第315話 やったか!やったのか?
1月23日。
宿で起きると、本日日の出と共にハーヴェスの魔動軍艦三隻と武装商船二十二隻が兵員を満載して出航するとシスターに聞いた。魔動軍艦三隻は俺が軍港を浅くして座礁した軍艦から魔動回路と大砲を積み替えた船だった(笑)
そんな中、朝の宿にタクサルさんが訪ねて来た。
明日の24日朝からタクサルさんの船が出航すると言う。タクサルさんは1月10日にルージュに着いたそうなのでやっぱ二週間掛かって出港準備が終わったみたい。
次着の船に俺が美しく荷を積んだので、余分に出来た隙間に生命の木を積んで、次着の船も4日で出港準備が出来たらしい。乗組員は1週間休ませて28日に出航させる算段が付いたから、番頭さんは安心して出航できるそうだ。
生命の木って何よ?と検索したら馬車の軸受けや水車、滑車、風車の軸受け材に使われるコルタ城塞の車輪の木材だった。油を含み水に沈む程重く固いので木材工業製品に重用されると検索に出た。地球では樹液が万病に効くと信じられていたらしいがこっちは単に工業製品の原料だ。
いつハムナイへ帰るか聞いたら、会長の命があるまで帰れないそうだ。本店の番頭は副会長のジスクさんがやってるしな。魔動帆船の出航は時間が掛かるそうなので、そのまま宿でバイバイした。次はいつ会えることやら・・・(笑)
・・・・
お昼前にクルムさんから相互通信が入った。横掘りの魔穴を攻略した報告で、思わず街の中で大喜びして裏路地に逃げた。竜の皮が17枚出たと言うのでギルドに出さないでとお願いしておいた。各国の王族にプレゼントして国宝的な各種職人を一、二名借りてコアに観測させようかとの悪だくみが浮かんだが振り払った。
取り合えず今からハウスに行くと跳んだ。
「やったじゃーん!(笑)」
「アロちゃんとフィオちゃんが来たけどね(笑)」
「え?二人も行ったの?」
「アル様がこのまま残すと決めてからダンジョンの一切の調整はそのままです。
そういえば、5位でも食える様に30Fまでのモンスタードロップを総交換しようとしたわ(笑)
「あ!初回は力及ばなかったら死んでるよね? 二回目はライムさんとヨードさん連れてってる(笑)」
「それで安心しておりました(笑)」
「まぁ、大精霊が居るし見てるだけでしょ?」
「はい、それはもう短時間に倒されました」
「アル、それでコレ!」
何か腕輪を前に出された。
「ん?」 視て驚いた!ダンジョン産だ。
「アルにお土産よ、60Fのボスで宝箱が出たわ!」
「えー!マジで!」
「マジよ!」アルムさんが返す。
手にとって
「リターンバングルよ分かるでしょ?」
「うん、
「そうよ、60Fのこれの装備と思うの」
目の前に大地の斧が三つ並んだ。
「あ!二つ作ったのね(笑)」
「三つあるとボスは楽だったわよ!」
「あはは!よかった(笑)」
「バングルはアルムが試したの」
「投げた後に魔力を込めると戻って来るの!」
「斧が?」
「うん!消えて手にパッ!と現れる」
「もしかして斧だけ?」
「他の物も戻るけど投げる意味無いの(笑)」
「なんで?アルムさんだったらナイフとか・・・」
「そんなの投げるなら弓撃つわよ!(笑)」
「なるほど!」納得した。
「取り合えず、斧とリターンバングル預かるね!」
「うん!」
「あ!クルムさんに僕もあるの」
「何?」
「これ」
クルムさんに敏捷の指輪(
「スフィアを鍛えてくれてありがとう!」
スフィアが腕に引っ付いて来る。
「これは!俊敏が+10も上がるのか?」
「そうそう、弓も早くなるよー(笑)」
踊り場で竜の皮を受け渡すが全員が皮の下敷だ。飛竜を除いて猫バスクラスの竜の皮を17枚なんて正気じゃ無い。火竜なんかマジ魔法耐性高かったし相当な値段だと思う。値崩れするからギルドで一年に一枚オークションに出すと言ってた程だ。
前回の火竜の皮はアルムさん達のミスリル鎧のミニスカートになって大きな端切れが残っている。
当分うちのPTは休みにしますと宣言した。
PTのフォーメーションや役割を教える為に光曜日以外は五カ月近くもダンジョンで戦っていたので当然だ。
自由に休んだ後は、ポヨーン村みたいな
ルージュの宿に帰った晩の交感会話でランサンの冒険者学校が開校したと聞いた。講師陣は元騎士団や傭兵、魔法士、冒険者PTの
・・・・
1月24日。
