第320話  ウエイ系とDQN系



2月1日。



その日の朝、カラム全土にビラが降って来た。


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全てのカラムの民は救われた。


カラム王は海賊行為の補償金を払い重税となる王国の未来を選ばなかった。カラムの民を安堵あんどする条件で王位をハーヴェス帝国皇帝に移譲した。


王位移譲いじょう宣誓書せんせいしょはテズ教国が確認した。ハーヴェス皇帝も調印し両国は同じハーヴェス帝国になった。この国は執政官も王宮も貴族爵位もハーヴェス皇帝の元で俸給はこれまで通り帝国から出る。貨幣はカラム王国のままハーヴェス帝国となる。


本日13時に空砲一発の後、ハーヴェス帝国兵が上陸するが、カラム各地の執政官事務所に王の最後の通達を出す為である。


民と同じ国の兵が上陸する。海路を旅した同胞どうほうを迎えよ。


神託の地ルージュに新しい未来を迎えるのだ。


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読めぬ者がビラを拾って各ギルドの窓口に殺到した。説明を聞いて万歳を叫ぶ者、複雑な者、しかし海賊行為の主犯という王家を擁護ようごする声は無かった。


本当の事なのだ。


ビラが降った時間。俺はカラムの海賊実行犯の貴族家を三家拉致しハーヴェスに置いて来た。上陸後は王の証言を元にした罪状をあげげた執政官が貴族家を訪れる。後にハーヴェスの貴族家がその家を継ぎ改名される。


今日は朝から教会で上映会が行われている。ハーヴェス艦隊をむかえる宣撫工作せんぶこうさくだ。大司教がカラム全土の執政官事務所で幻灯機げんとうきによる王の最後のお言葉の上映会を行うと同時に全てのテズ教会でも上映している。


それは編集され脚色された動画。テズ教教皇にさとされ、神に懺悔する海賊行為の告白と謝罪。カラム王は最後にハーヴェス皇帝と握手し『カラムの民は責任を持って安堵あんどしよう』と言う皇帝フランク・ハーヴェス。


現代なら出来過ぎの茶番とSNSで炎上かもしれないが、民は砲撃を見ている。読み書きの学ある人に読んでもらったビラの通りだったと信じ切る。単純な幻灯機のドラマにカラムの民は泣いて感動した。


「増税で民を苦しめぬ王位の移譲。あっぱれじゃ!」


そんな台本を棒読みの皇帝に民は泣いた。


・・・・


13時になると武装商船が六隻、軍艦一隻がルージュの港に着岸した。兵士二千人が護衛する執政官三百人が王国移譲令おうこくいじょうれいを貴族領地の執政官事務所に宣言して行く。


皇帝の謁見えっけんと共に貴族家は正式に皇帝の家臣になると伝える。皇帝の謁見までに反旗はんきひるがえした貴族はハーヴェス帝国と戦争になると伝えに行くのだ。


上陸兵の中に犬獣人の両親が居た。アルがカラム王国出身の獣人を艦隊に預けたのだ。体力が落ちてても病気じゃ無ければ良いので連れて来た。


この最初の上陸組にコアさんと海軍政務武官バスティーさんがいる。バスティーさんはなんと俺が連れてカラム王宮を押さえに行く。ハーヴェス皇帝の権限代行者だ。


一際ひときわ厳重に護衛されたバスティーさんは岸壁に遠巻きに集まっているザワザワする民衆に拡声魔法でうったえた。


「今日より同じハーヴェスの同胞よ!海賊に奴隷にされていたカラムの者を救出したので連れて来たぞ!これからも共に歩んで行こう!」


カラム出身の獣人が30人ばかり兵士の中から出て来る。勿論ルージュの犬兄弟の両親もいる。表に出ない美談として裏町で語られたらいい。


小さな拍手が起こり、それが少しずつ伝播でんぱして、いつしかハーヴェス万歳!という声があちこちで聞こえた。理性的な兵が整然と行進してカラムの民を助けて降りて来たからかもしれない。


