第321話  人間保護団体


2月5日(水曜日)


衛星都市マリンで保護しているアバの砂金鉱山から連れて来た獣人に面談し元の国へ返した。移住を拒む理由は、ここは神教国で神の教えの国。神は人の繁栄を喜んで見守る。そんな国が独身野郎の村を作ったら、繁栄せずに村が滅ぶからダメ!だった。


文句が有るなら一人で子を作れと言った。結婚して子が出来たらそのうちに募集するワールス、サント、ハムナイの移民船で正規のルートで移住しろと説得した。それぞれが希望する国に連れて行く中、生まれ故郷に帰る獣人が居たのは、伴侶を探す為かも知んない。


昼にはハーヴェスに跳んだ。


王の勅命と領主の命令書を持った側近を四人連れて艦隊に跳んだ。コアさんの所へ跳んだら艦隊は三方向に分かれる所だった。王の側近と領主の側近を三領地を目指す艦隊に振り分けて俺の仕事は終わった。


昼からまた奴隷の誘拐に走った。


あと三つほど国を回ればラウム教圏の略取奴隷の誘拐が終わる。3万2千人集めて来た。現在、衛星都市マリンの人口が12万を超えてる(笑) 


最初に誘拐して来たラウム教圏以外の国からは調子に乗って戦争奴隷を解放したが、よくよく考えたら身代金分働いたら解放される?一生奴隷なの?とか迷ったので以後は連れて来てない。どっちにしても罪悪感などない、ついでだから一緒に逃げておけぐらいの気持ちだ。


アル自身が奴隷が当たり前の世を嫌悪してしまい『なんで本人何も悪くないのに略取されて奴隷やんなきゃならねーんだ!』と言う気持なのでまったく罪悪感などない。


仕掛けられた罠に掛かった人間を逃がしてやる人間保護団体ぐらいの気持ちだ。罠に掛かった中で逃げたいと思っている者だけだ。現状の生活に満足してる者は放置。


※略取奴隷:誘拐されて奴隷商に売られた者、盗賊に襲われ売られた者、親の借金などのカタに債権者に売られた者。


・・・・


夕食後も誘拐に精を出してると20時過ぎにグレンツお兄様から相互通信が入った。コルアーノは15時だ。


誘拐しながらの兄弟会話。


(アル、サルーテの銀行用地は確保したが、領都で貴族も平民も都合のよい場所となると3番街しか無い。3番街であの用地(幅20m奥行き12m)は難しくてな。考えたが領都は荷馬車が2台並んで金を下ろすなど無いと思う。サルーテの流民サービスの様に金を下ろす側はカウンターだけにして。荷馬車を使う時があれば預け入れ用の左側で対応できないか?)


並列思考で誘拐して跳び回っても素粒子通信は途切れない。


「それなら用地はあるんです?」

(幅12m奥行き13m以上の土地がある)

「分かりました、そうしましょう!」

(執政官事務所の裏(3番街側)の緑地な(笑))

「さすが!一等地じゃないですか」

(広場はダメだぞ、端の木や草地の方だ)

「充分ですよ!」


執政官事務所は二番街と三番街を区切る城壁のど真ん中にある。二番街側は領地の執務や村の執務など貴族が対応。三番街側は平民対応の執政官事務所でお貴族様と会わないようになっている。三番街側は平民の執政官(吏員)だ。守備隊の大部分や平民対応の門の徴税官やキューブハウスの料金徴収も委託されている権限を持った平民だ。


(わかった、そこに決定しておく)

「また時間があればサルーテに作っときます」

(お爺様の許可はまだだぞ?)


