第309話  斧3丁で殺れ!


1月7日。5時。


朝から雪がちらつく。ナレス王家は真夏から帰って急に冬だから風邪ひいてないだろうな。


メルデスのハウスで身支度をして、タナウスのアルムハウスに跳ぶと7時。クルムさんとシズク、スフィアとファーちゃん達が食堂で朝食の準備中。この家は7時半から女子供が朝食で、8時過ぎに導師とアルノール卿が食事に降りて来る。


アルムハウスは由緒正しい男爵家の邸宅なので調理場と食堂はキッチリ分かれて食堂だけで20人は楽に座れる規模。


調理場に顔を出してクランの仕事始めに顔を出す様にクルムさんに頼んでおいた。明日の8日、タナウス時間の9時に管理棟に跳んでくれとお願いする。食堂の机に草団子を十人分置いて昨日21時近くまで作っていた小学校を日の下で確認する。遠目で朝日に照らされる学校を見ると小さすぎて過疎地の小学校みたいだ。


神都の小学校に入るとすでに片付けが済んでいた。書類一切、余計な物を廃棄して机と椅子が並べられ、机に砂黒板と砂のカップが置かれている。今までの集会所みたいな寺子屋で教えるよりよっぽど先進的になった。グレゴリ村の小学校はもっと小さい(笑)


グランドには俺の記憶のままの鉄棒、砂場、平均台。ブランコ、シーソー、木製のジャングルジム風の砦まであるので子供が良く遊ぶと思う。


これで1月12日(風曜日)の休み明けから寺子屋進化の小学校が開校する。(新年は10日までお休みと執政官に宣言しているが、今年は11日は光曜日で休みだった)



寺子屋は今まで9時半から12時までの読み書きと算術だけの2時間の授業だった。だから12時に解散で家に帰してた。子供達の昼食はこれまで通り家で食べてもらう。時間は少ないが司教を頼んだクラウスにも学校は有ると言ってしまったので、寺子屋小学校からグレードアップしたのだ。


タナウスに小学校を建てた事で、メルデスで小学校の計画が進んで良い案が生まれたら事前に導入して問題点を修正するだけなので安心だ。


今日の予定はベガの店だ。

何か趣味の料理を生かした店を作ると言っていたので、俺が知ってる料理を教えようと思っていた。俺が食べたいのだ。


ベガの店に行くとかなり店が整っている。

と言うか、クレアさんとベガが机や椅子を運んでいた。クレアさんが店で働いている。開いたドアの前で二人の姿を眺めていると気が付いた。


「よお!アル!」

「アル君おはよう!」

「おはよう!すごく店らしくなったねぇ」

「要らない道具を出したらスッキリした(笑)」

「そりゃ、北国の暖炉とか要らないよね(笑)」

「天井にある煙突の穴は蓋をする」

「煙突に傘を付けたら店の空気が入れ替わるよ?」

「私が風魔法で煙突から追い出すわよ?」

「そっちの方が良いな、工房に頼みに行こう」


「なに?二人でお店始めるの?」

「まぁそんな所だ。普段はクレアの店だな(笑)」

「あ!それいい考えだね」

「私は料理も出来るし看板娘でお客も来るわよ!」

「気に入らねぇ客は叩き出しそうだな(笑)」

「お代を頂くならそんな事しないわよ(笑)」

「・・・」


「今日は料理を教えに来たんだけど忙しい?」


「昼からでいいか?ワールスで仕入れた道具を二階から店に降ろしたいんだ」


「転移装置を下に置けばいいじゃん(笑)」

「動かせるのか?アレ!」


「うん、国民は転移で移民したから見られても大丈夫よ」


「そりゃいいや、まだ魔道具店の二階にもあるんだよ」


「魔動コンロはもう設置した?」

「まだだ。カウンターが入らねぇと置けない」

「魔動コンロの大きさが知りたいんだけど」

「レシピだけで味が分かれば良いぞ」

「レシピ無いの(笑) 作って見せるだけ」

「それなら明日だ、コンロ無しで料理できねぇ」

「作り方教えるから味はそっちで整えてよね」

「そういう形な、わかった(笑)」

「食べた事しか無いの。でも大人気になるよ」

「明日が楽しみね!」

「明日の午前中にカウンター周りを整えるよ」

「了解!午後から来ます」


・・・・


冒険号に行って、侵攻20日前(1月10日)に宣撫工作せんぶこうさくの予言(神託)を考える。当日に口コミで広がるビラをコアさんに作ってもらう。


1月10日の宣撫工作と共に大司教とお供の五人に扮したナノロボットが冒険号の格納庫からショートジャンプで各領地の教会に指示を出す。ビラは各街の上空にショートジャンプで空中散布だ。


