第308話  デコイ



メルデス小学校のプレゼンを終えて、アルはニールセン代官の元を去るとハウスに戻った。平民服に着替えながらカラム王国の最大の港街ルージュに跳んだ。


メルデス10時半>カラム王国15時半


ハーヴェスと組んだ事で、難民を出さない方向に動く侵攻作戦に舵を切った。ハーヴェス帝国と同盟を組めるか不確定の時には、侵攻時に難民が出ると思いギルド施設ごと職員を避難させようと思っていたが難民が出ないならギルドの施設に魅力を感じなくなっていた。


欲しいのは海のモンスターや魚をさばく人達なのだから。


カラム一の港街だから当然ギルドも海に面して、陸のモンスターも海のモンスターも毒や可食部分を知悉ちしつした解体部の職員が加工する。


タナウスも島国で豊かな漁場を持っている。


滅んだ国のギルド施設は内陸部の雪国ギルドだ。アルは南国の山でも海でもモンスターをさばく技術を持った職員と海棲魔獣用のギルド施設が欲しかった。難民が出るならギルド職員も他国に逃げる。戦争で逃げるなら施設ごと案内するつもりだったのだ。


諦めないアルは勿論、希望を捨てていない。


悪魔のささやきが頭に響く。

を利用し、ハーヴェスの艦隊が砲撃した後に民の不安をあおって逃げる者を募り、でどさくさにまぎれてギルド施設も一緒にだましてタナウスに連れて来る。


出来るか!


混沌にちるわ!江川事件か!


そんなの出来無いよ!(笑)


実は海のギルドの施設を見学してタナウスに同じものが作れないか見に来たのだ。そう、視て覚えて作ろうと思っている。世は食料が無いと言う、冬はキャンディルで餓死者が出ていたのをアルは知っている。島国のタナウスが海の食料を取らないなんて罰が当たる。


そんな訳でギルドの見学に来た。雪国のギルド施設を置いて海のモンスターの解体場を見て回り、同じ物を海岸に作ればいい。


解体場は海の大物をそのまま船から上げられる身体強化必須の手動クレーンと多重の滑車付き。陸も兼用で太い梁に滑車が沢山掛かっている。何百キロもあるツノクジラのモンスターが三匹ぶら下げられて解体されてる。解体の足場が家の塗り替えに使う足場みたいだ。足場の下に溝を切って海水で血や臓物を洗い流しながら解体してる。その先の海には小魚が臓物ぞうもつを争って食べている。


視ると海のオークと言われるほど身近なモンスターみたい。ツノクジラを二艇で追い込んでモリで突いて漁してた。昔の捕鯨と一緒だな。


特筆すべきは漁船の船体形状、二艘の船を並列に配置したカタマランタイプのヨットで40km/hで疾走する。魔動帆船の軍船が魔動回路と風を受けた帆走で18km/hだったんじゃないかしら?まぁあっちは大砲積んでクソ重いけど。


座ってツノクジラの解体を視て覚えた。


解体が終わる頃、大きなが用意されて不要部位を焼き始めた。クジラのステーキじゃん。焼けた部位をギルド長、副ギルド長と職員割りに皿に分けている(笑) オークでも安い部位は自分たちで持って帰るしな。


住めば都で慣れ親しんだ街が一番だよな。皆が笑って皿を

分け合う姿に不埒ふらちな考えは何所かに行った。


もうなので、ギルドカウンターで魔石を換金して食堂に行くとツノクジラのミートローフプレートがあった。同じくツノクジラのステーキプレートも捨てがたい。むむむ、欲には勝てず三人分注文。ギルドの定食で一番高い値段の銅貨八枚で相当な値段だ。持って帰らない訳が無い。


カウンターで呼ばれると、色札を三枚置いて、この三つのプレートね?と言いながらおばちゃんの目を盗んでインベントリに叩き込む。カウンターから振り返った時にはステーキプレートしか持って無い。


最近焼肉ばっかでステーキ食べて無いや、美味しいなぁ。


偶には実家に帰ってバルトン料理長に焼いて貰おうかな。じゃ無くて、ステーキ焼いてもらって観測しなくちゃな。新年顔出して無いから口実作って焼いてもらおう。昼ならお爺様もシュミッツも居ない筈だから連絡してみよう。


