第323話 閑話
2月25日。
お爺様が受注した暖房紋と街路灯小のセットは付け終わり。新しく注文を取った街路灯を各領地に付けていた。小粒な案件ばかりで鼻歌だった。
王都のS.Aの案件は王宮が派閥に分かれて用地の誘致合戦で揉めている事を聞いた。用地選定に長引きそうなので4月の頭までいるお父様にS.A案件は引き継がれた。
事の起こりはこうだった。
民の清潔な暮らしと健康の為に予定され、税収も上がると言うロスレーンのS.Aモデルを検討した宰相。ラルフの話を聞いてS.A用地は東西南北の門にある守備隊の駐屯地を一番最初に予定した。更地が多く民に利便性が良く、門の比較的近い位置は商業地の近くで持ってこいの予定地だった。
守備隊が使っていた敷地がゴッソリ取られるなら不便になる分無料に出来ないか?の打診があった。役得や特権に心が動くのは人間の証拠だ。
それが騎士団の耳に入った途端に騎士団の駐屯地にも欲しいとなった。騎士団にはクリーンが使える者もいる。しかし大多数は使えない。だから職場にシャワーやクリーン施設、綺麗なトイレは是非欲しい。
駐屯地を使ってくれと言いだした。騎士団は王家の派閥と結びついている。この場合の派閥とは国王派閥、王妃派閥、王太子派閥、第二王子派閥と王都は王都で慣例的に各業界団体を擁護するパトロンがそうなるのだ。
S.Aの誘致合戦が始まった。平和な世の表れだった。
宰相も困った、自派閥からも突き上げを食らう始末だ。税収を増す王家の政策が派閥や利益誘導の食い物にされた。S.Aの場所一つで宿の入りが変わるなら近くに作って欲しいのだ。安易に選定すれば宿の実入りが変わってしまう可能性があった。
敷地を差し出す団体に無料にしたら、無料の者は吏員か守備隊か騎士団だから大威張りで利用する。民が金を払って来る訳が無い。
王太子が自分の派閥から陳情を受けた、第二王子も陳情を受けた、王様も王妃も陳情を受けた。第三王子は学院勤務の魔獣学者で派閥は無いが学院長にS.Aの相談を受けた。王家は自派閥パトロンからの陳情を
困った宰相はラルフにロスレーンはどうなっているのか相談した。ラルフとて王家の派閥に物申せば
アルは神教国が委託を受けましょうかと言った。神教国タナウスが王都の要望の箇所に無料で全部付ける。忖度など無しで全ての利用者から神教国が金を取ると言った。その代わり代金が回収出来ない施設は要望した団体に足りない分を請求して払えなければ潰すと言った。不良債権として潰すのだ、プライドの高い王都では大変不名誉な称号だった。
※全施設が共通鑑札なので平均使用回数に満たない分を利用料に換算して請求する。
初期投資不要は良いが儲からない施設は無くなり税収の望める施設だけが残る。なにより要望する団体が不良債権を払うなら騎士団の予算から払うだけだと持って帰った宰相は喜んだ。
突き付けられた派閥や団体は押し黙った。
赤字食らったら不名誉な事になる。予算から引かれる。無料なんてやってたら間違いなく取り潰されるか、不良債権分を払うのだ。要望した者が割を食う、下手をしたらS.A戦犯になる・・・。
一人銅貨三枚でどこでも使えるなら民は騎士団の使う所に来ない。一人が一日トイレ四回、クリーンに一回訪れるとS.A規模により回収金額が試算される。ロスレーンのデータで収入モデルが出てるのだ。
利用が少なければ貢献していないとみなされる。
ここで王都のS.A誘致論争が止まってしまって動かなくなった。どこの団体も腰が引けて誘致や無料を言わなくなった。宰相が政務官と勝手に選んで赤字食ったら王家が補填せよと話が変わった。元々王家の案だから王家が資金を出すのにそう言った。
割り振られた予算から赤字を削られるのはどうしてもダメだった。そういう国家予算は派閥で
S.A誘致は用地を選ぶ宰相派閥が責任を取れに変わった。(宰相派閥:宰相以下政務官、執政官の貴族院部署)
だれも責任など取りたく無い。戦犯にされたら経済に弱いだの、世情に
一転S.A用地は自由に選べという王宮の空気に
・・・・