カラム王国は周辺海域の中継貿易港を持つ小さな国で人口180万人。35領地で180程の大小の街。王領は40万人しかいない。王都に20万人、ルージュがこの国最大の交易港で6万人の人口で6割以上が交易か漁業関係者。


俺は1月20日にカラム王族とテズ教とラウム教の教皇以下陰謀に関わった者を拉致らちして隷属し、ハーヴェスの尋問じんもんに包み隠さず話す様にゲッシュする。


カラム王には、カラム王国が海賊を行った告白と降伏によって王権のみがハーヴェスへ移譲となるが国の仕組みは何も変わらない事を説明する動画を編集する。


後はテズ教会に予言(神託)相談室を設けて民の不安を取り除き、街の執政官事務所にもテズ教会から神託を宣撫せんぶする。


宣撫せんぶ:敵地に侵攻し占領した後に、戦争の大義と決着、民の扱いなどの政策を広く周知し人心を安定させる事。それを行う戦地の政務官を宣撫官という。


カラム王国への侵攻作戦に関する小さな修正点や枝葉をコアさんに毎日指示し、少しずつ侵攻作戦に書き加えられていった。


・・・・


メルデスのカレンダーはこうなってる。


1月

光 風 火 水 木 雷 土

        1 2 3

④ 5 6 7 8 9 10

⑪ 12 13 14 15 16 17

⑱ 19 20 21 22 23 24

㉕ 26 27 28 29 30


8日:クラン雷鳴仕事始め。

10日:カラム王国テズ教会訪問。

20日:王族、教会関係者誘拐。

30日:ハーヴェス砲撃。


2月

光 風 火 水 木 雷 土         

            1

② 3 4 5 6 7 8


1日:カラム王国降伏、王権のハーヴェス移譲。 



1月8日(曜日)


今日はクラン雷鳴の休み明け。今日から読み書き教室も始まるので早めに行って見ていた。


5時45分にイコアさんが大きなチョレスで教会の曲を弾いて起こす。キャプターは各教室を5時半に見回り、魔法ランプと暖房紋の魔力を入れて行く。12月~1月は飴屋が一番忙しいと知って、ゼスとヘーゼがギリギリでも間に合う様に用意してやってくれている。


リズの侍女たちの代わりの先生が4人新たに朝番から加わって、朝番、昼番、夜番の三交代でクランを回している。今は副事務長:ルミナスが産休から育休で居ないのでマイア(20) エレクトラ(20)が副事務長で事務長リナスの補佐をしている。


リナス(36)もマイア(20)もエレクトラ(20)も隣同士に住んでるので朝から晩までクランに居るから三交代と言えども就業時間もあやふやだ(笑)


今日は特にギルド加入面接があるので6時半ごろから集まって来たPTが7時の面接を待っている。早く来たなら面接しようと、1PTずつリナスが呼んでクランハウスで面接していく。一応貴族の庇護を希望する外部PTが多いのでイコアさんと俺が貴族服で応対する。


最近は4位、3位冒険者の外部PTが増えて、7位の冒険者は全然来ない。12歳で7位になった冒険者は4~8月の大森林の稼ぎ時に稼げない未熟さを痛感してその時期までにクラン雷鳴に駆け込むからだ。


俺が12歳の11月29日の誕生日を迎えてギルドに行き、失敗した事だが告白しておく。年が明けたらステータスボードを持たない平民の子は12歳になったと自己申告で冒険者になるのだ。


お貴族様の俺だって12歳になる年だから新年明けたらすぐ冒険者になれるのを12歳という規則にだまされて11月の誕生日まで待って冒険者になった。日本の免許証の様に厳格に12歳を待っていた俺の失態だ。まぁ現実的には神聖国の仕事で忙しくてそんなひまは無かったけどね。


そんな訳でスラムにいる子供連中は新年越えたら成人になったと冒険者ギルドで初心者講習を受ける。4月から8月が大体クラン加入の最盛期だ(笑)


したがって、この時期に来る7位は居ない。来るのは6位から3位の冒険者だ。クランの庇護ひごを得るための外部PTが6:4だ。


新年初日はランサンから移って来た11人の6位PT二組と16人の外部PT三組だった。これが12月にギルドに加入申請を出した27人だ。一時期は一月に200人も来た加入者も少なくなって安心した。