10日のビラ騒動から二週間も経った街は神託の混乱も終息していた。街は普通の喧騒を取り戻して、一月末は楽しみだね。ぐらいな話にまで終息したので、俺はせっせと奴隷の避難村を作って行く。
2月1日のカラム王国の王権移譲と共に奴隷を誘拐して来るからだ。
奴隷が当たり前の大陸東の四国だった。世界中から四万二千人の人々が略取され奴隷商品として売買されていた。四国と言っても北の国だから一国一万人の奴隷は多いのか少ないのか分からない。一国二百万から三百万人の富裕層が2%と考えると富裕層4万人から6万人に対して奴隷が1万人程なら少ないようにも感じる。
同じ割合なら東の中央大陸に四十万~六十万の奴隷は確実にいると思う。気候が緩やかな国が多くなって、国や貴族が農奴を使って稼いでるからだ。地球で言う奴隷による綿花プランテーションや砂糖プランテーション、鉱石や宝石採掘みたいなことやってるのよ。
リノバールス帝国は余りに獣人
東中央大陸は四十程の国があるので、奴隷の扱いも国それぞれ。先進国で街の繁栄を支える奴隷は労働力としての扱いも非常に良いし。後進国では牛や馬と同じくまとめていくらで売られている国もある。家畜の競売場と同じなのだ。首から値段を下げて縄を付けられて道に三十人とか並んでいる。
アルだから視えてしまう。その奴隷になるまでの
社会構造のインフラと倫理や法の学識が整って法を行使できる国に成熟して個々の人権が初めて叫ばれる。この世界はまだ何一つ整っていない。大陸中央言語を話せない国の住民は人として認識されていない。野良犬は叩いて言う事を聞かすか、言う事聞かなきゃ殺すかの二択だ。
魂の輪廻の構造を知ってしまったアルは、魂が器を持って生まれた現世の辛さを良く分かってる。
地球でも弱者は守ると口だけの為政者。自分勝手な法を作って適正に執行すると嘘を言う。法に基づいて差し押さえの
無税の国を作ったら叩かれまくる。無税の国から税を取ろうと法を作る。
アルは視えて知っている。
だから国など信用していない。国王だろうが皇帝だろうが議長だろうが将軍様だろうがクラスで弱者を
神様に恩がある。混沌と秩序は魂の磨きに必要かもしれないが、過剰な辛酸は必要ないとアルは思う。人の人生を容赦なく巻き込む世界の渦が強すぎるんじゃ人は繁栄出来ないじゃん!と思えば人生を巻き込む渦を緩やかにしてやる。
皆が普通に食べる事が出来てお父さんとお母さんと一緒に暮らせる子供時代を過ごせる世にしたいだけだ。
だから見栄えだけ繁栄したように見える地球をお手本にする。この世は大砲は作っちゃってるからどうしようもないけど戦争に
そんな事が出来るのは恩寵を持ったスーパーマンだけだと笑うのは簡単かもしれないが、アルは学校の売店の品数が少なくても検索しておばちゃんに教える奴だ。何も変わっていない。目の前の異変を良い方向に回すだけだ。義務感でも正義感でもない。今、動けばよい方向に回るなら一歩踏み出すだけだ。迷い猫に餌をやるだけだ、根本は何も変わっていない。
自分が視たくない。それだけだ。
静かに奴隷の避難村を作りながら動き回るアル。存在意義や行動意義は並列で深く深く定義付られ回って行く、今やっている事の意味、根柢に流れる大義、それはアルの行動として
明には立派な両親が居た。それだけで家を守れた明と雫はとても幸せだった事、学校の売店の事、自販機でお釣りを忘れた女子高生の事、成長するにしたがって出来る事が増え、今に続く事を納得し
考えに入り込んでる間に避難村は出来て行く。
・・・・
タナウスで奴隷の避難村を作っていた16時半。相互通信が入った。
メルデスのアロちゃんから、リズの側近のメイド長ナタリーと執事長セオドラが血相を変えてアル様を探しに来たとの事。
リズに相互通信してみると思い当たらないと言う。昼の食事の後二人の様子がソワソワしてたと言う。
そのすぐ後に連絡が来た。イコアさんの所に二人が来たと言うので管理棟に立ち寄らせてお茶で接待しているらしい。とまぁ時間を見るとタナウス17時前だ、あっちは15時前なら休憩に良いだろうとクランの管理棟に跳んだ。
取り合えずイコアさんと交感会話して避難村の受け入れ施設状況をイメージで見せて行く。イメージと言ってもアルの見せるのはそのまま実物と変わらない。
イコアさんに軽食をお願いして客間に入ると二人が話し合っていた。
「アル様!突然押しかけすみません」
「今日は何でした?(笑)」
「あのう・・・」?