「アルです、誰かいますか?」

(アル様、シンシアです)

「あ!シンシア、新年もよろしくね」

(よろしくお願い致します)

「今日って料理長いる?」

(バルトン様はいらっしゃいますよ)


「今日の晩に新年の挨拶行くから晩餐は分厚いステーキ二枚焼いてって伝えてくれる。言えば分かるから(笑)」


(かしこまりました、お伝えいたします)


「バルトン以外には僕が行く事内緒にしててね」

(そのように)

「それじゃ、お願いね」


・・・・


ルージュの執政官事務所や交易岸壁などを偵察で見に行ってカラムでは陽も落ちかけてきた。


建物の陰で多重視点で辺りをうかがい美少女戦隊のルナ(17)を出す。ルナを伴いテズ教の教会前のお茶屋に向かう。世間体では俺はまだ成人前に見られるから商家のお坊ちゃん風だ。


「こんにちはー!」

「あ!いらっしゃいまし」

「お茶と店先の緑のお饅頭二人分」

「お団子ですがいいです?」

「あんな大きいお団子?」


「お坊ちゃんには大きいかも?冒険者や漁師にはあれ位ないとお代を払ってもらえませんよ(笑)」


「いいよ!お団子もお饅頭と思えば(笑)」

「まいどありー」お婆ちゃんがピョンピョン動く


「ルナ、お茶が来るまで交感会話」

「はい」

「司祭とシスターがこんな感じの服、分かる?」

「実物があると素材感が分かりますが・・・」


そっかー!素材の綿とか原材料しか分からんな、織り方の細かさや着心地は分かんないわ。


「来ました」

「あい」


「お待ちどうさまでした」大きいお団子が置かれる。


すかさず食べてみる。


「あ!草の香りが良く匂うね、少し甘くておいしい。ルナも食べなよ、美味しいよ!」


「はい(笑)」


「美味しいですか?(笑)」

「うん、美味しい!お婆ちゃんが作ってるの?」

「そうですよ!」


もち米を蒸して磨り潰したハーブを混ぜてねてる家庭で作る草団子の本格派だ。と言うか、この世には本格派しか無かった。


「坊ちゃんはどちらから?」

「ハフナって街知ってる?」二つ先の街だ。

「知ってますとも、そちらからです?」

「お父様の隊商と一緒に!」


「なるほど、お召し物がご立派ですよ(笑)」

「お茶も合って口の甘みともちもちが流れるね」

「あれ、嬉しい。ちょっとお待ちな」


「これ持っておゆき。その余りで作るお菓子さ」

「いいの?」小袋にっぽい物が沢山。


「前の教会のシスターも喜ぶんだよ(笑)」

一つ摘まんでみると豆餅だ。


「美味しい!」

「新年だからね、豆入りは特別だよ(笑)」

「ありがとう!ルナも食べな!」

「はい、いただきます」


教会のシスターも司祭の評判も視えた。やっぱ末端は敬虔けいけんな神の信徒だな。民に愛されてしたわれてる。こういう人たちを上層部と一緒にしたらダメだよ。うん、作戦は正解だ。