ラルフに相談されてアルは騒動の根本を色々と考えた。
用地が無いから用地を持つ団体に話を振る。利権じゃないけど今より狭くなるなら便宜を図って欲しいと思うのは人情だ。何も間違っていない。言って無料になったら良いのだ。言うのはタダだ、しかしそれを聞いたら他も黙っちゃいない(笑)
当然の要求だ、誰も間違っちゃいない。
間違っちゃいないけど根本が間違っている。まずは黒字の運営を目指し、資本の回収をする前に無料にしてはいけない。税収を上げて民へのサービスと健康の為を思えばそうならない。事業に対して特権を欲しがる貴族社会が浮き彫りになっていた。
そんなに用地が無いのか気になったので王都を視に行った。飛空艇の高空偵察だ。
元のコルアーノ王国は戦闘奴隷の武装戦闘国家だ、戦闘奴隷の貸し出しを豪族や他国に対して行っていた。そんな国の王都コルアノーブルはミウムと同じ城塞作り。城壁は高く厚く、頂上は一段高い矢倉を結ぶ4m幅の通路がある。公園は皇居外苑かNYのセントラルパークか?と言うぐらいの広さだ。王都だけで三十万人が住む城壁で覆われた街だ、半端な大きさじゃない。
王宮の宰相を視た。視た瞬間ダメだった。人が多く絶対入る地区に男女のS.Aで一セットしか考えてない。そんな長蛇の列が出来そうな目抜き通りの用地が三十カ所だった。
こっちの言った用地の大きさが固定観念になっている。S.Aという初めての施設の運用も何も知らない。言われた用地を用意しないと失敗すると思っていた。
その大きさが無いとS.Aは出来ないと思い込んでいる。それでも守備隊の敷地を大きく切り取り用地に当ててくれてるのは嬉しい。公園も言われた通りの大きさを切り取るからボコボコになってる。外周に作っちゃえば良いんだよ(笑)
守備隊も駐屯地の中央に用地取られて歯抜けにされたら無料にして欲しいと言うさ、守備隊の町側の塀を取っ払ってS.Aをそのまま並べたらいい(笑)
王都を流れる六つの川、これの住民の多い所を暗渠にすればいい。俺がやればすぐだよ、川幅10~15mなんてロスレーンの最大S.Aが出来ちゃう。
王都の偵察を終えた日からアルが案を練った。この時点でラルフはすでにロスレーンへの帰途にあった。
三十万人が住む王都に三十カ所は見積もりが少なすぎた。ロスレーンの実績と現在作っているサルーテの改良版の話を理路整然と説明してその三倍は必要な事を案件資料でアピールした。民が紙鑑札を買ったのに並んで入れない場合、苦情や割り込みや警備も要りリピーターが来なくなる。日本の様に順番を待って並ぶなんて奴は
小規模のS.Aを多数提案した。武官が立つ交番付きのS.Aなら公園の片隅に鑑札確認の文官と武官を四、五人駐屯させてS.Aの共通券を売らせる。街の治安を守れ、住民の信頼に繋げるとアピールした。
ここの公園、ここの緑地、ここの広場、噴水公園、交番と一緒にS.Aを建てたら利便性も良く民が一極集中せずに散らばるとアピール。
王都の城塞造り、城壁の下部は奥行8mだった。最下部を一端石に変えてトイレをズラリと東西南北の城壁に埋め込む案を出した。
守備隊の駐屯地は街側の塀代わりにS.Aを建てる。
アルの試算ではS.A最大クラスで(漏れそうな人が駆け込んでも)瞬間1000人は行けると踏んでいた。敷地が要るのは確かだが、たかがトイレとクリーンだ、高速道路のトイレと変わらない筈だった。宰相に用地の敷地面積はこれで良いので自由設計にしてもらった。
城壁のどん詰まり、公園の緑地、大きく取れそうな場所をプレゼンして行く。ロスレーン最大のS.Aで男性用540坪=1782平米≒1階建て42m×42m≒2階建29m×29m≒3階建て24m×24mで良いとも書いた
小便器と大便器の比率と大きさ、女子用トイレでも幅1m×奥行2mだ、男性用小便器なら1m×1mでお釣りがくる。アルはトイレはまとまって交番付きの空き地。城壁に埋め込むなどで王都中に散りばめる。
クリーンルームとシャワー室の大きさを日本家屋の風呂場の大きさにまとめて街区にドーンと大きいのを作る。
