第327話  海商王の恫喝



3月4日。


お爺様に提案だけして投げっぱなしのS.A案を具体的にまとめるために王都に行く。ある程度の形にはしたい。


飛空艇を出して王都上空に跳んだ。快晴なので一号艇は空に紛れて分かりにくい。ホバリングも反重力魔法で音も出ない。


王都を思う存分見て回った。川がお堀の様に本流支流と枝分かれして王都を走る。川幅も10m~12mあるので暗渠を作れば開門村の最大S.Aがたくさん取れると喜んだ。公園も広く、守備隊も騎士団の駐屯地もその街区の規模に応じた物を塀代わりに作れば問題ない。城塞作りの壁も厚みがあるので小さいトイレを埋め込めばいい。


東西南北の守備隊や騎士団の駐屯地に筋トレしてる部隊が沢山いる。武官をS.Aの徴税官にするとかさ、最悪S.Aゲートの見張りでいいじゃん。見張りさせるなら効率よく交番とかさ・・・交番で共通券売れば人件費掛からないじゃん。どうせ俸給もらってるなら兼用で街の見張りもすればいいじゃん?


まぁ、宰相さんは噂のS.Aしか知らない上に運営も全く分からないなら仕方ない。誰だって言われた土地をそのまま探そうと四苦八苦するさ。ロスレーンだって渋滞する場所が分かっても土地が無いから、その周辺に増やして、そっちに流れない様に周りを整備したんだから。やっぱそういうのは運営にたずさわってないとノウハウにならないよな。


ノウハウで人の流れや、係員の数も施設の大きさで分かってる、S,Aの場所によって必要な人員も教えてやるか?さっきの一カ所八十人程で訓練してる人が交代で係員するなら充分足りるし筋トレに俸給出すなら王都に散らばるS.A係員兼おまわりさんで良い案だと思う。


作れそうな空き地が狭いなら二階建とか三階建も視野に入れて考えればいいな。地下はダメだな、水が流れ込む。


まぁ、そんな所だな。



三寒四温か・・・。


高く晴れ渡った空を飛空艇は動き出した。


アルが物事を考える場所は、すでに深夜の部屋や考察ノートを見つめながら行うものでは無くなっていた。並列思考や多重視点による緻密で膨大な情報を整理する頭の想念空間的な場所で机に向かっている。


実際は王都を視ながら甲板上を歩いてたり、飛空艇を操りながらも想念空間の中で絶えず机に向かい落ち付いて考えを巡らせるアルが居た。頭のそこに問題や改良点を考える場所が出来ていた。


詳しく書くと高効率、低効率、人情、倫理、道徳、常識、秩序、規約、コスト、時間、人工賃、評価、人の和、身内の意見、専門家の意見、多数決なら優勢、劣勢、優先と劣後、付加と削除、増加と削減を経験や知識を踏まえて考えられる場所。混ぜ合わされた原料が成形されブラッシュアップされる磨きをかける場所。目標により近い結論まで導くアルの場所があった。


考える事を磨いていた。


・・・・


アルは深く思考に入り込んだ分、冒険号まで飛空艇でゆっくりと帰って来た。上空でシュン!と格納庫に消える。


王都の用地問題をコアと交感会話で共有した。アルは正確に視てきた場所を、ここはこうやって、ここに交番なら良くない?とプレゼンして行く(※アルのイメージはそのままコアが見る事が出来る。逆は出来ない)コアはプレゼンされたS.A案を『橋は付加価値も上がり利便性も上がりますね』と肯定して用地案は完成されて行く。


・・・・


ハーヴェス艦隊のコアさんから明日モンに入港すると連絡が来たので、モンの王様の側近と領主の側近、盗賊実行犯の商会を艦隊に連れて行った。


それはそれで単純作業も気分転換だ。


・・・・


3月5日。メルデス5時。


アルが起きた直後にアロちゃんが呼びに来た。


ハーヴェス艦隊の重要な会談の席でコアさんが直接話せないと言う。顔を洗って応接にて聞いてくれと言う。アルは尋常じんじょうではない連絡方法を取るコアの行動に身構えた。