11人に宣誓の儀をしてやると皆が嬉しそう。ステータスを出させて身体強化系と魔法士系と解説してやるが、魔法士の血が薄いのであんまり魔法士系は居ない。貴族の様に魔法士系の嫁を呼ぶわけじゃ無いのだ。キャンディルやルーミール領など魔法士系でしか生まれてこない貴族家もある。


6時50分頃、ミスリルのカジュアルな鎧(色付き)を来たアルム、クルム、シズク、スフィアがクランハウスにやって来た。


7時になると先にイコアさんから収支の報告と恩寵取得に貢献したメンバーの報奨金授与がある。前年1年のクランへの貢献を認められたPTが執政官庁舎の居住を認められ大喜びしていた。うちのクランの特別待遇メンバーの勲章だ(今回、初期メンバーで頑張っていたPTは全部入居した)それが終わってから俺の新年度挨拶だ。


イコアさんと同じく貴族服のまま演壇の上に立つ。


「お互い死なずに新年を迎えられた。まずはおめでとう。ここ一年クラン雷鳴の英雄騒動で俺もイコアも名前が売れた。俺は貴族の仕事が忙しくてイコアの報告しか聞けない。普段のお前たちの活躍を見てやれないが、クラン雷鳴の目的は一つだ。


お前たちが何処どこに行っても役に立つ、恥ずかしくない冒険者に育てる目的でクラン雷鳴はある。そして冒険者の技量を高めるために来たのがお前たちだ。12歳で冒険者になっただけの肩書では食えない事をお前たち自身が身に染みて分かってる筈だな?


俺は見た通り体が小さい、病気のせいで寝ていたからだ。15歳と聞いて驚く奴も居るだろう。このクランを作った2年前に言った言葉を教えてやる。7位から上は1位まである冒険者の階位なんぞ関係ない、単なる目安だ。俺は5位でこのクランを作った時に言った。


肩書は大森林でモンスターから守ってくれねぇ!ギルドの階位など気にするな。俺達は大森林で魔獣を狩って稼ぐ冒険者だ、今の自分に足りない技術を磨け。その為にこのクランは存在する。武術も魔法も鍛錬する程に強くなるんだ!大森林の採集もそうだ、経験する程身に付く!」


「その証拠を見せてやる。クラン雷鳴の立ち上げに居た初期メンバーは知っているが、お前たちにも見せてやろう」


グランドを指差す。居並ぶメンバーがグランドを見た。


ドドーン! と雷が落ちる。


空を指差す。皆が見上げて驚いた。


遥か上空に敷地を覆う程の大火球が浮かぶ。


「俺は魔法士だ、武術も魔法も冒険者の技術も努力の先にそれはある。教官から学べ、教官から技術をもぎ取れ。武術も魔法も技術も磨かなければ先は無い。大森林から生きて帰って来る技術を学べ。その為にこのクラン雷鳴は存在する。その為にお前たちはここに立っている。お前たちの前には教官が立っている。幽玄流道場主のタッカートはこのクランの序列TOPの教官だ、戦争と紛争を渡り歩き、剣の世界で生き残って来た達人だ、俺の師匠でもある。生き残る教えを乞え。新年も励め!以上!解散」


演台を降りてくるとイコアさんが演台を砂に返した。


列に並ばず、クランハウスの前で俺の話を聞いていた外部PTの連中がポカーンとしていた。


「お前らも外部外部と言ってないで、あそこの道場でもんんでもらえ。階位が並べば同じメンバーの寄宿組に追い抜かれるぞ。メンバー費を10%も払うんだ、教えてもらわねぇと勿体ねぇぞ?休みにでも通って磨くんだな(笑)」


コクコクと首振って可愛かった。23歳位の4位PTだ。身体はさておき、俺の中身は25歳であいつらよりは大人のつもりだ。威張いばっっても許される筈だ。※1年違えば先輩後輩の体育会系の掟はこの世に無い


「お師匠様!」

「!」ベルが俺を師匠と呼び止めた(笑)

「お師匠様!水魔法Lv2になれました」

「そうか!少しは上達したか?」


「はい!たくさん!傷の内部を恐れず見てどの様に治癒するのかというイメージだけで発動も強くなりましたし・・・あ!凄い属性指輪をありがとうございました!」


左手に嵌めた属性指輪を見せる。


「それはな?教官達みたいにやとって俸給をやれないベルにご褒美ほうびなんだよ。Lv3になったらどこの街でも回復士でやって行けるはず。とにかく経験を積んでLv3になれ(笑)」