「作って流民サービスやっとけば良いんですよ、領の金を預かって無いだけでサルーテでは三万六千人ほど利用してます。他領の人足や親方、執政官や領都の執政官まで預けてますからね」


(分かった、お爺様の耳には入れておく)

「お願いします」


真面目に話しながらも誘拐してる。


体を拭いてる給仕奴隷たちをプリンプリンでマリンに連れてったり、野良猫を触ってる子と一緒に猫を連れてきたり、主人の晩酌をカートで運んでる格好で連れてきたりはいつもの光景だ。それでもお兄様と話してる時に限ってアクシデントが多い気がする。


・・・・


2月11日(曜日)。


俺は差し当たってハーヴェス艦隊のコアさんから呼び出しがあるまで暇なので、誘拐したり、選別した奴隷を返したりして過ごしていた。五時間、六時間も連続で誘拐する事はなくなり、三十分の暇があると二千、三千人ずつちょこちょこと誘拐して来ていた。


誘拐した二十万人に膨れ上がった民を送還するには時間が必要で、必然的に誘拐を少なくして送還を多くして行く。俺の時間は余暇に誘拐、昼まで送還と言う様なサイクルに落ち付いた。


皆を送って行く土地は、略取された自分の国から逃げる者が多かった。テズ教事件が片付くまで各国王都と領都のテズ教会とラウム教会にニウさんが動かすロボ司教が一人ずついるので送還後は教会を頼れと言ってある。まとまった路銀は渡してやれる。俺が後から国に請求するだけだ。


光曜日にリズとデートする日常が帰って来た。光曜日にクランの広場で行われる人形劇を見たり、その日に縁日の様にクランの道沿いに出る露店を二人で回るだけでとても心が安まった。


・・・・


サルーテとロスレーンの銀行はキューブハウスで作った。お爺様の営業許可も頂いた。左官に頼んで外観はタナウスから持ってきた薄切りの焼き煉瓦をモルタルで張り付けている最中だ。内装はタナウスの乾燥させた素晴らしい木目豊かな木を使う予定。


銀行の外観は作りかけだが運用はキューブハウスを建てた8日から始まっている。他領から二、三日起きに代金が来るのでロスレーン領都の銀行では10日から街路灯代金を預かっている。16日の朝には領都から予算執行書と小切手を持ったお兄様夫婦とモースが直々にサルーテの銀行にやって来て領の金を下ろすと共にサルーテの代官以下三名の執政官が魔力認証を行う事となっている。


16日に世界初となる試みは、窓口に立ったサルーテ代官が魔力認証を受けながら小口で下ろして各領の執政官達に手渡して行く方式を試す事だ。


横で台帳を読み上げる執政官の指示で代官が、何々領幾らと窓口レディーに言えばその金額が下ろされて手渡す金の勘定を執政官がしない。受け取る方も金勘定をしない。各領の執政官は受け取った金額を預け入れ窓口に持って行くと金額が伝えられる。


受け取る各領の執政官は、代官が窓口で引き出す金額を聞いて受け取り、受け取った後に預けて金額を聞き二度の確認が出来る。


執政官は領から連れてきた棟梁、人足の人夫賃を口頭で金貨一枚を十枚の小切手と言えば額面の小切手が十枚振り出され、それを人足束ねる棟梁に渡すだけ。代官が渡す時に小切手に触れながら、もらう人が魔力認証する。取られても本人じゃないと換金できない。代官から小切手だけ奪ってサインしてもダメ。人足は自分のサインが入ったその小切手を預けに来るだけ。


小切手の振り出しサービスは本来なら銀行と契約して手数料を払っている者しか振り出せないが、サルーテは試験運用の特別措置でロスレーン家が契約してるので各領の執政官であれば利用できると普及させる布石を打つ。


これは仕組みを考えた三人の商人の決めた基礎案件だ。この案件を執政官に周知するために領都の執政官の三分の一がサルーテに見学と実地の研修を受ける。当然サルーテの執政官は他領を含めて全員参加で研修を受ける。


2月16日は銀行のお披露目セレモニーとなる。業務だけで建物は完成してないけど・・・。金勘定をしなくて良い事実は8日に出来た銀行が16日にセレモニーを開くほど執政官に好評という事だ。執政官は受け取りも他領に渡す金も勘定する仕事から解放されるから好評に決まってる(笑)