「そのう・・・」?
「どうしたのよ?二人共(笑)」
視て驚いた。リズに子が出来た!子に子が出来た!なぜ子が出来た?
二人が決心したように言う。
「アル様、リズ様とヤリましたね?」
「え!」直球過ぎて焦る!
「な、何をヤッたんです?」声が震えてしまう。
「アル様が思ってる事をシたのか聞いてます」
「・・・」聞いてる癖に確信してるじゃねぇか!
「ヤってくれましたね?」
「イヤ!ヤってないヤってない!」
「私どもの目を盗みよくも!」
「私たちを
「ヤって無いって!」
「何をヤってないんです?語るに落ちてますよ」
「え!」
「お前らそれを言わせたいだけじゃないだろうな」
「・・・」
「・・・」
イコアさんが軽食を持って入って来た。俺の横に座る。
「リズ様のお子はアル様のお子ですよね?」
「知らねぇよ!俺のじゃねぇよ!」素が出てしまう。
「お子と聞いても動じてませんね?」
リズにお子はいないと言えないのが辛い。
「え!イヤ、え!お子ってなんなの?」
二人が俺の言葉を信じるか視て、まったく俺を信じて無いので慌てまくる。
「目が泳いでます。
「お子が出来るの分かってシましたね!」
「分かって無いよ!シてないよ!」
「この後に及んでシラを切ると?」
「イヤ、リズがお子って話じゃないの?」苦しい。
「そこまでシラを切るとは
「これで我らの未来も
「
「嫁入り前の王女をよもや
「
二人が同時に頷く。それ
「ナタリーもセオドラも待った待った!」
二人はマジで悲しげ、そのうち泣きそうだ。
「何で
「リズ様が昼食で
「俺とヤったって言ったのか?」
(仮に言ったとしたら王女のお里が知れる)
言って無いの知ってる。
「そんな直接は仰ってませんが・・・」
「何を言ったの?」
「お腹にアル様のお子がいると」
直接
「そんなアホな!」
「身に覚えがある様でしたが!」が!が大きい。
「えー!あのバカ!何言ってくれてんだ!」
「アル様!ヤることヤっといてそれは無い!」
「リズ様をバカとは見下げ果てます!」
「お前らもバカだ!三バカだ!」
火に油を注いでしまった。
「アル様!この後に及んで逃げようなどと陛下にお手打ちにされますよ!正直に謝ればアル様の事。許される可能性もあるのです。聖教国の皇太子なら正直に申しませ!この後に及んでシラを切るのも
バーン!
セオドラの一撃で目の前のお茶が弾け飛んだ。
眼が点。
その剣幕に負けそう・・・マジ怖い。
会議室に静寂が訪れた。
「シラもクソも、まだ男じゃないの!男の子なの!」
仕方が無いので白状した。
「?」
「・・・」性知識が無さ過ぎる
「・・・」男をそもそも知らなさ過ぎる。
こんな奴らに追い詰められるとは・・・情けない。
「お前たちも分かんないのか!クソバカども!」
「クソバカとは何ですか!そもそもが・・・!」
「うるさい!そこへ直れー!」威圧全開!