間違いなく税収が上がり三十万人が三日に一回はS.Aを利用すると書いた。初年度に十万人が利用し、十万人×銅貨三枚×三百六十日=白金貨五百四十枚。交番(詰所)で騎士団若しくは従士を交代で当て、S.A横で武官が紙鑑札を売る。紙鑑札は執政官事務所で数量を決めて交番に配布。S.A代金と紙鑑札の枚数を監査する。人件費は元から俸給を払ってるから掛からない。
初期投資分十万人規模のS.Aの試算では毎年白金貨五百枚以上の収益になると見込んだ。
・・・・
帰途のお爺様を訪ね、ロスレーンの規模を王都に当てはめた場合の王都S.A案の試算をシュミッツにも確かめてもらった。
分かれる時にはお爺様のサインと宰相に宛てた手紙をもらって来た。手紙には宰相殿が決断すべきことが書いてあった。
王都ではこの様な案にしたら用地も生まれると神教国の魔法士に伝えるので、後は魔法士に現場の自由裁量で作らせたらうまく回ると思いますとの上申書だ。
アルはお爺様の手紙と王都S.A案をお父様に手渡した。その代金は白金貨千五百枚(300億円)、用地確保の暗渠や橋梁の作成代、武官、執政官が宿直も出来る交番も含めた金額だった。試算ではすべて含めて三年で取り戻すと書いた。
※交番は給湯紋、給水紋、クリーンルームにクリーントイレと、魔動コンロ付の二階建て、期せずして
・・・・
お父様と執政官五人はお爺様から届いた王都S.A案を見て驚愕した。実際のサルーテで運営をしているS.Aと同じ規模の収入で王都民の三分の一の十万人が一日に一回利用すると書いてあるが過小評価過ぎだと思った(笑)
一回使ったら利用を止められない。サルーテは流民まで鑑札買って使っている。他の街に行きたくないと言う感想を現場で聞いていた。
宰相も王都S.A案を見て驚愕した。こんなに自由自在に神教国の魔法士は作れるのかと信じられなかった。しかし先日聞いた銀行の話も信じられない話だった。
宰相はサルーテを作るロスレーン領主の言葉に乗ってみた。案に全面的な肯定を表明して、王都案の根拠をアランと家臣団に一つ一つ確かめるとロスレーンやサルーテで運用している生きた話が散りばめられていた。ロスレーンでは用地が無く同じような策で勘考してS.Aが作られ便利にこそなれ、不便な事は一つも無かったと聞いた。
長蛇の列が出来た集中地域の混雑を緩和したノウハウも詰まっていた。雇う人員も最小人員で武官が居たら無銭使用はまずない。鑑札を売り、鑑札を現場で確認するのは財政担当の執政官や徴税官なら絶対に
宰相は王都案を王宮に持って帰ると政務官たちに見せた。
用地は探す物では無く、作る物だと改めて知った。
宰相はS.A案をコルアーノ王に奏上した。
王様も興味深く見た後で言った。
「去年は王都の街路灯をもらい過ぎた、返さねばならぬ。少々言が外れてもとやかく言わぬ。ロスレーン卿が言うならやってみよ、儂らまで陳情されたS.A騒動はこれで終わるのだな?」
「は!終わります!」
「ならよい(笑)」
王はそれ以上何も聞かなかった。王都S.A案にロスレーンの場合と王都の場合と人口比や見込まれる売り上げが並べて書いてあったのだ。
コルアーノ王はサインした。契約したのだ。
・・・・
契約後九十カ所に分散した男女百八十カ所のS.A施設と交番。それは暗渠を含み十日で出来ていた。
東西南北、城壁の門横にズラっと埋め込んで作ったトイレには街から門に向かって右手は男性、左手は女性用と作って、以後のS.Aは向かって右が男性、左が女性とスタンダードなS.Aの決まりを作った。
二階建てのS.Aは守備隊と騎士団の敷地の塀沿いに700mの壁を利用して奥行き8mで東西南北に建てられた。。100m置きのゲートに八人の鑑札官の詰め所があり。雨でも窓口から鑑札が確認できるようになっている。
S.A二階へ向かう階段は大きくなだらかで手すりも屋根も長椅子もある。混んでも雨に濡れずに長椅子で待てるのだ。それは大理石と見まがう出来でエンボス加工が施されていた。