蛇足だが、銀行は一等地に作られた。


サルーテの立地はメインの通りから銀行に荷馬車で入ると裏の道までそのままドライブスルーが出来る様になっている。20m×奥行き12mの区画はサルーテに無く、1区画幅10m×奥行き10mの区画をそのまま使ったら4区画20m×奥行き20mの敷地となって裏道まで貫通したのだ。


この区画を見た時にアルの貧乏性が出てしまい、4階建て+ペントハウスのキューブハウスを作ってしまった。以前のアルでは無い。反省したアルが建てたのは執政官庁舎で彫刻家が刻む芸術性豊かな歴史ある建築を見習って、独自で作ったキューブハウスだ。


それは銀行店舗付き住宅。120坪の敷地に60cm控えて建てられたキューブハウスはさながら近代アパートそのままだった。2F~3Fは12畳の1DKが東西に16部屋、4Fは36畳の3LDKが5部屋。5Fに48畳の4LDKと30畳の庭付きペントハウス2戸。


2F~3Fは普通の集合住宅、4Fは各部屋が異形のマンションタイプ、5Fのペントハウスは一戸建てだ。


日本ではハーイ!と屋根を持ち上げて挨拶するキューブ構造の建築だ。執政官庁舎の芸術性を見習っても歴史的な所しか真似が出来ないアルだ。


各部屋にはベランダ付き、暖房紋付き、クリーントイレ付、給湯紋のシャワー室付きに3LDK以上には風呂が付く。かまどに火の魔法紋、排煙口にクリーンの継続魔法紋。当然街灯紋が各部屋に完備している。


それで終わらないのがこの男、周りの風景と馴染むように薄くカットした焼き煉瓦レンガを職人にモルタルで貼らせている。周りに建物が無いのをいい事に四階まで土魔法で足場を作り好き勝手にやっている。


外装のレンガを一面貼り終わるとモルタルとレンガとキューブハウスを融合して一体化するつもりだ。扉や窓、居室には南国タナウスで育った味のある瘤や節目のある木材を使って内装を施す。


銀行の看板は日本で言う漆塗りに金細工で。二階に続く集合住宅の看板はハイツサルーテ。すでにガンズ地区の職人に内装のタナウス産の木を大量に預けて窓やドアも発注している。


タナウス様式集合住宅、入居者募集中とは宣伝して無い。


それでも問い合わせが殺到したのは3月下旬の話。2月8日に建って15日現在まだレンガすら一面一階分も貼られてない(笑)


アルはこの様式をタナウスで自前で実現するのにナノロボットを左官に手伝いとして付け、内装職人やドワーフの木工職人の所も手伝いを派遣した。それで名付けた職人部隊。


左官の手伝いを派遣した時、このサルーテには土木知識の師匠が山ほどいる事に気が付いた。翌日、多岐に渡る人夫募集に職人部隊を一名ずつ大量に投入した。職人部隊は難民村のキューブハウスで雑魚寝して流民を装ってまぎれ込んでいた。酔っ払いに絡まれてる奴もいる(笑) 人足として仕事を観測させるとそうなっちゃった。


コアさんには酔っ払いに絡まれるのも学習だ。そして俺の対応でなだめたり怒ったり、暴力的ならぶっ飛ばせばいいのだ。現場で揉まれて大いに俺のキレ方を予測しれ(笑)


手伝いに行った職人部隊は、コアさん、ニウさんに技術が統合される。そしてタナウスで職が無い者達に技術を伝授して職人を育てて行く。鉄筋工から研鑽けんさんしてノシ上がった富田の親方を大量に育成するのだ。ハングリーさはこの世の奴らも負けてねぇ。


・・・・


2月16日にハーヴェス艦隊のコアさんから連絡。

ルーミスで領主から海賊業務を請け負っていた全ての商会一味を捕え財産の差し押さえが終わった。武装商船が三隻、商会の交易船を鹵獲し補償金やルーミス特産を満載して何隻も曳航してハーヴェスに帰ったそうなので人質をルーミスに連れて帰ってくれとの事。


ホントにもう!