二人がスカートを直して背筋をピンと伸ばす。
「お前たち子種って聞いたこと無いのか?」
「殿方から頂いてお子を作るのですよね?」
「まぁそうだ」そんなハイ!とは渡さない。
「俺は子種を持ってない。どうやってリズに渡す?」
「え?」
イコアさんがぷー!と噴き出した。
「あー!もう!あんたたち二人は!」
「男の子と女の子には第一次性徴期と第二次性徴期という時期が~(割愛)~二人共その時に毛が生えて来たでしょ?」
「女の子は生理が来ないと女じゃ無いでしょ?」
「?・・・!」
二人の
「だから、ホラ!すべすべで毛が無いでしょ?」
脇を見せて得意顔のアル。目を点にして
「二人共脇見せてみ、毛がある・・・あ!海行って剃ってるか。 あ!そうそう、生えてるじゃん」
恥ずかしげもなく脇を
何やってんだ俺・・・。
「だから俺は男の子だから子種持って無いの」
二人はポカーンと聞いている。
「ほら!スベスベでしょ?」脇を見せる。
二人がもう一度毛が無いのを確認する。
「持って無いのは渡せないでしょ?」
うんうんと
「女の子と一緒で、僕はまだ男じゃ無いの」
二人はそれが来てから、男は狼みたいに上から覆いかぶさって襲って来るとか色々な事を教えられて、想像力だけ
そもそも普通の平民はあれこれ聞くより、お姉ちゃんお兄ちゃんに直接的な体験談を赤裸々に教わり、村祭りの夜に実戦で教わり覚えて行く世なのだ。
二人の顔が上気して真赤になっている。
言葉も無い様なので話を変えてやった(笑)
「そもそも、そういう先生っていないのか?」
「貴族家の子女にはその頃に付くとは聞きますが、我らの様な末端の貴族家では学校のエッチな話位しか・・・」
「あんた女流騎士団だろう!何やってたんだ!」
何やってたんだ!と聞くアルもアルだ。
「皆が男の汚さを吐き捨て、孤高であれと日々
「あぁ、いいわ!興味あるけど言えないお年頃だわ(笑)」
「ななな!何をおっしゃいます!」
「分かってるよ!横目で騎士団見てただろ(笑)」
「ななな!・・・」
「男の汗や太い腕が気になっただろ?」
「ぶぶぶ、ぶぶ、無礼な!」キョドり過ぎだ!
「良いんだよ!女の本能で求めちゃうんだから(笑)」
セオドラをヨシヨシするお子様。
「エッチな話はお屋敷でするでしょ?」
「その様な
視ると、あ!序列が上過ぎて加われないのか。
「分かる分かる!言わなくて良いから、ね?」
セオドラの目がクロールで泳ぐ。爆発しそうに顔が赤い。すでにナタリーは衝撃の男の生理を聞き、のぼせて想像の世界に旅立っている。口が半開きだ。
「リズに教育した奴呼んで来い!」
「・・・」二人がサッと顔を見合わせる。
「どうした?知らないのか?」
「アル様、すみません。そういう者はいません」
「え!王女だぞ!」
「15歳ではありますが、お子なので・・・」
「俺だってお子なんだけど・・・」
「・・・」
「・・・」
「ちょっと待て!お前たちでは男女のそういう事を教えるに荷が重すぎるな?知らないもんな?」
二人がコクコクと頷く。素直でよろしい。
「俺がフラウお姉様にお願いしてみる」
とんでもない事言いだすアル。アルもシた事無いので経験者が神様に見えている。
「お止め下さい!」
「何でよ?」気が付いてない。
「それは私共がお願いする事でございます」
「あ!それはそうかも!筋違いだな!(笑)」
そもそもビギナーのフラウにお願いが間違っている。
その晩。
ナタリーとセオドラがリズを優しく問い詰めて行く。ネットもエロ本もエロ小説も無い世界。その上リズは同級生とのエッチな話すらもない。
リズのお腹になぜ赤ちゃんがいるのか聞いていく。
赤ちゃんの話で真赤になって口を割らないリズ。アル様とシたのかと聞くと
誰でもシてお子が出来る。恥ずかしくないと諭す。
(誰でもシてるけど二人はシた事無かった)
リズはとうとう口を割った。
それは王妃様の言葉が原因だった。リズが子供の頃、王妃様のお腹にどうやって自分が入ったのか聞いた事があった。王妃様は大好きな人とチューをしてると、赤ちゃんがおなかの中に入ると言った。
上手い逃げ方だ。
確かに両親がチュッチュしてたら子供が出来そうだ。
要するにリズは言った・・・
アル様とチューした時に
男の唾液は子種だと思っていた。
そりゃ知らぬ者なら、あんな変な事して子供が出来るとは思わんよ。生物の不思議と言うか本能に導かれないと分からんよ。そもそも本能が目覚めて無いからそんなもんだ(笑)
あ!目覚めて無いからネンネなのか?
どうでも良かった。
アルは二人からの報告が全然無いので、それぞれ三人を視たら
気が付く方が変だった(笑)
アルも大事な教育を受けていない。
受けていないけど二人に第二次性徴期を説明する位は知っている。そういうモノが
リズの側近二人はまだ早いと逃げやがった。まだ教えてない。
もうアルは視て分かったので
どんな異世界生活やねん。
次回 316話 預かりサービス
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この物語を読みに来てくれてありがとうございます。
読者様にお願い致します。
応援ポチ。☆も頂けたら嬉しいです。
ポチをしてくれる事。それはとても励みになるのです。
一期一会に感謝をこめて。よろしくお願い致します。
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