こうして以後の宣撫政策せんぶせいさくの執政官とハーヴェス兵は上陸した。俺はバスティーさんとコアさん、政務官二十名、兵二百人を連れて王宮へ跳んだ。


王宮では前カラム王の書簡が読み上げられ、宰相によって王のサインが確認された。午前中に訪問した大司教の幻灯機によって、謝罪した王の映像を見た臣下の混乱もなくハーヴェス帝国は王宮を傘下に入れた。


以後王宮を仕切る政務官二十名と兵二百名を残し、俺はバスティーさんとコアさんをルージュの艦隊に送り届けた。送り届けた頃には武装商船に分乗していたカラム掌握任務六千人の上陸が終わり、各上陸部隊がカラム全土に王の最後の勅命を届ける準備に掛かっていた。


ハーヴェス帝国は最重要の王宮を掌握したので上陸兵と執政官をルージュに残し、艦隊の兵は砲兵と艦隊海兵のみとして補給が済み次第ルーミス、ラパス、モン、ガナンに向けて出航する。艦隊が海路を進む期間に次の進路の国主と領主をハーヴェスに拉致し、拉致した王の勅命、領主の勅命により空荷の武装商船艦隊が海賊行為の補償を各国から引き揚げる。


ハーヴェス帝国は二年前に六つの植民地を失い、二年後に出来上がった国を一つ手に入れた。


その日の晩、カラム全土のテズ教会に二十日間も居候していた大司教及び司教、司祭、シスター、聖騎士は役目は済んだと国中の教会を辞した。一行はカラム王国から忽然こつぜんと消え、今度はに司祭が一人ずつ手紙を持って現れた。


・・・・


俺は、バスティーさんとコアさんを艦隊に送った後、ラウム教圏の国々で略取され、売られた奴隷を誘拐しに行った。21時まで五時間で二万人を北西都市マリンに送り届けた。


前回はタイムアタックでマリンの宮殿広場が人で溢れて凄かったが。今回は余裕を持って誘拐したので広場も混み合わなかった。


余裕を持って誘拐も変なら、タイムアタックで誘拐も変な事にアルは気が付いていない。



当面の行動予定。


・略取奴隷の誘拐。

・艦隊からの指示で国主と領主の誘拐。

・テズ教国、ラウム教国の掌握。

・周辺国の情勢の把握はあく


一番大事なのが情勢の把握はあく。カラム王国の陰謀いんぼう暴露ばくろされた事で、テズ教のシナリオに賛同し、孤立した国がどう動くのか予想が立てにくい。


・国王と側近、教皇と側近しか知らぬ陰謀いんぼう


テズ教国に裏切られた各国王と側近達、面子もあるし逆上もある。各国のキレた王からテズ教国に対する宣戦布告の命令が下された場合、テズ教信徒の兵が己の信ずるテズ教本国へ攻めて来るのか未知数。信心深い貴族の反抗で王命に逆らえばその国に内戦も勃発するのだ。


戦争時には公募される傭兵ようへいや冒険者も居る、ネロ様を信仰する者がテズ教国へ侵攻する戦争に参加するのか怪しい。


・各国の民は何も知らない、教会の司祭も何も知らない。


国主の激怒で教会の者は弾圧されるのか?兵士や守備隊は教会の司祭を弾圧できるのか?命令する現場の指揮官が信心深ければ実行されないし、実行するにも手荒に扱えない現場の将官が戸惑う命令となる。


・国主の激怒は、国を支える貴族家にありもしない戦争に備えよと戦の準備をさせてしまった事に尽きる。王が虚言きょげんろうして配下の貴族に大金を使わせてしまったのだ。


混乱する大陸をさばき切るのも異世界の冒険だとアルは腹をくくっている。最悪陰謀に乗った国主を隷属する。戦乱が起こらなければそれでいい。


アルはこう考えている。


国主がテズ教国のシナリオに乗ったのは、テズ教国の力を知るからである。聖教国の秘儀と言えば信徒国が信ずるのと同じ事だ。この大陸のテズ教圏だから信徒国はシナリオの陰謀に乗った。


それは国王と貴族の関係に見える。


「こういう絵図だ、武功を上げたらその国をやる!」


テズ教教皇に密書で伝えられた国主は動いた。


ニンジンがぶら下がった馬と一緒で分かり易い。


そんな陰謀話あるの?美味しい話なら攻めちゃえばいいじゃなーい!ウェーイ! 