フィオリーナがお茶を入れる中、アロアがモンに入港した現状を最初の情景から説明した。今現在モンで起こっている事だ。


モンに10時過ぎに入港した艦隊はその時、武装商船に囲まれていた。返答次第では武装商船がハーヴェス艦隊を攻撃することになると言う商人によって。


11時に乗船した使者の口上はこうだった。


海賊行為を行った者を懲罰しているようだが、ルーベンス商会に難癖なんくせを付けた直後にハーヴェス帝国艦隊に砲撃を行う。使者が明日の正午12時までにルーベンス商会に帰らない場合には問答無用で砲撃する。


返答次第で商国連合が相手になると宣戦布告寸前の恫喝どうかつをしてきたのである。


・・・・


11時に乗り込んで来た使者の口上を聞いていたバスティー政務武官の横に付き従うコアさんから冒険号、そしてアロちゃんによって(コルアーノ5時に)ライブ中継がアルに知らされた。


「今使者が口上を述べた所なのね?」

「はい、今現在起こっている事です」

「取り合えず、動きがあったら教えて」

「はい」

「今日は一日コアさんと動く、ありがとう」

「かしこまりました」


俺はそのまま冒険号に跳んだ。


「コアさーん、さっきありがとう」

「どういたしまして」霧が集まりコアさんになる。


「返答の方向性が決まったとか、神教国に助言を求められたら教えてね。どうせ明日の12時までに使者を返せば戦争にならないんでしょ?艦隊の偉い人が話し合うはず、大筋が決まるまで待とう。それまで今日の予定をやっちゃいます」


「かしこまりました」


空いた時間が有るなら、お父様が王都にいるうちに王都S.A案の話を付けたかった。宰相がわざわざお爺様に振った話なのだ、用地がまとまらないのでは知りません、とは突き放せない。


コルアノーブルのS.A用地案をコアさんに文書化してもらい。三度程読み返して分かりにくい建築方法や図の表現がないか確認した。


S.A運営方法にも言及し、コルアーノの徴税代行の現状や守備隊、執政官、武官によるS.A運営(鑑札発行)及び周辺警備を行う詰所交番の併設。費用対効果を最大限に発揮させる用地を確保する暗渠の建設と18の橋梁きょうりょうの設置。


王都S.A案が記された書類は綺麗にまとめられた。


全て込みで代金の白金貨千五百枚なら安い物だとアルは思った。


これで尻込みするならやめておけ、と思っていた。


当然ロスレーンと同じく王家の政務官には優秀なのがいる。S.A用地案を理解できない訳がない。やらないなら王家内部の問題、ロスレーン家やアルの出る幕では無かった。



3時間程冒険号で案を検討して、早くも8時半。


王都S.A用地案を持ってアルはお爺様に相互通信機で連絡を取るとヘルメラース伯爵領最初の街を馬車で出た所と言う。コアさんを連れて案を届けに行って来た。馬車の中が揺れるので図面が見にくい(笑)


御者の武官二名にしばらく車内に連絡無用と言伝ことづてし、皆をロスレーンの執務室に連れて行きS.A案を見てもらった。シュミッツも驚く巨額な代金とその根拠が明確に示されていた。ロスレーンのS.A収入が王都十万人規模の利用に換算され、S.A建設以後は三年で取り戻せる投資額と書いてあった。


王都別邸のアランにすぐ持って行けと許可が出た。神教国の提案書を支持し決断をうながむねの宰相への手紙とお父様への手紙を預かりお爺様達を馬車に移動して王都別邸に跳んだ。


10時、王都ロスレーン家別邸。


初めて入った王都別邸。お爺様の部屋に跳び、辺りを伺いながらお屋敷を走り抜ける。別邸の使用人はアルの顔を知らない、ササッ!と移動し、ゴキブリか!とツッコミを入れながら『アルが参りました』とお父様の部屋をノックする。


え!アル様?とドアを開けたジャネットに驚かれる。


出発前にお屋敷にいたお父様付の副メイド長のセリーナが居ないので視たら産月が六月なので帰郷が四月末になる今回の王都行には同行して無かった。子供出来てたの知らんかった(笑)


お父様と執政官の家臣団はサルーテの城門をどこの大工に頼むのか選定していた。資料を視たら東西南北の城門を作って守備隊が入領税取るのは二年後らしい(笑)


サルーテの今は、執政官の詰め所に武官が二、三人ずつ配置されてる程度。メイド隊と執事隊に盗賊注意を・・・しなくて良いな。夜中でも徒党を組んで移動したらメイド部隊が絶対気付く。大きな盗賊騒ぎは無い筈だ。メイド部隊が居るなら城壁無くても武官が居なくても戦争あればサルーテは最強だ(笑)