「お土産持って行くからお団子十個頂戴ちょうだい

「あらあら、お気に召しましたかね?」

「うん!」


茶色い紙の袋に入れてくれた。やっぱ進んでるな。


「ありがとう!おいくらだった?」

「二人で大銅貨一枚とお団子が大銅貨三枚だよ」

「はい!四枚!」

「まいどありー!」



陽の落ちた裏路地に入って言う


「ルナ、テズ教の総本山に跳ぶ」

「はい」

シャドが巻いて跳んだ。


~~~~


テズ教の総本山。並び立つ対面の山の麓に跳ぶ。


テズ教国時間17時。まだ日がある。


見上げる角度から思い出す。総本山は遺跡の上に建立されている。地球で言うチベットかラマかという感じの立地条件だが、れっきとした教会で寺院ではない。その土台にある遺跡からけがれの石棺と宝物を頂いてきた。あの時もこの教団は大陸滅ぼすつもりかと笑ったけど、二度目の関わり合いになるとは思わなかった。


「俺が知るような事をやる方が悪いんだぞ」


独り言を言いながら視た。深くまで視ていった。


教皇>三卿(枢機卿)>七卿(枢機卿)>十二大司教>大司教>司教>司祭、シスター。大体組織はそんなもんなのね。総本山の大司教以下はテズ教国の執政官で十二大司教の教区に精通し補佐をする。


簡単に言えば十二大司教を頂点とするピラミッドが十二部署ある。その各部が集まり七卿、三卿、テズ教皇という神輿みこしかついでいる。


黒幕は教皇>三卿>七卿>十二大司教のうち教皇派閥の革新強硬派大司教の五人。後の保守派大司教七人は計画から除外され何も知らない。


黒幕十六人は六神の前でシナリオに署名血判している。後に後世で功績をたたえるためにひときわ豪華な作戦書類だ。黒幕を拉致するときに一緒に頂こう。


教皇様に神託が現れたら任じられた教区に散って戦勝の神託を与えよと保守派七人の大司教は言われている。


信徒国の七教区。ヨルノス、コモン、ドネスク、セラス、ヤーリカ、カラム、ユウド。七教区の戦端を開く国だ。


見て行くと良く分かった

カラム王国の王太子がいつでも暫定政権を発せる様にテズ教国に控えてやがる。王家が捕まっても大丈夫ってか!用意周到にも程がある(笑)


まぁ、ついでに視ただけだ。

七人の大司教が教区に着く頃には終わってるからな、衣装をもらいに来ただけだ。大司教、司教、司祭、シスター、御子(魔眼能力者)の法衣と聖騎士装備を夏冬一式と十二教区の大司教名簿をもらって来た。カラム王国は保守派モリス・バーチャ大司教の教区。情報を詳細に視た、不自然な伝令ではいけないからだ。


砲撃開始まであと24日もある。こっちも準備万端整えさせてもらう。


・・・・


カラム20時>冒険号16時


ルナを仕舞って冒険号へ跳んだ。

収拾したテズ教衣装の計測にコアさんを呼ぶ。カラム王国の各教会への使者の数だけその衣装に化けてもらう。


「アル様、何でございましょう?」

「交感会話で見て欲しいの」


「カラム王国担当のモリス・バーチャ大司教の情報と人となり、話し言葉とか視て来たから覚えてね。カラムの教区はその大司教の指示で各教会が動くようになってるからね、各教会に行く使者はテズ教国のモリス大司教から指令を持って行く訳だから、現在の状況や私生活も覚えてね、カラムのルージュ教区を担当する大司教はエルダー・サミングって人、見えるね?」


「見えております」


「各街に散布するビラは街の大きさの1/10でいいからね、口コミで充分全土に広がるから。それでカラムの民を安堵します」


「そのように用意いたします」


「そしてこれを観測して」

ツノクジラのプレート二枚と豆餅とお団子を出した。


「観測出来ました」


「ありがとう。ハーヴェスは作戦の要望は無い?」


「艦隊の入港で三日は報告や鹵獲品の搬入で忙しいかと」


「あ!今日か!」

「もうハーヴェスは明日の7日です(笑)」

「そうだね(笑)」


「時間あるからタナウスの学校道具や用具を作る」

「用具とはブランコかと予測しますが?」

「そうそう!シーソーやジャングルジムを作ってくれる?」

「かしこまりました」


「そんじゃ、学校予定地の山側に学校置くから、海側の外周に遊具を設置してくれる?」


「金具とチェーンはあちら規格でよろしいですか?」

「こっちにあるものは使ってOK!」

「小学校も砂黒板でよろしいですか」

「うん、そのつもり。もう村に行き渡ってる?」

「村も春には各村の寺子屋で使っております」

「僕はどうしようかな?」


「学校の選定をお願いします」

「そんじゃ、タナウスは校舎一棟から始めるね」


「神都が生徒42名、グレゴリ村が生徒31名です。更生村が各村に15名から25名までの生徒の寺子屋が一つずつあります。」


