷狩りを畳んで〆てる。感慨深いきのこ鍋だった。


※ブイブイ:イケイケで肩で風切ること。


俺の感動を読んだシズクとスフィアは森できのこばかり狩る様になった。きのこ料理ばかりが開発された。イヤ、俺が誤解させた。



・・・・


アロちゃんと寝る前の交感会話。


「ワールスの移民船は6月の中旬頃になりそうです」

「え、2カ月?だいぶ遅れて無い?」


「風の影響もありますが、外洋の荒波を回避して平穏な航海をしています」


「そんなに違う?あんま風感じないけど」

「メルデスの内陸は貿易風で赤道の逆風となります」


なんか気候的フラッシュが一杯出て来た。


「タナウスへの航路は、この星で一番太陽に熱せられて一番の上昇気流が生まれる赤道をまたぎます。自転による星の角速度で生まれる熱帯の風は、激しい気象と海象を生みだします。それは魔動帆船でも楽ではありません。赤道航路を安全に誘導しております」


「船酔いかと思ったけど切実だった(笑)」

「絶えず観測しておりますのでご安心ください」

「それはもう!充分安心しております」


~~~


「ロセとミニスの恩寵見た?」

「はい、良かったですね(笑)」

「村で頑張ったから上がったんだよ(笑)」


「僕が初めてロスレーンを出た時の晩にあの二人に恩寵を付けたんだよ、嬉しいなぁ。お爺様が収穫量が4年連続上がってると言ってた。最初こそ気合を入れ過ぎて俺が生きやすい環境を整える!とか気張ってたけどさ、僕は間違ってなかったと思えた」


「アル様は間違っておりません」


「間違っておりませんか・・・結果はともかくやってる事は間違いなく確信犯だな(笑) 結果は色々あるけれどその時点ではこれが一番だと思い込みで確信を持って動いてる気はする。動いた時点では間違ってないと断言する(笑)」


「それは?結果に何かございましたか?」


「ただねぇ、モグラ叩きも起こってる気がするの」

「モグラ叩きですか?・・・ゲームの?」


「そう、モグラを見てピコッと叩くと、今度は繋がった他の穴からモグラが出て来るの」


「ハーヴェスですか?奴隷ですか?」


「どっちもだよ。元々バーツさんのイメージでハーヴェスの他国侵略を見て危機感を持っていた事もあったけど、ミランダの補給港封鎖で実際の覇権国のやり方を知って動いた。動いた2年後には問題の海賊も討伐出来て実は安心してた」


「でも今度は弱ったハーヴェスを袋叩きにしようとする国が出て来ちゃった。マジ焦ったよ、ハーヴェスがカラムに攻めて終わりと思ってたら、僕のいた種が育って世界大戦になる所だったんだよ。僕一人では叩けない大きさのモグラが出てきた」


「アル様ならコア達を使って上手く収めたでしょう」


「力ずくならね(笑) それじゃダメなんだよ。今回はこの星の主役が歴史の生き証人で協力してくれたから上手く行った。僕やタナウスの遺産で解決したら表面をならしただけなんだ。今回ハーヴェスは神を信じた。自国の滅びを目の当たりにした事で恨みを買う怖さを知ったんだ。以前のハーヴェスならカラムにこんなぬるい事はしない。僕が行くまでカラムはハーヴェスをコケにした海賊被害の恨みの元凶だった。灰燼かいじんに帰すつもりだったのよ、ハーヴェスは神教国を通じて神を知ったんだよ」


「コア達もアル様を通じて神を知りました」

「ありがとう(笑)」


「奴隷もさぁ・・・


「この厳しい世界で手の平少しの安寧あんねいを壊す奴らを許さない。少しの平和をを許さない」


・・・とか若かりし頃に誓った僕だけどさ」


「観測しております(笑)」


「そもそも誘拐したり買ってくる事を皆が悪事と思って無いじゃんねぇ?それが当たり前だとどうすんのよホント!って内心思ってたのよ(笑)」


「そのせめぎ様は観測されています(笑)」


「観測されとったんかい!(笑)」


「でも略取してきたり、要らん子供を捜して訪問買取りは違うだろって思ったのよ。子供の人生も大人の人生もその代金が払われた瞬間に奴隷の焼き印押されちゃう。だから全部誘拐して逃がしたったんよ」


「そうなさいましたね」


「奴隷逃がしたら今度は大陸中で奴隷が足りないって、他の穴から大陸上げての奴隷狩りって巨大モグラが出て来ちゃった」


「(笑)」


「笑いごっちゃないよ、アロちゃん」


「奴隷の仕入れよ?信じらんない(笑)」


「観測してます」


「人種差別どころじゃないわ、人種じゃないのまで共通語話すなら捕まえてる。普通に暮らしてる村襲って逆らう者殺して笑って捕まえてる。出荷の奴隷集積場とか見て、こっちがショックで笑うわ」


しつけは必要です、お見事でございます」


「あれが合法って、どんだけ自分勝手な法やねん」



「聞いてよアロちゃん、ロセはあの小さな村でLv2になってた。あの時の僕は今Lv2になれてるのか心配になった。僕は害されない自信が出来たから外に出た。外の困った問題を知った。その時には真面目に元凶を潰そうとしてるんだよ。でも他の穴から問題が出て来ちゃう。ってことはさ、それすらも表面なんだよ。僕はロセと比べて表面のモグラ叩きしかしてない様に思えたんだよ」


「論理的に申しますがよろしいですか?」


「なに?」


「アル様の思考論理上、与えられた器の課題を乗り越える意味ではロセ様もアル様も逃げずに戦ってらっしゃいます。与えられた器の課題から逃げず魂を磨いている以上、アル様も同じLv2でないと創造主様のこの世界が不完全となります。宇宙の定数の根源すら精緻せいちに合致する器の世でこれほど不完全なことわりはありません。創造主様は完璧です、したがってアル様もLv2になっておいでです」


心にみて何度も反芻はんすうした。


「アロちゃん、ありがとう!」


「あくまで私は予測演算装置なのでお忘れなく」


「え?」


「予測が合ってるかは別問題です」


#「アロすけー!」




次回 350話  貴族がラフ過ぎる件

-----------------


この物語を読みに来てくれてありがとうございます。


読者様にお願い致します。


応援ポチ。☆も頂けたら嬉しいです。


ポチをしてくれる事。それはとても励みになるのです。


一期一会に感謝をこめて。よろしくお願い致します。


               思預しよ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る