お父様に王都S.A案を見せるとお付きの執政官五人がすぐに試算をしてくれた。途中ジャネットに朝食を食べて無いと軽食を用意してもらい、白熱した評価額の議論を聞いていた。


結果、収入見込み額が少々安すぎる感はあるが、宰相に提案すれば王家から相談を受けた義理は返せる。という結論になった。やるかやらないかは宰相次第とゆだねられた。


契約がまとまった小粒な街路灯の案件を三軒ほどもらい、帰りに作成して報告するとアルは辞した。お父様と執政官は明日S.A案件で王城を訪ねたいと宰相に謁見えっけんの使者を立てた。


・・・・


アルがS.A案で動いてる最中。


ハーヴェス艦隊は返答を模索していた。まさか艦隊が武装商船に囲まれて恫喝どうかつを受けるなどつゆほども思っていなかった。そして恫喝どうかつを受ける意味も、使者の口上の意味も政務武官は分かっていたのである。


苦渋くじゅうの選択を迫られていた。


モンに10時過ぎに入港したハーヴェス艦隊は武装商船に囲まれた。返答次第では砲撃すると恫喝する商人がモンにはいた。


その商人は一か月以上前にカラム王国がハーヴェス帝国によって落ちた事を二週間前に察知した。察知した時にはハーヴェスがカラムに侵攻した理由を知っていた。海賊狩りがハーヴェスによって行われた時から未来を予測していたのである。


海賊行為に加担した者へのハーヴェスによる制裁が始まると予見して豪商は先手を打っていた。カラム陥落の情報を得た直後、手持ちの中型、大型武装商船及びモン国近辺の商国連合の武装商船をモンに積み荷があると借り受けて全て押さえたのだ。


二週間掛けて押さえた中型、大型の武装商船三十隻がモンの港に集結していた。商船は船首を入港のハーヴェス艦隊に向けていた。


ハーヴェス帝国、海軍政務武官バスティー・モンツは驚いた。それでもモンの港に10時過ぎに停泊し、王の側近、領主の側近、海賊行為をしていた商人の側近を連絡船に乗せて送り込もうとした矢先に高速船に乗った使者が来たのである。


使者の口上全文はこうだった。


海賊行為を行った者を懲罰しているようだが、うちの商会に難癖を付けた直後にハーヴェス帝国に反抗を行う。商人の商行為に文句を付けるならば世界中の商国連合が相手になる。盗賊とうちの商会を一緒に見るな。


使者が明日の正午12時までに帰らない場合には問答無用で攻撃する。勝敗は時の運だが、以後は商国連合と全面戦争に入り武装商船が付け狙うので艦隊はハーヴェスに帰れると思うな。


返答次第で商国連合が相手になると宣戦布告寸前の恫喝どうかつをしてきたのである。


今の魔導軍船三、武装商船十五はハーヴェス帝国の虎の子である。ここで交戦すれば軍船はタダでは済まない。射程距離の有利も無く、突っ込んで大砲を撃ち込む武装商船型の海戦となる。三十隻の総攻撃を受けるのは間違いなく魔動軍船三隻なのだ。軍船三隻付の18対30の戦力差は突撃型の近距離海戦なら互角だった。


しかも海戦兵力は0。砲兵と乗組員しか乗っていない。主力の陸上兵力はカラムに置いて来たからである。接舷されたらその船は間違いなく鹵獲される。


虎の子の魔動軍船三隻を失うわけには行かなかった。


実はハーヴェスには思惑があった。


盗賊を行っていた商会、盗品を運んでいた商会、そして盗賊の鹵獲物資を一手に引き受けていた商会があったのだ。


その名は北の海商王と言われるルーべンス商会である。


ハーヴェス作戦司令部はモンのルーベンス商会に鹵獲品を運び込んだ貨物船の証言を得ていた。それを元に盗品と知りながら売りさばいた嫌疑で王家と領主の問答無用の武力によりハーヴェスが手を汚さずに北の海商王と言われるルーベンス商会の資産を差し押さえるつもりだったのだ。


しかし、モンに入港した途端にこれである(笑)