「Lv3になったらクランでやとってもらえますか?」


「Lv3なら一人前だ、雇うよ。その代わり俸給以外にもメンバーから治療費も取れよ、常駐の回復士なんぞお貴族様しかやとえないからな、ロスレーン家でも専属契約で何かあると最優先で来てもらうだけだ(笑)」


「お師匠はお貴族様じゃないですか。約束ですよ!」

「その時はベルの家が教官の家の隣に立つよ(笑)」

「私、頑張ります!」

「クランの皆を頼むよ(笑)」

「はい!」


うちのPTを連れてミッチスへ行く。皆が昨日の晩からハウスに来てまだ朝食を食べてない。


「横堀の魔穴はどうなってるの?44Fケライノー ※黒い女(吸血鬼)で苦労してるってのは12月だよね?」


「あそこでアルが苦労したと言ってたからあそこを剣でおさえられる様にミスリル剣に魔力をまとわせてとにかく斬ったわよ(笑)」


「僕は一人だったから何度も斬ってるうちに押されたんだよ」


「魔法抜きで今は51F まで行ってるわ」

「魔法抜き!」

「そうよ?」


視たら次から52F ワイバーン(2本脚のドラゴン)だった。

「空飛ぶのはどうすんの?」

「エルフィンボウとアローよ」

※精霊の弓と具現化の矢


「なるほど!(笑)」


「どうすんの?60Fまで行くの?」


「行くわよ!私とシズクが前衛で60Fのボスはシズクがスフィアと変われば楽勝よ(笑)」


「そんじゃ、コレ渡して置くね(笑)」


成長の斧と、大地の斧を出す。


「60Fで成長の斧が出たら2つの斧を成長させたらいいよ、ボス戦で3丁の大地の斧で凄い事になるから(笑)」


「ホントにアルなんだから!(笑)」

クルムさんが笑う。


「何よそれ!酷くない?」

「そんな事考えるのは、アルしかいないわよ(笑)」


「ドラゴンの皮はギルドに出さないでね?」

「わかった!」


「それとさぁ、今から冒険者証とタグを持ってギルドに行って、1位の証とタグ作ってもらって来て」


「やっぱりアレは本当だったの?(笑)」


「うん、ギルドの教官が2位とかに上がって来てるからね?マスターのPTが同じじゃはくが付かないかなと思ってドラゴンの皮を3枚預けて交渉したの」


「さっき階位は関係無いって言ってたのに(笑)」

「関係ないけど立場的にさぁ・・・(笑)」

「まぁ、そうだわね、比べられるわね(笑)」


「そうだよ!それ食べたら行ってよ?管理棟の序列札はうちらのPTがTOPなんだからね」


「見たわよ!アレはアレで気持ちいいわ(笑)」

「ギルドの後は、ダンジョン行って良いのよね?」

「うん、頑張ってね!」

「それじゃ、今日からハウスに滞在するわね」

「えー!まだ寒いのに?」

「アルム!お前はこの国でしょう!」

「もっと寒いキャンディルに住んでたよ!(笑)」

「アル君!」


・・・・


午後からタナウスで大判焼きの凹凹プレートをベガの店の魔法コンロに合わせて銅で作った。大判焼きが出来てもコアさんの観測はしない、大判焼きはベガの店で焼けるのを待つ時間も風物だと思ったの。


晩までかけてナレスで視た豚骨スープも作った。パスタや麦飯を入れて雑炊でも塩コショウとニンニク入れてスパイシーでもイケる!暑い国で熱く濃いスープで大汗かいて麺を掻き込むのがたまらなく良い!パスタの乾麺もイケるが、小麦で打った生麵が美味しいと研究課題を振っておいた。


一番喜ばれたのはお好み焼きだ。


濃い豚骨スープで作ったお好み焼きが二人に大ヒットした。調理も簡単で当たり外れなく誰でも焼ける。これを考えた奴は天才とまでベガに言わせた。俺はお好みソースは無くても、日本のソウルフードをめられて嬉しかった。


ベガの趣味が料理というのは本当だった。

大判焼きも何度か焼くうちにコツをつかみ、出来上がったクオリティーが格段に素晴らしい。慣れたら綺麗なお好み焼きをフライパンでポンポン作る。料理が出来ると豪語するクレアさんが舌を巻くほどの腕だった。俺は昼からつまみ食いが過ぎて、美味しいお好み焼きをあんま食べられなかった。




次回 240話  あんた持ってるね

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