ウエイ系ならまだいい。


小型大砲持ってる国王が言った。


『テズ教から神託を聞いた。サンテの異教徒、ハーヴェスは神敵だそうだ。おめえらヤッタレや!内陸じゃうちが最強!』 


それはDQNドキュンだ。


危ない奴だ、武器持ったら使いたいトリガーハッピー撃ちたくて仕方ない症候群。


アルは怒り狂って兵を寄こす国主ならタイマンで決着付けるつもりだ。聞き分けの無い奴は隷属する、そんな王なら他のマシな奴に変われば良い。部下は上司を選べない、分からなければ辞めさせるだけだ。


ちなみに決着を付けるつもりではあってもタイマンはニウさんがする。クロメト流を習っても鉄壁の用心深さは変わっていない。



・・・・


テズ教国に限らずラウム教国も古くから周辺国に認められた宗教として根付いているには訳がある。アル達のいる北中央大陸にない事象、ステータスボードが早くは八歳から遅くても十一歳の間に発現し宣誓の儀が必要無いのだ。全ての民にステータスボードが発現する。それは職能恩寵を育て、武技、魔法恩寵を鍛錬によって誰でも得られる事に繋がっている。


稀にステータスボードと同時に恩寵や魔眼を発現する者がいる。魔法系、鑑定系、身体強化系、魔眼などありとあらゆる物が発現する。


それは大陸に混沌と戦争を絶えず振りまいて来た元凶だった。分かり易い恩寵なら良い。未来眼、追視眼、真偽眼、鑑定眼の魔眼なら分かり易い。分かりにくい縛聾眼ばくろうがんなどと言う魔眼が出た時、民は教会に聞きに行く。そしてそれが人の耳に関する機能を自由自在に操る危険な魔眼と判明するのだ。


その魔眼を開眼させてLvが高ければ、戦争時に使用される事で真っ直ぐ進む事も出来ない軍隊にされる。命令の聞こえない軍隊にされる。


その様な魔眼が発現した子の相談を受けた教会は、とても危険な魔眼が発現した事を親に伝え教会が魔眼を預かり適正に教育する事で過去に起こった魔眼の災厄を回避して来た。


教会は相談を受けた分かり易い魔眼については簡単に説明をして親に任せる様にしている、聖教国のように親から引き離して保護するまではしていない。ステータスボードが全ての民に発現する事は魔眼の数も比例して多くなる。魔眼の総数が多過ぎるのだ。


魔眼に限らず魔法道具屋のベガの様に恩寵として最初から鑑定を持っている者もいる。分かり易い恩寵は親にも周りからも喜ばれ未来が約束されると言うのが魔眼を持った者の人生だ。


その中で神聖国の聖女ユーノの持っていた衝撃眼しょうげきがんが分かり易い魔眼として認知されている。分かり易く使いやすいので見逃されやすい魔眼の筆頭だ。


実はこの衝撃眼はもの凄いポテンシャルを持つ。初期のレベルでは物理系の物理衝撃が可能。ユーノが聖騎士と鍛錬して兜を被った騎士の顔をぶん殴る程の衝撃を出していたが、Lvが上がって来ると緻密ちみつな操作でどの角度からもどの様な面積にでも視界の中でぶん殴る攻撃が可能になって来る。構えた剣の手に高密度の衝撃を食らわせたら剣は吹っ飛ぶ。喉仏のどぼとけに高密度の衝撃を与えて潰すなど容易だ。


衝撃眼に限らず、この様な分かり易く簡単な恩寵にだまされて放置される事で魔眼災害は起こる。熟練した魔眼保持者に一般兵では対処不能の混沌を巻き起こされた歴史があるのだ。討伐は教会の恩寵部隊が行って来た。に対処して来た教会の歴史があるためテズ教もラウム教も実力を示して今の地位がある。実力無くして正義は語れない世なのだ。