使者は言い切った、海賊の鹵獲品として買い叩いた物資は何一つなく、詮議すれば海賊行為による不当な利益を出してはいない事も分かる。売りに来た物を適正価格で買い、売り渡す商行為を罪にするならハーヴェスの栄光は地に落ち、全ての商国連合の敵となると宣言されてしまった。


ハーヴェス帝国、海軍政務武官バスティー・モンツはその口上に驚いた。こちらの思惑を見透かしていたのだ。


・・・・


ハーヴェス艦隊の提督は思った。


海上での戦闘行為を指揮する提督はいる。この様なハーヴェスの威信を背負う返答は艦隊提督には荷が重かった。と言うか逃げた。魔動軍船を失えばおめおめ国に帰れない、かといって商人の恫喝どうかつに屈したらハーヴェス艦隊の名は地に落ちる。


そして考えた。この場は逃げて、責任を取る者の言に従えば良いのだ。


「作戦司令部の作戦に沿って戦果を上げるのが艦隊提督で、国の政治判断の是非を問うのは艦隊提督の仕事ではないと推察する」


そう言って逃げた。提督の決断だった。


猶予は24時間。


艦隊旗艦に同乗する政務武官を集めて協議する事、なんと六時間。全会一致で海軍次席政務武官(No2)のバスティーに決断が委ねられたのはモン現地時間18時だった。


政務武官のバスティーにとんでもない決断が迫られた。


・・・・


アルは12時に王都別邸を辞して街路灯の小粒な案件をチャッチャとこなしてお父様に報告している13時にコアさんから相互通信が届いた。


18時に政務武官のバスティーさんがハーヴェス帝国の全権を持って結論を下す事が会議で決まったそうだ。現在は食事の後20時、バスティーさんの副官ファゾさんがいる魔導軍船の執務室にコアさんが呼ばれている状況だった。


執務室でその場の者が聞こえる様、直接相互通信が行われた。


「アル様、困った事態が起こりました、本日の昼モンに入港すると~~割愛~~艦隊の会議でハーヴェスの全権大使となられたバスティー様は神教国の意見を聞きたいそうです」


(それなら、明日の10時に使者をお返しします。ハーヴェスの代表がバスティーさんと政務官の副官、僕とコアさんが使者と同道すると伝えてくれる?直接その商人に神託を下します)


飛空艇の甲板上で横に控えるコアが言う。


「アル様の判断で使者を返すと言うのは、神教国がハーヴェスの全権を預かる事になりますがよろしいですか?」


「そういう事になっちゃうか。うん、そうしよう」


内々で話した直後に、あっちのコアが発言する。


「この裁定は神教国が預かりアル様が商人に神託をたまわるとバスティー様に伝えればよろしいですか?」


すかさず飛空艇で横のニウさんに言う。


「あ!神託ってさぁ、視て盗賊は容赦しないだけよ?商人もさぁ、ハーヴェス艦隊と刺し違える覚悟なら言い分をちゃんと聞くだけよ(笑)」


言った瞬間艦隊のコアさんがバスティーさんに言う。


「アル様が神託を直接商人にたまわるそうです。この件はハーヴェス艦隊の手を離れました、神教国が対処いたしますのでご安心ください。神託が出て海戦になっても砲弾はハーヴェス艦隊をけるでしょう。仮に艦隊が沈んでも神教国が補償するでしょう。バスティー様とそちらのファゾ副官様、アル様と私で帰す使者に同道します。明日10時に使者を主人に返します」


「アル様のお言葉、承知いたしました」

「ファゾも承知いたしました」


「神教国は本来この様な事には介入致しませんが、今回はアル様がお味方についてます、安堵されるとよろしいでしょう」


「ありがとうございます」


「それではアル様、10時にお待ちしております」

(わかったー!10時に行くね!)


「とあっちのコアさんに返事するんかい!」

バシ!と横にいるコアさんにツッコミを入れる。


「様式美は必要かと思われます(笑)」


・・・・


バスティーは情けない事に帝国海軍政務武官という重責にありながら、ハーヴェス帝国より神教国の方が格上なのを認めていた。神教国が神託と言うなら、神に逆らえる者はいない事を認めていた。


そして選択を委ねられたバスティー・モンツはホッとした。


何があっても神教国が面倒見てやると言ってくれたのだ。これ程心強い言葉は無かった。今のバスティーの選択は当初の予定を変更し、商人に無条件降伏しか無かったのだから。





次回 328話  殺してやるぞ海商王!

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               思預しよ

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