街角の小さな公園には三階建ての集合住宅風のS.Aを作って公園の敷地をなるべく残した。交番も付いている。
川に作った暗渠は塀で囲われ中規模S.Aが交番一個とセット。王都の川の上流、中流、下流にサルーテと同様のトイレとクリーン施設が一体となった物が六本の大きな川に並んだ。交番の前には馬車が楽にすれ違える幅10mの道が出来ている。王都は十八本の橋を同時に手に入れたことになる。
動線を考えられた作りでスムーズに人が流れてS.A利用者が吸い込まれる様に作ってある。
それはアランがいるうちに出来た。神から預かった我が子の凄さを改めて知ったアランとエレーヌだった。それはまさしく神の御業だった。
王都と直轄領の伯爵家から政務官率いる職人部隊が三千人サルーテに来る。大工だけではなく家具職人や革職人、彫金細工や織物職人が居た。三十六か月契約でサルーテの仕事をしてくれるのは王領の街路灯の代金だ。
約十日で出来たのは良いが、S.Aを運営する執政官と武官の配置や鑑札の手配が出来るまで約一か月掛かったので運用を始めたS.Aをアラン達は見られなかった。
----閑話休題、時は現在に戻る---
2月29日(
ハーヴェスとラパスの補償案件が実施されたそうだ。
領主の兵で海賊商人を一網打尽にして犯罪奴隷として引き渡し、高速帆船も
だからハーヴェスに捕えていたラパスの人質を返しに行った。
悪い事やっといて、補償したら地位の有る奴は帰れるのはどうなんだ、海賊は人殺しだぞ。とプリプリしながら送って行った。
ラパス王宮の政務官は十年間の手工業の織物一割の税を収める契約を選んで呑んだ。領主は十年間租税の一割を収める。
武装商船二隻は
魔動軍船で来て大義の旗で交渉すると早いなぁ。
艦隊は軍船三、武装商船十五隻を引き連れそのままモンへ向かった。
・・・・
2月29日の晩。
お爺様から3月1日に王都を出るとの連絡があった。王都の用地問題でゴタゴタしてるらしい(笑) ほとんどが宰相の泣き言の話だったが、やっぱ用地が一番のネックかもなぁ・・・。
ロスレーンみたいに自由に出来たら、決まった土地や決まった形じゃ無くて好きなようにレイアウトしてあげるのに。
少し用地について考える事にした。
・・・・
寝る前にアロちゃんと交感会話で今日のトピックを聞いていた。
「テズ教国総本山で、コモン、ドネスクの両密使とニウ様の会談がありました。教皇の間でニウ様がどのような密約か神教国タナウスがお聞きしますと聞かれますと、密使が一言も喋れずに帰りました。教皇は
「ハーヴェスの牢に入ってるのを審問官は確認してる?まさか教皇は殺されてないよね?」
「現在貴族用の客間に軟禁されてます」
「身柄確保してるならいいや」
・・・・
「もうハルバス公爵領都に四日目の滞在ですがベンジャー様とハルバス公爵の接触は無いそうです。明日も接触が無ければアル様一行は三月一日に王都へ出発いたします」
聞いて
「接触ある訳ない!ハルバス公は王都だよ!(笑)」
「クスッ!(笑)」
「おまえー!知ってたな?(笑)」
「いぇ、接触を待てとのアル様の命なので・・・」
「何言ってんだ、眼が泳いでるぞ!コア!」
「お間違いなく。私はアロちゃんです(笑)」
スカートチョイとやってメイドのご挨拶。
「俺を笑わせやがって!(笑)」
「だいぶ気合をお入れだったので(笑)」
「今抜けたよ!プシューと!」
「(笑)」
「アル様が猫を大層可愛がるのでベンジャー様は安心して領都のお家へ帰られておりました」
「それコアが可愛がってるんでしょ!」
「いえ、アル様が可愛がっています(笑)」
「まぁいいや、芸の細かさは良く分かりました。ベンジャーさんも家に帰ってホッとしたなら領都に滞在したのも価値があるし、それでいいや(笑)」
「アル様、そろそろ思考齟齬の観測を願います」
え!もう三か月?・・・。
「明日起きて鍛錬の時間にやります」
「かしこまりました」
次回 324話 からすと水がめ
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