「え!子供ってそんなに少なかったっけ?」

「150名の村でも8歳から11歳は25名の生徒です」

「あ!年代か。ありがとう」

「8歳でステータスボードを持った子がいますので早期の教育は非常に有効だと思われます」


「そうか、身体強化とかも有効だな。先生と話し合って体育、武道とかメイドや執事が代用できないかなぁ?急に午後の時間増やして先生をお願いしても武術なんて無理だろうし、歴史の授業もタナウスに歴史無いし(笑)」


「美術、音楽、彫刻、工作の授業を作られては?」

「そっちなら、今の先生も対応出来そうだね」

「畑で植物を育てても芸術と同じく感性を育てますね」


「あ!学問にこだわらなくていいのか。元々読み書き、算術は最低限教えようと始めた半日教室というか寺子屋だからね。遊びを通じて感性を育てるのもアリだね。神都で運用を始めたら順次、各村に遊具や広場を作って学校体制にして行こう。42名なら小さな学校を選んで用意するよ」


「かしこまりました」


タナウス18時半


明るいのはもう一時間チョイだな。


大空洞で探してもそんな小さな学校は無かった(笑) 小さな町の執政官庁舎を学年別の4教室で使う。体育館代わりに雨天用の武道場を神都とグレゴリ村に置いた。


グランドの遊具で遊ぶ子供達が親に見える様に80cmの高さの塀で敷地を囲って行く。門は門柱だけで誰でも入れる様にした、グランドに誰も居なかったらチビたちが入って遊ぶだろ(笑)


「それじゃロスレーンに行って来る」

「行ってらっしゃいませ」


・・・・


タナウス21時>ロスレーン19時


ロスレーン家の夕餉ゆうげは十九時にメイドが呼びに来る。用事が無ければ必ずその時間に家族がそろって夕餉ゆうげを取る。


家族の皆が揃ってメイドに配られる食事を待つ間がお互いの情報交換だ。そんな中に普通に入って席に着く。


「アル!」

「アル君!」

「アル兄様!」

「アル!どうした?」

「アル!顔も見せずにどうしたのですか!」

「一体、どこで何をやってるのですか!」


コルアーノに居ない事になってるの!(笑)

一年家族に顔見せて無いしな、こうなるわな。


「ちゃんと仕事関係では顔出してるんです。サルーテとかにいるんです。本当にすみません」


「二日は遅くまでご苦労だったな」

「ね!ちゃんと働いてるんです」ドヤ顔。

「顔は見ておらんが」余計な事を!

「いえいえ、皆さんもお疲れさまでした!(笑)」

「お前、ホントどうしたんだ?(笑)」


バカ兄!わざわざ空気読んで蒸し返すな!(笑)


「たまには家の食事が食べたくて来ました」


家族全員が疑っている(笑)


「新年のご挨拶に、それと良いお土産が」


ネックレスの箱を三つ出す。


「旦那様からお渡しください」


お爺様、お父様、お兄様に箱を三つ渡す。

横にいるアリアにも渡す。


「なんじゃ?これは」


「ナレスの王妃様がうちの家族へと下さいました」


「え!」はくは大事。出所が王妃様なら完璧だ(笑)


「王家の女性が持つ物だそうです」昨日な(笑)

「おぉ!」皆が中を確かめながら横の奥様と眺める。

「まぁ、見事な細工ですこと!」お婆様。

「これはドワーフ製じゃな」やっぱそうなるか。

何処どこの作とは聞きませんでした」

「王妃様に聞かなくて正解だ。アル(笑)」


「見事なレリーフじゃの?竜の守りか」

「竜は宝を守ると言いますね」

呪術的じゅじゅつな意味があるのかもな」始祖だよ。


食前酒そっちのけでペンダントに見入る皆様。


「これを、リリーさん、モニカ姉さま、ヒルスン兄様のお嫁さんの分。家族を聞かれたので全員分(笑)」


「お前!厚かましくないのか!」お兄様。

「家族を聞かれたのでついでに(笑)」

「お嫁さんはどう説明した?(笑)」お父様。

「婚約者の・・・ええと、でもらえました」


ALL「(笑)」


「図太いのう、王族相手じゃぞ!(笑)」

「お前が怖いよ、良く言ったな!(笑)」


「兄様のお嫁さんだけが無い方が僕が怖いです(笑)」

「特に怖いぞ!気を付けよ(笑)」


お爺様が女性陣ににらまれた。


家族は上手くデコイに誘導された。

あざむくためのおとり


こないだ逃げたヘクトの奴隷の件をお爺様に蒸し返されたらたまらない。せっかくのステーキが不味くなる。



俺は悠然ゆうぜんと目の前のステーキを頬張った。




次回 239話  斧三丁で殺れ!

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               思預しよ

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