その様な歴史的経緯がある宗教国には信者が多い。


聖騎士と御子の特殊部隊をようする宗教国に武力で押し入る信徒国があるのかは読み切れない未知数だ。


※魔眼災害:土地によっては魔神災害、魔人災害とも言う。


・・・・


晩にクラウスさんの子供、九歳のニコリスが神都の学校に行った事を聞いた。教会の子と分かって友達もすぐ出来たそうだ。教会前の噴水広場は知らぬ子が居ない、なぜ知らぬ子がいないか。海に行くときはその噴水広場横の生活水の側溝に水着を着て座ると流れる水で海岸までウォータースライダーの様に四回程乗り換えて行けるのだ(笑) 


それをアルが見た時に固まった。なんて凄い事考える奴らだ・・・と。


・・・・


2月2日(光曜日)


光曜日など関係ない。朝からテズ教国に出張した。

現行のテズ教国のTOPにいる十二大司教の五人(以後大司教)を神教国タナウスからの密使として訪ねたのだ。


コアさんとニウさんを引き連れた皇太子スタイルだ。


戸惑う五人の大司教に面会して口外無用の面会をした。


重要なテズ教国の密書を開示した。テズ教が神に背くシナリオを作り、海賊行為からの一連の陰謀を明かした。神教国が取った対応とビラの証拠提出。教皇と皇帝の幻灯機げんとうきによる動画を見せた。


神を説く聖職者が神に唾する行為を目の当たりにした大司教達は嘆き悲しみ一人が高血圧でウーン!と倒れた。


それでもテズ教の信頼を失わない様に動いた神教国の意はんでくれた。今回の事こそ神教国が神に頂いた神託によって導かれた結果と説明し、アルは加護を見せてダメ押しした。


以後のテズ教は本来の宗教国の役目、民に寄り添う教義を果たすために神教国の教義に徐々に変遷させて行く事を誓わせて、新生テズ教国の教皇と四枢機卿を任命した。十二大司教の五人はかしずいて神教国の皇太子の命を受けた。


以後の大陸を襲うであろう混沌。

事件自体があるまじきスキャンダル。あるまじき裏切り。当然の信徒国の怒り。信徒国が宗主国を攻めかねないテズ教存亡の危機となっている状況にテズ教の大司教は神教国にすがった。


今後の対策を含めて晩餐ばんさんまで用意される熱でテズ教国の今後の対応と方針を決定した。教皇の執務室に相互通信機を置き、アルベルトハウスの執事フォボスを連絡係に置いて行く。周辺国の動静に注意する様に言い含めて皆の前で消えた。


・・・・


寝る前の交感会話で知った。


クラウスを二十六年前に司祭学校に向かえた当時の司教、現在大司教との邂逅を。現司祭学校長のブラウナー大司教を!とアルノール卿が統括する教義部から司祭教育のTOPをタナウスに拉致してしまった。魔法の研究職以外は暇と決めてる所が卿だ。


ブラウナー大司教を見た途端に泣き崩れるクラウス。驚く大司教は「どうしました?大丈夫ですかな?」となだめながら司教の時代に教鞭を取ったクラウスと気が付いた。赴任先ふにんさきの司祭の職から逃げて行方不明となっていたクラウスと二十年ぶりに会ったのだ。


教会には俺の思考論理を知るシスターが六人居る。シスターが優しく執務室に案内して、その場で若きクラウスの過ちが懺悔ざんげとしてブラウナー大司教に届けられた。


大司教が言った。


「涙の分だけお前は成長した、懺悔ざんげの分だけ磨かれたのだ。後悔し、素直にあらためたお前だからここにいる。御子様がお前を探し当てられたのは、まさしく神のお導きである」


「クラウス、立ちなさい。昔と同じく学びましょう」

「ブラウナー様!」


大司教も泣いていたと言う。


・・・・


2月3日。


朝からラウム教を訪れる。


同じ様に教皇以下大司教が画策かくさくした陰謀いんぼうの密書をぶちまける。幻灯機げんとうきで教皇以下陰謀に加担した大司教の告白映像を見せた。以後は信徒国によるラウム教国侵攻の危機がある事実を告げ、神教国が介入して昨日決まったテズ教の議案を見せる。


善良な大司教の中には、余りの衝撃に半狂乱になってしまい議場を出される者がいた。アルが加護を見せる事で大司教達も神教国の提案を受け入れ、神教国がラウム教の教皇以下の要職を任命して行った。