誘拐した奴隷もたくさん帰さなきゃならない。各国の要人を返すのもそれと一緒に思えてほんとにもう!の言葉になっている。


ちゃんと王様含めて側近も貴族も帰してあげた。


国の補償は海産物水揚げの一割を十年分だった。ハーヴェスが提示した数ある補償メニューの中でルーミスの政務官がそれを選んだのは、ハーヴェスに対して一番履行し易く、計算し易かったんだと思う。


同日ハーヴェス艦隊は次の目的地ラパスに向かった。


・・・・


サルーテの銀行のお披露目と見学、体験研修会は大成功に終わったそうだ。銀行の木製看板がまだ出来て無いので俺が土魔法で作ったタナウス信用金庫と浮き出たレリーフの看板が掛かっている。二階以上の部屋が出来るまで窓口レディーは門外に建てられたアルの貴族屋敷まで徒歩で帰る。


お兄様夫婦と側付きのクリエッタ(25)は御者をしてきたアンドロと護衛の騎士6人と帰りにライツ湖の別荘で一泊。副執事長のモースは今回研修に参加した執政官や護衛騎士と馬でロスレーンに直行した。ロスレーンの執政官達に銀行業務の研修を行う為だ。


俺は商国連合の三人の商会長にお礼の通信を入れておいた。銀行の第一号は大成功だと伝えると大いに喜んでもらえた。



アルムさん達は冒険号から各地のダンジョンに跳んで、ダンジョン近くの街を歩いてくれている。異変を見るのに街の冒険者ギルドに行き、俺に言われたようにクエストボードの捜索願や行方不明者の依頼を確認してくれている。


美味しい物はインベントリに入れて持って帰って来るし、こないだはアコーディオン様の楽器を演奏するのを見て、メルデスに慌てて帰りアロちゃんに演奏を観測させて買って来た。俺が大喜びで食いついて話を聞くから、同じような経緯で木琴のようなマリンバのような硬い木を並べた打楽器もアロちゃんに観測させて買って来ている。


まぁ、街を歩けばストリートミュージシャンみたいのは必ず居るから珍しい楽器には食いついちゃう。果物を持った子供が駆け寄って来て無理矢理二個ほど差し出すのを受け取ると、銅貨二枚と言う。そんな街の雑踏の片隅で演奏している(笑)


以前、俺が歩いていたらヤシの実が四つ縛られた太鼓を叩いてる兄ちゃんが居た。余りに上手く叩くから視て覚えてたら、お前は見どころがあるから叩かせてやるとタイコを叩かせてくれた。


タイコを膝で挟んで視て覚えた分だけ叩くと感心されて、お前のためにあるタイコだと銀貨三枚と言われた。払いそうになってタイコを視たらそいつが朝にヤシの実をくり抜いて大ネズミの皮を張って作った太鼓だと知った。


お前が作ったんだろ!と笑って言うと、先祖代々伝わってる貴重な太鼓だと平気で嘘をく(笑) 太鼓をそいつになすり付けると、大銅貨三枚の叩き賃を寄こせと言う。街角で大声で値切り倒して銅貨三枚払って後にした。


後に残ったそいつはチクショー!と小梅太夫の様に怒るどころか聞こえもしないサンバに乗って踊り出した。


銅貨三枚を天にかかげキスをしながらヘイヘーイ!俺はやってやったぜ!金持ちから奪ってやったぜ!とゴールを決めたカズダンス風なリアクション。


子供との口汚いののしり合いを見ていた観衆にこれを見ろー!やってやったぜ!と三枚の銅貨をアピールする。


俺は銅貨三枚でも気になって落ち込んだ。


異世界はそんな世界だ。


タフでなければ生きていけない


弱い奴は人間保護団体が守らないとやられ放題だ。





次回 322話  すれ違う思惑

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