ラウム教国の信徒国への対応や方策もテズ教に準ずる事とした。


要するにテズ教もラウム教も神教国が守ると言う事だ。


神教国への相互通信機を置き、アルベルトハウスの副執事ダイモスを連絡係に置いて行く。周辺国の動静に注意して報告するように言い置いて大司教達の目の前で消え去った。


この日も14時から空いたので衛星都市マリンに奴隷を誘拐して連れて行った。5時間で二万人。隷属して仕分けはナノさんに任せた。


晩にコアさんから相互通信が入った。

風と潮が良く三日後にはルーミス近くの島で錨泊出来るそうだ、バスティーさんからルーミスの国首と領主をハーヴェスに連れて行くようにとの指示だった。明日の朝連れて行く事を了解した。


・・・・


2月4日。


翌日ルーミスに行って国首をじっくり見させてもらった。カラムが落ちた事をまだ知らない。パリピ系だった。(みんながやるなら騒ごうぜ)海賊行為のそんな話があるの?いんじゃね?のノリだった。


カラム王国に領地を接するルーミスの領主はカラム王国が負けたと伝わった情報を信じなかった。国境から三つの街を挟んで四つ目の領都に昨日情報が入った。ハーヴェスのカラムに対する砲撃が凄過ぎてすぐに負けそうという噂が変遷してハーヴェスが勝ったという噂になっていると笑い飛ばし、今日偵察を出した所だった。


事が起これば義勇兵を出す任務の国境領主は放置だ、何も悪い事をやっていない。自領に軍備を蓄えてるだけだ。


国王と関係者と三つの貴族家の海賊関係者だけハーヴェスの騎士団に受け渡し、隷属して聞かれた事に正直に答えなさいとゲッシュする。うちの審問官に動画もお願いと念を押しておいた。海賊行為の事実を認めさせて補償を引き出す。


捕虜の引き渡し時に作戦参謀のフリップさんから提案が有った。ハーヴェス艦隊は明後日の昼にルーミスの沿岸に入るので人質の王と領主を返すのが早くなる形にしたいとの提案だ。


国王の側近と領主の側近に補償の実行命令書を持たせて現地で補償物資積み込みの指揮を取らせるみたいだ。


実質一日半で国王と貴族との補償交渉を終わらせ、実行命令書を作るつもりが視えたので了解した。補償草案は作ってありサインさせるだけだった。


補償交渉も必要だ。交易船が奪われ人が奪われ積荷が奪われた。失った物と失った者を取りかえす交渉はハーヴェスがやってくれる。損害を受けた人に返してもくれる。だから俺は出来る事をやっている・・・。


何も問題は無い。何も文句は無い。とてもありがたい。


実はアルは嫌気がさしていた。


ルーミスの王様や貴族ウエイ系やパリピ系やDQNを見てうんざりしたのだ。魂のくすんだ奴ばかり、お決まりの場所に座って命令を出すばかりの王侯貴族。平民や兵の事など少しも考えて無い連中。自分の取り巻きには人間らしく振舞ってジョークも飛ばす。


自分の国の民を見ていない、街角で暮らす人々を見ていない。民は幸せか?と問い、民は幸せです。それを答える側近も民を見て無い。今回の事もそうだ、美味い話が有るから乗った。戦争が起こって民が現地で逃げ惑う姿の想像が欠如していた。


攻めて行く兵が死んだら戦勝の国にも泣く者がいることを想像すらできないアホだ。ましてや泥沼にするつもりのハーヴェス帝国VSカラム王国の戦場に兵を送り込もうとする奴だ。命令一つで動く者の気持ちなど分かる筈が無い。そこで自国の兵が磨り潰される事も知らない。損耗率とかの数字を聞くだけだ(笑)


街を歩かない、民の暮らしを見ないとこれ程までに民心と解離するのか信じられなかった。


今アルを動かしているもの。


アホから人々を守る。


アホがどうなろうと俺はそんなもん興味無い、どうでもすればいい。何も知らない民や兵士がアホに巻き込まれなければいい。


それだけだ。


アホに付いて考えながら奴隷を誘拐しに行った。




次回 321話  人間保護団体

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